JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉 ― SN比の改正と、公定法で「条件を変えてよい」範囲【2026年版】
クロマトグラフィー

JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉 ― SN比の改正と、公定法で「条件を変えてよい」範囲【2026年版】

第十九改正日本薬局方(JP19)が2026年4月10日に告示・同日施行された。改正された 一般試験法19項目の筆頭がクロマトグラフィー総論〈2.00〉で、その中身はSN比の計算法の改正 ――ノイズ測定範囲が「半値幅の20倍」から「少なくとも5倍」へ一本化された。本記事では この改正点を原文で確認したうえで、〈2.00〉の実務的な本体である「4. クロマトグラフィー条件の調整」 を読み解く。L/dp の −25%〜+50%、流量・注入量・グラジエント時間の換算式、温度やpHの許容幅、 そして変えてはいけないもの。公定法を再バリデーションなしでどこまで速くできるのかを、 条文の数値に基づいて整理する。

公定法のHPLC条件は「変えてはいけないもの」だと思われがちです。5 µm・150 mmのカラムで30分かかる試験を、手元のUHPLCなら数分で終わるのに、局方に書いてあるから触れない――現場でよく聞く話です。

しかし日本薬局方には、再バリデーションなしでどこまで条件を調整してよいかを数値で定めた規定があります。それがクロマトグラフィー総論〈2.00〉の「4. クロマトグラフィー条件の調整」です。

そして2026年4月、この〈2.00〉が改正されました。第十九改正日本薬局方(JP19)の告示です。本記事では、まず何が変わったのかを原文で正確に押さえ、そのうえで〈2.00〉の実務的な本体である条件調整の許容範囲を読み解きます。

この記事の読み方:1〜2節はJP19の改正点そのもので、規制対応の担当者に向けた事実確認です。3〜8節は現場の分析者向けに、条文の数値と換算式を実務の手順に落とします。9節は運用上の注意です。専門用語は初出時に短く補足します。

注意:本記事は条文の要点を解説するものです。実際の運用にあたっては必ず告示された日本薬局方の原文にあたってください。

1. JP19で〈2.00〉はどう変わったのか

第十九改正日本薬局方は、令和8年(2026年)4月10日付け厚生労働省告示第193号として告示され、同日から施行されました(令和8年4月10日 医薬発0410第1号 厚生労働省医薬局長通知)。

改正された一般試験法は19項目あり、その筆頭が「2.00 クロマトグラフィー総論」です。PMDAの「第十九改正日本薬局方の概要」は、改正内容をこう記しています。

SN比の計算式について、薬局方調和国際会議の議論を踏まえて改正するとともに、調和文書の原文に沿った記載に整備。

つまりJP19における〈2.00〉の改正は、(1) SN比の計算法の改正と、(2) 三薬局方調和文書の原文に沿った記載整備の2点です。

ここで誤解を避けておきます。後述する「条件の調整」の規定――L/dp の許容範囲やコアシェルカラムへの変更――は、JP19で新しく認められたものではありません。〈2.00〉自体が三薬局方の調和合意に基づく試験法として第十八改正日本薬局方第一追補で新規収載され、条件調整の規定はその時点から入っています。JP19の改正はあくまでSN比と記載整備です。

経過措置も押さえておきます。JP19に伴い、令和9年(2027年)9月30日までに承認事項一部変更承認申請等の必要な措置を行うこととされています(通則39および一般試験法〈9.62〉計量器・用器の適用については令和13年3月31日まで)。なおJP19の正誤表に〈2.00〉は含まれていません

2. SN比の改正 ― ノイズ測定範囲が「20倍」から「少なくとも5倍」へ

SN比の計算式とノイズ測定範囲がJP19で一本化されたことを示す図解
図解:計算式 S/N=2H/h 自体は変わらず、H と h を測る範囲が変わった。半値幅の20倍(旧基準。基線が得られない場合の例外が5倍)から、JP19では「少なくとも5倍」に一本化。装置ソフトのノイズ測定区間が20倍のままになっていないか、確認する責任は使用者にある。

改正の中身を原文で確認します。SN比の計算式そのものは変わっていません。

S/N = 2H / h

変わったのは H と h を測る範囲です。

改正前(JP18第一追補) - H:ピークの頂点から、ピーク高さの中点におけるピーク幅(半値幅)の20倍に相当する範囲で測定し外挿された基線までの高さ - h:ブランク注入後のノイズ幅。同じく半値幅の20倍の範囲で測定 - ただし、溶媒・試薬・移動相・試料マトリックス、GCの温度プログラムに由来するピークの影響で20倍の範囲での基線が得られない場合は、少なくとも5倍の範囲で基線を求めてもよい、という例外規定があった

改正後(JP19) - H・h とも、半値幅の「少なくとも5倍」に相当する範囲で測定する - 20倍という原則と、その例外規定が消えた

実務的な意味は小さくありません。SN比は検出限界・定量限界の判定や、システム適合性の要件に直結します。ノイズを拾う区間の長さが変われば、拾い上げるノイズの大きさが変わり、算出されるSN比が変わり得ます。

とくに注意すべき点を挙げます。

  • 短いランタイムのメソッドで基線区間を確保しやすくなる。 UHPLC化して分析時間を数分に短縮すると、半値幅の20倍もの平坦な基線を確保することが難しくなります。この現実に合わせた形です。
  • 装置ソフトウェアの設定を確認する必要がある。 〈2.00〉は冒頭で、装置によってはSN比や分離度をメーカー提供のソフトウェアで計算するため、使用者にはその計算方法が日本薬局方の規定と同等であることを確認し、そうでなければ必要な補正を行う責任があると明記しています。ノイズ測定区間の既定値が20倍のままになっていないか、確認する価値があります。
  • 過去データとの比較には注意が要る。 同じクロマトグラムでも測定区間が変われば算出値が変わるため、改正前後のSN比を単純比較できない場合があります。

なお、この「少なくとも5倍」の規定は原文で ◇ ◇ で囲まれています。〈2.00〉では、三薬局方で調和されていない部分のうち、調和の対象とされた項以外に日本薬局方が独自に規定することとした項をこの記号で示す約束になっています。

3. 〈2.00〉の本体は「条件の調整」 ― 公定法は固定ではない

許容範囲の内側なら再バリデーション不要、外側なら必要という構造を示す図解
図解:〈2.00〉が示す許容範囲の内側であれば再バリデーションなしで調整できる。範囲外に出れば再バリデーションが必要。ただし内側であってもシステム適合性への適合が絶対条件で、複数パラメーターを同時に動かす場合はリスクアセスメントが求められる。

ここからが実務の本題です。〈2.00〉の「4. クロマトグラフィー条件の調整」は、こう始まります。

記載されているクロマトグラフィー条件は、医薬品各条作成時に既にバリデートされている。クロマトグラフィーによる試験において、根本的に医薬品各条に規定する試験方法を変更することなく、種々のパラメーターを調整することができる範囲を以下に示す。示されている範囲外への変更には、分析法の再バリデーションが必要である。

読み替えると、この範囲内なら再バリデーションなしで調整してよいということです。公定法は固定ではありません。

ただし、条文は同時にいくつもの歯止めをかけています。ここを飛ばすと運用を誤ります。

  • 複数パラメーターの調整は累積的な影響を及ぼしうるため、使用者はその影響を適切に評価し、十分なリスクアセスメントを行わなければならない。 分離パターンがプロファイルとして示されている場合はとくに重要とされています。
  • いかなる調整も、医薬品各条に規定する試験方法に基づいて行わなければならない。
  • いかなる調整においても追加の検証試験が必要となるだろうとされ、変更によって影響を受ける可能性のある関連する分析性能特性を評価する必要があります。
  • 一度この要件に従って調整したあと、適切な再バリデーションなしにさらに調整を重ねることは許容されない。
  • システム適合性への適合は必須です。調整後も要件を満たさなければ、その条件では試験できません。

適用対象外も明示されています。

  • 生物薬品の試験で、ペプチドマップ法・糖鎖試験法・分子不均一性に関する試験のように、分離パターンをプロファイルとして判定基準に設定している試験法では、本項の方法を適用できない場合がある。
  • 生薬等は本項の対象外とする。

用語補足:システム適合性とは、分析システムが目的の試験を行うのに十分な性能を保っていることを、試験のたびに確認する仕組み。理論段数・分離度・シンメトリー係数・再現性・SN比などで評価する。

4. カラムを変える ― L/dp という物差し

L/dpの許容範囲と150mm5µmから100mm3µmへの置き換え例を示す図解
図解:カラム長 L と粒子径 dp の比を物差しにし、規定された L/dp の −25%〜+50%の範囲で変更できる。150 mm・5 µm(L/dp=30,000)から100 mm・3 µm(33,333、+11%)への置き換えは範囲内。ただし固定相そのもの(置換基)の変更は認められない。

高速化でいちばん効くのがカラムの変更です。〈2.00〉はこれを L/dp(カラム長 L と粒子径 dp の比)という一つの物差しで管理します。

カラムの大きさ(粒子径及び長さ):カラムの粒子径や長さは、カラムの長さ(L)と粒子径(dp)の比が一定のまま、又は、規定されたL/dpの比率の −25%から+50%の間の範囲に変更することができる。

L/dp は理論段数の目安になる量です。これが保たれていれば分離能もおおむね保たれる、という考え方に立っています。イソクラティック溶離・グラジエント溶離のどちらにも同じ範囲が適用されます。

具体例で確認します。医薬品各条が 150 mm・5 µm のカラムを規定しているとします。

  • 規定の L/dp = 150,000 µm ÷ 5 µm = 30,000(比として30.0)
  • 許容範囲は −25%〜+50%22,500 〜 45,000

この範囲に入る組み合わせなら選べます。

カラム L/dp 規定比 可否
150 mm・5 µm(規定) 30,000 基準
100 mm・3 µm 33,333 +11%
50 mm・2 µm 25,000 −17%
75 mm・5 µm 15,000 −50% 不可
150 mm・2 µm 75,000 +150% 不可

150 mm・5 µm を 100 mm・3 µm に置き換えられる、というのが実務上の要点です。カラム長が2/3、粒子径が3/5になり、後述の流量調整と合わせれば分析時間は大きく縮みます。

ただし固定相そのものは変えられません

固定相:置換基の変更は認められない(例えば、C18がC8に変更されるなど)。固定相のその他の物理化学的特性、つまりクロマトグラフィー用担体、表面修飾、化学修飾の程度は類似していなければならない。

そして、これらの変更はシステム適合性の要件に適合し、管理すべき不純物の選択性と溶出順が同等であることが示されれば認められる、という条件つきです。カラム選択の考え方そのものはHPLC/UHPLCカラムの選び方で扱っています。

5. コアシェル(表面多孔性)への乗り換え

全多孔性粒子から表面多孔性粒子へ移す際に判定指標が理論段数に変わることを示す図解
図解:全多孔性粒子から表面多孔性(コアシェル)粒子へ移す場合、判定指標が幾何学的な L/dp から実測の理論段数 N に変わる。許容範囲は規定カラムの −25%〜+50%。グラジエント溶離では個々のピークの (tR/wh)² で判定する。

〈2.00〉は全多孔性粒子カラムから表面多孔性粒子(コアシェル)カラムへの変更を明示的に許容しています。固定相の要件が満たされていることが前提です。

このとき、判定に使う指標がL/dpから変わります。

  • イソクラティック溶離理論段数(N)が規定されたカラムの −25%から+50%の範囲にあれば、他の L と dp の組み合わせも使用できる
  • グラジエント溶離:システム適合性に使用される個々のピークで (tR/wh)² が規定されたカラムの −25%から+50%の範囲にあれば、他の組み合わせも使用できる

つまりコアシェルへ移す場合は、幾何学的な比(L/dp)ではなく、実測の性能(理論段数)で測るという建て付けです。コアシェル粒子は同じ粒子径の全多孔性粒子より高い段数を出すため、L/dp で縛ると実力を活かせないからです。この粒子構造の違いと動力学的な背景はUHPLCカラム技術で詳しく扱っています。

注入量の換算式については例外が付いています。後述の式は「全多孔性粒子カラムから表面多孔性粒子カラムへの変更に適用できない場合があるかもしれない」とされており、コアシェルへ移す場合は注入量を式任せにせず実測で確認するのが安全です。

用語補足:表面多孔性粒子(コアシェル粒子)は、非多孔質の芯を多孔質の薄い殻で覆った充塡剤。拡散距離が短く、全多孔性粒子より高い段数が得られる。

6. 流量と注入量を換算する

流量と注入量の換算式を示す図解
図解:流量は内径と粒子径の変更から F₂=F₁×[(dc₂²×dp₁)/(dc₁²×dp₂)] で換算し、カラム変更後さらに±50%の調整が許容される。注入量はカラム容量に比例させ Vinj₂=Vinj₁×(L₂dc₂²)/(L₁dc₁²)。減らすときは検出限界と再現性、増やすときは直線性と分離度に注意する。

カラムを変えたら流量を合わせます。〈2.00〉は換算式を示しています。

F₂ = F₁ × [(dc₂² × dp₁) / (dc₁² × dp₂)]

  • F₁:医薬品各条の流量(mL/分)、F₂:調整された流量
  • dc₁:各条のカラム内径(mm)、dc₂:使用するカラム内径
  • dp₁:各条の粒子径(µm)、dp₂:使用するカラムの粒子径

粒子径が小さいカラムでは、同じ性能(換算理論段高さで評価)を得るためにより高い線速度が必要になる、というのが根拠です。

さらに3 µm を境にした追加の調整が認められています。

  • イソクラティック分離で粒子径を3 µm以上から3 µm未満へ変更するとき、20%を上回ってカラム性能が低下しないならば、線速度(流量の調整により)をさらに増加させることが認められる
  • 逆に3 µm未満から3 µm以上へ変更するときは、20%を上回る性能低下を避けるために線速度をさらに減少させることが認められる

加えて、カラムの大きさの変更による調整後、さらに流量の±50%の変更が許容されます。カラムサイズを変えない場合も、流量は±50%まで調整できます。

注入量もカラム容量に合わせて換算します。

Vinj₂ = Vinj₁ × (L₂ dc₂²) / (L₁ dc₁²)

カラムサイズを変えない場合でも、システム適合性の判定基準が確立された許容限度値内であれば注入量は変更できます。ただし条文は釘を刺しています。注入量を減らす場合はピークレスポンスの検出(検出限界)と再現性に注意が必要であり、増やす場合は変更後も直線性と分離度が十分に満たされている場合に限り許容されます。

内径を細くしたり粒子径を小さくしたりするとピークボリュームが小さくなるため、条文は装置配管・検出器のセル容量・サンプリング速度・注入量といった要因でカラム外拡散を最小にする必要があると注意を促しています。装置側の準備が伴わなければ、カラムだけ替えても性能は出ません。

7. グラジエントは3段階で移す

グラジエント条件を3段階で移す手順とグラジエント時間の換算式を示す図解
図解:グラジエントは①カラム(L/dp)②流量③グラジエント時間の順に3段階で移す。時間は tG₂=tG₁×(F₁/F₂)×[(L₂×dc₂²)/(L₁×dc₁²)] で換算。条文の例では調整因子0.4となり、16分のグラジエントが6.4分になる。

グラジエント溶離の変更は、イソクラティックより慎重さが求められます。条文は理由を明記しています。ピークの位置が異なるグラジエントステップに移ることで、近接ピークの部分的・完全な重なり、溶出順の逆転、ピークの誤同定・見落としが起こり得るからです。

〈2.00〉は移行手順を3段階として示しています。

  1. L/dp で示されるカラムの長さ及び粒子径の変更
  2. 粒子径とカラム内径の変更による流量の変更
  3. カラム長・内径・流量の変更による各グラジエント時間の変更

3段階目の換算式がこれです。

tG₂ = tG₁ × (F₁/F₂) × [(L₂ × dc₂²) / (L₁ × dc₁²)]

カラム容量に対するグラジエント容量の比を一定に保つ、という考え方です。条文に載っている例をそのまま示します。

変数 元の条件 変更後 備考
カラム長 L(mm) 150 100 ユーザーの選択
カラム内径 dc(mm) 4.6 2.1 ユーザーの選択
粒子径 dp(µm) 5 3 ユーザーの選択
L/dp 30.0 33.3 (1) 範囲内の11%増加
流量(mL/分) 2.0 0.7 (2)
グラジエント調整因子 tG₂/tG₁ 0.4 (3)

グラジエント条件は、この因子0.4を各ステップの時間に掛けて移します。元が「30%で0分 → 30%で3分 → 70%で13分 → 30%で16分」なら、変更後は「0分 → 1.2分 → 5.2分 → 6.4分」。16分のグラジエントが6.4分になります。

グラジエント特有の要件もあります。

  • 移動相の組成及びグラジエントの変更は、①システム適合性に適合、②主なピークが元の条件で得られた保持時間の±15%の範囲内で溶離(ただしカラムの大きさを変更した場合は適用できない)、③最初のピークが十分に保持され最後のピークが溶出される、を満たす場合に可能
  • カラム温度は±5℃(イソクラティックの±10℃より狭い)
  • システム適合性を満たさない場合は、グラジエント遅延容量を検討するかカラムを変えることが望ましい

グラジエント遅延容量(dwell volume)は、移動相の混合箇所からカラム入口までの容量です。装置構成によって分離能・保持時間が大きく変わる原因になります。〈2.00〉は測定手順(カラムをキャピラリーチューブに交換し、0.1 vol%アセトン水でグラジエントをかけて吸光度が50%増加する時間から求める)まで規定しています。装置を替えたら保持時間がずれたというトラブルの主因がここにあります。

8. 変えてよい範囲と、変えてはいけないもの

変更可能なパラメーターの許容範囲と変更不可の2項目を対比した図解
図解:変更可能=カラム温度±10℃(グラジエントは±5℃)、移動相pH±0.2、塩濃度±10%、流量±50%、移動相のマイナー成分は相対的に±30%。変更不可=固定相の置換基(C18→C8など)と検出波長の2つ。

イソクラティック溶離について、条文の許容範囲を一覧にします。

パラメーター 許容範囲
カラムの大きさ(L・dp) L/dp 一定、または規定比の −25%〜+50%
全多孔性→表面多孔性 理論段数 N が規定カラムの −25%〜+50%
流量(カラム変更なし) ±50%
流量(カラム変更後の追加調整) さらに ±50%
カラム温度 ±10℃(グラジエントは ±5℃
移動相のマイナー溶媒成分 相対的に ±30%(絶対的な10%以上の成分組成の変更は行わない)
移動相水系組成のpH ±0.2 pH単位
緩衝液の塩濃度 ±10%
注入量 換算式による。減少時は検出限界と再現性、増加時は直線性と分離度に注意
検出波長 変更することはできない

移動相組成の「相対的に±30%」は誤読しやすいので、条文の例をそのまま引きます。移動相の10%の微量組成なら、相対30%の調整は7〜13%の範囲5%の微量組成なら3.5〜6.5%。ここで微量成分とは、移動相の構成要素の総数を n として (100/n)%以下のものを指します。

変えられないものは2つです。固定相の置換基(C18→C8のような変更)と、検出波長。この2つは条文が明確に否定しています。

9. 分析者の視点 ― 高速化の進め方と落とし穴

各条条件の確定から換算計算、システム適合性判定までの手順と4つの落とし穴を示す図解
図解:手順は「各条条件の確定 → 換算式による計算 → システム適合性判定」。落とし穴は①細径・微粒子化でカラム外拡散が律速し段数が出ない ②コアシェル変更では注入量の換算式が適用できない場合がある ③グラジエント遅延容量が装置間の保持時間ズレの主因 ④保持時間±15%ルールはカラムサイズ変更時には適用できない。

条文を実務手順に落とします。

  1. まず各条の条件を確定させる。 調整はすべて「医薬品各条に規定する試験方法に基づいて」行います。出発点が曖昧なまま調整すると根拠を示せません。
  2. L/dp を計算し、候補カラムを絞る。 −25%〜+50%に入るかを先に確認します。固定相の置換基は変えられないので、同じ化学修飾の製品群から選びます。
  3. 流量・注入量・(グラジエントなら)時間を換算式で移す。 3段階の順序を守ります。
  4. システム適合性で判定する。 ここが唯一の合否ゲートです。理論段数・分離度・シンメトリー係数・再現性・SN比。適合しなければその条件では試験できません。
  5. 不純物の選択性と溶出順の同等性を示す。 カラム変更の許容条件として条文が明記しています。ピークが入れ替わっていないかの確認は必須です。
  6. リスクアセスメントを記録に残す。 複数パラメーターを同時に動かしたときの累積影響の評価は、条文が求める義務です。
  7. 一度調整したら、そこからさらに積み増さない。 再バリデーションなしの追加調整は許容されていません。

よくある落とし穴を挙げます。

  • 装置側の準備を忘れる。 細径・微粒子カラムに移すとピークボリュームが小さくなり、配管容量・検出器セル容量・サンプリング速度が律速になります。カラムだけ替えて「段数が出ない」となるのはこのパターンです。LC-MSトラブルシューティングで扱った切り分けの考え方がそのまま使えます。
  • グラジエントで保持時間の±15%を、カラムサイズ変更時にも適用してしまう。 条文は「カラムの大きさを変更した場合は適用できない」と明記しています。
  • コアシェルへの変更で注入量を式任せにする。 換算式が適用できない場合があると条文自身が述べています。
  • SN比の測定区間を装置の既定値のままにする。 JP19で「少なくとも5倍」に変わりました。ソフトウェアの計算方法が局方の規定と同等かを確認する責任は使用者側にあります。
  • 経過措置の期限を見落とす。 令和9年9月30日までに必要な措置を行う必要があります。

規制対応の実務という観点では、PFAS分析の実務ガイドで扱った告示法の運用とも通じるものがあります。公定法は「変えられない」のではなく「決められた範囲で変えられる」。その範囲を数値で把握しているかどうかが、ラボの生産性を分けます。

まとめ

JP19クロマトグラフィー総論の3つの要点をまとめた図解
図解:①SN比はノイズ測定区間が20倍から「少なくとも5倍」へ一本化=ソフトの既定値を確認する ②L/dp の −25%〜+50%なら再バリデーション不要。ただしシステム適合性のクリアが絶対条件 ③固定相の置換基と検出波長は変更不可。範囲外は再バリデーションが必須。
  • JP19は2026年4月10日に告示・同日施行(厚生労働省告示第193号)。改正された一般試験法19項目の筆頭がクロマトグラフィー総論〈2.00〉で、その中身はSN比の計算法の改正と調和文書に沿った記載整備。経過措置は令和9年9月30日まで。
  • SN比の改正点は測定区間。ノイズと信号を測る範囲が「半値幅の20倍(基線が得られない場合に限り5倍)」から「少なくとも5倍」へ一本化された。短時間分析で基線が取りやすくなる一方、装置ソフトの計算方法が局方と同等かを確認する責任は使用者にある
  • 〈2.00〉の実務的な本体は「4. 条件の調整」L/dp の −25%〜+50%、コアシェルへ移すなら理論段数で±の判定、流量・注入量・グラジエント時間は換算式。温度±10℃(グラジエントは±5℃)、pH±0.2、塩濃度±10%。固定相の置換基と検出波長は変更不可。範囲外は再バリデーションが必要で、複数パラメーターの同時調整にはリスクアセスメントが要る。

カラムそのものの選び方はHPLC/UHPLCカラムの選び方、粒子構造と動力学的な背景はUHPLCカラム技術を参照してください。

用語集

  • JP19:第十九改正日本薬局方。令和8年(2026年)4月10日 厚生労働省告示第193号。
  • 医薬品各条:個々の医薬品ごとに規格・試験法を定めた日本薬局方の部分。
  • 一般試験法:各条から共通して引用される試験法の規定。〈2.00〉はその一つ。
  • 三薬局方調和:日本薬局方・欧州薬局方・米国薬局方の間で試験法の規定を一致させる取り組み。〈2.00〉はこの調和合意に基づく試験法。
  • システム適合性:分析システムが試験に必要な性能を保っていることを試験のたびに確認する仕組み。
  • L/dp:カラム長と粒子径の比。理論段数の目安として条件調整の判定に用いる。
  • 表面多孔性粒子(コアシェル粒子):非多孔質の芯を多孔質の薄い殻で覆った充塡剤。
  • グラジエント遅延容量(dwell volume):移動相の混合箇所からカラム入口までの容量。装置間で保持時間がずれる主因。
  • 換算理論段高さ:理論段高さ H を粒子径 dp で割った値。粒子径の異なるカラムの性能を比較できる。

出典

  • 厚生労働省「第十九改正日本薬局方」(令和8年4月10日厚生労働省告示第193号)目次〜通則・生薬総則・製剤総則・一般試験法 — https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001689414.pdf
  • 厚生労働省医薬局長通知「第十九改正日本薬局方の制定等について」令和8年4月10日 医薬発0410第1号 — https://www.toku-seiyakukyo.jp/data/drug_news/2026/1_17758077368656.pdf
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査マネジメント部「第十九改正日本薬局方(令和8年4月10日厚生労働省告示第193号)の概要」 — https://www.pmda.go.jp/files/000280169.pdf
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「第十九改正日本薬局方」 — https://www.pmda.go.jp/rs-std-jp/standards-development/jp/0260.html
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「第十九改正日本薬局方 正誤表」 — https://www.pmda.go.jp/files/000281447.pdf
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構「2.00 クロマトグラフィー総論」(第十八改正日本薬局方第一追補 原案) — https://www.pmda.go.jp/files/000242610.pdf

制作メモ:本記事は、厚生労働省告示による日本薬局方原文、厚生労働省医薬局長通知、PMDA公表資料という一次情報のみを編集側が直接取得・照合して執筆しました。JP19本文とJP18第一追補原案を突き合わせてSN比規定の差分を確認しています。条文の要点解説であり、実運用にあたっては告示原文をご確認ください。