サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、分子量を測る方法として使われている。高分子なら数平均分子量と質量平均分子量、タンパク質医薬品なら凝集体の割合。どちらも製品規格に載る数字である。
その日本薬局方の規定を読むと、分子量の求め方を丁寧に説明した直後に、次の一文が置かれている。
得られた分子量は,用いた分子量標準物質と分析条件に依存する. (第十九改正日本薬局方 一般試験法〈2.05〉サイズ排除クロマトグラフィー)
これは「気をつけましょう」という注意書きではない。この手法が何を返すのかという定義そのものである。SEC のカラムは分子量を見ていない。見ているのは、その分子が溶液の中でどれくらいの場所を占めるか ―― 流体力学的体積である。だから同じ分子量でも、直鎖か、分岐しているか、棒のように硬いかで、溶出位置が変わる。実測では、棒状のエポキシ樹脂は同じ溶出位置のポリスチレンより分子量が 40〜50 % 低い。
さらに厄介なことが、タンパク質の側で起きる。SEC は、測っている最中に試料を変えることがある。 精製した二量体をもう一度カラムに通すと、単量体と三量体が生まれる。カラムを通過するだけで統計的に有意な量のタンパク質が失われる。ある抗体では完全な回収に 400 mM もの NaCl が必要だったが、別の報告では NaCl はむしろ損失を増やし、代わりにアルギニンが効いた。
この記事は、SEC が返す数字の出どころを追う。前回のCHN元素分析の記事で「燃焼分析が返すのは手順が決めた量だ」と書いたが、SEC の場合はもう一歩踏み込む必要がある ―― 手順が量を決めるだけでなく、測定そのものが対象を変えている。
この記事の読み方
- 入門者の方:3 節(分離の原理)と 4 節(何を測っているのか)で、SEC が「ふるい」ではないことを押さえてください。専門用語には初出時に補足を入れています。
- 高分子の方:4〜6 節と 11 節が本題です。ポリスチレン換算の意味、較正の限界、光散乱による絶対測定、UHPLC-SEC でのせん断分解の実測を扱います。
- バイオ医薬・品質管理の方:7〜10 節が本題です。二次相互作用、移動相添加剤の選択、凝集体の過小評価、直交手法の必要性を扱います。
- 公定書対応の方:12 節に日本薬局方〈2.05〉が要求している事項をまとめました。
同じクロマトグラフィーのHPLCカラムの選び方や移動相・緩衝液調製の実務と合わせて読むと、移動相の設計が SEC でどれだけ重い意味を持つかが見えます。
サイズ排除は何をしているのか

原理は、逆相や順相とは根本的に違う。分析種は固定相に保持されない。 充填剤の粒子に空いた細孔に入るか入らないかだけで、通り道の長さが変わる。
日本薬局方〈2.05〉の記述がそのまま定義になっている。
- 細孔より大きい分子は細孔に入れず、粒子と粒子の隙間だけを通って速やかに溶出する。この位置が保持容量 V₀(カラムに保持されない成分の保持容量)。
- 細孔より小さい分子は、サイズに応じて細孔の内部まで浸透する。小さいほど奥まで入るので、溶出が遅くなる。
- あるサイズより小さい分子は、一様に保持容量 Vt(完全浸透する成分の保持容量)に溶出する。
つまり、すべての分析種は V₀ と Vt のあいだに溶出する。この狭い範囲にすべてを詰め込むのが SEC であり、ピークキャパシティが本質的に小さい理由でもある。逆相のように「移動相を強くして待てば出てくる」ということが起こらない。
分離の程度は分配係数 K₀ で表される(〈2.00〉)。
K₀ = (t_R − t₀) / (t_t − t₀)
- t_R:保持時間
- t₀:カラムに保持されない成分の保持時間
- t_t:完全浸透する成分の保持時間
K₀ = 0 なら完全排除(V₀ に溶出)、K₀ = 1 なら完全浸透(Vt に溶出)。SEC における「保持」は 0 から 1 のあいだにしか存在しない。
用語の整理をしておく。水系の溶媒を移動相に用いる場合はゲルろ過クロマトグラフィー、有機溶媒を用いる場合はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)とも呼ばれる。局方は「分離の原理は同様である」と明記しており、実際この記事で扱う問題は両方に共通する。
測っているのは分子量ではない

ここが最大の要点である。細孔に入れるかどうかを決めているのは分子量ではなく、その分子が溶液中で占める体積 ―― 流体力学的体積である。
局方〈2.05〉も、分離原理の説明の最後にこう書いている。
分子の溶出位置は,分子量だけでなく,分子の構造,溶媒及び充塡剤との相互作用などによっても影響を受ける.
この「分子の構造」が、実務でどれくらい効くのか。Wyatt Technology の技術白書(AN1004)が、光散乱検出器を併用した実測で示している。
同じ溶出容量に出てくる 3 種類のポリマーを比べると:
| ポリマー | 形 | 同一溶出容量での分子量 |
|---|---|---|
| 直鎖ポリスチレン(PS) | ランダムコイル | 基準 |
| PMMA(この試料は弱い分岐) | わずかに分岐 | PS とほぼ同等 |
| エポキシ樹脂(EP) | 硬い棒状 | PS より 40〜50 % 低い |
棒のように伸びた分子は、同じ質量でも溶液中で大きな場所を占める。だから早く溶出する。ポリスチレンで作った較正曲線をそのまま当てはめれば、実際より大きな分子量が読み取られる。白書はこう書いている ――「標準的な分析 SEC ではこの食い違いを認識できないが、MALS では即座に明らかになる」。
分岐についても同じことが起きる。分岐したポリマーは同じ質量の直鎖ポリマーより流体力学的体積が小さいため、従来型の SEC は分子量を過小評価する。 白書の実測でも、直鎖ポリスチレン標準は光散乱の分子量と較正曲線がよく一致したのに対し、分岐を含む PMMA では一致しなかった。
だから高分子の分野では「ポリスチレン換算分子量」という表記が使われる。これは謙遜ではなく正確な表現である。測っているのは「この試料と同じ位置に溶出するポリスチレンの分子量」であって、この試料の分子量ではない。
局方はこの問題に、標準物質の選び方という形で答えている。
分子量標準物質はできるだけ被検成分と類似の物性を有するものを用いる.
そして冒頭に引いた一文が続く ――「得られた分子量は、用いた分子量標準物質と分析条件に依存する」。
較正曲線の前提は、狭分散標準でも成り立っていない

較正曲線を引くときの暗黙の前提は「溶出時間が違えば分子量が違う」である。この前提を素直に受け取ると、おかしなことになる。
分子量が単一の標準物質なら、ピークは無限に細くなるはずである。 実際にはカラムの容積による広がりがあるので、そうはならない。では、その広がりを較正曲線で分子量に読み替えると何が起きるか。
Wyatt の白書によれば、狭分散標準ですら、理論上カラム較正によれば少なくとも 2〜4 倍の分子量範囲に相当する幅で溶出する。単分散のはずの標準物質が、較正曲線を通すと「2〜4 倍の分布」に化ける。
もっと直接的な実例がある。30 kDa のポリスチレン標準を、注入量 4 µL と 50 µL で流した比較である。
- 溶出時間だけを見ると、50 µL 注入のほうが「より小さい分子を含む」ように見える
- 較正曲線で換算すると、それぞれ 10〜40 kDa と 20〜40 kDa という異なる分子量範囲になる
- しかし光散乱で測れば、どちらも 30 kDa 付近の狭い分布だった
注入量を変えただけで、SEC が返す「分子量分布」が変わった。 試料は同じものである。
ここから引き出せる実務上の帰結は明確である。SEC のピーク幅を、そのまま分子量分布の幅と解釈してはいけない。 ピーク幅には、真の分布と、カラムによる広がりと、注入体積による広がりが混ざっている。較正曲線はそれらを区別しない。
光散乱は較正から自由にする

この問題への正攻法が、多角度光散乱(MALS)検出器の併用である。局方〈2.05〉も検出器の選択肢に静的光散乱検出器を挙げ、こう書いている ――「静的光散乱検出器を用いた場合には、直接溶出液中の分子の分子量が得られる」。
原理は散乱強度と分子量の物理的な関係にある。
I_scatter = K · M · c · (dn/dc)² · P(θ)
- I_scatter:散乱強度
- M:モル質量
- c:濃度
- dn/dc:屈折率増分(その溶媒中でのポリマー固有の値)
- P(θ):分子の慣性半径 R_g に依存する角度関数
- K:レーザー波長など測定系の性質から計算される比例定数
散乱強度と濃度を測れば、M と R_g が同時に求まる。溶出時間を一切使わない。 だから較正物質が要らず、コンフォメーション(分子の形)にも依存しない。
これが効くのは、適切な較正標準が存在しない試料である。白書は名指ししている ―― 分岐ポリマー、棒状ポリマー、共重合体。共重合体については「よく特性の分かった狭分散の参照標準が存在しないため、カラム較正による SEC 分析は不可能である」と書かれている(共重合体では MALS・UV・示差屈折の三重検出で、共重合比と質量平均 dn/dc を求めてから分子量を算出する)。
もうひとつ、実務的に重要な検証結果がある。同じ白書によれば、溶出容量は流量によって変わりうるが、光散乱で決めた分子量とサイズは、0.05 µL/min から 2 mL/min の範囲で変わらなかった。較正に頼る限り流量の管理が分子量の管理になるが、光散乱ならその依存が切れる。
なお dn/dc は、そのポリマーと溶媒の組み合わせに固有の値であり、化学組成には依存するが構造(分岐など)には依存しない。この値の精度がそのまま分子量の精度に効くので、未知試料では実測するか、信頼できる文献値を使う必要がある。式のとおり dn/dc は二乗で効くため、ここを 5 % 間違えれば分子量は約 10 % ずれる。
サイズだけで分けているわけではない

SEC の理想は「立体的な排除だけで分ける」ことである。現実の充填剤は表面を持っており、その表面と分析種は相互作用する。
局方〈2.05〉は、この点を装置・測定条件の項で明確に要求している。
移動相を適切に選択し,サイズ排除の原理以外の,充塡剤と被検成分との相互作用を抑制することが重要である.
そして対処法まで書いている。
| 相互作用 | 抑制の手段(局方〈2.05〉) |
|---|---|
| 静電相互作用 | pH の調整、塩の添加 |
| 疎水性相互作用 | 有機溶媒(メタノール、アセトニトリルなど)の添加 |
充填剤は、シリカ粒子の表面を親水性に修飾したものや、親水性ポリマーを架橋したものが使われる。どちらも表面が完全に不活性になるわけではない。シリカ系ならシラノール由来の負電荷が残り、塩基性のタンパク質やカチオン性ポリマーを引き留める。
この相互作用が起きると、較正そのものが無効になる。 Wyatt の白書はこう説明している ――「カラム較正は、参照分子と試料がカラムと理想的な(立体的な)相互作用しかしないという仮定に依存しており、それ以外の『粘り』があれば結果は誤りになる」。標準物質と試料の化学的性質が違えば、両者は違う「粘り」を受ける。較正曲線は、その差を補正できない。
そして相互作用は、遅く溶出させる方向だけに働くとは限らない。吸着してカラムから出てこなければ、そのピークは消える。 次節と 9 節で扱うのは、この「消える」ほうの話である。
塩を足すべきか、アルギニンを足すべきか ―― 答えは逆になる

タンパク質の SEC で二次相互作用を抑える定石は、移動相のイオン強度を上げることである。塩が静電相互作用を遮蔽する。局方も「塩の添加」を挙げている。
その効き方が、実際にどれくらいのものか。静注免疫グロブリン(IVIg)を撹拌ストレスにかけ、200 mM リン酸ナトリウム(pH 7.0)に NaCl を 0・50・100・200・400 mM 加えた 5 条件で比較した研究(University of Colorado ら、2017 年)の結果はこうである。
- カラムからのタンパク質の完全な回収には、400 mM の NaCl が必要だった(論文は "Surprisingly" ―― 驚くべきことに、と書いている)
- NaCl が 0・50・100・200 mM という最適未満の条件では、SEC と沈降速度分析超遠心(SV-AUC)の結果に有意な食い違いが出た
- SV-AUC では高分子量種が分離できたのに対し、SEC では高分子量種が単一のピークとして溶出した
- SV-AUC を直交的に使って初めて、正確な定量ができる SEC 法にたどり着けた
「塩を増やせば回収が上がる」という素直な結論に見える。ところが、そうではない報告がある。
味の素の研究グループが 2010 年に報告した結果は逆である。
- SEC 中のマトリックスとタンパク質の相互作用による凝集体の損失が、凝集体含量の過小評価を引き起こす
- とくに新品のカラムほどタンパク質を結合する傾向が強い
- アルギニンを移動相に加えると凝集体の損失が減り、新品のカラムでも、負荷量が少なくても、信頼できる推定ができる
- そして決定的な一文 ――「これはイオン強度の増加によるものではない。NaCl はむしろタンパク質の損失を増やした」
2024 年の実験計画法(DoE)による方法開発でも、L-アルギニンの添加が二次相互作用を減らし、高分子量種(HMWS)の回収率向上に有効だったと報告されている。
この 2 つは矛盾していない。どちらの添加剤が効くかは、タンパク質とカラムの組み合わせで決まるというのが結論である。塩は静電相互作用を遮蔽するが、同時に疎水性相互作用を強める(塩析効果)。疎水性の吸着が主因なら、塩を足すほど損失は増える。アルギニンはアミノ酸側鎖やペプチド結合と相互作用することで、静電と疎水の両方を弱めると説明されている。
実務上の含意は重い。 移動相の組成は「一度決めれば使い回せるプラットフォーム条件」ではない。ある mAb で完全回収を与えた条件が、別の mAb で損失を生む。そしてその損失は、クロマトグラム上では何も起きていないように見える。
2024 年の論文はもうひとつ重要な指摘をしている。歴史的に SEC は高分子量種(HMW、凝集体)と主ピークの分離を達成してきたが、低分子量種(LMW、フラグメント)は主生成物と分子量が十分に違わないため、適切な分離が難しい。 凝集体の話ばかりが語られるが、フラグメント側の定量はいまも安定しにくい。
SEC は、測るあいだに試料を変える

ここまでは「取りこぼす」話だった。次はもっと踏み込んだ話になる。
University of Colorado と Amgen らのグループが 2007 年に報告した研究は、組換えヒト化モノクローナル抗体について、SEC・非対称フローフィールドフローフラクショネーション(AF4)・SV-AUC の 3 手法を比較した。結果は次のとおりである。
- SV-AUC と AF4 は、SEC より著しく高い凝集体量を検出した
- SEC は、SV-AUC と AF4 で見えている高分子量の可溶性凝集体を検出できなかった
- 精製した二量体を SEC カラムに再注入すると、検出可能な量の単量体と三量体が生成した
- すべての試料で、SEC カラム通過による統計的に有意な抗体の損失が観測された(p < 0.01) ―― これは抗体がゲルろ過媒体に物理吸着している可能性を示す
3 番目が決定的である。カラムに入る前は二量体しかなかったものが、出てくるときには単量体と三量体になっている。 二量体が希釈と滞留のあいだに解離して単量体になり、一部は会合して三量体になった、と読める。
SEC は本質的に試料を希釈する手法である。注入した溶液は移動相で薄められながらカラムを進む。製剤中では平衡状態にあった可逆的な会合体が、希釈によって解離側へ動く。加えて、カラム内で分子は固定相の表面と接触し続ける。測定という行為そのものが、測定対象を変えている。
だからクロマトグラムに現れた「二量体 0.8 %」という数字は、注入前の溶液中の二量体量とは限らない。それはカラムを出た時点での量である。
だから直交手法が要る

以上を踏まえると、SEC 単独で凝集体を正確に定量することの難しさが見えてくる。しかも厄介なのは、SEC 単独では自分が取りこぼしていることに気づけないという点である。回収率が落ちていても、ピークが1本にまとまっていても、クロマトグラムは何も告げない。
だから、原理の異なる手法との照合(直交評価)が要る。
| 手法 | 原理 | SEC に対する強み | 弱み |
|---|---|---|---|
| SV-AUC(沈降速度分析超遠心) | 遠心力場での沈降速度 | 固定相が無いので吸着・解離が起きない。連続的な沈降係数分布で高分子量種を分離できる | 装置が高価、測定に時間がかかる、スループットが低い |
| AF4(非対称フローFFF) | 流れ場の中での拡散係数の差 | 固定相が無い。可溶性・不溶性の両方を扱える | 膜への吸着はありうる、方法開発が必要 |
| SEC-MALS | サイズ排除+光散乱 | 較正なしで絶対分子量が出る。会合数を直接検証できる | 分離自体は SEC なので、吸着・解離の問題は残る |
先の 2017 年の研究が示した使い方が、実務としては最も現実的だろう ―― SV-AUC を「方法開発時の物差し」として使い、それに合致する SEC 条件を見つけ、日常の管理は SEC で行う。 SV-AUC を毎ロット回すのは現実的でないが、SEC 法が正しいことを一度確かめるためには使える。
なお SEC-MALS は、凝集体分析でも独自の価値がある。ピークが1本に見えても、そのピーク全体にわたって分子量が一定かどうかを確認できるからである。分子量が溶出とともに変化していれば、そのピークは単一種ではない。較正曲線ではこれを見抜けない。
UHPLC-SEC ― 速さの代償と、せん断分解の実測

粒子径を小さくし、カラムを短くして高圧で流す流れは、SEC にも及んでいる。UHPLCカラム技術で扱ったのと同じ発想である。Wyatt の白書によれば、サブ 3 µm 粒子と短く内径の細いカラムを使えば、サイズ排除分離を 90 秒未満で完了でき、1 日あたり数百分析のスループットも視野に入る。試料と移動相の消費量も大きく減る。
だが SEC に固有の代償がある。白書は 3 点を挙げている。
- 較正の誤差とドリフトに、従来の HP-SEC より敏感になる。 分離が速いぶん、カラムの経年変化・試料負荷・ポンプ条件のわずかな違いによる溶出時間の差が、分子量の相対的に大きな誤差になる。
- 使える表面化学の選択肢が少ない。 UHP-SEC 用カラムは HPLC-SEC 用に比べて種類が限られるため、非理想的な相互作用を消す条件を見つけにくく、方法が最適化しきれない確率が上がる。
- 前提そのものは変わらない。 非理想的相互作用が起きれば、化学的に同一でない標準物質による較正は無効になる。
では、高圧・密充填のカラムで高分子量ポリマーがせん断で切れるのではないか ―― という懸念はどうか。これは実測されている。
1.5 MDa のポリスチレンを、標準 SEC-MALS と UHP-SEC-MALS の両方で、同じ流量 0.5 mL/min で分析した比較の結果:
| 質量平均分子量 Mw | z 平均 rms 半径 | |
|---|---|---|
| SEC-MALS | (1.56 ± 0.01) × 10⁶ g/mol | 63.0 nm |
| UHP-SEC-MALS | (1.56 ± 0.01) × 10⁶ g/mol | 61.5 nm |
一致した。 白書の結論は「少なくともこれらの条件下では、せん断は起きていないと結論できる」。ただし同時に「より高い流量でのせん断の可能性は、今後の検証課題として残る」と明記している。この但し書きごと受け取るのが正しい。
参考までに、白書が示す測定範囲は次のとおりである。
- 標準 SEC-MALS:分子量 300 Da 〜 10⁹ Da、rms 半径 10 nm 〜 500 nm
- UHP-SEC-MALS:分子量 300 Da 〜 10⁶ Da(直鎖ポリマー。分岐ならより高分子量まで)、rms 半径 10 nm 〜 50 nm
UHP-SEC-MALS は標準 SEC-MALS の全範囲をカバーするわけではないが、UHP-SEC カラムがカバーする範囲は全て覆っている。使用機器は Acquity UPLC に APC 125 Å および 450 Å 細孔の SEC カラム、microDAWN 光散乱検出器と microOptilab 示差屈折計、注入量 4〜20 µL、流量 0.5〜1.0 mL/min という構成である。
日本薬局方〈2.05〉が求めていること

公定書対応の観点で、〈2.05〉の要求事項を整理しておく。
装置・条件 - 液体クロマトグラフィー〈2.01〉に従う。カラムには多孔質の充填剤を使用する - 充填剤の細孔サイズとその分布によって測定可能な分子サイズ範囲が決まるので、適切なものを選択する - 範囲を広げるため、対象分子量範囲の異なるカラムを連結して用いる場合もある - サイズ排除以外の相互作用の抑制が重要(前述) - 移動相の流量、カラム温度、試料注入量、試料溶液の濃度は分離に影響するため、適切に設定する(5 節で見たとおり、注入量は実際に「分布」を動かす)
分子量の測定 - 試料溶液と分子量標準溶液を同一試験条件で測定する - 分子量標準物質はできるだけ被検成分と類似の物性を有するものを用いる - 得られた分子量は、用いた分子量標準物質と分析条件に依存する - 単分散成分:分子量の対数値に対して保持容量(または保持時間)をプロットした較正曲線から読み取る。通常、被検成分の分子量は較正曲線の範囲内にあることが必要 - 多分散成分:クロマトグラムを分割し、各画分の分子量と濃度から数平均分子量 M_n、質量平均分子量 M_w、多分散度 d を計算する
- 数平均分子量:M_n = Σ(M_i・N_i) ÷ ΣN_i
- 質量平均分子量:M_w = Σ(M_i²・N_i) ÷ Σ(M_i・N_i)
- 多分散度:d = M_w ÷ M_n
(M_i:i 番目の画分の分子量、N_i:i 番目の画分の分子数)
分子量分布 - 積分分子量分布曲線(横軸=分子量の対数、縦軸=質量分率の積分値)と、微分分子量分布曲線(その傾き)が用いられる - 規格は、質量平均分子量・多分散度・特定の分子量範囲の質量分率など、目的に応じた形で示すことができる
システム適合性:〈2.01〉液体クロマトグラフィーを準用する。
ここで注目したいのは、局方が「較正曲線の範囲内にあること」を求めている点である。較正曲線の外側 ―― とくに排除限界の近く ―― では、溶出位置と分子量の関係が急峻になり、わずかな溶出のずれが大きな分子量差になる。排除限界に近い試料は、原理的に精度が出ない。
分析者の視点
「分子量」と書く前に、何で較正したかを併記する。 ポリスチレン換算、プルラン換算、あるいは光散乱による絶対値。この情報がない分子量は、他の測定と比較できない。局方が「用いた標準物質と分析条件に依存する」と書いているのは、そういう意味である。
試料と標準物質の化学的性質が違うなら、較正の結果を信用しない。 分岐ポリマー、棒状分子、共重合体には適切な標準が存在しない。この場合は光散乱を併用するのが唯一の正攻法である。
ピーク幅を分布の幅と読まない。 単分散標準ですら較正曲線を通せば 2〜4 倍の分布に見える。分布幅を議論するなら、光散乱で溶出位置ごとの分子量を確認する。
注入量を勝手に変えない。 30 kDa の標準で、4 µL と 50 µL が「別の分布」に見えた実例がある。感度が足りないときに注入量を増やすのは、SEC では分布を動かす操作になる。
タンパク質では、まず回収率を確認する。 注入した質量が出てきているか。UV 面積を既知濃度の標準と比べれば分かる。回収率が 100 % でないなら、凝集体の値は過小評価されている可能性が高い。 クロマトグラムの形は何も教えてくれない。
移動相の添加剤は、自分の試料で決める。 400 mM NaCl が必要だった抗体もあれば、NaCl が損失を増やしてアルギニンが効いた抗体もある。プラットフォーム条件は出発点であって、答えではない。
新品のカラムを、そのまま試験に使わない。 新品ほどタンパク質を強く結合するという報告がある。数回の注入で表面を馴らしてから、システム適合性を確認する。
規格に載せる凝集体の値は、一度は直交手法で照合する。 SV-AUC か AF4 を毎ロット回す必要はないが、SEC 法を確定するときに一度も照合していなければ、その方法が何を見落としているかは誰も知らない。2017 年の研究が示したのは、直交手法があって初めて堅牢な SEC 法が作れたということである。
フラグメント(LMW)側の分離を過信しない。 主生成物と分子量が近く、凝集体側ほど確実には分かれない。
まとめ
- SEC が分けているのは分子量ではなく、溶液中の流体力学的体積である。だから同じ溶出位置でも、棒状のエポキシ樹脂はポリスチレンより分子量が 40〜50 % 低い。分岐ポリマーは直鎖より体積が小さいので、従来型 SEC は分子量を過小評価する。
- 日本薬局方〈2.05〉は、分子量の求め方を説明した直後に 「得られた分子量は、用いた分子量標準物質と分析条件に依存する」 と明記している。「ポリスチレン換算」は謙遜ではなく正確な表現である。
- 較正曲線の前提は、狭分散標準でも成り立っていない。単分散標準ですら較正で換算すれば 2〜4 倍の分布に見え、30 kDa 標準の注入量を 4 µL から 50 µL に変えると「10〜40 kDa」と「20〜40 kDa」という別の分布になる(光散乱ではどちらも 30 kDa 付近の狭分布)。
- 光散乱(MALS)は溶出時間を使わないので較正から自由になる。分子量とサイズは 0.05 µL/min〜2 mL/min で流量に依存しなかった。dn/dc は二乗で効くので、その精度がそのまま効く。
- SEC は立体排除だけで分けているのではない。局方も静電相互作用は pH と塩、疎水性相互作用は有機溶媒で抑えよと要求している。相互作用があれば較正そのものが無効になる。
- 移動相添加剤の答えは試料で逆になる。IVIg では完全回収に 400 mM NaCl が必要だった一方、別の報告では NaCl はむしろ損失を増やし、アルギニンが有効だった。
- SEC は測るあいだに試料を変える。 精製した二量体を再注入すると単量体と三量体が生成し、全試料でカラム通過による有意な質量損失(p < 0.01)が観測された。新品カラムほど吸着は強い。
- だから直交評価が要る。SV-AUC と AF4 は SEC より高い凝集体量を検出し、SEC が単一ピークとして出したものを分離した。
- UHPLC-SEC は 90 秒未満の分離を可能にするが、較正誤差とドリフトに敏感で、使える表面化学も少ない。ただし 1.5 MDa ポリスチレンで Mw も rms 半径も一致し、この条件でせん断分解は起きていなかった(より高流量は未検証)。
一本の線で貫くなら、こうなる。SEC の数字は「この条件で、この標準物質と比べたときの値」であり、しかもカラムを出た後の姿である。 どちらの但し書きも、クロマトグラムには書かれていない。
用語集
- SEC(サイズ排除クロマトグラフィー):溶液中の分子をサイズに応じて分離する液体クロマトグラフィーの一種。分析種は固定相に保持されない。
- GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)/ ゲルろ過クロマトグラフィー:有機溶媒を移動相に用いる場合を GPC、水系溶媒の場合をゲルろ過と呼ぶ。分離原理は同じ。
- V₀ / Vt:カラムに保持されない成分の保持容量(完全排除)と、完全浸透する成分の保持容量。すべての分析種はこの間に溶出する。
- 分配係数 K₀:(t_R − t₀)/(t_t − t₀)。0 が完全排除、1 が完全浸透。
- 流体力学的体積:分子が溶液中で占める実効的な体積。SEC の溶出位置を決めているのはこちらであって、分子量ではない。
- 排除限界:それより大きい分子がすべて V₀ に溶出してしまう分子量。この付近では分離能が失われる。
- MALS(多角度光散乱):散乱光の強度と角度依存性から、溶出時間に依存せず絶対分子量と慣性半径を求める検出方式。
- dn/dc(屈折率増分):溶媒中でのポリマー固有の値。光散乱式に二乗で入るため、分子量の精度を直接左右する。化学組成に依存し、分岐などの構造には依存しない。
- SV-AUC(沈降速度分析超遠心):遠心力場での沈降速度から粒子分布を求める手法。固定相が無いため吸着・解離が起きない。
- AF4(非対称フローフィールドフローフラクショネーション):流れ場中の拡散係数の差で分離する手法。固定相を持たない。
- HMWS / LMWS:高分子量種(凝集体)と低分子量種(フラグメント)。バイオ医薬品では重要品質特性(CQA)として管理される。
- 多分散度 d:M_w / M_n。分子量分布の幅の指標。
出典
公定書
- 厚生労働省「第十九改正日本薬局方」一般試験法 2.05 サイズ排除クロマトグラフィー(51–52 頁)、2.00 クロマトグラフィー総論(分配係数 K₀、ホールドアップタイム・ボリュームの定義、38 頁) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000066530.html
較正の限界と光散乱
- Some, D. "AN1004: Absolute characterization of polymers with light scattering and UHP-SEC."(White Paper, Wyatt Technology Corporation) https://www.wyatt.com/files/literature/white-papers/WP1004-Absolute-characterization-of-polymers-with-light-scattering-and-UHP-SEC.pdf
凝集体分析と直交手法
- Gabrielson, J. P.; Brader, M. L.; Pekar, A. H.; Mathis, K. B.; Winter, G.; Carpenter, J. F.; Randolph, T. W. "Quantitation of aggregate levels in a recombinant humanized monoclonal antibody formulation by size-exclusion chromatography, asymmetrical flow field flow fractionation, and sedimentation velocity." Journal of Pharmaceutical Sciences 2007, 96(2), 268–279. DOI: 10.1002/jps.20760 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17080424/
- Gandhi, A. V.; Pothecary, M. R.; Bain, D. L.; Carpenter, J. F. "Some Lessons Learned From a Comparison Between Sedimentation Velocity Analytical Ultracentrifugation and Size Exclusion Chromatography to Characterize and Quantify Protein Aggregates." Journal of Pharmaceutical Sciences 2017, 106(8), 2178–2186. DOI: 10.1016/j.xphs.2017.04.048 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28479353/
移動相添加剤
- Yumioka, R.; Sato, H.; Tomizawa, H.; Yamasaki, Y.; Ejima, D.(味の素株式会社アミノサイエンス研究所)"Mobile phase containing arginine provides more reliable SEC condition for aggregation analysis." Journal of Pharmaceutical Sciences 2010, 99(2), 618–620. DOI: 10.1002/jps.21857 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19569199/
- Cernosek, T.; Jain, N.; Dalphin, M.; Behrens, S.; Wunderli, P. "Accelerated development of a SEC-HPLC procedure for purity analysis of monoclonal antibodies using design of experiments." Journal of Chromatography B 2024, 1235, 124037. DOI: 10.1016/j.jchromb.2024.124037 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38335765/
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制作メモ:本文に引用したすべての数値・逐語について、編集側が一次資料(第十九改正日本薬局方の一般試験法 PDF、メーカーの技術白書 PDF、査読論文の原著抄録)を実際に開いて検証し、執筆した。NaCl とアルギニンで結論が逆になる 2 報については、どちらかを採らずに両方を併記して条件依存であること自体を結論とした。UHPLC-SEC のせん断分解に関する検証はメーカー資料に基づくため、原資料が明記している「より高い流量での可能性は未検証」という但し書きも併せて記載している。