分取HPLCとスケールアップ ― 断面積比で伸ばすのは流量と負荷量、守るのはカラム容量あたりのグラジエント容量【2026年版】
クロマトグラフィー

分取HPLCとスケールアップ ― 断面積比で伸ばすのは流量と負荷量、守るのはカラム容量あたりのグラジエント容量【2026年版】

分析カラムで決めた分離を分取カラムへ移す規則は、どのメーカーの資料も同じ一文に集約される。「流量と注入量をカラム断面積に比例させる」。ただし、それが成り立つのは分取カラムに幾何比どおりの流量を流せるときだけで、Agilent の移管例では 2.1 mm から 21.2 mm へ移すときの計算上の流量 36.7 mL/分を装置の都合で 25 mL/分に落とし、代わりにグラジエントの時間軸を 12.2 倍に伸ばしている。この 12.2 は「カラム容量比 305.7 ÷ 流量比 25」で、守られているのは流量ではなくカラム容量あたりのグラジエント容量である(筆者計算)。負荷量を 4.6 mm カラムで先に見極める手順(島津・ジーエルサイエンス・YMC)、過負荷で三角になるピークの意味、フォーカストグラジエントで純度 98 %・回収率 93 % に至った例、温度・ポンプ・溶媒コスト・リサイクルまでを、メーカー一次資料と査読論文の原文で整理する。

分析カラムで組み立てた分離を、そのまま太いカラムに移して量を取る。分取 HPLC のスケールアップは、どのメーカーの 技術資料を開いても同じ一文に要約されています。流量と注入量を、カラムの断面積に比例させる。

基本的には,充てん剤が同じなら,カラムの断面積に比例して溶離液流量と試料負荷量を増やすことによりほぼ同等の分離が得られると考えられます。 (島津製作所「分取HPLCのはなし その2」)

内径 4.6 mm から 20 mm なら断面積は 18.9 倍。流量 0.8 mL/分は 15 mL/分に、注入量 50 µL は 1 mL に。 この規則は正しく、本記事でも 4 節で丁寧に扱います。ただし、この規則がそのまま使えるのは、分取カラムに幾何比どおりの流量を 流せるときだけです。太いカラムと粗い粒子の組み合わせでは、計算上の流量がポンプや配管の上限を超えることがあります。 そのとき何を諦め、何を守るのか。Agilent の移管例が、それを数字で示しています。

内径 2.1 mm・長さ 50 mm・粒子径 1.8 µm の UHPLC カラムで 1 mL/分だった分離を、内径 21.2 mm・長さ 150 mm・粒子径 5 µm の分取カラムへ 移した例です。同資料の流量換算式(内径比の 2 乗 × 粒子径比)に入れると、分取側の流量は 36.7 mL/分になります。 資料はこれを 25 mL/分に落として運転しました。そして、グラジエントの各区間の時間を、分析側の 12.2 倍に伸ばしています (アイソクラティック保持 0.10 分 → 2.96 分、パージ 0.40 分 → 4.89 分)。

この 12.2 という数は資料に書かれていません。筆者が逆算すると、12.2 = カラム容量比 305.7 ÷ 流量比 25 です。流量を幾何比まで 上げられなかった分だけ時間を伸ばし、カラム容量あたりのグラジエント容量(流量 × 時間 ÷ カラム容量)を分析側と同じ約 2.9 カラム容量に 保っている。守られたのは流量ではなく、この比でした。日本薬局方〈2.00〉のグラジエント換算式が同じ比を一定に保つように作られていることは、 JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉 ― 条文の換算例どおりに移すと、16 分の試験は 6.4 分になり、溶媒は 7 分の 1 になる【2026年版】 で確認しました。分取へのスケールアップは、その式を逆向きに、桁を上げて使う作業です。

本記事は、この一点を軸に、分取 HPLC を「分析の大きい版」ではなく「純度・回収率・生産性を目的にした別の設計」として整理します。 負荷量の見極め方、過負荷ピークの読み方、断面積比の計算、グラジエントとドウェル容量、フォーカストグラジエント、装置側の落とし穴、 そして生産性の見積もりまで、メーカーの一次資料と査読論文の原文にあたって確認したことだけを書きます。

この記事の読み方

  • これから分取を始める方:1〜2 節で「分取は分析と何が違うか」と「負荷量を先に決める」を押さえてください。 4 節の換算表があれば、最初のスケールアップは計算できます。
  • すでに分取をしている方:5 節(時間軸の 12.2 倍)と 6 節(フォーカストグラジエント)が本題です。 7 節の温度・ポンプ・溶媒・リサイクルは、収率が安定しないときの点検項目として使ってください。
  • 装置の導入を検討している方:3 節(過負荷ピークの形)と 8 節(生産性の見積もり)で、必要なカラム内径とポンプ流量の桁が決まります。

専門用語は初出で補足し、末尾に用語集を置きます。数値は出典の年とセットで扱い、筆者の計算は「筆者計算」と明記します。

1. 分取は分析の「大きい版」ではない ― 目的が純度・回収率・生産性に変わる

分析 HPLC の目的は「試料中に何がどれだけあるか」を正しく測ることです。分取 HPLC の目的は、目的成分を必要な量・必要な純度で回収する ことです。YMC の技術資料はこの違いを冒頭で言い切っています。

分取HPLCは、HPLC分析と原理・手法が同じでスケールを大きくしたものですが、単に試料の負荷量やカラムサイズの違いではありません。 分取はコストなど生産性を考慮して試料を分離し、必要な成分を効率よく回収することが目的となるため、分析とは異なる観点から分離条件を選択する必要があります。 (YMC「分取精製の流れとその検討方法」)

目的が変わると、判断基準も変わります。分析では禁じ手だった「ピークを歪ませる」「検出器を振り切らせる」が、分取では許されます。

分取LCでは「目的成分が共存成分と分離するかどうか」だけが重要であり,ピーク形状が多少歪んでも検出器がスケールアウトしても構いません。 (島津製作所「分取HPLCのはなし その1」)

どの規模を目指すかで、装置もカラムも桁が変わります。Waters の分取入門は、規模と用途を 4 段に分けています。

規模 目標量 典型的な用途(Waters の記述)
分析スケールの微量精製 µg 小規模な創薬実験に使う酵素・化合物の単離
セミ分取 mg 小規模な生物評価、代謝物の構造決定・キャラクタリゼーション
分取 g 分析用標準品、毒性のスカウティング試験
プロセス kg 医薬・活性成分の工業生産

(Waters Preparative LC Primer, Table 3 を筆者が和訳)

ジーエルサイエンスの資料は用途別に、天然物の有効成分精製は mg〜g、有効成分を特定するための全画分回収は µg〜mg、 合成品の精製は mg〜g と書いています。どの桁を目指すかを先に決めないと、次節の「負荷量の見極め」で何倍まで増やせばよいかが決まりません。

島津の資料は、この「規模の予測」を 3 段で整理しています。分析カラムで分取できる量が目標とほぼ同じなら分取専用装置は要らず、 繰り返し注入で足りる。目標が 10〜100 倍ならラボ用分取 HPLC の導入で達成できる可能性がある。数百倍以上なら実験室規模の HPLC では困難で、工業用分取 LC か別原理の分離法を考える。この数字が、4 節の断面積比(内径 20 mm で 18.9 倍、50 mm で 118 倍)と 対応しています。

2. 負荷量を先に決める ― 4.6 mm カラムで限界を測ってから太くする

スケールアップの計算は「4.6 mm カラムでどこまで載せられるか」が分かって初めて意味を持ちます。太いカラムで条件検討をすると 溶媒も試料も桁違いに消費するので、負荷量の見極めは分析カラムで行います。3 社の資料が同じ手順を書いています。

島津の実験例 ― 500 mg/mL のベンゼンを 50 µL まで

島津の資料は、内径 4.6 mm・長さ 250 mm・5 µm の ODS カラムに、500 mg/mL のベンゼンと微量の安息香酸・ナフタレンを含む溶液を 注入量を変えて流した例を示しています。結果は「ピーク形状が維持できるのは 50 µL 注入まで,ベンゼン負荷量に換算すれば 25 mg まで」。 手順としては「5〜10 倍ずつ注入量または試料濃度を増やしていって,目的成分のピークが前後の夾雑ピークと分離できる上限を見極め」ます。 高濃度のベンゼンが振り切れないよう、吸収極大を避けて 270 nm で検出している点も実務的です。

ジーエルサイエンスの 2 つの判定 ― 形が崩れる点と、分離度 1.2 を割る点

ジーエルサイエンスの資料は、負荷量の限界を 2 つの観点で別々に判定します。

  1. カラムに載る量:10 → 50 → 100 → 250 µL と段階的に増やし、ピーク形状が崩れ始める注入量を限界とする。例では 100 µL で崩れ始め、 250 µL では「完全に崩れてピークが 2 本」になった。限界は 100 µL(10 mg)程度。
  2. 目的成分と隣の分離:分離度で判定する。「理想は完全分離(分離度 1.5 以上)」だが、「スロープ分取やレベル分取をする場合は、 分離度 1.2〜1.5 程度でも問題は」ない。例では分離度 1.2 を限界とすると 200 µL(総負荷量 18 mg)程度。

同じカラムでも、判定基準によって限界が 10 mg と 18 mg に分かれます。どちらを採るかは、求める純度と、分画をどう切るかで決まる というのがこの資料の要点です。

YMC ― 濃度負荷と容量負荷

負荷量を増やす方法は 2 つあります。注入容量を固定して試料濃度を上げる濃度負荷と、濃度を一定にして注入容量を増やす容量負荷です。 YMC の資料は「濃度負荷のほうがピーク形状に影響が出にくいため、濃度負荷を基本にして容量負荷も組み合わせて検討します」と書いています。 ジーエルサイエンスの資料は同じことを数字で示し、「1 % のサンプルを 1 mL(負荷量 10 mg)」より「10 % のサンプルを 0.1 mL(負荷量 10 mg)」の ほうが理論段数が高くなる、と述べています。同じ 10 mg なら、濃く少なくが原則です。

試料を溶かす溶媒も効きます。ジーエルサイエンスの資料は、ODS カラムで試料を移動相に溶かした場合よりメタノールに溶かした場合のほうが ピーク形状が崩れやすく理論段数が低下する、と述べています。YMC も「試料は移動相またはできるだけ溶出力の小さい溶媒に溶解することが望まれます」。 DMSO のような強溶媒で溶解度を稼ぎたい場合の対処は 7 節(At-Column-Dilution)で扱います。

目安の表 ― Waters の負荷量表と「10〜100 mg/cm²」

Waters の分取入門には、一般的な分取カラム寸法ごとの負荷量の目安表があります(Table 5、単位 mg)。

内径 \ 長さ 50 mm 100 mm 150 mm 250 mm 妥当な流量(mL/分) 妥当な注入量(µL)
4.6 mm 3 5 8 13 1.4 20
10 mm 15 25 40 60 6.6 100
19 mm 45 90 135 225 24 350
30 mm 110 225 335 560 60 880
50 mm 310 620 930 1550 164 2450

(Waters Preparative LC Primer, Table 5。同資料は「負荷量は主に試料の溶解度で決まる」「単純な混合物ほど大きい」「高分離が要るほど小さい」と注記)

この表の値を 4.6 × 50 mm の 3 mg を基準に断面積比と長さ比で伸ばした値と比べると、どの升目も 0.86〜0.88 倍に揃います(筆者計算)。 つまり表は幾何比そのもので、化合物ごとの限界を示すものではありません。同資料自身が「特定化合物の負荷量はスケールアップ前に負荷試験で決める」と 書いているとおりです。

島津の資料は、スケールアップ前に「10〜100 mg/cm² の注入が可能であることを確認」するよう勧めています。内径 4.6 mm の断面積は 0.166 cm² なので、 これは 4.6 mm カラムで 1.7〜17 mg に相当します(筆者計算)。ジーエルサイエンスの例の 10〜18 mg はこの範囲に収まり、島津のベンゼン 25 mg (150 mg/cm²)は主成分が極端に溶けやすい場合の上限側です。

3. 過負荷ではピークが三角になる ― 分析では「壊れた」形が、分取では「正しい」形

負荷量を増やしていくと、ピークは左右対称のガウス型から、前が切り立ち後ろが長く引く三角形へ変わり、頂点は早い時間へ動きます。 分析屋の目にはカラム劣化に見える形ですが、分取ではこれが正常です。理由は吸着等温線にあります。

固定相への吸着量 q は、低濃度では移動相濃度 C に比例します(線形域)。濃度が上がると固定相の表面が埋まり、吸着量は頭打ちになります。 これを表すのが Langmuir 型の等温線で、上に凸の曲線です。高濃度部分ほど固定相に「保持されにくく」なるので、バンドの濃い中心が薄い縁より速く進み、 前線は追いつかれて切り立ち(ショック)、後方は薄く長く伸びます(拡散波)。Max Planck 研究所の Mutavdžin と Seidel-Morgenstern が 2024 年に Adsorption 誌に書いた論文は、この構造を平衡理論の言葉で述べています。

For Langmuir type isotherms the diffusive parts are always the rear (desorption) parts of the profiles. (Mutavdžin & Seidel-Morgenstern, Adsorption, 2024)

同論文は、過負荷の程度をローディングファクターという無次元量で表します。注入した量が、カラムの飽和容量に対してどれだけかを示す数で、 これが大きいほどピークは三角に近づき、頂点は早く出ます。分取で「保持時間が短くなった」と慌てる必要はなく、それは負荷が線形域を出た印です。

この考え方を分取 HPLC の設計に持ち込んだのが Snyder らです。1988 年の Journal of Chromatography の連作は、Langmuir 等温線を仮定した Craig モデルで質量過負荷のグラジエント分離を計算機で模擬し、「対応する」アイソクラティック分離とグラジエント分離は試料量が同じなら 同程度の分離度を与えること、そしてバンド幅と分離度を「少量試料での保持データ・実験条件・試料量」から定量的に予測できることを示しました。 Snyder らの枠組みでは、目的成分の後端が隣のピークの前端に触れるまで注入量を増やした点を touching band(接触バンド)と呼び、 これが「純度を落とさずに載せられる最大量」になります。2017 年の Chirality 誌の論文は、この量が「従来の式では 2 成分の分離係数 α と 直接相関する」と要約しています(Taheri ら、要旨)。

つまり、分取で載せられる量を決めるのは、隣のピークとの選択性 α です。段数を稼いでも、過負荷域ではピークが三角に潰れるので効きが鈍い。 分析カラムでの条件検討で「α を稼ぐ」ことが分取の負荷量に直結する、という順番になります。 HPLC/UHPLCカラムの選び方 ― α を 0.05 上げた分を段数で買うなら、カラムは 3.6 倍の長さになる【2026年版】で扱った Purnell 式の α 項が、分取ではさらに重くなるわけです。

4. スケールアップの計算 ― 断面積比で流量と注入量を伸ばす

ここからが本題の計算です。粒子径とカラム長が同じなら、規則は 3 社とも同じです。

充填剤粒子径とカラム長が同じ場合、流速・負荷量をカラムの断面積に比例させると分離性能・カラム圧力は、スケールアップ前後でほぼ同等になります。 (YMC「分取精製の流れとその検討方法」)

根拠は線速度です。ジーエルサイエンスの資料は「流量(µL/min) = 断面積(mm²) × 線速度(mm/min)」と書き、内径の異なる 3 本の 10 µm カラムで 線速度と HETP(理論段相当高さ)の関係を測ると、最適線速度は内径によらず 3.0 cm/分になる、と示しています。線速度を揃えれば、 段数も圧力も揃う。だから流量は断面積比です。

換算表(筆者計算)

内径 4.6 mm を基準にした断面積比と、流量 1.0 mL/分・注入量 20 µL・負荷量 10 mg を移したときの値です。

内径 断面積比 流量(mL/分) 注入量(µL) 負荷量(mg)
4.6 mm 1 1.0 20 10
10 mm 4.7 4.7 95 47
14 mm 9.3 9.3 185 93
19 mm 17.1 17.1 340 171
20 mm 18.9 18.9 380 189
21.2 mm 21.2 21.2 425 212
30 mm 42.5 42.5 850 425
50 mm 118.1 118.1 2,360 1,181

断面積比は島津・ジーエルサイエンスの表(10 mm 4.7 / 14 mm 9.3 / 20 mm 18.9 / 30 mm 42.5)と一致し、Waters の応用ノート (4.6 mm 1.5 mL/分 → 19 mm 25.6 mL/分、20 µL → 341 µL)とも一致します。19 mm と 21.2 mm は別の内径で、前者は Waters、後者は Agilent・Phenomenex 系の分取カラムの標準内径です。計算のときに混同しやすいので注意してください。

長さや粒子径も変えるとき

注入量(負荷量)はカラム容量に比例させるので、長さが変われば長さ比も掛けます。Waters の応用ノートの式は 「注入量 ∝ 内径² × 長さ」です。流量は長さに依りません。

粒子径を変える場合、Agilent の移管資料は流量に粒子径比を掛けます。

  • 流量:F₂ = F₁ × (d₂ / d₁)² × (dp₁ / dp₂)
  • 注入量:V₂ = V₁ × (L₂ × d₂²) ÷ (L₁ × d₁²)

Waters の入門は「粒子径を変える場合は、カラム長と粒子径の比 L/dp を保てばよい」と別の言い方をしています。粒子を粗くしたら その分カラムを長くすれば段数が保てる、という意味で、同じ内容です。JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉 の換算式(F₂ = F₁ × [(dc₂² × dp₁) / (dc₁² × dp₂)])と同じ形であることも確認しておいてください。局方の式は分析条件の 「小さい方向への」変更を想定していますが、式そのものは方向を選びません。

「幾何比どおり」が守れないとき

問題は、この流量を分取カラムに流せるとは限らないことです。島津の資料は率直に書いています。

実際には溶液の粘性やカラム耐圧の問題から,分取カラムに対して上に示した流量を通液することができない場合があります。 その場合は,逆に分取カラムでの流量を先に決定し,コンベンショナルカラムでの流量を後からそれに合わせて決めるとよいでしょう。 (島津製作所「分取HPLCのはなし その2」)

分取側で流せる流量を先に決め、分析側をそれに合わせて条件検討をやり直す。これが一つの解です。もう一つの解が、次節の「時間を伸ばす」です。

5. グラジエントは時間ではなく容量で移す ― Agilent の例を逆算すると時間軸は 12.2 倍

Agilent の Technical Overview 5991-2013EN(2013 年)は、UHPLC の分析条件を分取へ移す手順を、実測値つきで示しています。 条件を並べます。

分析側 分取側
カラム ZORBAX RRHD SB-C18, 2.1 × 50 mm, 1.8 µm ZORBAX SB-C18 Prep HT, 21.2 × 150 mm, 5 µm
ドウェル容量 0.153 mL 3.25 mL
流量 1 mL/分 25 mL/分
注入量 2.5 µL 764 µL
アイソクラティック保持(2 %B) 0.10 分 2.96 分
フォーカスト勾配(25 → 35 %B) 約 0.5 分 6.12 分
パージ(98 %B) 0.40 分 4.89 分

(Agilent 5991-2013EN, Table 2 と Figure 8 から筆者が抜粋)

この数字を、前節の式で検算します(筆者計算)。

流量。 内径比の 2 乗は (21.2 / 2.1)² = 101.9、粒子径比は 1.8 / 5 = 0.36。式どおりなら 1 × 101.9 × 0.36 = 36.7 mL/分です。 資料は 25 mL/分を使いました。これは「21.2 mm 内径の分取カラムの典型的な流量」として資料が別の箇所で挙げている値で、装置と配管の 現実的な上限です。幾何比の 68 % で運転している、ということです。

注入量。 カラム容量比は (150 × 21.2²) ÷ (50 × 2.1²) = 305.7。2.5 µL × 305.7 = 764 µL で、資料の値と一致します。 断面積比 101.9 ではなく、長さ比 3 を掛けた 305.7 が効いていることに注意してください。

時間軸。 流量を幾何比まで上げられなかった分、グラジエントの各区間を伸ばす必要があります。伸ばす倍率 k を、 カラム容量比 ÷ 流量比 = 305.7 ÷ 25 = 12.23 と置くと、

  • パージ:0.40 分 × 12.23 = 4.89 分(資料値 4.89 分)
  • フォーカスト勾配:0.50 分 × 12.23 = 6.12 分(資料値 6.12 分)

どちらも小数 2 桁まで一致します。アイソクラティック保持だけは、資料の式(b)がドウェル容量の補正を含んでいます。 分析側の保持時間にドウェル時間を足してから k 倍し、分取側のドウェル時間を引く。 (0.10 + 0.153 ÷ 1) × 12.23 − 3.25 ÷ 25 = 3.09 − 0.13 = 2.96 分。これも資料値と一致します。

つまりこの移管は、「流量 × 時間 ÷ カラム容量」を分析側と同じに保つように組まれています。フォーカスト勾配の区間で確かめると、 分析側は 1 mL/分 × 0.5 分 ÷ 0.173 mL = 2.9 カラム容量、分取側は 25 mL/分 × 6.12 分 ÷ 52.9 mL = 2.9 カラム容量(筆者計算)。 10 %B の勾配を 2.9 カラム容量かけて流す、という条件が両者で同じです。

JP19〈2.00〉の換算式が同じ比を一定に保つように作られていることは、JP19 クロマトグラフィー総論〈2.00〉の 7 節で確認しました。あちらは 150 × 4.6 mm を 100 × 2.1 mm に「小さくする」換算で、流量を幾何比どおりに落とせたので時間は 0.4 倍で済みました。 分取は逆向きで、流量を幾何比どおりに上げられないから時間が 12.2 倍に伸びる。式は同じで、桁と方向が違うだけです。

ドウェル容量が分取では分単位で効く

上の式に出てきたドウェル容量(勾配がポンプの混合点で作られてからカラム入口に届くまでの容量)は、分取システムでは 3.25 mL と、 分析側の 20 倍あります。流量 25 mL/分で割ると 0.13 分なので時間としては短いのですが、分析側の 0.153 mL ÷ 1 mL/分 = 0.15 分と ほぼ同じ「時間」になるのは偶然です。流量を落とせば、ドウェル時間はそのまま伸びます。Waters の入門は、早く溶出するピークの分離を保つために ドウェル容量の測定を勧め、手順も載せています。カラムを外し、アセトニトリルとアセトン 0.2 %(またはウラシル 0.05 mg/mL)を加えた アセトニトリルをステップで切り替え、吸光度差の 50 % に達する時間に流量を掛ける。分析側と分取側の両方の流量で測る、と念を押しています。 ドウェル容量がメソッドの移管可否を決めることは グラジエント最適化の実務の 7 節と LC装置本体の選び方でも扱いました。分取は、その効きが桁で大きくなる場面です。

幾何比を「超えて」注入している例

もう一つ、逆方向の注意があります。分析側の注入量が負荷限界に達していなければ、分取側の注入量は幾何比を超えて構いません。 Shimadzu News 2019 年第 3 号のセンナ粉末の例では、Shim-pack Scepter C18 の 150 × 4.6 mm(1 mL/分、注入 2 µL)を 150 × 20 mm へ移し、 流量は 19 mL/分(断面積比 18.9 ✓)、注入量は 500 µL にしています。幾何比なら 2 × 18.9 = 38 µL のところ、250 倍です(筆者計算)。 分析側の 2 µL は「測るための」注入量であって「載せるための」注入量ではないので、これで正しい。幾何比で移すべきは負荷試験で決めた限界注入量であって、 分析法に書いてある注入量ではありません。

6. フォーカストグラジエント ― 溶出点の前後 5 % に勾配を集めて、純度 98 %・回収率 93 %

Agilent の資料が 5 節の移管の前にやっていることが、フォーカストグラジエントです。汎用の急なグラジエント(例では 64 %B/分)で 目的成分の溶出点を求め、その前後だけに緩い勾配を置く。

手順は明快です。まず、汎用グラジエントで目的ピークが出た時点のプログラム上の組成を、ドウェル容量とカラム容量の分だけ補正して、 実効溶出組成に直します。例ではプログラム上 50 %B のところ、補正後は 30 %B。次に、その前後 ±5 %、すなわち 25 → 35 %B の 区間に 20 %B/分の勾配を置きます。資料はカラム長ごとの目安勾配も表にしています。

カラム長 50 mm 100 mm 150 mm 250 mm
勾配の目安(%B/分) 10〜20 5〜10 3〜6 2〜4

(Agilent 5991-2013EN, Table 1)

結果、汎用グラジエントではベースライン分離していなかった隣のピークが分離し、分析時間は半分になりました。その条件で負荷試験 (0.5 µL 刻みで 2.5 µL まで、分離度 1.29)を行い、5 節の式で分取へ移して 764 µL を注入したところ、分離度 1.82、純度 98 %・回収率 93 %、 汎用グラジエント(26 分)に比べ溶媒 47 % 削減という結果です。

フォーカストグラジエントが分取で効く理由は 2 つあります。一つは分離度そのもので、目的ピーク周辺の勾配が緩いほど隣との間隔が開きます。 もう一つは画分の液量で、YMC の資料が書くとおり「グラジエントではピーク幅が小さくなるため、分取フラクションの液量低減が期待できます」。 後処理の濃縮時間に直結する量です。

一方で、アイソクラティックには別の利点があります。YMC は「アイソクラティックでの分離では、リサイクル分取や溶媒の再利用が可能で、 連続分取の際の平衡化が不要となります」と書いています。7 節で扱うリサイクル分取はアイソクラティック前提です。

7. 装置側の落とし穴 ― 温度・ポンプ・溶媒・リサイクル

分析カラムで完成した分離が分取カラムで崩れるとき、原因は化学ではなく装置側にあることが多い。3 社の資料から、点検項目を拾います。

太いカラムは中心まで温まらない

ジーエルサイエンスの資料は、内径 4.6 mm では気にしなくてよい移動相温度が、分取カラムでは効く理由を書いています。

分取カラムの場合、カラム内径が太いためにエアーオーブンではカラムの中心部まで温めることができず、(略)カラムの外周部と中心部でサンプル移動速度が違ってしまいます。 その結果、ショルダーピークになったり、さらにひどい場合には1本であるべきピークが2本に割れてしまうという現象が起こります。 (ジーエルサイエンス「Ⅲ章-4 温度管理について」)

対策は、移動相をカラム温度に揃えるプレヒートミキサーです。同資料は 250 × 20 mm の ODS カラム、15 mL/分の条件でプレヒートミキサーの 有無を比較し、ある方がシャープになると示しています。YMC はより根本的に「分取精製においてはカラム温度はコントロールされた室温が好まれます」とし、 分析スケールで温度依存性を確認して、できる限り室温の条件を選ぶことを勧めています。同資料は、室温を一定にしても移動相の温度が違えば 「夏に比べ冬のほうが分離が悪い」例も載せています。

ポンプは上限の 1/2〜2/3 で使う

島津の資料は、送液ユニットの最大流量に対し「実際にはその 1/2〜2/3 を上限に使用することが望ましい」と書いています。理由は 「高流量での連続使用は、プランジャシールの劣化を早め」るから。4 節の換算で 50 mm 内径に 118 mL/分と出たら、最大流量 150 mL/分のポンプでは 足りず、その 1.5〜2 倍の機種が要る、という読み方になります。注入側も同様で、島津の資料はマニュアルインジェクタなら 5 mL を超える注入に 分取専用の 3725 型を勧め、オートサンプラは機種ごとの最大注入量とオプションループを確認するよう促しています。

溶媒はコストと揮発性で選ぶ

分取では溶媒が桁で増えるので、グレードと種類の選択が効きます。ジーエルサイエンスの資料は「あるメーカーの溶媒 1 L あたりの価格」として、 HPLC 用でメタノール 1,500 円・アセトニトリル 6,000 円・THF 5,700 円、1 級でそれぞれ 1,200・2,600・2,600 円という表を載せています (掲載時点の価格。同資料は年を明記していません)。分取は目的成分のピークが大きいので低波長の吸収も問題になりにくく、 「溶媒コストの面からは低グレードの溶媒やメタノールが最適」だが不純物の影響は考慮せよ、と書いています。

添加剤は揮発性が条件です。島津の資料は、分取した溶液を蒸発乾固することを考えれば「不揮発性の塩を含まない組成」が重要で、 分析でよく使うりん酸の代わりに「ぎ酸・酢酸・トリフルオロ酢酸など」が使われる、と書いています。ジーエルサイエンスは化合物の性質別に NH₄HCO₃(pH 7.0)とぎ酸の使い分けを表にしています。分析法でりん酸緩衝液を使っていたなら、分取ではまず添加剤の置き換えから条件検討が始まります。 緩衝液の pH をどこで測るかは移動相・緩衝液調製の実務で扱いました。

強溶媒で溶かしたいとき ― At-Column-Dilution

2 節で「試料は移動相に溶かす」と書きましたが、溶解度が足りず DMSO などの強溶媒に頼りたい場合があります。Waters の入門は、 大量の強溶媒プラグが逆相カラムに入ると、プラグの縁で試料が析出して流路を塞ぎ、析出しなくても希釈されるまで保持されずに 広いバンドとして載る、と説明しています。対策として、試料プラグをカラム入口で水系溶媒の流れに合流させて連続的に希釈する At-Column-Dilution を挙げ、「実際には、カラム負荷量を 3〜5 倍に増やせることが多い」としています(Waters の記述。同社製品の宣伝を含む点は割り引いて読んでください)。

リサイクル分取 ― 段数を「借りる」

分離度だけが足りず、負荷はまだ載せられる、という場面に効くのがリサイクル分取です。カラムから出た移動相をそのまま再びカラム入口へ戻し、 擬似的にカラムを長くします。ジーエルサイエンスの資料は、理想と現実の差を段数で示しています。

例えば、理論段数が20,000段のカラムがあった場合・・・理想のリサイクル分離では(略)リサイクルを1回すると20,000段増加し、(略)40,000段になります。 実際のリサイクル分離では(略)理論段数は30,000段となり理想の理論段数と差が見られます。この差は主にシステムデットボリューム(略)により発生し (ジーエルサイエンス「Ⅲ章-5 リサイクル分取について」)

差の原因は、カラム出口から入口までの流路(ポンプヘッド・ミキサー・インジェクタ・配管)でバンドが広がることで、ひどい場合は「リサイクル分離を行うと 理論段数が低下」します。対策はこの流路を短絡する機構で、同資料は SEC モードのポリスチレン(48,000 と 22,000)の例で、 リサイクルなしの 15 倍を注入して分離していなかった最初のピークが、2 回のリサイクルで完全分離した例を載せています。 リサイクル中は新しい溶媒を消費しないので、溶媒削減にもなります。

8. 生産性を見積もる ― Agilent の例なら 1 時間あたり約 0.5 g、溶媒は 1 g あたり 2.8 L

分取の設計で最後に効くのは、「1 時間に何グラム取れて、溶媒を何リットル使うか」です。5〜6 節の Agilent の例で計算してみます(筆者計算)。

  • 1 注入:764 µL、混合物 187 mg(目的成分サリチル酸 0.175 g/mL × 764 µL = 133.7 mg、資料の「純目的成分 133 mg」と一致)
  • 1 ランの時間:13.97 分(Figure 8 のグラジエント表の最終行)
  • 1 ランの溶媒:25 mL/分 × 13.97 分 = 349 mL
  • 回収率 93 % なら 1 注入あたり 133 × 0.93 = 124 mg
  • 1 時間あたり:60 ÷ 13.97 = 4.3 注入 → 約 0.53 g/時
  • 溶媒:349 mL ÷ 0.124 g = 2.8 L/g

汎用グラジエント(26 分)のままなら 1 ランの溶媒は 650 mL で、1 時間に 2.3 注入。フォーカストグラジエントが「溶媒 47 % 削減」と 書いているのはこの比(1 − 13.97 ÷ 26 = 0.46)です。時間あたりの生産量が 1.9 倍、溶媒が半分、これがフォーカストグラジエントの 経済的な意味です。

この試算には平衡化・分画切り替え・後処理は入っていません。それでも、内径 21.2 mm のカラム 1 本で「1 日 8 時間なら数グラム」という桁が出ます。 1 節の島津の 3 段(目標が分析カラムの 10〜100 倍ならラボ用分取で届く)と、これは整合しています。逆に kg が要るなら、この方法の延長ではなく 別の桁の装置か別原理(島津の言う「工業用分取 LC」や SMB)を考える段階です。

分析者の視点

分取は「分析法を太くする」作業ではなく、負荷試験から始まる別の設計です。 順番を間違えると、太いカラムで溶媒と試料を無駄にします。

  1. 目標量を桁で決める。 µg・mg・g・kg のどれか。それで装置の要否が決まる(1 節)。
  2. 4.6 mm カラムで負荷限界を測る。 濃度負荷を基本に、5〜10 倍刻みで。判定は「形が崩れる点」と「分離度 1.2〜1.5 を割る点」の 2 つ(2 節)。 ピークが三角になるのは異常ではない(3 節)。
  3. 添加剤を揮発性に替えてから条件を固める。 りん酸のままでは後処理で詰む(7 節)。
  4. 分取カラムで流せる流量を先に確認する。 幾何比の流量が流せるなら断面積比で移す(4 節)。流せないなら、時間軸を 「カラム容量比 ÷ 流量比」倍に伸ばして、カラム容量あたりのグラジエント容量を守る(5 節)。
  5. ドウェル容量を両方の流量で測る。 アイソクラティック保持の長さはこれで決まる(5 節)。
  6. フォーカストグラジエントを検討する。 溶出点の前後 ±5 % に勾配を集めるだけで、時間と溶媒が半分になり得る(6 節)。
  7. 温度は室温、ポンプは上限の 2/3 まで。 太いカラムのピーク割れは、まず温度を疑う(7 節)。
  8. 生産性と溶媒量を先に計算しておく。 1 時間あたりのグラムと 1 g あたりのリットルが、装置の投資判断の数字になる(8 節)。

まとめ

  • 流量と注入量はカラム断面積に比例させる(島津・ジーエルサイエンス・YMC・Waters が一致)。根拠は線速度を揃えること。4.6 mm 基準で 10 mm 4.7 倍、20 mm 18.9 倍、30 mm 42.5 倍、50 mm 118 倍。長さも変えるなら注入量には長さ比も掛ける。
  • 幾何比の流量が流せないときは、時間軸を「カラム容量比 ÷ 流量比」倍に伸ばす。 Agilent の 2.1 → 21.2 mm の例では 36.7 mL/分の計算値を 25 mL/分に落とし、時間を 12.2 倍(305.7 ÷ 25)にして、カラム容量あたりのグラジエント容量 2.9 を保った(筆者計算。資料の 2.96・6.12・4.89 分と一致)。
  • 負荷量は分析カラムで先に測る。 濃度負荷を基本に 5〜10 倍刻み。形が崩れる点と分離度 1.2〜1.5 の 2 基準。目安は 10〜100 mg/cm²(4.6 mm で 1.7〜17 mg)。
  • 過負荷ピークは三角で正常。 Langmuir 等温線では前線が切り立ち後方が拡散する。載せられる量を決めるのは隣との選択性 α。
  • 分析法の注入量を幾何比で伸ばすのは誤り。 幾何比で伸ばすのは負荷試験で決めた限界注入量(島津の例:2 µL → 500 µL、幾何比の 13 倍)。
  • フォーカストグラジエントで純度 98 %・回収率 93 %・溶媒 47 % 削減(Agilent)。時間あたり生産量は 1.9 倍(筆者計算)。
  • 装置側:太いカラムは中心が温まらずピークが割れる(プレヒートミキサーか室温運転)、ポンプは上限の 1/2〜2/3、添加剤は揮発性、 リサイクル分取は流路の死容積で段数の伸びが 4 万段の理想に対し 3 万段に留まる。

未確認・限界

  • 「12.2 = カラム容量比 ÷ 流量比」は筆者の逆算です。Agilent の資料には式(a)〜(d)が図として載っていますが、取得したテキストでは 数式の配置が崩れており、(c)の時間換算式の正確な形は読み取れていません。筆者の置いた k で 3 つの区間(2.96・6.12・4.89 分)が 小数 2 桁まで再現できることを根拠に採用しています。
  • Waters の負荷量表が「幾何比の 0.86〜0.88 倍」で並ぶという指摘は筆者の計算で、同社が表をどう作ったかは確認していません。
  • 島津の「10〜100 mg/cm²」を 4.6 mm カラムの 1.7〜17 mg に換算したのは筆者で、同資料は mg/cm² の値のみを示しています。 この単位が断面積あたりである点は文脈からの読みで、同資料に明示的な定義はありません。
  • ジーエルサイエンスの「内径 6 / 20 / 50 mm で約 1 / 10 / 120 mg」(理論段数 2,000 段時)は、日本語版の数値です。 同社英語版資料(LT134)では 50 mm の値が約 70 mg と異なっており、どちらが図の正しい読みか確認できていません。本文では採用していません。
  • Waters の At-Column-Dilution「3〜5 倍」は同社製品の説明で、第三者の検証は確認していません。
  • 溶媒価格の表(ジーエルサイエンス)は掲載年が不明で、現在の価格とは異なる可能性があります。
  • 8 節の生産性は 1 注入あたりの時間と溶媒だけの試算で、平衡化・分画・後処理・カラム寿命を含みません。
  • Waters の入門・応用ノートと Agilent の資料は、同社サイトが直接取得を拒否したため、二次的に取得した全文で確認しました。 Snyder ら(1988)と Taheri ら(2017)は PubMed の要旨のみで、本文の式(touching band の負荷量と α の関係式)は確認していません。
  • 調査資料に含まれた「充填剤 1 g あたりの負荷量(線形 <0.1 mg/g、touching band 10〜100 mg/g)」や 「4.6 × 150 mm の線形容量 0.10 mg・過負荷容量 2.00 mg」は、URL を持たない生成文書にしか帰属しなかったため採用していません。

用語集

  • 分取(preparative)HPLC:目的成分を分離して回収するための HPLC。測ることではなく取ることが目的。
  • 負荷量(load):カラムに注入する目的成分(または試料全体)の質量。注入量 × 濃度。
  • 濃度負荷/容量負荷:注入容量を固定して濃度を上げる/濃度を固定して容量を増やす、負荷量の増やし方。前者のほうがピーク形状への影響が小さい。
  • 線速度:移動相がカラム内を進む速さ。流量 ÷ 断面積に比例。スケールアップで揃えるべき量。
  • 断面積比:内径比の 2 乗。流量と注入量の換算係数。
  • カラム容量:π × (内径/2)² × 長さ。注入量の換算はこの比で行う。
  • ドウェル容量(delay volume):勾配が作られてからカラム入口に届くまでの容量。分取システムでは分析系の 10〜20 倍あることがある。
  • Langmuir 等温線:固定相への吸着量が濃度とともに頭打ちになる関係。過負荷ピークの三角形の原因。
  • ローディングファクター:注入量をカラムの飽和容量で割った無次元量。過負荷の程度を表す。
  • touching band(接触バンド):目的成分の後端が隣のピークの前端に触れるまで注入量を増やした状態。純度を落とさない最大負荷。
  • フォーカストグラジエント:目的成分の実効溶出組成の前後だけに緩い勾配を置くグラジエント。
  • 実効溶出組成:プログラム上の組成をドウェル容量とカラム容量で補正した、ピークが実際に溶出した時点の移動相組成。
  • プレヒートミキサー:移動相をカラム温度に揃えてからカラムへ送る部品。太いカラムの中心と外周の温度差を抑える。
  • At-Column-Dilution:強溶媒に溶かした試料をカラム入口で水系溶媒と合流させて希釈しながら載せる方式。
  • リサイクル分取:カラム出口の移動相を再びカラム入口へ戻し、擬似的にカラムを長くする手法。アイソクラティック前提。
  • SMB(擬似移動床):複数カラムを切り替えて連続分離する工業用分取クロマトグラフィー。kg 以上の規模で使われる。

出典

  1. 島津製作所「分取HPLCのはなし その1」 ― 絶対注入量の算出、限界負荷量の見極め(250 × 4.6 mm・5 µm ODS、500 mg/mL ベンゼン、50 µL・25 mg まで)、 5〜10 倍刻みの手順、「ピーク形状が多少歪んでも検出器がスケールアウトしても構いません」、スケールアップ規模の 3 段予測。 https://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/support/faq/prep/1.htm
  2. 島津製作所「分取HPLCのはなし その2 スケールアップ」 ― 溶離液の再確認(りん酸 → ぎ酸・酢酸・TFA)、「断面積に比例して溶離液流量と試料負荷量を増やす」、 4.6 → 20 mm で 0.8 → 15 mL/分・50 µL → 1 mL の例、10〜100 mg/cm²、流せないときは分取側の流量を先に決める、ポンプは最大流量の 1/2〜2/3。 https://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/support/faq/prep/2.htm
  3. ジーエルサイエンス「分取HPLCの上手な使い方」 ― Ⅰ章-2 分取の例(用途別の桁)、Ⅱ章-2 サンプル調製(移動相に溶かす・濃く少なく)、 Ⅱ章-4 移動相選択(溶媒価格表・揮発性添加剤)、Ⅲ章-2 負荷量検討(形が崩れる点 100 µL・10 mg、分離度 1.2 で 200 µL・18 mg、断面比表)、 Ⅲ章-3 スケールアップ(流量 = 断面積 × 線速度、10 µm の最適線速度 3.0 cm/分)、Ⅲ章-4 温度管理(中心と外周・プレヒートミキサー)、 Ⅲ章-5・6 リサイクル分取(20,000 段 → 理想 40,000・実際 30,000、15 倍負荷を 2 回リサイクルで完全分離)。 https://www.gls.co.jp/technique/technique_data/lc/usage_of_prep/
  4. YMC「分取精製の流れとその検討方法」 ― 「単に試料の負荷量やカラムサイズの違いではありません」、濃度負荷と容量負荷、室温運転の推奨、 アイソクラティックとグラジエントの利点、「流速・負荷量をカラムの断面積に比例させると分離性能・カラム圧力は(略)ほぼ同等」、線速度と装置耐圧。 https://www.ymc.co.jp/tech/chromato/chromato.html
  5. Analytical to Preparative HPLC Method Transfer ― An easy way to scale up from UHPLC to preparative HPLC using focused gradients, Penduff, P., Agilent Technologies Technical Overview 5991-2013EN (2013) ― ドウェル容量 0.153 / 3.25 mL、実効溶出組成 30 %B、 フォーカスト勾配 25 → 35 %B・カラム長別の勾配目安表、負荷試験 2.5 µL・分離度 1.29、2.1 × 50 mm・1.8 µm → 21.2 × 150 mm・5 µm、 1 → 25 mL/分、2.5 → 764 µL、保持 0.10 → 2.96 分、勾配 6.12 分、パージ 4.89 分、純目的成分 133 mg、純度 98 %・回収率 93 %・溶媒 47 % 削減。 https://www.agilent.com/cs/library/technicaloverviews/public/5991-2013EN.pdf
  6. Analytical HPLC to Preparative HPLC: Scale-Up Techniques using a Natural Product Extract, Aubin, A. J. & Cleary, R., Waters Application Note 720003120 (2009) ― 葛根抽出物を 4.6 → 10 / 19 / 30 mm へ、注入量 ∝ 内径² × 長さ(20 µL → 341 µL)、流量 ∝ 内径²(1.5 → 25.6 mL/分)、 同じ長さならグラジエント表は時間を変えずに流量だけ差し替え。 https://www.waters.com/content/dam/waters/en/app-notes/2009/720003120/720003120-en.pdf
  7. Preparative Liquid Chromatography Primer ― Method Scale-Up, Waters ― 規模と用途の表(Table 3)、ドウェル容量の測定手順(Table 4)、 負荷量の目安表(Table 5)、L/dp 一定、負荷試験の 2 方式、At-Column-Dilution(3〜5 倍)、長さが違うときのグラジエント時間換算。 https://www.waters.com/nextgen/us/en/education/primers/preparative-liquid-chromatography-primer/method-scale-up.html
  8. Better Prep! ― New Nexera Prep LC for a simplified and highly efficient preparative workflow, Shimadzu News 2019, Issue 3 ― センナ粉末のセンノシド A・B、 Shim-pack Scepter C18 150 × 4.6 mm・1 mL/分・2 µL → 150 × 20 mm・19 mL/分・500 µL、同じグラジエント表、分画 13.09〜13.63 / 13.88〜14.48 分。 https://www.shimadzu-webapp.eu/magazine/issue-2019-3_en/better-prep/
  9. Estimating the parameters of competitive Langmuir adsorption isotherms from measured responses to rectangular pulse injections exploiting equilibrium theory, Mutavdžin, I. & Seidel-Morgenstern, A., Adsorption, 30, 337–349 (2024) ― 「Langmuir 型等温線では拡散部は常にプロファイルの後方(脱着)側」、 ショック前線、ローディングファクターの定義、平衡理論(ideal model)と ECP 法。オープンアクセス。 https://doi.org/10.1007/s10450-024-00436-z
  10. Preparative separation of peptide and protein samples by HPLC with gradient elution. I. The Craig model as a basis for computer simulations, Snyder, L. R., Cox, G. B. & Antle, P. E., J. Chromatogr., 444, 303–324 (1988);II. Experimental examples compared with theory, Cox, Antle & Snyder, 同 325–344 ― Langmuir 等温線を仮定した Craig モデルによる質量過負荷グラジエントの模擬、「対応する」アイソクラティックとグラジエントは 同じ試料量で同程度の分離度、バンド幅と分離度を少量試料の保持データから予測。要旨を PubMed で確認。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3204137/
  11. Optimization of throughput in semipreparative chiral liquid chromatography using stacked injection, Taheri, M. et al., Chirality, 29, 579–588 (2017) ― 「従来の式は touching-band の負荷量と 2 つのエナンチオマーの選択係数の直接相関を示す」、スタック注入による擬似連続運転。要旨を PubMed で確認。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28749545/
  12. Preparative liquid chromatography, Guiochon, G., J. Chromatogr. A, 965, 129–161 (2002) ― 非線形・非理想クロマトグラフィーの理論の到達点と SMB・拡張床の実装を総説。要旨を PubMed で確認。 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12236522/

関連記事