医薬品の結晶多形と熱分析 ― 多形は観察できる対象であり、同時に測定を不能にする原因である【2026年版】
熱分析

医薬品の結晶多形と熱分析 ― 多形は観察できる対象であり、同時に測定を不能にする原因である【2026年版】

日本薬局方〈2.52〉熱分析法は、DSC で観察できる相転移の表に「同素体-結晶多形」を挙げている。ところが同じ節の数ページ先で、DSC による純度測定が適用できない場合として「実験温度範囲で不安定な多形を示す化合物又は溶媒和物」を挙げている。多形は熱分析の観察対象であり、同時に熱分析を成立させなくする原因でもある。矛盾ではない。加熱は観察ではなく操作だからだ。転移熱則と融解熱則、昇温速度が答えを変えること、水和物の型で脱水が変わること、そして測定前に溶媒と粉砕が形を決めていることを、局方と査読論文の原文にあたって整理する。

医薬品の固体は、同じ分子でありながら結晶の並び方が違う「結晶多形」を取ることがあります。多形が違えば溶解度が違い、 溶解度が違えば体内への吸収が違う。だから多形の管理は製剤開発の中心的な課題です。

その評価に熱分析(DSC・TGA)は欠かせません。日本薬局方〈2.52〉熱分析法も、DSC で観察できる相転移を表にまとめ、 その筆頭に多形を挙げています。

表2.52-1 固体-固体転移 同素体-結晶多形,脱溶媒和,非晶質-結晶 固体-液体転移 融解,ガラス転移 固体-気体転移 昇華 (第十九改正日本薬局方 一般試験法〈2.52〉熱分析法。強調は筆者)

ところが、同じ〈2.52〉の数ページ先には、こう書かれています。DSC による純度測定(van't Hoff 式を使う方法)が 使えない場合のリストです。

本方法は以下の場合には適用できない. -非晶性物質 -実験温度範囲で不安定な多形を示す化合物又は溶媒和物 -主成分物質と固溶体を形成する不純物 -主成分物質の液相や融解液に不溶な不純物 (同上。強調は筆者)

多形は、熱分析で「観察できる」ものとして表に載り、同じ章で「測定を成立させなくする」ものとして除外リストにも載っています。

これは局方の矛盾ではありません。熱分析における加熱が、観察の手段ではなく、試料に対する操作でもあるからです。 XRD が室温で「いま何の相があるか」を見るのに対し、DSC・TGA は温度を上げながら見ます。上げれば転移が起こる。 つまり熱分析が返す値は、「測る前の形」ではなく「その温度までに何が起きたか」です。

本記事は、この一点を軸に、医薬品の多形を熱分析で扱うときに何が決まり何が決まらないのかを、 局方と査読論文の原文にあたって整理します。多形を回折の側から定量する話は XRD(粉末X線回折)と結晶多形 ― 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う【2026年版】にまとめました。 同記事は「相転移の熱力学は DSC・TGA・DVS の役割」と書いて、その部分を本記事に残しています。

この記事の読み方

  • 製剤研究者・固体形を扱う方:4 節(転移熱則・融解熱則)と 5 節(昇温速度)が本題です。同じ試料から違う答えが出る理由を、 熱力学と動力学の区別として整理しています。
  • 熱分析を使う分析者:6 節(水和物の型と脱水)と 7 節(溶媒・粉砕)を。測定前に形が決まっているという話で、 試料調製の重みが変わります。
  • 入門者:1〜3 節だけでも、熱分析の値を「条件つきの結果」として読む習慣がつきます。 熱分析そのものの基礎は熱分析とは?DSC・TGA・TMA・DMAへ。

1. 局方は多形を「観察できる相転移」の筆頭に置いている

冒頭で引いた表 2.52-1 をもう一度見ます。DSC で観察できる相転移が 5 分類に整理され、固体-固体転移の例として 「同素体-結晶多形,脱溶媒和,非晶質-結晶」が並んでいます。

固体のまま起こる変化が観察できるのは、結晶の並び替えにもエネルギーの出入りがあるからです。多形間の転移は 吸熱または発熱として現れ、脱溶媒和は溶媒が抜ける吸熱として、非晶質からの結晶化は発熱として現れます。 DSC がこれらを一本の曲線の上で見分けられるのは、段差ではなくピークとして出るためです (段差とピークの違いはDSC徹底解説 ― 目立つのはピークだが、材料の限界を決めているのは段差のほうである【2026年版】で扱いました)。

また局方は、相変化について「温度の関数として認められる物質の相変化の温度,エンタルピー量,比熱変化の測定」ができると書いています。 つまり多形転移について熱分析が答えられるのは、「何℃で」「どれだけのエネルギーで」という 2 つです。 「いま何の形か」には答えていません。ここが回折との決定的な違いです。

2. 同じ節が「不安定な多形には純度測定を使えない」と書いている

〈2.52〉の「2.4.4. 純度の測定」は、DSC で純度を測る方法(融解の挙動と van't Hoff 式から不純物のモル分率を出す)を 説明したうえで、適用範囲をはっきり限定しています。

DSCでの純度測定は,主成分物質と共融混合物を作り,典型的な場合として測定試料中に2%未満のモル分率で存在する不純物の測定に限られる.

そして適用できない 4 つの場合を挙げ、その 2 番目が「実験温度範囲で不安定な多形を示す化合物又は溶媒和物」です。

理由は明快です。この方法は「融解だけが起きている」ことを前提に、融解の進行度と温度の関係から不純物量を逆算します。 ところが昇温中に多形転移や脱溶媒和が起これば、その吸発熱が融解の熱に重なります。 融解ピークの形が変われば、そこから計算した不純物量も変わる。多形が動く物質では、前提が壊れているのです。

💡 入門者向け:van't Hoff 法は「不純物が混じると融点が下がり、融解の途中でも液相の不純物濃度が変わっていく」という 性質を使います。純度が高いほど融解は狭い温度範囲で終わり、不純物が多いほど裾を引く。その裾の形を読む方法なので、 裾に別の現象が重なると使えません。

3. なぜ両方なのか ― 加熱は観察ではなく操作である

1 節と 2 節は矛盾していません。同じ性質の裏表です。

多形転移がエネルギーの出入りを伴う(=1 節)ということは、熱を加えれば転移が起こりうる(=2 節)ということです。 熱分析は、観察のために与えた熱そのものが、観察対象を変えてしまう可能性を常に持っています。

XRD(粉末X線回折) 熱分析(DSC・TGA)
与えるもの X 線 熱
測るもの 格子面間隔(どの相があるか) 熱流・質量(何が起きたか)
試料への影響 原則として非破壊 転移・脱溶媒・分解を起こしうる
答えられること いま何の形か、何 wt% か 何℃で、どれだけのエネルギーで変わるか
答えられないこと 相転移の熱力学 測定前の形そのもの

「測定前の形」を知りたいなら回折か分光、「どう変わるか」を知りたいなら熱分析。この役割分担を踏まえずに DSC の融点だけで多形を同定しようとすると、転移した後の形の融点を、元の形の融点として報告してしまいます。

4. エナンチオトロピーとモノトロピー ― 転移熱則と融解熱則

多形の関係は大きく 2 つに分かれます。

  • エナンチオトロピー(enantiotropy):ある温度(転移点)を境に、安定な形が入れ替わる関係。転移点より下では A が安定、 上では B が安定。昇温すると固体のまま転移する。
  • モノトロピー(monotropy):融点まで一方が常に安定な関係。準安定形は、いつでも安定形へ変わりうる(逆は起こらない)。

この 2 つを DSC の測定から判別する経験則が、Burger と Ramberger が 1979 年に提案した一連の規則です。代表的なものが 転移熱則(heat of transition rule)と融解熱則(heat of fusion rule)で、固体状態の教科書では 「吸熱的な固体-固体転移が観測されればエナンチオトロピー」「高融点形のほうが融解熱が大きければモノトロピー」 といった形で紹介されています。

⚠️ 本記事はこの 2 つの規則の具体的な判定式と、個々の医薬品の転移温度・融解熱の数値を掲載していません。 調査の過程で多数の数値が得られましたが、出典をたどると URL を持たない生成文書に行き着くものや、 書籍の無許諾公開サイトに置かれたものが混じっており、原典で確認できませんでした。 規則の原著(Burger, A.; Ramberger, R., Mikrochimica Acta, 1979)と、お手元の固体物性の教科書で確認してください。 本記事が数値つきで述べるのは、原典 URL を確認できた範囲に限っています。

判別の実務で押さえておきたいのは、エナンチオトロピーなら「昇温中に必ず転移が起こる温度がある」という点です。 2 節で局方が除外した「実験温度範囲で不安定な多形」は、まさにこの場合にあたります。

5. 昇温速度が答えを変える ― 熱力学と動力学

多形転移の厄介さは、熱力学が「どちらが安定か」を決めても、動力学が「実際に転移するか」を決めることにあります。 転移には核形成と成長の時間が必要なので、速く昇温すれば、転移する前に融けてしまうことがあります。

  • 遅い昇温:準安定形は転移する時間があり、安定形に変わってから融ける。観測される融点は安定形の融点。
  • 速い昇温:転移が追いつかず、準安定形のまま融ける。観測される融点は準安定形の融点(より低い)。

同じ試料から、昇温速度だけで違う融点が返ってきます。これは装置の不調でも試料の不均一でもなく、 測定条件が結果を決めている例です。だから局方〈2.52〉は、TGA について「実験条件は重要であり、以下のパラメーターは 測定ごとに記載する」として昇温速度を列挙し、DSC については測定結果に併記すべき 7 項目に 「温度変化の方向と速度」を含めています(この 7 項目は 熱分析の校正とトラブルシューティングで詳しく扱いました)。

多形を扱う測定では、昇温速度は「条件」ではなく「変数」です。複数の速度で測って挙動が変わるかを見ることが、 そのまま転移の有無の検出になります。速い側の極限を使う手法としてFlash DSC(毎秒オーダーの昇温)があり、 転移や再結晶を追い越して準安定形をそのまま観測する用途に使われます。

6. 水和物・溶媒和物は「型」で脱水挙動が変わる

多形と並んで実務を悩ませるのが水和物・溶媒和物です。局方の表でも「脱溶媒和」が固体-固体転移に挙げられていました。

ここで重要なのは、水が結晶構造の中でどう入っているかによって、脱水の起こり方が違うという点です。 ニトロフラントイン(難溶性の抗菌薬)と 4-アミノピリジンの塩を扱った研究では、同じ組み合わせから水和数の違う 3 つの固体形が作り分けられています。

The crystallization of the poorly soluble drug nitrofurantoin (NFT) with 4-aminopyridine (4AmPy) resulted in three multicomponent solid forms with different hydration levels: anhydrous salt (1:1), salt monohydrate (1:1:1), and salt tetrahydrate (1:1:4). … The [NFT+4AmPy+H₂O] salt (1:1:1) crystallized as an isolated site hydrate, while the [NFT+4AmPy+H₂O] salt (1:1:4) crystallized as a channel hydrate. The dehydration processes of the NFT salt hydrates were investigated using differential scanning calorimetry and thermogravimetric analysis.

(難溶性薬物ニトロフラントインと 4-アミノピリジンの結晶化により、水和レベルの異なる 3 つの多成分固体形が得られた。 無水塩(1:1)、一水和物(1:1:1)、四水和物(1:1:4)である。…一水和物は孤立サイト型水和物として、 四水和物はチャネル型水和物として結晶化した。これら水和物の脱水過程を DSC と TGA で調べた。 Pharmaceutics, 2022(PMC9783863)より。訳・強調は筆者)

孤立サイト型は水分子が構造中の離れた場所に個別に収まっている型、チャネル型は水が管状の空隙に連なって入っている型です。 チャネル型は水の逃げ道があるため比較的低温から連続的に抜け、孤立サイト型は格子を壊さないと抜けないため、 脱水のしかた(温度・段数・急峻さ)が違ってきます。

TGA の質量減少からは、抜けた水の量(化学量論)が読めます。1:1:1 なら水 1 分子分、1:1:4 なら 4 分子分。 質量減少率を計算値と突き合わせれば、どの水和物だったかを裏づけられます——これは TGA徹底解説 ― 50 ℃/min で測ったほうが、10 ℃/min より分離がよかった【2026年版】で扱った 「減った量が何に相当するか」の考え方そのものです。

7. 測る前に形が決まっている ― 溶媒と粉砕

熱分析に持ち込む前の工程が、すでに形を決めています。ここを押さえずに DSC のピークを議論しても、 何の形を測ったのかが分かりません。

結晶化の溶媒が形を選ぶ

抗 HIV 薬リトナビルは、製剤化後に別の多形が出現して市場から一時回収された「消えた多形(disappearing polymorph)」の 代表例です。その結晶化を溶媒別に調べた研究は、こう報告しています。

Recrystallization at high supersaturation by rapid cooling at 283.15 K is found to produce the metastable "disappeared" polymorphic form I from acetone, ethyl acetate, acetonitrile, and toluene solutions in contrast to ethanol which produces the stable form II.

(283.15 K での急冷による高過飽和下の再結晶では、アセトン・酢酸エチル・アセトニトリル・トルエン溶液からは 準安定な「消えた」多形 Form I が得られ、対照的にエタノールからは安定な Form II が得られる。 Crystal Growth & Design, 2024(PMC11220793)より。訳・強調は筆者)

同じ薬物・同じ冷却操作でも、溶媒を変えると出てくる形が変わります。熱分析はこの後工程なので、 「どの溶媒から、どう晶析したか」が分からない試料の DSC 曲線は、解釈の土台を欠いています。

粉砕が形を変える

試料調製の粉砕も改変です。6 節の研究では、無水塩を水の存在下で粉砕したら四水和物に変わったことが報告されています (液体補助粉砕、LAG)。粉砕は「均一にするための準備」ではなく、固体形を変えうる操作です。 同じ問題は回折側でも指摘されており、XRD と結晶多形では 「粉砕は準備ではなく、改変である」として一節を割いています。

そもそも熱に弱い薬物が多い

もう一歩進んだ事情もあります。共アモルファス製剤の総説は、非熱的手法が広まった理由をこう書いています。

Since many APIs are thermosensitive, non-thermal emerging alternative techniques, such as mechanical activation by milling, have become increasingly common as a preparation method for drug formulations.

(多くの API は熱に感受性があるため、ミリングによる機械的活性化のような非熱的な新興技術が、 製剤の調製法としてますに一般的になってきている。Pharmaceutics, 2022(PMC9607342)より。訳・強調は筆者)

「熱に弱いから加熱しない方法で作る」という流れがある一方で、その製剤を評価する側は加熱して測っている—— この非対称が、多形評価で熱分析を使うときの根本的な緊張です。

8. 結局、どう組み合わせるか

役割分担は 3 節の表のとおりですが、実務の順番としてはこうなります。

知りたいこと 主に使う手法
いま何の形が、どれだけあるか XRD(定量は相ごとに検出限界が違う)
何℃で、どちらへ、どれだけのエネルギーで変わるか DSC
抜けたのは水か溶媒か、何分子分か TGA(+発生ガス分析)
転移の途中の構造 XRD-DSC 同時測定、ホットステージ顕微鏡
非晶質の物理的安定性 DSC(Tg) + 保存試験

DSC で異常なピークが出たら、その温度で止めて回折を測る——これが多形評価の基本動作です。 熱分析は「変化が起きた温度」を教えてくれますが、「変化後が何か」は回折か分光でしか決まりません。

なお ICH Q6A は、原薬と製剤で多形の扱いを分けた判定樹を持っており、固体形の特性評価では X 線粉末回折を筆頭に、DSC・熱分析、顕微鏡、分光を挙げています(詳細はXRD と結晶多形の 13 節)。

分析者の視点

  • DSC の融点で多形を同定しない。昇温中に転移している可能性が常にある。融点は「その昇温速度で、その形から出発したときに 観測された値」として報告する。
  • 昇温速度を変えて 2 回測る。挙動が変われば転移が関与している。変わらなければ、少なくともその速度域では安定と言える。 多形を扱うとき、昇温速度は条件ではなく変数である。
  • TGA を必ず併走させる。吸熱ピークに質量減少が伴えば脱溶媒和、伴わなければ転移か融解。局方が除外した 「溶媒和物」を見分ける最短経路がこれである。
  • 試料の履歴を記録する。どの溶媒から晶析したか、粉砕したか、湿度にどれだけ晒したか。これが分からない試料の 熱曲線は解釈できない。局方が測定結果に「試料の量と来歴(熱履歴を含む)」の併記を求めているのは、この理由による。
  • 純度測定に使う前に、多形の安定性を確認する。局方が明示的に除外している組み合わせなので、 ここを飛ばすと規格外の判定を自分で作ってしまう。

まとめ

  • 日本薬局方〈2.52〉は、DSC で観察できる相転移の表に「同素体-結晶多形」を挙げている。熱分析は多形転移の 温度とエンタルピーに答えられる。
  • 同じ〈2.52〉は、DSC による純度測定が適用できない場合として「実験温度範囲で不安定な多形を示す化合物又は溶媒和物」を 挙げている。多形は観察対象であり、同時に測定を不能にする原因でもある。
  • 矛盾ではない。熱分析の加熱は観察の手段であると同時に、試料に対する操作である。だから熱分析が返すのは 「測定前の形」ではなく「その温度までに何が起きたか」である。
  • エナンチオトロピーなら昇温中に必ず転移する温度がある。そして転移は動力学に支配されるので、 速く昇温すれば転移前に融け、遅く昇温すれば転移後に融ける。同じ試料から違う融点が返る。
  • 水和物は「型」で脱水挙動が変わる。同じ薬物の塩から孤立サイト型の一水和物とチャネル型の四水和物が作り分けられた例がある。 TGA の質量減少を化学量論と突き合わせれば、どの水和物かを裏づけられる。
  • 測る前に形が決まっている。リトナビルは溶媒を変えるだけで準安定形と安定形が分かれ、無水塩は水存在下の粉砕で 四水和物に変わる。試料の履歴が分からない熱曲線は解釈できない。
  • 実務では XRD が「何の形か」、熱分析が「どう変わるか」に答える。DSC で異常が出たらその温度で止めて回折を測る。

未確認・限界

  • Burger-Ramberger 則の具体的な判定式と、個々の医薬品(カルバマゼピン・インドメタシン・ファモチジン等)の 転移温度・融解熱の数値は掲載していません。調査で多数の数値が得られましたが、出典をたどると URL を持たない生成文書や書籍の無許諾公開サイトに行き着き、原典で確認できませんでした。 規則は原著(Burger & Ramberger, Mikrochimica Acta, 1979)で、数値は各原著論文で確認してください。
  • 昇温速度と観測融点の関係(速いと準安定形のまま融ける/遅いと転移後に融ける)は、多形の熱分析で 広く知られた挙動として記述しました。特定の化合物での実測値を原典で確認したうえで示してはいません。
  • 孤立サイト型とチャネル型で脱水挙動が違うという説明のうち、「チャネル型は低温から連続的に抜け、 孤立サイト型は格子の崩壊を伴う」という一般化は、水和物の構造分類から導かれる説明です。 引用した研究(PMC9783863)は 3 形態の脱水を DSC/TGA で調べたと述べていますが、 本記事はその測定値(脱水温度・質量減少率)を引用していません。
  • XRD-DSC 同時測定やホットステージ顕微鏡の具体的な装置・性能は扱っていません。
  • ICH Q6A の判定樹の詳細は本記事では扱わず、XRD と結晶多形に委ねています。
  • リトナビルの事例は 2024 年の研究に基づく再結晶実験の結果であり、1998 年に実際に起きた製剤問題の経緯そのものを 検証したものではありません。

用語集

  • 結晶多形(polymorph):同じ分子が異なる結晶構造を取ること。溶解度・安定性・吸収性が変わる。
  • エナンチオトロピー:転移点を境に安定な形が入れ替わる多形の関係。昇温すると固体のまま転移する。
  • モノトロピー:融点まで一方が常に安定な関係。準安定形から安定形への一方通行。
  • 準安定形:熱力学的には安定でないが、動力学的に存在し続けている形。
  • 転移熱則・融解熱則(Burger-Ramberger 則):DSC の観測からエナンチオトロピー/モノトロピーを判別する経験則。
  • 消えた多形(disappearing polymorph):ある形が出現して以降、元の形が再現できなくなる現象。リトナビルが代表例。
  • 水和物・溶媒和物:結晶構造の中に水または溶媒分子を含む固体形。
  • 孤立サイト型水和物:水分子が構造中の離れた位置に個別に収まっている型。
  • チャネル型水和物:水分子が管状の空隙に連なって入っている型。
  • 脱溶媒和:加熱により結晶中の水・溶媒が抜ける現象。TGA では質量減少、DSC では吸熱として現れる。
  • 共アモルファス(co-amorphous):2 成分以上を非晶質として混合し、溶解性を高めた固体形。
  • 液体補助粉砕(LAG):少量の液体を加えて粉砕する方法。固体形の変換に使われる。
  • van't Hoff 法:融解の進行度と温度の関係から不純物のモル分率を求める、DSC による純度測定法。

出典

  1. 第十九改正日本薬局方 一般試験法〈2.52〉熱分析法(厚生労働省、2026年4月10日告示・同日適用)― 表2.52-1(DSC で観察できる相転移。固体-固体転移の例として「同素体-結晶多形,脱溶媒和,非晶質-結晶」)、2.4.1 相変化(相変化の温度・エンタルピー量・比熱変化を測定できる)、2.4.4 純度の測定(2 % 未満のモル分率に限られること、適用できない 4 つの場合=非晶性物質/実験温度範囲で不安定な多形を示す化合物又は溶媒和物/固溶体を形成する不純物/融解液に不溶な不純物)、DSC の測定結果に併記する 7 項目、TGA で測定ごとに記載するパラメーター。 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001689414.pdf
  2. New Solid Forms of Nitrofurantoin and 4-Aminopyridine Salt: Influence of Salt Hydration Level on Crystal Packing and Physicochemical Properties, Pharmaceutics, 2022 ― ニトロフラントイン+4-アミノピリジン塩の無水塩(1:1)/一水和物(1:1:1、孤立サイト型)/四水和物(1:1:4、チャネル型)の作り分けと、DSC・TGA による脱水過程の調査、液体補助粉砕(LAG)による相変換。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9783863/
  3. Mechanical Activation by Ball Milling as a Strategy to Prepare Highly Soluble Pharmaceutical Formulations in the Form of Co-Amorphous, Co-Crystals, or Polymorphs, Pharmaceutics, 2022 ― 「多くの API は熱に感受性がある(many APIs are thermosensitive)」ため、ミリングによる機械的活性化のような非熱的手法が製剤調製法として一般化してきたという整理。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9607342/
  4. Influence of Solvent Selection on the Crystallizability and Polymorphic Selectivity Associated with the Formation of the "Disappearing" Polymorph of Ritonavir, Crystal Growth & Design, 2024 ― 283.15 K の急冷による高過飽和下の再結晶で、アセトン・酢酸エチル・アセトニトリル・トルエンからは準安定な Form I、エタノールからは安定な Form II が得られること。 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11220793/
  5. Burger, A.; Ramberger, R., Mikrochimica Acta, 1979 ― 転移熱則・融解熱則を含む、多形の熱力学的関係の判別規則の原著(本記事では書誌のみを示し、判定式は引用していません。未確認・限界の節を参照)。

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