SFC徹底解説 ― 溶かす力は液体並みなのに、粘度は 10 分の 1 しかない【2026年版】
クロマトグラフィー

SFC徹底解説 ― 溶かす力は液体並みなのに、粘度は 10 分の 1 しかない【2026年版】

SFC の強みは「液体並みの溶解力と気体並みの低粘度を併せ持つ」と説明されるが、その中身は数字で押さえられる。島津の公式ガイドの物性表では、超臨界流体の密度は 0.2〜0.8 g/cm³(液体は 1)、粘度は液体の 10 分の 1、拡散係数は 3 桁大きい。だから同じ流速でも van Deemter の C 項が効きにくく、トコフェロール 4 成分では順相 HPLC の分離度 1.328 に対し SFC が 1.703 を出す。移動相は CO₂:MeOH=90:10 で有機溶媒は 1 割、CO₂ 消費は 10 分の分析で約 30 g。物性・移動相設計・固定相・SFC-MS・キラル分取までを公式資料の原文にあたって整理する。

SFC(超臨界流体クロマトグラフィー、Supercritical Fluid Chromatography)は、超臨界状態の二酸化炭素(CO₂)を主移動相に使う分離法です。液体(HPLC)と気体(GC)の中間的な物性を移動相に持ち込むことで、「HPLC 並みの適用範囲を、GC に近い速さと効率で」分けられます。とくにキラル分取(鏡像異性体の分取精製)と、有機溶媒を大幅に削減できるグリーン分析の文脈で再評価が進んでいます。本記事はクロマトグラフィー最新技術動向の SFC 章に続く深掘り編として、原理から移動相・カラム設計、最新機器、応用、HPLC/GC との使い分けまで整理します。

この記事の読み方

  • 現場の分析者・研究者の方:移動相設計(モディファイアと背圧制御)、固定相の選び方、SFC-MS の連結、キラル分取・不純物探索の実務を中心に。
  • 入門者の方:専門用語は初出時に補足しています。まず「SFCとは」と「分離の仕組み」を押さえると、なぜ SFC が速く環境にやさしいのかがつかめます。

用語補足:超臨界流体 とは、物質の臨界温度・臨界圧力を超えた状態。気体と液体の区別がつかなくなり、液体に近い密度(=溶解力)と、気体に近い低粘度・高拡散性を併せ持つ。

SFCとは——超臨界流体を移動相にする

SFCとは:超臨界CO₂の物性。CO₂の相図(固体・液体・気体・超臨界流体)で臨界点31℃/7.4MPaを示し、超臨界領域では液体並みの密度(高溶解力)・気体並みの低粘度(低圧損)・高拡散(高効率)を同時に備えることを図解
図解:SFCとは ― 超臨界CO₂は臨界点(約31℃・7.4MPa)を超えると、液体並みの溶解力と気体並みの低粘度・高拡散を併せ持つ。

CO₂ は臨界温度 31.1°C・臨界圧力 7.38 MPa(約73気圧)という、実験室で扱いやすい比較的穏やかな臨界点を持ちます(JASCO)。この点を超えた超臨界CO₂は、次の3つの物性を同時に備えます:

  • 密度は液体に近い:溶質を溶かす力(溶解力)を持つ。気体クロマトグラフィー(GC)では運べなかった不揮発性・高分子量の化合物も運べる。
  • 粘度は気体に近く低い:カラム内を高流速で流しても圧力損失が小さい。HPLC より高流速・短時間の分析ができる。
  • 拡散係数は気体と液体の中間で大きい:溶質がカラム内で速く拡散し、ピークが広がりにくい(高効率)。

その「液体並み」「気体並み」を数字で押さえる

この 3 行は SFC の説明で必ず出てきますが、形容詞のままだと使えません。島津製作所の SFC Basic Guide には、3 つの状態を並べた物性表が載っています。

拡散係数 密度(g/cm³) 粘度(g/cm·s)
液体 10⁻⁶ 1 10⁻²
超臨界流体 10⁻³ 0.2 – 0.8 10⁻³
気体 10⁻¹ 10⁻³ 10⁻⁴

(島津製作所「SFC Basic Guide」Table 1 より。訳・強調は筆者)

読み取れることは 3 つです。

  1. 密度は液体の 2〜8 割。「液体並み」は比喩ではなく、同じ桁にあるという意味です。気体(10⁻³)とは 2〜3 桁違います。
  2. 粘度は液体のちょうど 10 分の 1(10⁻² → 10⁻³)。ただし気体(10⁻⁴)よりは 10 倍高いので、正確には「気体並み」ではなく液体と気体の中間です。
  3. 拡散係数は液体より 3 桁大きい(10⁻⁶ → 10⁻³)。この差が後述の van Deemter の C 項に直接効きます。

粘度の比は、別メーカーの資料でも一致します。JASCO の SFC 解説ページの比較表では、粘度が気体 0.01 / 超臨界 0.1 / 液体 1 mPa·s と示されており、超臨界は液体の 10 分の 1 という同じ関係になります。単位系は違いますが(島津は g/cm·s=ポアズ、JASCO は mPa·s)、10⁻² ポアズ = 1 mPa·s なので両者の液体の値も一致しています。

実測値も見ておきます。超臨界 CO₂ 中の拡散係数を測定したオレゴン州立大学の学位論文では、測定条件(35〜57 °C、96.4〜230 bar)における CO₂ の密度が 0.7〜0.89 g/cm³ と報告されています。島津の表の「0.2〜0.8」の上限側にあたる値で、圧力が高い条件ほど密度が上がるという関係と整合します。

⚠️ 単位表記についての注記:上の表とJASCOの表は、いずれも拡散係数の単位が m²/s と印字されていますが、値から見て実際には cm²/s です(液体中の低分子の拡散係数は 10⁻⁹〜10⁻¹⁰ m²/s=10⁻⁵〜10⁻⁶ cm²/s であり、表の「10⁻⁶」は cm²/s として妥当)。本記事は値の比(何桁違うか)だけを採用し、絶対値は単位が確定できないものとして扱います。両社の表で比が一致している点は、比較として使う分には十分な裏付けと判断しました。

そして最も重要なのは、これらが固定値ではないことです。密度が「0.2〜0.8」と幅で書かれているのは、超臨界流体の密度が圧力と温度で連続的に変わるからです。HPLC では移動相の組成だけが溶出力を決めますが、SFC では圧力と温度そのものが溶出力になります(後述の「移動相設計」)。

CO₂ は安価・不燃・低毒性で、使用後は大気へ戻すか回収できます。HPLC の順相分離で大量に使うヘキサンなどの有機溶媒を CO₂ で置き換えられるため、溶媒消費と廃棄物を大幅に削減できる点が、SFC がグリーンクロマトグラフィーとして注目される理由です(Agilent Primer)。

用語補足:順相 / 逆相 とは固定相と移動相の極性の組み合わせ。順相は極性固定相+非極性移動相、逆相は非極性固定相+極性移動相。SFC は無極性の CO₂ を主移動相に使うため、順相に近い保持挙動を示し、逆相 LC とは異なる(直交する)選択性が得られる。

分離の仕組み——LC と GC の「あいだ」

SFCの分離機構:GCとHPLCの中間。移動相・適用範囲・拡散速度・選択性をGC/SFC/HPLCで比較。超臨界CO₂は低粘度・高拡散でvan Deemter的に高速・高効率、逆相LCと直交する選択性を持つ
図解:分離の仕組み ― SFCはGCとHPLCの「あいだ」。van Deemterで速く高効率、逆相LCと直交する選択性が強み。

SFC の分離機構は HPLC と同じく、溶質が移動相と固定相のあいだで分配される度合い(分配係数)の差を利用します。移動相になじみやすい溶質ほど速く溶出し、固定相に保持されやすい溶質ほど遅れて溶出します。

速さと効率の優位は、カラム効率を表す van Deemter 式で説明できます。超臨界CO₂は液体より拡散係数が大きく粘度が低いため、最適流速がHPLCより高速側にあり、かつ高流速域でも効率の低下(C項:物質移動抵抗)が緩やかです。結果としてHPLCより速い流速で、効率を保ったまま分析できる——これが「速いのに分離が落ちない」SFCの核心です。

島津の公式ガイドは、この C 項の効き方をこう説明しています。

HETP = A・dp + B/V + C・dp²・V

In the case of HPLC, mobile phases with a high linear velocity will result in larger mass transfer diffusion values, but supercritical carbon dioxide has a higher diffusion coefficient than HPLC solvents and can penetrate packing material pores more easily. That results in lower mass transfer diffusion values even for high linear velocities.

(HPLC では線速度を上げると物質移動の項が大きくなるが、超臨界 CO₂ は HPLC の溶媒より拡散係数が大きく、充填剤の細孔に入り込みやすい。そのため線速度が高くても物質移動の項が小さくなる。訳・強調は筆者)

前節で見た「拡散係数が液体より 3 桁大きい」が、ここで効きます。C 項は線速度 V に比例して効率を悪化させますが、溶質が細孔を速く出入りできれば、その悪化が小さくて済む。「粘度が低いから速く流せる」だけでは半分の説明で、「拡散が速いから速く流しても分離が落ちない」のほうが本質です。

実際の分離度で見ると、島津のガイドに載っているトコフェロール 4 成分(α・β・γ・δ)の比較がわかりやすいです。

手法 分離度 Rs
順相 HPLC 1.328
SFC 1.703

(島津製作所「SFC Basic Guide」Fig. 10 に示された値。横軸は 0〜12 分)

同じ 4 成分で、分離度が 1.328 から 1.703 へ上がっています。SFC の利点は「逆相 LC と直交する選択性」として語られることが多いですが、この例は順相 HPLC と同じ保持機構の土俵でも、効率そのもので上回りうることを示しています。

項目 GC SFC HPLC
移動相 気体(He, H₂, N₂) 超臨界CO₂+モディファイア 液体(水・有機溶媒)
適用範囲 揮発性・熱安定な化合物 不揮発性〜中極性まで広い ほぼ全範囲
拡散・速度 速い 速い(GCに近い) 遅い
選択性 — 順相系(逆相LCと直交) 逆相が主流

実務上の意義は2つです。第一に、GC にかけられない不揮発・熱に弱い化合物を、GC に近い速度で扱えること。第二に、逆相 LC と直交する選択性を持つため、逆相 LC では重なって見えない不純物・異性体を拾える相補的手法になること(後述の不純物探索)。

移動相設計——CO₂とモディファイア、そして背圧制御

SFCの移動相設計:無極性のCO₂に極性モディファイア(メタノール等)を添加して溶出力を調整、酸/塩基アディティブでピーク形状改善、グラジエント溶出。背圧レギュレータ(BPR)でカラム出口圧を一定に保ちCO₂を超臨界状態に維持する概念図
図解:移動相設計 ― CO₂+モディファイア(メタノール)で溶出力を調整し、背圧レギュレータ(BPR)で超臨界状態を維持。圧力×温度×モディファイアの3要素で移動相強度が決まる。

純粋なCO₂は無極性(n-ヘキサンに近い極性)のため、そのままでは極性の高い溶質を溶出できません。そこで極性のモディファイア(コソルベント)を添加して移動相の溶出力を調整します。これが現代SFCの標準で、純CO₂単独で行うことはほとんどありません。

  • 主なモディファイア:メタノール(最も一般的)、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類。
  • 添加剤(アディティブ):塩基性・酸性化合物のピーク形状改善のため、ギ酸・酢酸・アンモニア・トリエチルアミンなどを0.1〜2%程度の低濃度で加える。
  • グラジエント溶出:分析SFCでは、モディファイア比率を時間とともに上げるグラジエントが一般的。極性の幅広い試料を1回で溶出できる。

SFCに固有で最重要の制御要素が背圧レギュレータ(BPR:Back Pressure Regulator)です。カラム出口の圧力を一定に保ち、CO₂を超臨界状態に維持する部品で、ここが乱れると保持時間や面積の再現性が崩れます。Waters の UPC² は「二段・低ノイズの自動背圧レギュレータ」でCO₂を精密制御することを特徴に挙げています(Waters)。SFCでは圧力・温度・モディファイア比率の3つが移動相強度を決めるため、HPLC以上に装置側の安定性がデータ品質を左右します。

用語補足:背圧(back pressure) とはカラム下流側にかける圧力。SFCではCO₂が膨張して気体に戻らないよう、BPRで一定の背圧(典型的に10〜15 MPa超)を維持し、超臨界状態を保つ。

「溶媒を大幅に削減」を数字にする

グリーン分析としての利点も、条件を具体化すれば量で言えます。島津のガイドに載っている分析条件は次のとおりです。

  • 移動相:CO₂ : MeOH = 90 : 10
  • 流速:3 mL/min(分析スケール)/圧力:10 MPa/カラム温度:40 °C
  • カラム:Shim-pack UC-Sil(250 mm × 4.6 mm、5 µm)

移動相のうち有機溶媒はメタノール 10 % だけです。順相 HPLC ならヘキサンや n-ヘプタン/2-プロパノールを 100 % 流し続けるので、単純計算で有機溶媒の使用量は 1 桁減ることになります。

では CO₂ はどれだけ使うのか。同ガイドの FAQ にそのままの問答があります。

Q5: About how much CO₂ gas is used per analysis? Assuming ten minutes per analysis and pumping 100 % CO₂ at a flow rate of 3 mL/min, about 30 g is used per analysis.

(10 分の分析、100 % CO₂ を 3 mL/min で送液すると仮定すると、1 分析あたり約 30 g。訳・強調は筆者。同ガイドは、分析時間・モディファイア比率・流速に応じて再計算するよう付記しています)

ボンベの要求も緩く、同 FAQ は「通常販売されている純度 99.9 % の CO₂ ボンベで十分」(ただし品質はばらつくのでガス供給業者に仕様を確認すること)としています。

⚠️ なお同ガイドの冒頭は、SFC 用の CO₂ がアンモニア製造や石油精製などの工業プロセスで生成したものを充填しているため「SFC の運転で新たな CO₂ は発生しない」一方、HPLC の有機溶媒廃液の処理では新たな CO₂ が発生する、という論旨で SDGs に言及しています。これはメーカーの見解であり、ライフサイクル全体を第三者が評価した数値は本記事では確認できていません。本記事が採用したのは、移動相組成と CO₂ 消費量という測定条件そのものの数値までです。

カラム(固定相)——アキラルとキラル

SFCの固定相:アキラル相(2-エチルピリジン2-EP、ジオール、Waters Torus=BEH二段官能基化、sub-2µm)とキラル相(多糖系セルロース/アミロース誘導体、Waters Trefoil)。分析sub-2µmから分取5µmまで連続し、メソッドをスケールアップしやすいことを図解
図解:固定相 ― アキラル(2-EP・Torus)とキラル(多糖系・Trefoil)。sub-2µmの分析相から分取相まで連続し、分析→分取のスケールアップが容易。

SFCの選択性は固定相で大きく変わります。近年の再評価を支えたのは、sub-2 µm粒子とSFC専用に設計された固定相の登場でした(Agilent Primer)。

アキラル固定相(一般の分離・不純物探索)

  • 2-エチルピリジン(2-EP):SFCで最も広く使われる汎用相の一つ。塩基性化合物の保持・ピーク形状・選択性に優れる。
  • ジオール(Diol)/シリカ/4-EP:極性の異なる相を選び分け、保持を調整する。表面多孔質粒子(SPP)にこれらの化学を施した充填剤も評価されている。
  • Waters Torus / Viridis:BEH(エチレン架橋型ハイブリッド)粒子を二段階で官能基化したアキラル相。一段目で親水性表面を作って保持と不要な相互作用を制御し、二段目で各相固有の選択性とピーク形状を与える。分析用〜分取用の 1.7〜5 µm が揃い、メソッドのスケールアップがしやすい(Waters)。

キラル固定相(鏡像異性体の分離)

  • 多糖誘導体系キラル相(セルロース/アミロースのカルバメート・エステル誘導体)が主力。SFCの低粘度・高拡散と相性がよく、高速なキラル分離ができる。
  • Waters Trefoil:ACQUITY UPC²向けに設計されたキラルカラム。スクリーニングの選択性と速度、メソッド開発時間の短縮を狙った製品(Waters)。

固定相のラインナップが「分析スケール(sub-2 µm)」から「分取スケール(5 µm前後)」まで連続しているため、分析で見つけた条件をそのまま分取へ拡大しやすいのがSFCの強みです。

最新機器——主要3メーカーの現行ライン

SFC主要3社の現行システム:Waters ACQUITY UPC²(UPLC技術の融合・分析から分取への移管)、Shimadzu Nexera UC / Nexera UC Prep(SFE-SFCのオンライン連結・抽出から自動化)、Agilent 1260 Infinity III SFC(0.1〜90µLの広範な注入・food-grade CO₂対応)。共通点はMS連携+多カラム/モディファイア自動スクリーニング
図解:主要3メーカーの現行ライン ― Waters ACQUITY UPC²/Shimadzu Nexera UC/Agilent 1260 Infinity III SFC。分析と分取が地続き、MS連結と自動メソッド開発が共通基盤。
メーカー 現行システム 位置づけ・特徴
Waters ACQUITY UPC²(UltraPerformance Convergence Chromatography) UPLCのエンジニアリングをSFCに持ち込んだ分析機。二段・低ノイズの自動BPR、CO₂用冷却ポンプヘッド、カラムマネージャ。Torus/Trefoilカラムと一体運用。分析→セミ分取(SFC Investigator)→分取へメソッド移管
Shimadzu Nexera UC(Unified Chromatography)/ Nexera UC Prep オンラインSFE-SFC(超臨界流体抽出+SFCを1フローで連結)。固体試料からの抽出→分離→検出を自動化。最大12カラム×4モディファイアの組み合わせでメソッド自動開発。Prepは分取対応
Agilent 1260 Infinity III SFC System 最大600 bar・流量5 mL/min、Feed Injection技術で0.1〜90 µLの広範な注入に対応。food-grade CO₂で運用コストを通常の1/10〜1/15に。MS・ELSD・FIDへ検出拡張可。SFC/UHPLCハイブリッド構成も選べる

スペックは各社公式資料の公表値。構成・改訂で変わります。Agilentの現行は1260 Infinity III(旧Infinity IIから更新)。

3社に共通するのは、(1) 分析と分取が地続きであること、(2) MSとの連結を前提に設計されていること、(3) メソッド開発の自動化(多カラム×多モディファイアのスクリーニング)を備えることです。SFCが「研究室の特殊装置」から「製薬の日常ツール」へ移った背景には、このエンジニアリングの成熟があります。

用語補足:Unified Chromatography(統合クロマトグラフィー) はShimadzuの考え方で、SFE(抽出)・SFC・LCを同一プラットフォームで連続運用すること。固体試料の前処理から分離・検出までを途切れなく自動化する。

SFC-MS——検出を広げる

SFC-MS連結:移動相の大半がCO₂で出口で気体に戻り抜けるため脱溶媒が容易でMS感度が向上。メタノール等モディファイアがESIのスプレー溶媒として働く。BPR前後でメイクアップ溶媒を加えMSへ安定導入。逆相LC-MSと直交するワンラン不純物プロファイリングの概念図
図解:SFC-MS ― CO₂が出口で抜けるため脱溶媒が容易でMS感度が向上。逆相LC-MSと直交する選択性で、ワンランの不純物プロファイリングに有効。

SFCはMS(質量分析)と非常に相性がよく、近年の応用拡大の中心はこのSFC-MS連結です。

  • 脱溶媒がしやすい:移動相の大半がCO₂で、出口で気体に戻って抜けるため、エレクトロスプレーイオン化(ESI)への導入で脱溶媒の負荷が小さく、MS感度の向上につながる。
  • モディファイアがイオン化を助ける:メタノールなどの極性コソルベントがそのままESIのスプレー溶媒として働く。
  • メイクアップ流路:CO₂の膨張に対応するため、BPRの前後でメイクアップ溶媒を加えてMSへ安定導入する構成が用いられる。

製薬では、SFCで分けてMSで同定するワンランの不純物プロファイリングが確立しつつあります。逆相LC-MSと直交する選択性を持つため、LC-MSで見落とした不純物・分解物を拾う相補的手段として価値があります(J. Sep. Sci., 2024)。

主要応用領域

SFCの主要応用領域:①キラル分取(医薬の鏡像異性体精製=SFC最大の用途、溶媒・廃棄物・濃縮時間を削減)②製薬の不純物探索・QC(逆相LCと直交、3〜5分のキラル純度分析)③脂質/天然物・食品(広い極性を一括、オンラインSFE-SFC)④バイオ分析(生体試料の薬物・代謝物定量にSFC-MS)
図解:主要応用領域 ― キラル分取(最大用途)・製薬の不純物探索・脂質/天然物・バイオ分析。グリーンと直交選択性がSFCの価値を支える。

キラル分取——SFC最大の用途

医薬品の鏡像異性体を分取精製する用途は、SFCの最も重要な応用です。順相LCによる分取と比べ、有機溶媒の使用量・廃棄物・分取後の濃縮時間を大幅に削減できます。CO₂は分取後に気化して抜けるため、目的物を高濃度の溶液として回収しやすく、濃縮工程が軽くなります。創薬初期の候補化合物スクリーニングから、CDMO(医薬品開発製造受託)の分取精製まで、分取SFCはシステム需要が最も伸びている領域です。

この「濃縮工程が軽くなる」は、分取でSFCを選ぶ理由として決定的です。島津のガイドは、HPLC でできて SFC が苦手な試料(アミノ酸・水溶性ビタミン・ポリフェノールなどの強極性化合物)について述べたうえで、次のように付け加えています。

For preparative applications, SFC offers the advantage of not requiring drying or purification steps after fractionation.

(分取用途では、SFC には分画後に乾燥や精製の工程を必要としないという利点がある。訳・強調は筆者)

つまり分取での優位は「溶媒代が安い」より 工程がひとつ消えることにあります。順相分取ならヘキサンを含む大量の画分を濃縮乾固する必要がありますが、SFC では移動相の大半が気化して抜けます。

スケールアップの幅も具体的です。同ガイドの例では、同じ分離を分析スケール 3 mL/min から分取スケール 60 mL/min へ(流速で 20 倍)展開しています。固定相の化学を変えずに粒子径だけを分析用(sub-2 µm〜5 µm)から分取用に上げれば、条件の作り直しを最小限にできる——というのが SFC の分取ワークフローの利点です。

製薬の不純物探索・QC

逆相LCと直交する選択性を活かし、逆相LCでは共溶出して見えない不純物・異性体を拾う相補的手法として使われます。分析SFCは3〜5分のキラル純度分析を可能にし、ハイスループットな化合物スクリーニングと純度モニタリングに向きます。原薬の純度評価・不純物プロファイリングがQC領域での主用途です。

脂質・天然物・食品

無極性〜中極性の広い範囲を1回で分けられるため、脂質(リピドミクス)やカロテノイド・トコフェロールなどの天然物、油脂・香料の分析に向きます。GCにかけにくい熱に弱い成分や高分子量成分も、SFCなら穏やかな温度で扱えます。Shimadzu Nexera UCのオンラインSFE-SFCは、固体試料(食品・生薬など)からの抽出と分析を一気通貫で自動化する用途で使われます。

バイオ分析

近年は生体試料中の薬物・代謝物の定量にもSFC-MSの適用が広がっています。2024年のレビュー(J. Sep. Sci.)は、SFCがバイオ分析で逆相LCを補完する分離プラットフォームとして成熟しつつあることを整理しています。

強みと限界——HPLC / GC との使い分け

SFCの強みと限界、HPLC/GCとの使い分け。強み:低粘度・高拡散で高速高効率、逆相LCと直交、有機溶媒削減、熱に弱い化合物も穏やかに。限界:強極性・イオン性化合物が苦手、BPR/温度/モディファイア制御がシビア、CO₂供給インフラが必要。試料別の第一候補を整理した表
図解:強みと限界 ― キラル・直交選択性・グリーンが強み。強極性/イオン性は苦手で装置安定性依存。HPLC・GCと相補的に使い分ける。

SFCは万能ではありません。長所と制約を理解して使い分けることが重要です。

強み:

  • 低粘度・高拡散による高速・高効率(HPLCより速く、再平衡も短い)。
  • 逆相LCと直交する選択性(キラル・異性体・不純物探索に強い)。
  • 有機溶媒の大幅削減(グリーン、分取で特に効果大)。
  • 熱に弱い・不揮発の化合物も穏やかに扱える(GCの守備範囲外を補う)。

限界・注意点:

  • 強極性・イオン性化合物(糖・アミノ酸・無機塩など)は、CO₂主体の移動相では保持・溶出が難しいことがある。
  • 装置の安定性依存:背圧(BPR)・温度・モディファイア比の制御が再現性を左右し、HPLCより条件管理がシビア。
  • CO₂供給とインフラ:高純度CO₂ボンベや冷却ポンプなど、専用設備が必要。
  • メソッド移管の知見・標準化はHPLCほど成熟していない領域も残る。
知りたいこと・試料 第一候補
鏡像異性体の分析・分取 SFC(キラル分取はSFCの独壇場)
逆相LCで見えない不純物・異性体 SFC(直交選択性で相補)
強極性・イオン性化合物 HPLC(逆相/HILIC/イオン交換)
揮発性・低分子の高分解能分離 GC / GC×GC
脂質・天然物・熱に弱い中極性成分 SFC(穏やかな温度・広い極性範囲)
溶媒消費を減らしたい(グリーン) SFC(CO₂主体で有機溶媒を削減)

分析者の視点——どこから始めるか

SFC分析者の始め方(目的別アプローチ):不純物探索なら逆相LCとの直交性を活用(2-EP+メタノール)、キラル分離・分取なら多糖系キラル相スクリーニング、同定・微量分析ならSFC-MS(メイクアップ溶媒併用)。いずれもスケールアップ(分析から分取へ)と溶媒削減(グリーン分析)につながるフロー図
図解:分析者の始め方 ― 2-EP+メタノールでスクリーニング、キラルは多糖系相、同定はSFC-MS。分析条件をそのまま分取へスケールアップ。
目的 推奨アプローチ
まず手法が合うか試す 2-EP などアキラル汎用相+メタノールグラジエントでスクリーニング
キラル分離を確立したい 多糖系キラル相(Trefoil等)を複数本スクリーニング→最適相を選定
不純物を網羅したい 逆相LCと両方かける(直交性で取りこぼしを減らす)
分取へ拡大したい 分析条件(sub-2 µm)から同じ化学の分取粒子(5 µm前後)へスケールアップ
同定まで一気に SFC-MS(ESI、メイクアップ溶媒を併用)
固体試料を前処理から オンラインSFE-SFC(Nexera UC等)で抽出〜分析を自動化

SFCを使いこなす鍵は、「移動相強度=圧力×温度×モディファイア」の3次元を意識すること、そして逆相LCの代替ではなく相補として位置づけることです。逆相LCで見えないものを拾い、分取では溶媒を劇的に減らす——この2点でSFCは現場の武器になります。

まとめ

  • 物性は数字で押さえられる。島津の物性表では超臨界流体の密度 0.2〜0.8 g/cm³(液体は 1)、粘度は液体の 10 分の 1、拡散係数は液体より 3 桁大きい。粘度が液体の 1/10 という比は JASCO の表でも一致する。「気体並みの低粘度」は正確には液体と気体の中間である。
  • 「速いのに分離が落ちない」の本質は粘度より拡散係数のほう。拡散が速ければ溶質が充填剤の細孔を速く出入りでき、線速度を上げても van Deemter の C 項(物質移動抵抗)が効きにくい。トコフェロール 4 成分では、順相 HPLC の分離度 1.328 に対し SFC が 1.703 を出している。
  • 物性は固定値ではない。密度が幅で書かれているのは圧力と温度で連続的に変わるからで、SFC では圧力そのものが溶出力になる。移動相強度は「圧力 × 温度 × モディファイア」の 3 次元で設計する。
  • グリーンの主張も条件を書けば量になる。移動相 CO₂:MeOH=90:10 なら有機溶媒は 1 割、CO₂ 消費は 10 分・3 mL/min で約 30 g/分析、ボンベは純度 99.9 % の市販品で足りる。
  • 分取での優位は溶媒代より「工程が消える」こと。メーカー資料も「分画後に乾燥や精製の工程を必要としない」と明記している。分析 3 mL/min から分取 60 mL/min へのスケールアップも同じ化学で展開できる。
  • そのうえで、純CO₂ではなくモディファイアと背圧(BPR)制御で移動相強度を設計し、逆相LCと直交する選択性をキラル分離・不純物探索に活かす。Waters ACQUITY UPC²、Shimadzu Nexera UC、Agilent 1260 Infinity III SFC といった成熟した装置群が、SFCを製薬の日常ツールへ押し上げました。HPLC・GCの「あいだ」を埋める第3の選択肢として、使い分けの引き出しに加える価値があります。

未確認・限界

  • 物性表の単位表記が原典で誤っている。島津・JASCO いずれの表も拡散係数の単位が m²/s と印字されているが、値から見て cm²/s である(液体中の低分子は 10⁻⁹〜10⁻¹⁰ m²/s=10⁻⁵〜10⁻⁶ cm²/s)。本記事は値の比だけを採用し、絶対値は単位が確定できないものとして扱った。両社の表で比が一致していることは確認している。
  • 密度 0.2〜0.8 g/cm³ と実測 0.7〜0.89 g/cm³ は、測定条件が違うため直接比較できない。後者はオレゴン州立大学の学位論文における 35〜57 °C・96.4〜230 bar での値で、高圧側の条件にあたる。
  • トコフェロールの分離度(1.328 → 1.703)は、メーカー資料に掲載された同社装置での比較である。カラムの種類・粒子径・その他の条件を揃えた第三者による比較ではない。
  • 「SFC の運転で新たな CO₂ は発生しない」という論旨はメーカーの見解であり、ライフサイクル全体を第三者が評価した数値は確認できていない。AGREE や Analytical Eco-Scale といったグリーン分析の定量指標を SFC に適用した値も、今回は原典を確認できなかったため掲載していない。
  • SFC の公定法上の位置づけ(日本薬局方・USP・欧州薬局方の一般試験法としての収載状況)は確認できていない。本記事は装置と手法の解説にとどまり、規制下での適格性については扱っていない。
  • キラル分取が「SFC最大の用途」「システム需要が最も伸びている領域」という記述は、市場統計の原典を確認できていない。業界の一般的な認識として書いているもので、数値の裏付けはない。
  • 調査で得た資料のうち、URL を持たない合成文書に由来する数値(「液体密度の 80 %」「カラム再平衡が 1〜2 分対 RPLC 5〜15 分」など)は、原典にあたれなかったためすべて不採用とした。

用語集

  • SFC(超臨界流体クロマトグラフィー):超臨界CO₂を主移動相とする分離法。HPLCとGCの中間的物性を活かす。
  • 超臨界流体:臨界温度・臨界圧力を超えた状態。液体並みの密度(溶解力)と気体並みの低粘度・高拡散を併せ持つ。
  • モディファイア(コソルベント):CO₂に加える極性溶媒(メタノール等)。溶出力を高め、極性溶質を溶出可能にする。
  • 背圧レギュレータ(BPR):カラム出口圧を一定に保ち、CO₂を超臨界状態に維持する部品。再現性の要。
  • UPC²(UltraPerformance Convergence Chromatography):WatersによるSFCベースの分析プラットフォームの名称。
  • 2-EP(2-エチルピリジン)固定相:SFCで広く使われるアキラル汎用相。塩基性化合物に強い。
  • Torus / Trefoil:Watersのアキラル(Torus)・キラル(Trefoil)SFCカラム。
  • 直交選択性:逆相LCと異なる保持機構による分離。LCで重なる成分を分けられる相補性の源。
  • SFE(超臨界流体抽出):超臨界CO₂で固体試料から成分を抽出する手法。オンラインでSFCに連結できる。
  • キラル分取:鏡像異性体を分取精製すること。SFC最大の用途。
  • 線速度(linear velocity):カラム断面積に対する移動相の流れの速さ。van Deemter 式の横軸にとる量。
  • HETP(理論段相当高さ):カラム効率の指標。小さいほど高効率。HETP = A・dp + B/V + C・dp²・V の 3 項で表される。
  • C 項(物質移動抵抗):溶質が充填剤の細孔を出入りする速さで決まる項。線速度に比例して効率を悪化させる。拡散係数が大きい移動相ほど小さくなるため、SFC は高流速でも効率を保てる。
  • 分離度(Rs):隣り合う 2 ピークがどれだけ分かれているかの指標。1.5 以上で実用上「分離した」と判断されることが多い。

出典

  1. Waters「ACQUITY UPC² System(UltraPerformance Convergence Chromatography・自動BPR)」 https://www.waters.com/nextgen/us/en/products/chromatography/chromatography-systems/acquity-upc2-system.html
  2. Waters「SFC Columns ― Torus / Trefoil / Viridis(BEH二段官能基化・1.7〜5 µm)」 https://www.waters.com/nextgen/en/products/columns/sfc-columns.html
  3. Shimadzu「Nexera UC(Unified Chromatography・オンラインSFE-SFC)」 https://www.shimadzu.com/an/products/liquid-chromatography/sfc/nexera-uc/index.html
  4. Shimadzu「Nexera UC Prep(分取SFC)」 https://www.shimadzu.com/an/products/liquid-chromatography/sfc/nexera-uc-prep/index.html
  5. Agilent「1260 Infinity III SFC System(600 bar・5 mL/min・Feed Injection・food-grade CO₂)」 https://www.agilent.com/en/product/liquid-chromatography/hplc-systems/application-specific-hplc-systems/1260-infinity-ii-sfc-system
  6. Agilent「Primer: Supercritical Fluid Chromatography(原理・CO₂物性・モディファイア)」 https://www.agilent.com/cs/library/primers/public/5991-5509EN.pdf
  7. Journal of Separation Science(2024)「Supercritical Fluid Chromatography in Bioanalysis ― A Review」 https://analyticalsciencejournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jssc.70003
  8. 島津製作所「SFC Basic Guide」(文書番号 C190-E270C、全40ページ) ― Table 1 の物性比較(液体/超臨界流体/気体の拡散係数・密度・粘度。超臨界流体の密度 0.2〜0.8 g/cm³、粘度 10⁻³ g/cm·s)、van Deemter の C 項についての説明("supercritical carbon dioxide has a higher diffusion coefficient than HPLC solvents and can penetrate packing material pores more easily")、トコフェロール 4 成分の分離度比較(順相 HPLC 1.328 / SFC 1.703、Fig. 10)、分析条件(CO₂:MeOH=90:10、3 mL/min、10 MPa、40 °C、Shim-pack UC-Sil 250×4.6 mm 5 µm)と分取スケール 60 mL/min、FAQ Q5 の CO₂ 消費量(10 分・3 mL/min・100 % CO₂ で約 30 g/分析)、ボンベ純度 99.9 % で可、分取では分画後の乾燥・精製工程が不要。2026-09-12 の加筆で追加。 https://labrulez.com/pdf/c190_e270_9ff1d01939.pdf
  9. JASCO「Introduction to Supercritical Fluid Chromatography (The Basics)」 ― 相ごとの物性比較表(粘度:気体 0.01 / 超臨界 0.1 / 液体 1 mPa·s)。島津の表と粘度の比(液体の 10 分の 1)が一致することの裏取りに使用。2026-09-12 の加筆で追加。 https://jascoinc.com/learning-center/theory/chromatography/introduction-to-sfc/
  10. JASCO Europe「Principles of Supercritical Fluid Extraction」 ― CO₂ の臨界温度 31.1 °C・臨界圧力 7.38 MPa。2026-09-12 の加筆で追加。 https://www.jascoeurope.com/principles-of-supercritical-fluid-extraction/
  11. Oregon State University 学位論文「Diffusion coefficients of biocides in supercritical carbon dioxide」 ― 測定条件(35〜57 °C、96.4〜230 bar)における超臨界 CO₂ の密度 0.7〜0.89 g/cm³、拡散係数の温度・圧力依存性の実測。2026-09-12 の加筆で追加。 https://ir.library.oregonstate.edu/downloads/44558h01c

関連記事