カテゴリ: 質量分析

20 件の記事

GC-MSの選び方 ― EIライブラリは1化合物1.1スペクトルで足りるのに、MS/MSは47スペクトル要る【2026年版】
質量分析

GC-MSの選び方 ― EIライブラリは1化合物1.1スペクトルで足りるのに、MS/MSは47スペクトル要る【2026年版】

シングル四重極の GC-MS と、三連四重極の GC-MS/MS。カタログを並べると後者が全面的に優れて見える。 だが NIST が公開している二つのライブラリの数字を並べると、そう単純ではないことが分かる。 EI ライブラリは 394,054 スペクトルで 347,100 化合物、MS/MS ライブラリは 240 万スペクトルで 51,505 化合物。 スペクトル数では MS/MS が 6.1 倍多いのに、化合物数では EI が 6.7 倍多い。 1化合物あたりに直すと、EI は 1.1 スペクトルで足りるのに MS/MS は 46.6 スペクトル要る ―― 41 倍である。 この非対称は 70 eV という単一条件に由来し、そのまま「知らない化合物を当てられるか」の差になる。 本記事は NIST のライブラリ統計と EPA Method 8270E の条文を原典で確認し、 MRM が何を手放す操作なのかを、公定法の中での扱いの違いまで含めて整理する。

メタボロミクスのLC-MS実務 ― 検出した25,230の特徴量は、892の分析種だった【2026年版】
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メタボロミクスのLC-MS実務 ― 検出した25,230の特徴量は、892の分析種だった【2026年版】

ノンターゲットのLC-MSメタボロミクスでは、1回の測定で数万の「特徴量(feature)」が検出される。 しかしその数は測定できた代謝物の数ではない。大腸菌の実データを系統的に注釈した研究は、 25,230の特徴量が892のユニークな分析種にまで減ることを示した。28分の1である。 本記事は、なぜ1つの代謝物が何十もの特徴量に分裂するのか、その縮退が統計の検出力をどう削るのかを 原著の数値で追い、そのうえでプールQCの置き方・受入基準(検出率・RSD・D-ratio)・ シグナル補正という品質管理の実務を、ガイドライン論文と109報の実態調査から整理する。

ICP-MS/MSとコリジョン・リアクションセル ― 局方が許す酸化物3%は、セリウムがガドリニウムの13%に化けることを許している【2026年版】
質量分析

ICP-MS/MSとコリジョン・リアクションセル ― 局方が許す酸化物3%は、セリウムがガドリニウムの13%に化けることを許している【2026年版】

第十九改正日本薬局方の一般試験法〈2.63〉は、ICP-MS の装置性能の目安として「酸化物イオン生成比 CeO⁺/Ce⁺ が 0.03 以下、二価イオン生成比 Ce²⁺/Ce⁺ が 0.05 以下となることが望ましい」と書いている。この二つの比を濃度に翻訳すると、3 % はセリウムがガドリニウムの 13 % に化けることを、5 % はガドリニウムがセレンの 4.3 % に化けることを許す数字になる(筆者計算)。MRI 造影剤の Gd を打った患者の血清では、これがセレン真値の 17〜86 倍に達しうる。コリジョン・リアクションセルは、この「化ける」現象を消す装置ではなく、化学反応そのものを測定側に取り込む装置である。ヘリウム KED が質量ではなく衝突断面積で分けていること、四重極を1本増やすことの意味が感度でも分解能でもなく「セルに入る前に質量を決める」ことであること、動かすのが分析種とは限らないことを、局方原文・Agilent の70元素反応データ・PNNL の査読論文・2026年6月発売の Agilent 9500 の技術資料から数値で追う。

ネイティブMS徹底解説 ― 横軸の m/z の値が、そのまま「分けられない質量差」になる【2026年版】
質量分析

ネイティブMS徹底解説 ― 横軸の m/z の値が、そのまま「分けられない質量差」になる【2026年版】

ネイティブMSは質量を直接測っていない。測っているのは m/z で、質量は電荷の割り当てから逆算した値である。この構造には計算できる限界がある。質量 M・電荷 z のイオンは、M よりちょうど M/z だけ重い z+1 価のイオンと同じ位置に来る。つまり分けられない質量差の大きさは、そのピークが出ている m/z の値そのものである。AAV カプシドではこの閾値 21〜25 kDa が、VP1→VP3 置換の質量差 21.9 kDa と一致してしまう。

抗体医薬のLC-MSキャラクタリゼーション ― 同じ1本の抗体を76研究室が測ったら、見つけた糖鎖は4個から48個だった【2026年版】
質量分析

抗体医薬のLC-MSキャラクタリゼーション ― 同じ1本の抗体を76研究室が測ったら、見つけた糖鎖は4個から48個だった【2026年版】

ICH Q6B は「不均一性のパターンを定義し、恒常性を示せ」と求める。個々の分子種を評価しなくてよいのは、 パターンが一定だと示せた場合だけである。ではそのパターンは、どれくらい揃うのか。NIST の標準抗体 NISTmAb を 76 の研究室が測った結果、検出された糖鎖組成の数は 4 個から 48 個まで、12 倍ひらいた。派生属性の9項目のうち 6項目で、四分位範囲が中央値そのものより広かった(筆者計算)。そして「コアフコシル化」のコンセンサス中央値は 103.95 % ―― 割合なのに 100 % を超えている。日本薬局方はペプチドマップ法・タンパク質の質量分析・糖鎖 プロファイル法をすべて備えているが、それらは「参考情報」にあり、告示(2549 頁まで)の外にある。さらに厄介なのは、 測るための前処理そのものが脱アミド化・酸化・Asn→Asp を作ることだ ―― 局方自身が3か所でそう書いている。

プロテオミクスのDDA/DIA ― タンパク質の「FDR 1%」が妥当だと確かめられた組み合わせは、24件中ゼロだった【2026年版】
質量分析

プロテオミクスのDDA/DIA ― タンパク質の「FDR 1%」が妥当だと確かめられた組み合わせは、24件中ゼロだった【2026年版】

プロテオミクスの論文と報告書には、ほぼ例外なく「FDR 1%」と書いてある。だがその1%が本当に1%であることを、 分野はほとんど検証してこなかった。2024〜2025年にエントラップメント実験で検証されたとき、 タンパク質レベルの1% FDR 制御が「妥当」と判定できたツールとデータセットの組み合わせは、24件中ゼロだった。 本記事は、target-decoy を作った本人が「この値は個々の同定については何も言っていない」と書いている出発点から、 DDA が何を測っていないか、DIA が何を先に持ち込んでいるか、そしてペプチドの1%がなぜタンパク質の1%にならないかを、 一次資料と筆者自身の計算で順に追う。

非標的分析と未知構造推定 ― 答えが全部わかっている試料でも、当てられたのは46%だった【2026年版】
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非標的分析と未知構造推定 ― 答えが全部わかっている試料でも、当てられたのは46%だった【2026年版】

高分解能MSで「未知のピーク」を追う非標的分析は、環境・食品・医薬・法科学に急速に広がった。 だが米国EPAが主催した共同試験ENTACTでは、何が入っているかを全部わかっている合成混合物を目隠しで 分析させたところ、異性体を除いた真陽性率は最良でも46%、答えを見てからやり直しても65%にとどまった。 本記事は「なぜ当たらないのか」を二段階に分けて追う。第一に、質量精度をいくら上げても分子式は 一意にならない(Kind & Fiehn が2006年に論文タイトルで宣言している)。第二に、分子式が決まっても 構造は決まらない。そのうえで、この不確かさを隠さずに申告するために作られた Schymanski の5段階、 PFAS向けに枝分かれした信頼度スケール、そして ICH Q3A の「未同定不純物」と ICH Q3E の AET という 規制側のしきい値までを、すべて原典の数値で整理する。

定量LC-MS/MSのメソッド開発 ― MRM最適化に「最大化してよい量」はひとつもない【2026年版】
質量分析

定量LC-MS/MSのメソッド開発 ― MRM最適化に「最大化してよい量」はひとつもない【2026年版】

MRM の最適化は「感度を最大にする作業」だと思われている。だが実際に最大化できる量はひとつもない。 ドウェル時間を伸ばせばサイクル時間が延びてピークの点数が減り、点数を稼ごうとドウェルを削れば イオン統計が痩せる。トランジションを増やせば同時監視数が増えて両方が悪化する。メーカー自身の 技術資料が「多重化を3倍にする2つの方法」として示している図は、どちらを選んでも別の何かが壊れる という図である。本記事は SANTE のイオン選択条文、SCIEX のサイクル時間の式、島津の実測 %RSD、 Thermo の血清中103トランジションのデータを原典で確認し、トランジション選択・コリジョンエネルギー・ Q1分解能・ドウェルとサイクルの算術・スケジュール MRM・クロストークまでを、装置の前で決める順序に沿って整理する。

GC-MS/MS 残留農薬分析の実務 ― マトリックス効果が「増強」に転ぶGCでは、対処も逆になる【2026年版】
質量分析

GC-MS/MS 残留農薬分析の実務 ― マトリックス効果が「増強」に転ぶGCでは、対処も逆になる【2026年版】

LC-MS/MS のマトリックス効果は「抑制」だが、GC のそれは多くの場合「増強」である。原因も違う。 イオン化の競合ではなく、注入口とカラム先端の活性点をマトリックスが埋めてしまい、 溶媒標準では失われていた分析種が試料中では失われずに済む ―― つまり標準側が低いのだ。 符号が逆なので、対処も逆向きになる。EU の SANTE ガイダンス自身が「マトリックスマッチ検量線は LC-MS より GC でこそ効く」と書いており、GC 固有の解としてアナライトプロテクタントを名指ししている。 ただし 2026 年、EURL-FV が参画した論文が「糖・糖ラクトンを使う従来のアナライトプロテクタントは 反復注入のルーチンには適さない」と報告した。規制側も動いており、SANTE/11312/2021 の v2026 では 同定基準から S/N ≥ 3 が取り消し線とともに消えている。本記事は SANTE v2026・日本の通知試験法と 妥当性評価ガイドライン・告示を原典で開いて確認し、前処理から水素キャリアガスまでを整理する。

イオンモビリティMS徹底解説 ― CCSは「測った値」ではない【2026年版】
質量分析

イオンモビリティMS徹底解説 ― CCSは「測った値」ではない【2026年版】

イオンモビリティMSは m/z に「形・大きさ」の軸を足す技術として普及したが、その軸の目盛である 衝突断面積(CCS)が何なのかは、しばしば誤解されている。分野の報告ガイドラインは一行でこう述べる ―― 「イオンモビリティが測っているのは移動度であって、表面積ではない」。移動度 K は SI にトレーサブルだが、 CCS はそこから数学モデルを通して導かれた量で、SI にトレーサブルではない。だからガイドラインは 「較正は CCS ではなく移動度で行え」と勧告する。分解能の数字にも同じ種類の罠があり、時間軸で測った Rp と CCS 軸で測った Rp は別物になる。本記事は報告ガイドライン原文・相互ラボ検証・2026年の SLIM対サイクリック直接比較を原典で確認し、DTIMS/TWIMS/TIMS/DMA/FAIMS の違い、分解能の読み方、 CCS がどこまで同定に使えるか、そして2026年の装置動向までを整理する。

マトリックス効果とイオン化抑制の対処 ― 犯人はリン脂質だけではないし、動くし、重水素標識の内標準にも穴がある
質量分析

マトリックス効果とイオン化抑制の対処 ― 犯人はリン脂質だけではないし、動くし、重水素標識の内標準にも穴がある

マトリックス効果の教科書的な説明は「液滴表面や気相で電荷を奪い合う」だが、Merck の機構研究は 「気相反応が主因である可能性は低く、不揮発性溶質が液滴の溶液物性を変えることが主因」と結論している。 対処も同じくらい誤解されている。希釈の効果は希釈倍率の対数にしか比例しない(初期抑制 80% を 20% 未満にするには 25〜40 倍)。リン脂質除去プレートは回収率と再現性を大きく改善するが、マトリックスファクターは液液抽出と同等だった。 そして最後の砦とされる安定同位体標識内標準にも穴がある ― 重水素標識は同位体効果で保持時間がわずかにずれ、 分析種と内標準が違う抑制を受けて比が崩れた実例が報告されている。本記事は原著論文とメーカー技術資料を 原典で確認し、犯人の特定・4つの対処の定量的な効き目・規制が実際に要求していることを整理する。

イオン源の選び方 ― 専用ESIと専用APCIは「別の89%」を拾う【2026年版】
質量分析

イオン源の選び方 ― 専用ESIと専用APCIは「別の89%」を拾う【2026年版】

イオン源の選定は「極性と分子量のチャートを見て決める」と教わる。しかし Agilent が公表した実測では、 医薬品と中間体のテストセットに対し専用APCI源が 89%、専用ESI源が 89% を検出し、しかもその 89% は 「別の 89%」だった。つまり ESI か APCI かの選択は、必ず取りこぼしを生む。本記事は NIST WebBook のプロトン親和力・イオン化エネルギーを一次データとして、ESI・APCI・APPI・EI・CI・NCI が 「気相でイオンにできる条件」を数値で整理し、そのうえで流量(ESI は 10 nL/min → 1 mL/min で 消費量 10万倍・シグナル 20倍)、マトリックス効果(イオン抑制で血漿濃度が最大 5.5 倍の過小評価)、 複合イオン源の妥協点、そして GC 側の 70 eV EI が抱える「NIST ライブラリの約 30% に分子イオンが無い」 という代償までを、メーカー技術資料と査読論文の原典から確認して示す。 出発点として、第十九改正日本薬局方〈2.62〉が EI に「分子量 1000 程度以下」、APCI に「1500 程度以下」と書きながら ESI にだけ上限を書かなかった理由を、多価イオンの式 m/z = M ÷ n + 1.007 で読み解く(分子量 148,000 の抗体は m/z 3,000 の四重極なら 50 価で届く。筆者計算)。

質量分析計の選び方 ― カタログの S/N 100 は、局方の式で計算し直すと 40 になる【2026年版】
質量分析

質量分析計の選び方 ― カタログの S/N 100 は、局方の式で計算し直すと 40 になる【2026年版】

質量分析計の選定は「どれが一番高感度か」では決まらない。測る対象が決まっているなら トリプル四重極(QqQ)のMRMが依然として定量の王道であり、決まっていないなら高分解能精密質量 (Orbitrap・Q-TOF)でしか後戻りできない。本記事は、Thermo・Agilent・SCIEX・Waters の 公表スペックを原典から拾って比較したうえで、カタログの感度スペックが なぜメーカー間で横並び比較できないのか(S/NとIDL、測定化合物と注入量、ノイズの定義)を 具体的に示す。ノイズを RMS で取るカタログの S/N と、ノイズ幅(最大−最小)で取る日本薬局方〈2.00〉の S/N は、同じピークでも約 2.5 倍ずれる。目的別の選択基準と、導入前に確認すべき設置条件までを整理する。

元素不純物とICP-MS ― 添加回収率 70 % を許すということは、限度の 1.43 倍まで見逃しうるということ【2026年版】
質量分析

元素不純物とICP-MS ― 添加回収率 70 % を許すということは、限度の 1.43 倍まで見逃しうるということ【2026年版】

JP19〈2.66〉の定量試験は、添加回収率の適合基準を「70 〜 150 %」と定めている。バイオアナリシス(ICH M10)の ±15 % と比べて 極端に緩く見えるが、この幅には意味がある。回収率 70 % の分析法で測ると、真の含量が目標限度値の 1.43 倍ある試料がちょうど限度値として報告される。 逆に回収率 150 % なら、限度値の 0.67 倍しかない試料が限度値に見える(筆者計算)。さらに併行精度 RSD 20 % が重なると、 1 回の測定では真値の 0.6 〜 1.4 倍が返りうる。つまり〈2.66〉の緩い基準は「測れない」ことを許しているのではなく、 管理閾値(PDE の 30 %)という別の安全代を前提に置いた設計である。 第十九改正日本薬局方(JP19)で一般試験法〈2.66 元素不純物〉が改正された。改正されたのは 「II. 元素不純物試験法」で、薬局方調和国際会議において新規に調和合意された内容が反映され、 三薬局方で調和された部分と日本薬局方が独自に規定する部分が条文上で区別されるようになった。 JP18と条文を突き合わせると判定基準の数値は変わっていない――変わったのは位置づけである。 本記事では改正の中身を原文で示し、あわせて元素不純物分析の実務を整理する。クラスとPDE、 目標限度値とJ、分析手順1(ICP-OES)と手順2(ICP-MS)の使い分け、密閉容器マイクロ波分解、 アルゴン塩化物によるヒ素の干渉とコリジョン/リアクションセル、そしてバリデーション要件まで。

ICH M10バイオアナリシス実務 ― ISR の「±20 %」は平均で割る式なので、普通の相対差なら +22 % と −18 % になる【2026年版】
質量分析

ICH M10バイオアナリシス実務 ― ISR の「±20 %」は平均で割る式なので、普通の相対差なら +22 % と −18 % になる【2026年版】

ISR(実試料再分析)の判定基準「乖離度 ±20 % 以内」は、差を初回値ではなく初回値と再分析値の平均で割る式で定義されている。 そのため許される比は 1.22 倍で、普通の相対差に直すと高い側 +22.2 %・低い側 −18.2 % になる(筆者計算)。 同じ式で LBA の ±30 % は 1.35 倍、+35.3 %/−26.1 %。初回値を分母にして計算すると、本来合格の試料を不合格と数える。 実施規模の規定も数字を追うと性格が見える。1000 試料までは 10 %、超えた分は 5 % なので、10,000 試料の試験では再分析率が 5.5 % まで下がる。 実試料分析の受入基準「2/3 かつ各濃度 50 %」も、3 濃度 × 2 重測定なら 2 個が外れる 15 通りのうち 3 通り(同じ濃度で 2 個とも外れる場合)だけが不合格になる。 生体試料中の薬物濃度を測るバイオアナリシスは、ICH M10ガイドラインが2024年12月4日に 国内通知され、従来のクロマトグラフィー法・リガンド結合法の2通知は廃止された。旧通知でも よいとされた移行期間は令和7年9月30日開始分までで、すでに終了している。つまり現在はM10一本である。 本記事では通知と原文を根拠に、適用範囲、フル/パーシャル/クロスバリデーションの使い分け、 検量線の6濃度・75%ルール、真度精度の±15%(定量下限±20%)、実試料分析の受入基準、 マトリックス効果とキャリーオーバー、そしてISR(実試料再分析)の実施規模と判定基準までを実務の順に整理する。

LC-MSトラブルシューティング ― 同じ 0.01 % のキャリーオーバーが、検量線を 3 桁から 4 桁に広げただけで不合格になる【2026年版】
質量分析

LC-MSトラブルシューティング ― 同じ 0.01 % のキャリーオーバーが、検量線を 3 桁から 4 桁に広げただけで不合格になる【2026年版】

ICH M10 はキャリーオーバーの受容基準を「ULOQ の直後のブランクで、LLOQ の応答の 20 % 以下」と書いている。 この基準は装置のキャリーオーバー率そのものではなく、検量線の幅で合否が決まる。ULOQ の 0.01 % が残る装置は、 検量線が 3 桁なら LLOQ の 10 % で合格、4 桁に広げると 100 % で不合格になる(筆者計算)。内標は「IS 応答の 5 %」で、 こちらは検量線の幅に依らない。本記事はこの一点を軸に、LC-MS が「昨日まで出ていた感度が出ない」「ブランクにピークが出る」 となったとき、勘に頼らず原因を切り分ける手順を整理する。ダイレクトインフュージョンで LC 側と MS 側を分ける divide-and-conquer、 感度低下の最頻原因であるイオン源汚染、見えない感度低下=イオン抑制(Bonfiglio 1999 のポストカラムインフュージョン、 Matuszewski 2003 の絶対/相対マトリックス効果、M10 の ±15 %)、TFA がシグナルを殺す機構と Apffel 1995 の対処、 PEG・フタル酸エステルなど背景汚染の代表 m/z、アダクトとインソース分解による誤同定までを、一次資料の原文で確認して書く。

【2026年4月施行】PFAS分析の実務ガイド ― 同位体希釈法で測る 40 物質のうち、自分の標識体を持つのは 24 物質しかない
質量分析

【2026年4月施行】PFAS分析の実務ガイド ― 同位体希釈法で測る 40 物質のうち、自分の標識体を持つのは 24 物質しかない

2026年4月1日、PFOS・PFOAが水道水の水質基準項目に格上げされ、水質検査が努力義務から 法的義務になる。基準値は合算50 ng/L、検査頻度はおおむね3か月に1回以上。ng/L の定量を成立させる 同位体希釈法は「目的物質と同じ挙動をする標識体」が前提だが、米国 EPA Method 1633A が測る 40 物質のうち 自分自身の標識体で補正できるのは 24 物質で、残り 16 物質は別の化合物の標識体で代用している。本記事は、告示法 (別表第45)の改正で何が変わったか(濃縮倍率10〜1000倍の柔軟化、標準液の冷凍6か月保存)を 押さえたうえで、ng/Lオーダーの定量を成立させる4つの技術的勘所 ― 固相抽出(WAX系/SDVB系)、 13C標識内部標準による同位体希釈法、PTFE排除とデイレイカラムによる装置由来汚染対策、 分岐異性体の扱い ― を実務目線で解説する。さらにTOPアッセイ・AOFといった総量指標と、 それらが捉えられない超短鎖TFAという死角、EPA・ISO・EU DWDとの国際比較までを整理する。

MALDIイメージング質量分析(MSI) ― 分解能を 10 倍上げると、1 ピクセルの分子は 100 分の 1 になる【2026年版】
質量分析

MALDIイメージング質量分析(MSI) ― 分解能を 10 倍上げると、1 ピクセルの分子は 100 分の 1 になる【2026年版】

組織切片の「どこに、どの分子が、どれだけ」あるかを標識フリーで可視化するMALDIイメージング質量分析(MSI)を、 原理から最前線まで出典つきで解説する。5〜10µmから単一細胞・サブミクロンへ進む空間分解能、 MALDI-2ポストイオン化とイオンモビリティ(timsTOF fleX)による高感度・異性体分離、SpaceM等の単一細胞メタボロミクス、 顕微鏡やイメージングマスサイトメトリーとのマルチオミクス統合、創薬の薬物分布や病理応用まで、入門者にも専門家にも届く形でまとめる。

質量分析の最新技術動向 ― 1 検体 4.8 分で、8,400 種を超えるタンパク質が同定できる【2026年版】
質量分析

質量分析の最新技術動向 ― 1 検体 4.8 分で、8,400 種を超えるタンパク質が同定できる【2026年版】

質量分析(MS)の最新動向を、アナライザーの動作原理から徹底解説する保存版。 Orbitrap Astralの「30mの非対称トラックとロスレス伝送(80%超)」がなぜ約10倍の速度・感度・分解能を生むのか、 timsTOFのTIMS/PASEFによる4Dプロテオミクス(保持時間×CCS×m/z×強度)、EAD/UVPD/SIDなど解離法の多様化、 DDA/DIA/狭窓DIAの取得戦略、メガダルトンを測るネイティブMS・電荷検出MS(CDMS)とAAV遺伝子治療QC、 そして単一細胞・空間オミクスのMSイメージングまで、2023〜2026年の最前線を入門者と専門家の双方に届ける。