オリゴ核酸医薬(therapeutic oligonucleotides)は、希少疾患向けのニッチから、心血管疾患などを狙う ブロックバスターへと急拡大しています(例:高脂血症の siRNA 医薬 inclisiran の承認)。アンチセンス(ASO)・ 低分子干渉RNA(siRNA)・アプタマーなど、近年は20種類超が承認に至りました。一方で分子は複雑化し、 ホスホロチオエート(PS)骨格・糖修飾・GalNAcや脂質のバイオコンジュゲートを備えるようになりました。 本記事では、その不純物解析を原理から実務まで、出典つきで整理します。
この記事の読み方:第2章で「何を探すか(不純物の地図)」を押さえると、第3章以降の手法選択が腑に落ちます。 入門の方は各章冒頭・まとめ・用語集から、専門家の方は各手法・各論文まで深掘りしてください。 二次元分離の一般論は別記事「クロマトグラフィー最新技術動向」、検出側は「質量分析の最新技術動向」もどうぞ。
1. なぜ難しいのか ― 合成が生む多様な不純物
オリゴ核酸は主に固相合成で作られ、その過程・保管中に多様な不純物が生じます。安全性・有効性の担保には、 これらを精密に分離・同定・定量する必要があります。
2. 不純物の地図 ― 何を探すか
- プロセス由来:カップリング失敗によるショートマー(n-1, n-2…)、二重カップリングによるロングマー(n+1, n+2…)。
- 分解由来:脱プリン(depurination)、脱アミノ、そしてPS結合がPO(ホスホジエステル)へ変換した変異体。
- 化学変異:保護基由来の付加体(例:N3-(2-シアノエチル)チミン, CNET)など。
PSジアステレオマーという難物 ― 数は 2ⁿ で決まる
ホスホロチオエート結合は、各リン原子にキラル中心を作ります。その数は厳密に決まっていて、PS 結合が n 本あれば 2ⁿ 個です。EMA のガイドラインは、この規則を条文にそのまま書いています。
ホスホロチオエートジエステル結合をもつオリゴ核酸では、ホスホロチオエートジエステル結合のリン原子はキラルである。結合の立体化学はカップリング反応の間に決まり、2ⁿ 個のジアステレオマー(n はホスホロチオエート結合の本数)の混合物を与える。これら 2ⁿ 個のジアステレオマーの分離が実際上不可能な場合は、ジアステレオマー分布(異性体の比)の推定と、その再現性が期待される。
— EMA/CHMP/CVMP/QWP/262313/2024(拙訳)
20-mer の全 PS 体なら結合は 19 本なので、2¹⁹ = 524,288 個になります。2025 年の Journal of Chromatography A 掲載論文(NIST・FDA・メリーランド大の共同研究)は、承認品である 20-mer ASO の Tegsedi(イノテルセン)を例に「2¹⁹(524,288)の立体異性体が生じうる」と明記し、そのうえでこう述べています。
現時点では、全 PS 結合のオリゴ核酸の全長体(FLP)について、ジアステレオマー混合物の分離は達成されていない。
同論文は鎖長を段階的に上げて、分離の限界を実測しています。
| 鎖長 | PS 結合 | 理論上の異性体数 | 実際に分離できたピーク |
|---|---|---|---|
| 2-mer | 1 | 2 | IP-RP・RP-SAX でベースライン分離 |
| 5-mer(ホモ) | 4 | 16 | 最適化により 16 個すべて |
| 5-mer(ヘテロ) | 4 | 16 | TEAA で 11 ピーク+肩2、HAA で 13 ピーク+肩1 |
| 20-mer(イノテルセン) | 19 | 524,288 | 分離なし(幅の広い1本の山) |
比較した分離モードは、イオンペア試薬を変えた IP-RP 2種(酢酸トリエチルアミン 15 mM/酢酸ヘキシルアミン 5 mM)、逆相と強陰イオン交換を直列にした RP-SAX、金属イオン錯形成による MICC の4系統です。鎖長がひとつ伸びるたびに異性体数は倍になるので、5-mer から 20-mer への 15 本ぶんは 2¹⁵ = 32,768 倍。「あと少し頑張れば分けられる」という種類の差ではありません。
(筆者による試算)この表が何を意味するかを、数で押さえておきます。
524,288 個が均等に分布すると仮定すると、1 個あたりの存在量は 100 % ÷ 524,288 = 0.00019 %。後述する報告レベル(0.2 %)の約 1/1,000 で、どの検出器にも見えません。ただし実際は均等ではありません。同論文の ³¹P NMR 実測では、Tegsedi の Rp 比率は約 18 % でした。19 本の結合が独立に 18 % の確率で Rp になると仮定して二項分布で計算すると、
- Rp を 1 本も含まない all-Sp 体が 0.82¹⁹ = 2.30 %(単一の異性体としてはこれが最多)
- Rp の本数の期待値は 19 × 0.18 = 3.42 本、最も多い組は Rp 3 本の 23.6 %
となります。つまり「主ピーク」は 1 つの化合物ではなく、最大の単一異性体でも 2〜3 % しかない統計的な集団です。(独立性の仮定は近似です。同論文でもカップリング活性化剤を DCI から ETT に変えると Rp/Sp 比が動いており、実際には結合位置による偏りがあります。)
だから EMA が求めているのは「分離」ではなく「比の推定と再現性」なのだ、と読めます。そして同論文が示した実務的な答えが ³¹P NMR です。個々の異性体を分けるのは諦め、化学シフト領域(Sp が 54〜57 ppm、Rp が 57〜60 ppm)を積分して Rp/Sp の総量比として測る。LC で分けられない情報を、別の物理量で押さえるという発想です(原理はNMRの基礎、定量の考え方は定量NMR(qNMR)入門を参照)。
なお、この広がり(diastereomeric noise)を「抑える」のではなく、立体制御合成(stereocontrolled synthesis)で Sp/Rp 配置を作り分け、特定立体異性体を積極的に評価する流れも出ています(総説 Analytical Chemistry)。
3. IP-RP ― ゴールドスタンダード
イオンペア逆相クロマトグラフィー(IP-RP)は、高分解能とMS直結を両立し、オリゴ核酸分析の主役であり続けています。
機構とイオンペア試薬
負電荷のオリゴ骨格と、正電荷のアルキルアミン(イオンペア試薬)の相互作用で保持を制御します。試薬は強さで分かれ、 弱(トリエチルアミン, TEA)・中(ジブチルアミン, DBA)・強(トリブチルアミン, TBA)を選び分けます。
ここで、前節の「524,288 個」がメソッド開発の指針に変わります。ジアステレオマーは分けられないのだから、分けたい相手(PO や n-1)との選択性は上げ、ジアステレオマー同士の選択性は下げるのが正解になります。化学物質評価研究機構(CERI)の Obata・Sakamaki は、2025 年の J. Chromatogr. A でこの2つを別々に最適化しました。
- ジアステレオマー間の選択性が最小になる(=主ピークが細くなる)のは、3級または4級構造で、アルキル鎖長が炭素4以上のアルキルアミンを使ったとき。判定はピーク幅を観測する方法で行っている。
- PS 体と不純物の選択性を上げるのは、疎水性のアルキルカルボン酸をカウンターイオンに使うこと。
- 両方を満たす提案が トリブチルアミン+ヘプタン酸の系。PO 群と、位置の異なる n-1 群をスパイクした試料を分離でき、0.2〜5 % の範囲で良好な定量性能を示した。
「TBA を使うと分離が良い」という経験則の中身が、鎖長 4 以上・3級以上という構造条件として言語化されたことが、この論文の実務上の価値です。
HFIPとPFAS問題
揮発性カウンターイオンとしてヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を加えると、ESI液滴の表面電荷が増し、 LC-MS感度が大きく向上します(報告では数桁)。しかし HFIP はPFAS(有機フッ素化合物)であり、環境・毒性の懸念から、 酢酸/グリシン系の代替や、溶媒使用量を大幅に減らすマイクロLCなど「グリーン化」への移行が進んでいます(総説)。
実務の要点:高温と非特異吸着対策
- 高温で「直線化」:通常 60〜90 ℃で分離する。高温は二次構造(Gカルテット等)をほどいて分子を直線化し、 さらにPSジアステレオマーの分離を抑制して、定量に必要な鋭い単一ピークを得る鍵になる。
- 非特異吸着(NSA)対策は必須:微量不純物が金属表面に吸着して失われるのを防ぐため、bioinert/高性能表面(HPS)の ハードウェア・カラム(例:金属不活性化表面の ACQUITY Premier、L-column3 C18 など)を使う。回収率・再現性に直結する (総説 / Anal. Chim. Acta, 2023)。
4. HILIC ― 直交する相補手法
親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)は、イオンペア試薬を使わずに直交した選択性を与える強力な相補手段です。
- 保持の論理:塩基の親水性で保持が決まり、概ね A < T < G < C < U の順に溶出。
- 「PO問題」を解く:IP-RP では PO 不純物が主ピークに重なりやすいのに対し、HILIC では PO 不純物は全長体(FLP)の後に、n-1 truncated 体は前に溶出し、分離できる(Gilar ら, J. Chromatogr. A, 2023)。
- siRNAの温度制御:融解温度(T_m)未満では二重鎖を保ったまま二重鎖純度を、T_m 超では各鎖の純度を評価できる (bioinert アミドカラム使用、Waters Application Note, 2024)。HILICでのPSジアステレオマー分離は分子構造に依存することも 示されています(Lardeux ら, Analytical Chemistry, 2024)。
5. 2D-LC ― 解けないプロファイルを解く
一次元で複雑な不純物クラスターを分けきれないとき、ハートカット2D-LCが必要なピークキャパシティを供給します。
- 構成:一次元に陰イオン交換(AEX)またはIP-RP、二次元にHILICを組む(Goyon & Zhang, Analytical Chemistry, 2020)。
- オンライン脱塩という利点:AEXの不揮発性塩やIP-RPの高濃度添加剤はMSイオン源を汚す。2D-LCではHILICが オンライン脱塩として働き、MSを保護しつつ追加の分解能を与える。
- 感度:この直交プラットフォームで、不純物を0.3%レベルまで特性解析できることが示されています(Goyon & Zhang, 2020)。
GalNAc/脂質などのバイオコンジュゲートでは、重なり合う複雑プロファイルの解像と脱塩の両面で 2D-LC が要になります。
6. 検出の「眼」 ― 高分解能MSとイオンモビリティ
クロマトのピークの「正体」を与えるのが質量分析です。Orbitrap系などの高分解能MS(HRMS)で精密質量を確認し、 専用ソフトでデコンボリューション・同定します。配列確認には断片イオンを使い、その様式は核種で異なります。
| 分子種 | 主な断片イオン |
|---|---|
| DNA | a-B イオンと w イオン |
| RNA | c イオンと y イオン |
さらにイオンモビリティ分光(IMS)は、ガス相で形・大きさによる分離軸を足し、同重体の位置異性体や、 LCで分けにくいPSジアステレオマーの識別に有効です(総説)。イオンモビリティの原理は質量分析の記事も参照ください。
7. 規制対応とサステナビリティ
分析戦略は規制と歩調を合わせます。EMA の 2024 年ガイドライン(オリゴ核酸の開発・製造、EMA/CHMP/CVMP/QWP/262313/2024)では、不純物管理の閾値として、同定(identification)1.0 %・確認(qualification)1.5 %が一般に受容可能とされています。変異原性不純物はこの枠から外れ、ICH M7 で評価します。
一方、報告(reporting)閾値には数値が与えられていません。条文はこう書いています。
製品由来不純物については、報告閾値はそれらの不純物を測定するのに用いた分析法の定量下限に依存し、それはさらに分子の大きさと構造の複雑さに依存する。
つまり「0.2 %」のような数字は規制側が与えるものではなく、自分のメソッドが証明した定量下限がそのまま閾値になる、という建て方です。3節で見た Obata・Sakamaki が 0.2〜5 % で定量性能を示したことは、この文脈で意味を持ちます。閾値を主張するには、その水準で定量できることを示す必要があります(定量限界を決める手続きは分析法バリデーションが30年ぶりに変わったを参照)。
4つのクラス ― 「閾値を超えても確認が要らない不純物」がある
同ガイドラインで実務上いちばん効くのが、製品由来不純物を4クラスに分ける考え方です。クラスによって、確認(qualification)が必要かどうかが変わります。
| クラス | 中身 | 1.5 % を超えたときの扱い |
|---|---|---|
| I | 主要代謝物でもあり、構造・配列が親化合物と同じもの(例:3′ 末端・5′ 末端からヌクレオチドが欠けたもの、二本鎖親化合物の一本鎖不純物) | 確認は不要 |
| II | 天然核酸にある構造要素だけからなるもの(例:PS オリゴ核酸に対する PO 不純物) | 確認は不要 |
| III | 鎖の内部でヌクレオチドが欠けた/挿入された配列変異体(n−1、n+1 など)。相互に区別しにくいため、まず群として同定・定量されることが多い | 群として 1.5 % 未満なら、個々の特性解析も群としての確認も不要。群で 1.5 % を超えたら配列を個別に同定し、1.5 % を超える配列ごとに確認が必要 |
| IV | 親化合物にも天然核酸にもない構造要素を含むもの(例:脱塩基体) | 確認が必要(確認試験を組むより、製造プロセスの最適化で低減するほうが望ましいとされる) |
この表は分析の優先順位をそのまま決めます。4節の「PO が主ピークに重なる」問題は、クラス II = 確認不要の不純物をめぐる問題です。それでも分離が要るのは、確認のためではなく主ピークの純度を正しく出すためです。一方、脱プリンが生む脱塩基体はクラス IV で、1.5 % を超えれば確認が要求されます。「どの不純物を、どこまで分けなければならないか」はクラスで決まるのであって、クロマトグラムの見た目で決まるのではありません。
同ガイドラインは、特性解析の標準プログラムとして UV・円偏光二色性(CD)・IR も挙げています(高次構造の情報。CD の原理は円偏光二色性(CD)とタンパク質高次構造を参照)。オリゴ核酸医薬の管理は、クロマトグラフィーだけで完結しません。
今後の鍵はサステナビリティです。マイクロLCによる環境負荷低減や、非IP-RP/HILICの最適化による PFAS(HFIP)負荷の最小化が、メソッド開発の中心テーマになりつつあります。
8. 分析者の視点 ― 実装の指針
- まず不純物の地図を描く:n-1/ロングマー・PO変換・脱プリン・PSジアステレオマー、何が問題かを定義。
- 微量を逃さない:bioinert/HPS ハードウェアでNSAを抑える(回収率・再現性の前提)。
- 直交性を使う:IP-RP と HILIC を相補的に。HILIC では PO が FLP の後に出る点が解像の決め手。
- 複雑構築物は 2D-LC:AEX/IP-RP × HILIC でオンライン脱塩+高分解能。0.3%級まで。
- 同定は HRMS(+IMS):断片イオン(DNA: a-B/w、RNA: c/y)で配列確認、難分離異性体は IMS。
- 規制と環境:EMA 2024 の 1.0%/1.5% 閾値を念頭に、マイクロLC・脱PFAS で将来に備える。
まとめ
- オリゴ核酸医薬の不純物はプロセス由来(n-1/ロングマー)・分解(脱プリン・PS→PO)・PSジアステレオマーが中心。
- IP-RPがゴールドスタンダード(TEA/DBA/TBA、HFIPで高感度だがPFAS問題、高温で直線化+ジアステレオマー抑制、NSA対策必須)。
- HILICは直交手段で、PO不純物がFLPの後に溶出するのが解像の鍵。siRNAは温度で二重鎖/単鎖純度を切替。
- 2D-LC(AEX/IP-RP×HILIC)はオンライン脱塩+高ピークキャパシティで、0.3%級・バイオコンジュゲートに対応。
- 同定はHRMS(断片イオン)+IMS。規制はEMA 2024 ドラフト(同定 1.0 %/確認 1.5 %、報告閾値は自分のメソッドの定量下限)、潮流はマイクロLC・脱PFAS。
- PS ジアステレオマーは 2ⁿ 個(20-mer 全 PS 体で 2¹⁹ = 524,288)。全長体では分離が達成されておらず、規制は分離ではなく比の推定と再現性を求める。実務的な答えは ³¹P NMR による Rp/Sp 総量比。
- 不純物は4クラスに分かれ、クラス I・II は 1.5 % を超えても確認不要、クラス IV(脱塩基体)は確認が必要。分離の優先順位はクラスで決まる。
次回以降、各手法の実装(2D-LCのメソッド設計、HILICのsiRNA純度評価、HRMSの配列確認ワークフロー)を個別に掘り下げます。
未確認・限界
- EMA のガイドラインは、2026-09-29 時点でまだドラフトです。 2024-07-22 に意見募集用として公表され、募集は 2025-01-31 に締め切られていますが、CHMP による最終採択の日付も発効日も公表されていません(EMA の当該ガイドラインページを同日に確認)。本記事が引用した 1.0 %/1.5 %・4クラス分類・2ⁿ の条文は、最終版で変わり得ます。
- 「Rp 約 18 %」から導いた二項分布の計算は、結合位置ごとの偏りを無視した近似です。 実際には配列・活性化剤・カップリング条件で立体選択性が変わります(原著自身が DCI と ETT で比が動くことを示しています)。all-Sp 体 2.30 %・Rp 3 本 23.6 % という数字は「主ピークが単一化合物でない規模」を示すもので、特定ロットの組成の予測ではありません。
- 「0.00019 %」は 524,288 個が均等分布するという仮定の下での値です。 上と同じ理由で実際の最小成分はこれより小さく、最大成分はこれより大きくなります。
- 5-mer で 16 個すべてを分離した実測は、無修飾のシチジンホモマーでの結果です。 同じ原著で 2′-MOE 修飾体(5m-MOEC-PS)はジアステレオマーの分離が悪化しています。糖修飾が入るとこの限界はさらに手前に来ます。
- HFIP の感度向上「数桁」は、出典の記述をそのまま引いたもので、本記事では倍率の原著までは確認していません。 比較条件(イオン化モード・カラム・濃度)に強く依存する数値として扱ってください。
- 2D-LC の「0.3 % レベル」は Goyon & Zhang (2020) の1つのプラットフォームでの到達値で、装置構成・試料・不純物の種類が変われば変わります。
- 本記事は不純物の分離・検出に絞っており、含量定量(アッセイ)・二本鎖純度の絶対値・力価試験・エンドトキシンなどの品質項目は扱っていません。 また siRNA のアニーリング工程や GalNAc 抱合体の抱合率については触れていません。
- ³¹P NMR による Rp/Sp 比の測定は、原著が「LC と NMR のデータは高度に相補的」としつつ、定量的な評価には解析・統計手法の整備が必要だと述べている段階です。 確立した公定法ではありません。
用語集(クイックリファレンス)
- ASO / siRNA:アンチセンスオリゴ/低分子干渉RNA。代表的なオリゴ核酸医薬。
- ショートマー / ロングマー:n-1等の短い欠失体/n+1等の伸長体。固相合成由来の代表的不純物。
- PS / PO:ホスホロチオエート(硫黄置換)/ホスホジエステル結合。PS→PO変換は代表的分解。
- PSジアステレオマー:各Pのキラル中心が生む立体異性体。PS 結合 n 本で 2ⁿ 個(20-mer 全 PS 体なら 2¹⁹ = 524,288)。ピークを広げる。
- IP-RP:イオンペア逆相。負電荷骨格をアルキルアミンで対イオン化して保持。MS直結の主役。
- HFIP:揮発性フッ素アルコール。ESI感度を高めるが PFAS 問題がある。
- HILIC:親水性相互作用。IP-RPに直交。POがFLPの後に出るのが特長。
- 2D-LC(ハートカット):2軸分離。AEX/IP-RP×HILICでオンライン脱塩+高分解能。
- NSA / HPS:非特異吸着/高性能(金属不活性化)表面。微量回収の鍵。
- EMA閾値:同定 1.0 %・確認 1.5 %(2024 ドラフトガイドライン)。報告閾値は数値が与えられず、用いた分析法の定量下限に依存する。
- 不純物の4クラス:I(末端欠失など親と同配列で主要代謝物でもある)/II(天然核酸の構造要素だけ。PO 不純物)/III(鎖内の n−1・n+1)/IV(脱塩基体など天然に無い構造)。I・II は閾値超でも確認不要。
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出典
- Goyon, Zhang「Characterization of Antisense Oligonucleotide Impurities by IP-RP and Anion Exchange Coupled to HILIC/MS Using a Versatile 2D-LC Setup」Analytical Chemistry, 2020, 92(8), 5944–5951, 10.1021/acs.analchem.0c00114 — https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.0c00114
- Gilar, Koshel, Birdsall「Ion-Pair Reversed-Phase and HILIC Methods for Analysis of Phosphorothioate Oligonucleotides」Journal of Chromatography A, 2023, 1712, 464475 — https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0021967323005526
- Lardeux et al.「Unravelling the Link between Oligonucleotide Structure and Diastereomer Separation in HILIC」Analytical Chemistry, 2024, 96(24), 10.1021/acs.analchem.4c01384 — https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.4c01384
- 「Advances in Analysis of Therapeutic Oligonucleotides with Chromatography Coupled to Mass Spectrometry」Analytical Chemistry(総説), 10.1021/acs.analchem.5c06656 — https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.5c06656
- European Medicines Agency「Guideline on the Development and Manufacture of Oligonucleotides」EMA/CHMP/CVMP/QWP/262313/2024(ドラフト。公表 2024-07-22、意見募集 2025-01-31 締切。2ⁿ ジアステレオマーの条文・報告/同定/確認の各閾値・製品由来不純物の4クラス分類) — https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/draft-guideline-development-manufacture-oligonucleotides_en.pdf / ガイドラインページ — https://www.ema.europa.eu/en/development-manufacture-oligonucleotides-scientific-guideline
- Y. Obata, H. Sakamaki(化学物質評価研究機構)「Improving the chromatographic separation of phosphorothioate oligonucleotide from impurities by optimizing selectivity through mobile-phase conditions in ion-pair reversed-phase high-performance liquid chromatography」Journal of Chromatography A, 2025, 1750, 465915, DOI: 10.1016/j.chroma.2025.465915(3節のイオンペア試薬の構造条件と 0.2〜5 % の定量性能) — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40188785/
- M. Ali, A. Manghrani, M. Szramowski, A.M. Abdel-Megied, L. Liang, N.F. Aberg, K. Yang, K. Chen, Y. Wang, D. Zhang, S. Fletcher, R.G. Brinson, J.W. Jones「The use of multiple liquid chromatography methods augmented by phosphorus-31 nuclear magnetic resonance to characterize the diastereomer composition in synthetic oligonucleotides」Journal of Chromatography A, 2025, 1766, 466600, DOI: 10.1016/j.chroma.2025.466600(2節の 2¹⁹ = 524,288、鎖長別の分離実測、³¹P NMR による Rp/Sp 比) — https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12718448/
注記:閾値・感度・温度などの数値は各出典の報告・発表時点のもの(EMAガイドラインはドラフト)。試料・カラム・装置で結果は変わります。導入・規制対応の際は最新のメーカー資料・原著・規制文書で再確認してください。
更新履歴:2026-09-29 の改稿で、PS ジアステレオマーの数を「20-mer なら理論上数千」から「PS 結合 n 本で 2ⁿ 個、20-mer 全 PS 体なら 2¹⁹ = 524,288 個」に訂正した。初出時の「数千」は誤りである。根拠は EMA ガイドライン本文の 2ⁿ の条文と、2025 年の J. Chromatogr. A 掲載論文(Ali ら)の実測で、あわせて鎖長別の分離限界・³¹P NMR による Rp/Sp 比・二項分布による筆者計算を追加した。 また、報告(reporting)閾値についての記述を訂正した。初出は「現代的手法では概ね 0.2 % 程度を狙うのが実務的な基準」と書いていたが、ガイドライン本文は報告閾値に数値を与えず「用いた分析法の定量下限に依存する」としている。0.2 % は Obata・Sakamaki (2025) が定量性能を示した下限として位置づけ直した。あわせて製品由来不純物の4クラス分類を追加し、出典リストの無効な URL(Obata・Sakamaki)を差し替え、本文冒頭の h1 を削除した。