UHPLCのカラムは、この10年で「小さい粒子に詰め替える」だけの競争を卒業しました。いま性能を決めているのは、粒子の内部構造をどう設計するか(コアシェル)、その性能を装置の圧力・熱とどう折り合わせるか、そしてカラムやハードの金属表面で試料を失わないか(不活性化)という、より工学的なレイヤーです。世界のクロマトグラフィーカラム市場は2025年の27.7億米ドルから2031年に42.2億米ドルへ拡大する見通し(年平均成長率7.3%)で、その伸びを牽引するバイオ医薬・高極性化合物の分析こそ、これらの新しい軸が効く領域です(MarketsandMarkets)。
本記事は、カラムの「選び方」(別記事)や「最新動向の俯瞰」(別記事)とは役割を分け、粒子とハードウェアの工学に一段踏み込みます。「コアシェルはなぜ速いのか」を有効粒子径で定量し、その最適点を動力学プロットで読み、sub-2µmがUHPLC専用機を要求する物理を押さえ、最後に2020年代の新軸である金属不活性化までをつなげます。実務でカラムを買うとき・メソッドを詰めるときに「なぜ」で判断するための記事です。
本記事の軸は、メーカーの宣伝文句を、そのメーカー自身が公開している定義から計算し直すことです。 コアシェルカラムの広告には「sub-2 µm 並みの効率を、低い背圧で」「最大 50 % 低背圧」といった文句が並びます。 これは根拠不明のうたい文句ではなく、Phenomenex のブローシャが載せている有効粒子径(de)の定義と van Deemter 式から、 そのまま出てきます。効率を決めるのは de、圧力を決めるのは物理粒子径 dp。Kinetex 2.6 µm の de は 1.7 µm と明記されているので、 同じ効率を出すときの圧力比は (2.6 / 1.7)² = 2.34、つまり 57 % 低い(筆者計算、1 節)。 「最大 50 %」は控えめな言い方だったことになります。
同じ計算は、コアシェルの代償も出します。同じ資料の粒子寸法表(Kinetex 2.6 µm = 固体核 1.9 µm + シェル 0.35 µm)から 多孔体積の割合を出すと、1 − (1.9/2.6)³ = 61 %。同じ大きさの全多孔粒子に比べ、溶質が入れる空間が 4 割減っています(筆者計算)。 分取で負荷量が落ちるという査読論文の結論(1 節後半)は、この 61 % の裏返しです。
この記事の読み方:各節の冒頭は入門者向けに原理から噛み砕き、後半で分析現場・研究者向けに定量やデータへ踏み込みます。専門用語は初出時に短く補足します。まだ「どのカラムを選ぶか」で迷っている場合は、先にHPLC/UHPLCカラムの選び方を読むと本記事の位置づけがはっきりします。
「有効粒子径 de」で読み解くコアシェルの正体

コアシェル粒子(表面多孔質粒子, SPP:Superficially Porous Particle)は、溶質が入れない固体シリカ核の外側に、薄い多孔質シェルだけを成長させた構造です。ポイントは「見た目の粒子径」と「性能上の粒子径」がずれることにあります。
Phenomenex の代表製品 Kinetex では、公称2.6µmのコアシェルが、有効粒子径(de, effective particle diameter)でおよそ1.7µm相当の効率を示します。つまり2.6µmの粒子を詰めていながら、分離の鋭さは1.7µmの全多孔粒子に匹敵します。実際にコアシェルは、全多孔5µm粒子の約3倍、全多孔3µm粒子の約2倍の分離効率を与え、公称2.6µmでも全多孔1.8µm(Agilent ZORBAX)より高い効率を出すと報告されています(Phenomenex、LCGC International)。
用語補足:有効粒子径(de)とは、あるコアシェル粒子が「実質どのくらいの全多孔粒子と同じ効率か」を表す指標。公称径より小さくなるのがコアシェルの旨味で、「大きい粒子の低背圧」と「小さい粒子の高効率」を両取りできる。
de はメーカー資料に定義がある ― van Deemter 式の A 項は dp、C 項は de
同社のブローシャは、de を脚注で明示し、van Deemter 式のどこに de が入るかまで書いています。
de refers to the effective particle size. For Kinetex 1.7 µm particles, de = 1.5 µm and for Kinetex 2.6 µm particles, de = 1.7 µm. For fully porous particles, de = dp. (Phenomenex, Kinetex Core-Shell Technology ブローシャ)
同じページの式は、A 項(渦拡散)には物理粒子径 dp、C 項(物質移動抵抗)には de を使う形になっています (H = 2λdp + 2γDm/u + ω·de²·u/Dm + R·de²·u/Ds)。効率の速度依存を決めるのは de、詰まり具合=圧力を決めるのは dp という 役割分担が、式の上で分かれているわけです。
背圧は粒子径の 2 乗にほぼ反比例します(3 節)。同じ効率を出すのに必要な圧力の比を計算すると、こうなります(筆者計算)。
| 粒子 | 物理粒子径 dp | 有効粒子径 de | 同じ効率の全多孔粒子との圧力比 (dp/de)² | 背圧の下がり方 |
|---|---|---|---|---|
| Kinetex 2.6 µm | 2.6 µm | 1.7 µm | 2.34 | −57 % |
| Kinetex 1.7 µm | 1.7 µm | 1.5 µm | 1.28 | −22 % |
公称 2.6 µm のコアシェルは、1.7 µm の全多孔粒子と同じ効率を、2.34 分の 1 の圧力で出す。 メーカーが言う「最大 50 % 低背圧」は、この 57 % を安全側に丸めた数字と読めます。 HPLC/UHPLCカラムの選び方ではこの「最大 50 %」を出典再取得できず未確認扱いにしましたが、 de の定義さえあれば計算で出せることが分かります。
薄いシェルの代償 ― 多孔体積は全多孔粒子の 61 %
同じブローシャには、主要 3 社の粒子寸法の比較表があります。
| Kinetex(Phenomenex) | HALO(Advanced Materials Technology) | Poroshell 120(Agilent) | |
|---|---|---|---|
| 全粒子径 | 2.6 µm | 2.7 µm | 2.7 µm |
| 多孔シェル厚 | 0.35 µm | 0.5 µm | 0.5 µm |
| 固体核 | 1.9 µm | 1.7 µm | 1.7 µm |
| 耐圧 | 1000 / 600 bar | 600 bar | 600 bar |
| 細孔径 | 100 Å | 90 Å | 120 Å |
(Phenomenex ブローシャの比較表。他社製品の数値も同社資料からの引用である点は割り引いて読んでください)
粒子は球なので、溶質が入れる多孔部分の体積比は 1 − (固体核 / 全粒子径)³ です(筆者計算)。
- Kinetex 2.6 µm:1 − (1.9 / 2.6)³ = 0.61
- HALO / Poroshell 2.7 µm:1 − (1.7 / 2.7)³ = 0.75
シェルが薄いほど速いが、載る量は減る。 Kinetex の 0.35 µm シェルは、同じ大きさの全多孔粒子に比べ多孔体積が 4 割少なく、 HALO の 0.5 µm シェルは 2.5 割少ない。これは保持容量と試料負荷量に直結します。実際、Horváth と Felinger は 競合 Langmuir 等温線を使った分取分離のモデル計算で、コアシェルの適用性をこう結論しています。
Due to the decreasing volume of porous layer, the loadability of the column dropped significantly. As a result, the productivity and economy of the separation decreases. (Horváth & Felinger, J. Chromatogr. A, 2015、要旨)
同論文は、粒子径を分離ごとに最適化できるなら「コアシェル相は有利ではない」とまで書いています(小規模で汎用の分取カラムを作る場合は有利、とも)。 分析で効く構造が、分取ではそのまま不利になる。 スケールアップの側から見た話は 分取HPLCとスケールアップにまとめました。
なぜ有効粒子径が小さくなるのか。効きどころは2つです。ひとつは拡散距離の短縮で、溶質が固定相を出入りする経路が薄いシェルに限られるため、後述する van Deemter 式の物質移動抵抗(C項)が大きく下がります。もうひとつは粒度分布の狭さで、コアシェル粒子はほぼ単分散に近く、カラム内の充填が均一になるため渦拡散(A項)も抑えられます。この2つが合わさって、公称径より一段小さい粒子の効率が得られます。
動力学プロット ― 「時間・効率・圧力」を一枚で見る

粒子を比べるとき、多くの人は van Deemter 図(H=理論段高 vs 流速 u) を思い浮かべます。これは正しいのですが、「あるカラム1本」の効率と流速の関係しか語りません。実務で本当に知りたいのは「装置の圧力上限のもとで、必要な分離(理論段数 N)を何分で出せるか」です。ここで使うのが動力学プロット(kinetic plot、Poppe プロット系)です。
動力学プロットは、圧力の上限を固定した条件で、カラム長を変えていったときに到達できる「効率 N」と「そのときの分析時間」の関係を描きます。これにより、粒子構造の違いを「同じ土俵(同じ圧力)」で公平に比較できます。
- 短時間・中程度のN が欲しい領域 … コアシェル(SPP)が有利。低背圧で高効率なので、標準的なHPLC装置でもUHPLC級の分離を短時間で出せる。
- とにかく高いN(極限の分離)が欲しい領域 … sub-2µm 全多孔+高耐圧のUHPLC専用機が上回る。ただし後述する圧力・熱の代償を払う。
用語補足:理論段数 N はカラムの「鋭さ」の総量。ピークキャパシティ(一定時間に分けられるピークの本数)と結びつき、複雑な試料ほど大きなNが要る。
要するに、「速さ重視ならコアシェル、Nの上限を攻めるならsub-2µm+高耐圧」という住み分けが、動力学プロットの上でくっきり分かれます。van Deemter 図の「最小H」だけを見て粒子を選ぶと、圧力上限という現実の制約を見落とします。
耐圧と摩擦熱 ― UHPLC専用機が要る本当の理由

sub-2µm 粒子の高効率には、避けられない代償があります。背圧は粒子径の2乗にほぼ反比例して上がるため、粒子を半分にすると圧力は約4倍になります。5µmで問題なかったメソッドをそのまま2µm弱に置き換えると、従来HPLC(〜400 bar級)の圧力上限をあっさり超えます。
このため sub-2µm を本領発揮させるには、1000 bar級の耐圧を持つUHPLC専用機が要ります。Waters の ACQUITY UPLC は最大約1000 bar(15,000 psi、流量条件により上限が変わる)で動作するよう設計され、まさに sub-2µm 粒子の性能を引き出すために作られたシステムです(Waters)。Thermo Fisher の Vanquish 系も同等以上の高耐圧域で動作します。
温度上昇の上限は割り算ひとつで出る(筆者計算)
さらに厄介なのが摩擦熱(粘性発熱, viscous/frictional heating)です。高い圧力で移動相をカラムに押し込むと、粘性摩擦で熱が発生します。Gritti と Guiochon の研究では、カラム出口が入口より10〜20℃高くなり、発生電力が25 W/m を超えると約30 K もの温度上昇が観測されました。この熱は、
- 縦方向(軸方向)の熱勾配 … 入口と出口で温度が違い、保持や選択性がずれる。
- 径方向(半径方向)の熱勾配 … カラム壁から熱が逃げるため中心と壁際で温度差が生じ、放物線状の流速プロファイルがバンドを広げて効率を落とす。
どこまで上がりうるかは、暗算に近い計算で見当がつきます。圧力損失 ΔP で押し込んだ仕事が全部その場で熱になり、外に逃げないとすると、 温度上昇は ΔT = ΔP ÷ (密度 × 比熱) です。1000 bar(=10⁸ Pa)を入れると(筆者計算)、
| 移動相 | 密度 (kg/m³) | 比熱 (J/kg·K) | 1000 bar での ΔT の上限 |
|---|---|---|---|
| 水 | 997 | 4,180 | 24 ℃ |
| メタノール | 792 | 2,530 | 50 ℃ |
| アセトニトリル | 786 | 2,230 | 57 ℃ |
発熱そのものは 仕事率 = ΔP × 流量 なので、1000 bar・0.5 mL/分なら 0.83 W、2 mL/分なら 3.3 W。ワット数としては小さく、 だからこそ「カラムが熱い」と手で気づけないまま効率だけが落ちます。
この計算は上限であって実測ではありません。 2018 年に Merck のグループが赤外サーモグラフィでカラム表面を直接測った論文 (Anal. Chim. Acta)が、実際の値を出しています。1.7 µm 充填の 50 mm カラム、線速度 5.8 mm/s、断熱に近い条件で、
the temperature gradients (ΔT) observed with the 1.7 μm particle column at a linear velocity of 5.8 mm/s were up to +16.6 and +12.8 °C above an ambient temperature of 23 °C for water and acetonitrile, respectively (Makarov et al., 2018、要旨)
水で +16.6 ℃、アセトニトリルで +12.8 ℃。上の表と順序が逆です。表ではアセトニトリルのほうが 2 倍以上上がるはずでした。 理由は ΔP のほうにあります。同じ線速度で流すなら、粘度の低いアセトニトリルは水より圧力損失が小さい。 測定値から ΔP を逆算すると、水 692 bar・アセトニトリル 224 bar 相当になり(筆者計算、上の式を ΔP について解いたもの)、 この比 3.1 は水とアセトニトリルの粘度比(25 ℃ でおよそ 0.89 : 0.34 = 2.6)とおおむね揃います。
熱くなるかどうかを決めるのは溶媒の熱容量ではなく、その溶媒で生じる圧力損失です。 同論文は、水については理論値と実測値が 1 % 以内、アセトニトリルでも平均 10 % 以内で一致したと書いており、モノリスカラムでは ΔT が無視できたとも報告しています。
効率への影響も定量されています。Gritti と Guiochon は 4.6 × 250 mm・5 µm のカラムについて、 縦方向の勾配だけなら 2 kbar の圧力損失で効率が 30 % 低下し、径方向の勾配が加わると「大きな効率低下」になると計算しました (J. Chromatogr. A, 2007)。径方向が効くのは、バンドが中心で速く壁際で遅れて歪むからです。 2006 年の de Villiers らの実験はこの裏返しで、静止空気のカラムヒーター(断熱に近い)では縦勾配ができるが効率低下はほとんど無く、 水浴でサーモスタットすると径方向の勾配が優勢になって効率が落ちることを実測しています。 「よく冷やす」ことが必ずしも正解ではないという、直感に反する結論です。
つまり sub-2µm は「圧力さえかければ勝ち」ではなく、熱を管理できて初めて効率が出るのです。ここでもコアシェルが効きます。同じ効率を低い背圧で達成できるため、発熱そのものを抑えられる――Agilent の Poroshell 120(2.7µm)は sub-2µm 全多孔に比べ背圧を最大50%低減でき、従来の400/600 bar級システムでも高効率が得られると報告されています(Agilent)。「UHPLCを買わずに効率を上げる」現実解であると同時に、「熱の出にくいUHPLC」でもあるわけです。
カラムの「金属不活性化」― 2020年代の新しい軸

粒子と圧力の話は「効率」の軸でした。2020年代に加わったもう一本の軸が、カラム・ハードウェアの金属不活性化です。分離効率がどれだけ高くても、試料が金属表面に吸着して消えてしまえば定量になりません。
オリゴ核酸、リン酸化合物、カルボキシル基を持つ化合物、キレート性の代謝物などは、ステンレス流路やフリットの金属表面とルイス酸塩基的に相互作用し、非特異吸着によるピークのテーリング・感度低下・ひどい場合は全損失を起こします。従来はサンプルロスを見越して装置を「なじませる(パッシベーション)」しかありませんでした。
Waters の MaxPeak Premier カラムは、この金属表面をMaxPeak High Performance Surfaces(HPS)という有機/無機のハイブリッドバリアで覆い、分析種と金属の相互作用を物理的に遮断します。これにより電子豊富な化合物(リン酸基・カルボキシル基を持つ分子)の吸着損失を抑え、ピーク形状・再現性・カラムのなじみ時間を改善します(Waters)。同じ思想は流路側(ACQUITY Premier/Arc Premier システム)にも広がり、カラムと装置を一体で不活性化する設計になっています。
この軸が重要なのは、バイオ医薬(オリゴ核酸医薬、mAbの関連物質)で金属感受性化合物の比重が増しているからです。当ブログのオリゴ核酸の不純物分析で扱うような分析では、粒子の効率と同じくらい「金属で失わない設計」が定量の成否を分けます。効率一辺倒だったカラム選定に、回収率(インレットネス)という評価軸が正式に加わった、と捉えるとよいでしょう。
2025年の新製品にみる技術の現在地

ここまでの技術軸が、2025年の実製品にどう表れているかを見ます。型番・発売時期は各社の一次情報で確認したものです。
| 製品 | メーカー | 発表時期 | 技術的な位置づけ |
|---|---|---|---|
| BioResolve Protein A アフィニティカラム | Waters | 2025年5月 | MaxPeak Premier(HPS)技術を載せた同社初のアフィニティカラム。抗体の力価(タイター)測定を高速化。金属不活性化×バイオ医薬の象徴 |
| Vanquish Duo(Dual LC) | Thermo Fisher | 継続展開 | 独立した2つの流路を1台に収め、スループットを2倍に。最大15,000 psi級の高耐圧UHPLC |
| Foresight Pro 45cm ID | Bio-Rad | 2025年1月 | CHTセラミックハイドロキシアパタイト充填の45cm ID プロセススケールカラム。分析から製造までのスケールアップを一貫化(既存5〜33cm IDを拡張) |
読み取れる方向性は2つです。ひとつは「金属不活性化 × バイオ医薬」で、Waters がアフィニティカラムにまで HPS を広げたことは、前節の軸が製品ラインの中核になりつつあることを示します。もうひとつは「スループットの倍増」で、Vanquish Duo のようなデュアルLCは、粒子や圧力の限界を「1流路の速さ」ではなく「並列化」で超えにいく発想です。なお Foresight Pro はUHPLC分析カラムではなくプロセス(製造)スケールの製品で、分析→製造のスケールアップ連続性という別軸ですが、「バイオ医薬の川下(ダウンストリーム)まで一貫」という業界の関心を映しています。
注記:市場規模やトレンドの数値は調査会社・各社発表に基づく推定を含みます。装置の耐圧やアプリケーションの詳細は、実際の運用条件(流量・温度・移動相)で変わるため、導入時は各社の最新スペックで確認してください。
分析者の視点 ― 粒子とハードをどう組み合わせるか

現場で「粒子とハード」を決めるときの実践的な順番を、本記事の三軸(効率・圧力/熱・回収率)で整理します。
- まず効率を低コストで上げるなら、コアシェル。 既存の5µm/3µm全多孔メソッドは、背圧を抑えたまま効率を2〜3倍にできるコアシェルへの置換を第一候補に。UHPLC専用機を買う前に検討する価値が高い。
- 理論段数Nの上限を攻めるときだけ、sub-2µm+高耐圧機へ。 1000 bar級の耐圧に加え、カラム恒温槽での温度管理が前提。摩擦熱の熱勾配を抑えないと、せっかくの効率が径方向のバンド拡散で目減りする。2.1mm ID など細い内径は発熱が逃げにくい点にも注意。
- 金属感受性の化合物を扱うなら、回収率の軸を最優先。 オリゴ核酸・リン酸/カルボキシル化合物・キレート性代謝物では、粒子の効率より先に金属不活性化(MaxPeak HPS 等)を検討する。カラムだけでなく流路(装置側)も不活性化されているかを確認する。
- 「速さ」を並列化で稼ぐ選択肢も持つ。 1流路の限界に達したら、デュアルLC(Vanquish Duo 等)でスループットを倍化する道もある。粒子を攻めるより運用が安定する場面がある。
よくある失敗は、(1) van Deemter の最小H だけを見て圧力上限を無視する、(2) sub-2µm を高耐圧機に載せたのに温度管理を怠り効率が出ない、(3) 効率ばかり追って金属吸着による回収率低下を見逃す、の3つです。効率・圧力/熱・回収率を同時に見るのが、2020年代のUHPLCカラム選定の勘所です。
まとめ

UHPLCのカラム技術は、「粒子を小さくする」競争から、粒子構造・圧力/熱・表面化学を工学的に最適化する段階へ移りました。要点は3つです。
- コアシェルは「有効粒子径」で理解する。 公称2.6µmでde≈1.7µm相当。拡散距離の短縮(C項)と狭い粒度分布(A項)で、大粒子の低背圧と小粒子の高効率を両取りする。
- 粒子選びは van Deemter の先、動力学プロットで。 圧力上限を固定して「必要なNを何分で出せるか」を比べる。速さはコアシェル、Nの上限はsub-2µm+高耐圧+温度管理。
- 金属不活性化=回収率という新軸を持つ。 バイオ医薬・オリゴ核酸では、効率と同じ重みで「金属で試料を失わない設計」を評価する。
- 宣伝文句は定義に戻せば検算できる。 「最大 50 % 低背圧」は de の定義から (2.6/1.7)² = 2.34、つまり 57 %(筆者計算)。 同じ資料の粒子寸法からは多孔体積 61 % という代償も出て、分取で負荷量が落ちる理由になる。
- 摩擦熱の上限は ΔP ÷ (密度 × 比熱)。 1000 bar なら水 24 ℃・アセトニトリル 57 ℃。実測(赤外サーモ)は水 +16.6・ACN +12.8 ℃ で 順序が逆転し、決めているのは熱容量ではなく圧力損失。冷やし方しだいで径方向勾配が優勢になり、かえって効率が落ちることもある。
カラムは分離の土台です。「どれを選ぶか」はHPLC/UHPLCカラムの選び方、「クロマト全体の最新動向」はクロマトグラフィー最新技術動向とあわせて読むと、粒子・装置・メソッドを一本の線でつなげられます。
用語集
- コアシェル粒子(表面多孔質粒子, SPP):固体核+薄い多孔質シェルの粒子。拡散距離が短く、全多孔粒子より高効率・低背圧。
- 有効粒子径(de):コアシェルが「実質どの全多孔粒子と同じ効率か」を表す指標。公称径より小さくなるのが旨味(例:公称2.6µm→de≈1.7µm)。
- van Deemter式(H=A+B/u+Cu):理論段高Hと線流速uの関係。A=渦拡散、B=分子拡散、C=物質移動抵抗。コアシェルはCを大きく下げる。
- 動力学プロット(kinetic plot/Poppeプロット):圧力上限を固定して「到達できる効率Nと分析時間」の関係を描く比較法。van Deemterの実務版。
- 理論段数 N:カラムの鋭さの総量。ピークキャパシティと結びつき、複雑な試料ほど大きなNが要る。
- 背圧(バックプレッシャー):カラムを流すのに要する圧力。粒子径の2乗にほぼ反比例して増える。
- 摩擦熱(粘性発熱):高圧下で移動相の粘性摩擦により生じる熱。縦・径方向の熱勾配を作り、バンドを広げて効率を落とす。温度上昇の上限は ΔP ÷ (密度 × 比熱)。
- 多孔体積の割合:コアシェル粒子で溶質が入れる体積の比。1 −(固体核 / 全粒子径)³ で求まる。Kinetex 2.6 µm で 61 %、HALO/Poroshell 2.7 µm で 75 %(筆者計算)。
- 負荷量(loadability):カラムに載せられる試料量。多孔体積に効くので、シェルが薄いコアシェルほど小さい。
- 金属不活性化/MaxPeak HPS:流路・カラムの金属表面に有機/無機バリアを設け、金属感受性化合物の非特異吸着を抑える技術。回収率と再現性を改善する。
出典
- Phenomenex「Kinetex Core-Shell Technology ― Ultra-High Performance from HPLC to UHPLC」ブローシャ(全 54 ページ) ― de の定義(Kinetex 1.7 µm → de 1.5 µm、2.6 µm → de 1.7 µm、全多孔粒子は de = dp)、A 項に dp・C 項に de を置いた van Deemter 式、主要 3 社の粒子寸法比較表(Kinetex 2.6 µm=核 1.9 µm・シェル 0.35 µm・耐圧 1000/600 bar・細孔 100 Å、HALO 2.7 µm=核 1.7・シェル 0.5・600 bar・90 Å、Poroshell 120 2.7 µm=核 1.7・シェル 0.5・600 bar・120 Å)。PDF を取得して確認。 — https://photos.labwrench.com/equipmentManuals/11326-4512.pdf
- Visualizing and studying frictional heating effects in reversed-phase liquid chromatography using infrared thermal imaging, Makarov, A. A. et al., Anal. Chim. Acta, 1018, 1–6 (2018) ― 1.7 µm 充填 50 mm カラム・線速度 5.8 mm/s・室温 23 ℃ で ΔT 最大 +16.6 ℃(水)・+12.8 ℃(アセトニトリル)、水は理論値と 1 % 以内・ACN は平均 10 % 以内、モノリスでは ΔT 無視できる。要旨を PubMed で確認。 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29605126/
- Consequences of the radial heterogeneity of the column temperature at high mobile phase velocity, Gritti, F. & Guiochon, G., J. Chromatogr. A, 1166, 47–60 (2007) ― 4.6 × 250 mm・5 µm、最大圧力損失 0.1〜2 kbar。縦勾配だけなら 2 kbar で効率 30 % 低下、縦と径が共存すると大きな損失、バンドは中心が速く歪む。要旨を PubMed で確認。 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17720174/
- Influence of frictional heating on temperature gradients in ultra-high-pressure liquid chromatography on 2.1 mm I.D. columns, de Villiers, A. et al., J. Chromatogr. A, 1113, 84–91 (2006) ― 1000 bar までの 2.1 mm カラム。静止空気(断熱に近い)では縦勾配ができるが効率低下はほとんど無い、水浴サーモスタットでは径方向勾配が優勢になり効率が落ちる、断熱に近い条件では保持係数が漂う。要旨を PubMed で確認。 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16476437/
- Influence of particle size and shell thickness of core-shell packing materials on optimum experimental conditions in preparative chromatography, Horváth, K. & Felinger, A., J. Chromatogr. A, 1407, 100–105 (2015) ― 二成分 bi-Langmuir のモデル計算。多孔層の体積が減るため負荷量が有意に低下し、生産性と経済性が下がる。粒子径を最適化できるならコアシェルは有利でない。要旨を PubMed で確認。 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26162666/
- Fundamental to achieving fast separations with high efficiency: A review of chromatography with superficially porous particles, Luo, C. et al., Biomed. Chromatogr., 35, e5087 (2021) ― SPP の歴史(1960 年代の ≥30 µm から 2006 年の sub-3 µm、その後の sub-2 µm)と材料科学からの総説。要旨を PubMed で確認。 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33566360/
- Phenomenex「Kinetex Core-Shell HPLC Columns」(コアシェル技術、粒子径1.3〜5µm、全多孔5µm比3倍/3µm比2倍の効率) — https://www.phenomenex.com/products/kinetex-hplc-column
- LCGC International「Increased Efficiency and Resolution with Kinetex Core-Shell Technology」(有効粒子径 de、C項低減、A項抑制、ZORBAX 1.8µm比) — https://www.chromatographyonline.com/view/increased-efficiency-and-resolution-kinetex-core-shell-technology-0
- Phenomenex「Achieving Ultra-High Performance – Guide to Scaling with Kinetex Columns」(de と van Deemter、スケーリング) — https://phenomenex.blob.core.windows.net/documents/edf1d3ea-c91b-41ce-a6df-ee3e9ecc3a73.pdf
- Agilent「InfinityLab Poroshell 120 Reversed-Phase HPLC Columns」(2.7µm SPP、sub-2µm比で最大50%低背圧、120Å、耐圧600 bar) — https://www.agilent.com/en/product/small-molecule-columns/reversed-phase-hplc-columns/infinitylab-poroshell-120
- Waters「ACQUITY UPLC System」仕様(最大約1000 bar/15,000 psi、sub-2µm粒子の性能を引き出す設計) — https://support.waters.com/KB_Inst/Chromatography/WKB17398_What_is_the_maximum_pressure_for_the_ACQUITY_H-class
- F. Gritti, G. Guiochon「Influence of frictional heating on temperature gradients in ultra-high-pressure liquid chromatography on 2.1 mm I.D. columns」(出口が入口より10〜20℃高温、>25 W/mで約30K上昇、縦横の熱勾配とバンド拡散) — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16476437/
- LCGC International「Ultrahigh-Pressure Liquid Chromatography, Part 3: Potential Issues」(sub-2µmの摩擦熱・熱勾配・選択性シフト) — https://www.chromatographyonline.com/view/ultrahigh-pressure-liquid-chromatography-part-3-potential-issues
- Waters「MaxPeak Premier Columns / MaxPeak High Performance Surfaces (HPS)」(金属感受性化合物の非特異吸着抑制、有機/無機バリア、リン酸・カルボキシル・オリゴ) — https://www.waters.com/nextgen/en/products/columns/maxpeak-premier-columns.html
- Waters プレスリリース「Waters Introduces BioResolve Protein A Affinity Columns」(2025年5月28日発表、MaxPeak Premier技術、同社初のアフィニティカラム) — https://ir.waters.com/News--Events/newsroom/news-details/2025/Waters-Introduces-BioResolve-Protein-A-Affinity-Columns-to-Accelerate-Antibody-Titer-Measurement-Enhancing-Process-Agility-and-Batch-Quality/default.aspx
- Thermo Fisher「Vanquish Duo UHPLC Systems」(独立2流路でスループット2倍、高耐圧UHPLC) — https://www.thermofisher.com/us/en/home/industrial/chromatography/liquid-chromatography-lc/hplc-uhplc-systems/vanquish-duo-uhplc-dual-lc-system.html
- Bio-Rad/LabX「Introducing Bio-Rad's Foresight Pro 45 cm ID Chromatography Columns」(2025年1月、45cm ID プロセススケール、CHTセラミック、既存5〜33cm IDを拡張) — https://www.labx.com/resources/introducing-bio-rads-foresight-pro-45-cm-id-chromatography-columns-for-biopharma/5182
- MarketsandMarkets「Chromatography Columns Market」(2025年27.7億USD→2031年42.2億USD、CAGR 7.3%) — https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/chromatography-columns-market-143527928.html
更新履歴:BioResolve Protein A の発売時期について、当初「6 月」としていた誤りを、一次資料により「2025 年 5 月 28 日発表」に修正している。
未確認・限界
- 「(2.6/1.7)² = 2.34 → 背圧 57 % 減」「多孔体積 61 %」「ΔT の上限表」「実測から逆算した ΔP 692 / 224 bar」は、いずれも筆者の計算です。 前提は (a) 背圧は粒子径の 2 乗に反比例する、(b) 粒子は球で多孔部分は均一なシェル、(c) 摩擦熱は全量がその場で移動相に入り外へ逃げない、の 3 つ。 実際には充填構造・細孔率・熱の逃げ方が効くので、桁の見当を付けるための計算と考えてください。
- 粒子寸法の比較表は Phenomenex のブローシャからの引用で、HALO と Poroshell の数値も同社資料が出典です。各社の一次資料で突き合わせてはいません。 ブローシャは発行年が明記されておらず、現行品と仕様が異なる可能性があります。
- Makarov 2018・Gritti & Guiochon 2007・de Villiers 2006・Horváth & Felinger 2015・Luo 2021 は PubMed の要旨のみで確認しました。 本文の図表(温度プロファイルの形、効率低下の条件依存性)は確認していません。
- 初出時に書いていた「出口が入口より 10〜20 ℃ 高い」「>25 W/m で約 30 K 上昇」は、出典の原文を再取得できませんでした。 本文では取り下げ、実測値が明記されている Makarov 2018 に置き換えています。
- 粘度比 0.89 : 0.34(25 ℃)は一般的な文献値で、移動相組成・温度により変わります。
- 2025 年の新製品の表(BioResolve Protein A・Vanquish Duo・Foresight Pro)は初出時に各社資料で確認したもので、今回は再取得していません。 市場規模の数値は調査会社の推定です。
- ACQUITY UPLC の「最大約 1000 bar」は同社サポート情報に基づきますが、流量・システム構成で上限が変わります。
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