TMA・DMAの実務 ― Tg は「136 °C(DSC)」のように装置名とセットでしか報告できない【2026年版】
熱分析

TMA・DMAの実務 ― Tg は「136 °C(DSC)」のように装置名とセットでしか報告できない【2026年版】

ガラス転移温度 Tg は、材料が持つ一つの数値ではない。プリント配線板の公開試験法 IPC-TM-650 は「TMA・DSC・DMA で求めた Tg は、測っている物理量が違うので大きく異なりうる」 と明記し、そのうえで「報告する Tg 値のうしろに、使った試験装置を書け(例:136 °C; DSC, TMA, or DMA)」 と要求している。しかも同じ試験法マニュアルの隣り合う2つの方法が、その差を「最大20 °C」と 「最大10 °C」と別の数字で書いている。本記事は、同一のポリカーボネートを DSC・MDSC・TMA・DMA で 測った実測表、DMA の中だけでも3つ出てくる Tg(E' オンセット 141.8 °C / E'' ピーク 147.1 °C / tanδ ピーク 151.5 °C)、そして荷重・昇温速度・前処理・異方性という測定条件までを、 無償で読める一次資料の条文で追う。

材料のカタログには「Tg 150 °C」と書いてあります。規格書には「Tg 170 °C 以上」と書いてあります。どちらも一つの数値です。

ところが、その数値を出すための公開試験法を開くと、こう書かれています。

DSC は試料の熱容量を測り、TMA は試料の膨張を測り、DMA は試料の剛性を測る。TMA・DSC・DMA から求めた Tg は、測っている物理的性質が異なるため、大きく異なりうる。その結果、報告する Tg 値のうしろに、使用した試験装置を明記すべきである(例:136 °C; DSC, TMA, or DMA)

プリント配線板業界の試験法マニュアル IPC-TM-650 の一節です。Tg は、装置名を添えなければ報告できない量だと、試験法自身が宣言しています。

そして、ここからが本題です。同じ IPC-TM-650 の、同じ日付で発行された隣り合う2つの試験法が、この「大きく異なりうる」の幅を別の数字で書いています。DMA 法(2.4.24.4)は「最大20 °C」、TMA 法(2.4.24.5)は「最大10 °C」。文章はほとんど同じで、数字だけが違う。

本記事は、この差がどこから来るのかを、実測値と試験条件で追います。

この記事の読み方

  • 入門者の方は「TMA と DMA は何を測っているのか」「同じ試料を4つの手法で測る」の2節で全体像がつかめます。
  • 材料技術者・分析者の方は「DMA の中だけでも3つの答えがある」以降、とくに荷重・昇温速度・異方性の節を。カタログ値の読み方が変わります。
  • 数値はすべて、無償で全文が読める一次資料(IPC-TM-650 の試験法本文、査読論文)か、メーカーの公開アプリケーションノートから取りました。取得経路に制約があったものは「未確認・限界」に分けています。

TMA と DMA は何を測っているのか

DSC・TMA・DMA の比較表。DSC は熱のみを加えて熱流(熱容量)を測り、Tg は段差状の変化として現れる。TMA は一定の静的荷重を加えて寸法(膨張・変形)を測り、Tg は熱膨張率の折れ曲がりとして現れる。DMA は正弦波の振動荷重を加えて剛性と減衰を測り、Tg は貯蔵弾性率の低下と損失の極大として現れる
図解:3手法の対比 ― 同じ転移を、熱・寸法・力学という別々の窓から見ている。

熱分析でよく並べられる4つの手法は、同じ加熱をしながら別の物理量を見ています

手法 加える刺激 測っている量 Tg をどう捉えるか
DSC 熱のみ 熱流(熱容量) 熱容量が段差状に変化する
TMA 一定の静的荷重 寸法(膨張・変形) 熱膨張率(傾き)が変わる
DMA 正弦波の振動荷重 剛性と減衰 貯蔵弾性率が落ち、損失が極大になる
  • TMA(熱機械分析)は、試料に一定の静的な荷重をかけたプローブを乗せ、温度を上げながら寸法の変化を追います。ガラス状態からゴム状態に移ると自由体積が増えるので、熱膨張率が変わり、変位曲線の傾きが変わる。その折れ曲がりが Tg です。副産物として、というより本命として、線膨張係数(CTE)が得られます。
  • DMA(動的粘弾性測定)は、静的荷重の代わりに正弦波の振動を与えます。試料は駆動に対してわずかに遅れて変形するので、その位相のずれと変形量から、弾性的な成分=貯蔵弾性率 E' と、粘性的な成分=損失弾性率 E'' が分離できます。両者の比が tanδ = E'' / E'(損失正接)です。

国内メーカーの技術報告も、この関係を簡潔にまとめています。利昌工業の技術報告は、DMA を「一様で一方向の負荷を与える通常の力学試験に対し、振動を与えるのが特徴」と説明し、TMA を「静的な荷重を加えてその物質の変形を温度または時間の関数として測定する方法」と定義しています。

DSC は熱、TMA は寸法、DMA は力学。同じ転移を3つの窓から見ている、という構図です。

試験法が「装置名を書け」と要求している

IPC-TM-650 の2つの試験法の食い違い。DMA法 2.4.24.4 は Tg が「大きく異なりうる(最大20℃)」と書き、TMA法 2.4.24.5 は同じ文で「最大10℃」と書いている。旧版1994年の例示は3.8℃。いずれも結論は報告時の装置名明記で、例は 136℃; DSC, TMA, or DMA
図解:同じマニュアルの隣り合う試験法が、幅を「最大20 ℃」と「最大10 ℃」で書き分けている。一致しているのは「装置名を書け」だけ。

冒頭に引いた一節を、原文で確認します。IPC-TM-650 の DMA 法(2.4.24.4、1998年11月)の注記 6.2 は、こう書いています。

有機材料の Tg を決定する方法はいくつかある:示差走査熱量測定(DSC)、TMA、DMA。(中略)DSC は試料の熱容量を測定し、TMA は試料の膨張を測定し、DMA は試料の剛性を測定する。TMA、DSC、DMA から求めた Tg は、それぞれ異なる物理的性質を測定しており、それらは試料が Tg を通過するときに異なる変化をするため、大きく異なりうる(最大 20 °C)。結果として、報告される Tg 値のうしろに、使用した試験装置を明記すべきである(すなわち、136 °C; DSC, TMA, or DMA)。

TMA 法(2.4.24.5、同じ1998年11月)の注記 6.2 は、ほぼ同文でこう書いています。

(前略)大きく異なりうる(最大 10 °C)。結果として、報告される Tg 値のうしろに、使用した試験装置を明記すべきである(すなわち、136 °C; DSC, TMA, or DMA)。

同じ発行月の、同じマニュアルの、隣り合う番号の試験法が、同じ文章のカッコの中だけ「20 °C」と「10 °C」で食い違っています。どちらが正しいかは、この2文書からは決められません。

さらに古い版(2.4.24C、1994年12月、TMA による Z 軸熱膨張)の注記 6.2 は、幅を書かない代わりに具体的な数値の組を挙げています。

ある材料の Tg は、DSC で測定した場合と TMA で測定した場合とで大きく異なることがある。報告するガラス転移値のうしろに、使用した試験装置を明記すべきである。すなわち、136.4°(DSC)または 132.6°(TMA)。

ここでは差が 3.8 °C です。「最大20 °C」「最大10 °C」「例示は3.8 °C」――同一の規格体系の中で、3つの異なる数字が並んでいる。

この不一致自体を責めるべきではないと思います。むしろ読み取るべきは、幅を一意に決められないことこそがこの量の性質だ、ということです。だから3つの文書のすべてが、幅の数字ではなく「装置名を書け」という同じ指示で終わっています。数字は揺れるが、指示は揺れていません。

同じポリカーボネートを4つの手法で測る

同一のポリカーボネートのオンセット Tg を温度軸上に並べた図。TMA(0.5 g荷重)140.2℃、DMA(3℃/min、1 Hz)141.8℃、DSC(20℃/min)144.0℃、MDSC 144.0℃。代表値の取り方まで含めると140.2〜153.5℃に分散する。TMA では Tg 以上で熱膨張と材料の軟化が競合する
図解:同じ材料、4つの手法 ― オンセットだけで 140.2〜144.0 ℃、代表値の取り方まで含めれば約13 ℃の幅になる。

では実測ではどうなるのか。TA Instruments のアプリケーションノート TA082 が、同一のポリカーボネートを DSC・MDSC・TMA・DMA で測った表を載せています。

手法 測定条件 オンセット (°C) 中点 (°C) 終点 (°C)
DSC 20 °C/min 144.0 148.0 149.1
MDSC 5 °C/min、振幅 ±0.5 °C、周期 50 s 144.0 148.6 153.5
TMA 0.5 g 荷重 140.2
DMA 3 °C/min、1 Hz 141.8 147.1 151.5

同じ材料で、オンセットだけを見ても 140.2〜144.0 °C代表値の取り方まで含めれば 140.2〜153.5 °C に散らばります。幅は約 13 °C。IPC の「最大10 °C」と「最大20 °C」のちょうど中間に落ちています。

TMA の値の決め方について、ノートはこう書いています。

TMA は一般に、ガラス転移で材料の自由体積が変化することによって生じる熱膨張係数の変化にもとづいてガラス転移を測定するために用いられる。

図11 は 3 °C/min で加熱したポリカーボネートの Tg を示しており、ここで Tg は膨張の速度(傾き)が変化し始める点(オンセット)として 140.2 °C と定義されている。

そして、TMA に固有の注意も述べられています。

このポリカーボネート試料では、多くの熱可塑性樹脂と同様に、Tg 以上での膨張係数はあまり素直な挙動をしない。材料の軟化が、熱膨張によるプローブの動きを打ち消してしまうからである。

TMA は Tg を超えると、膨張と軟化(沈み込み)が同時に起きて競合します。これは TMA で高温側の CTE を読むときの本質的な難しさで、後述する荷重の選び方に直結します。

DMA の中だけでも、3つの答えがある

ポリカーボネートの DMA 曲線上に3つの Tg を示した図。E'(貯蔵弾性率)オンセット 141.8℃、E''(損失弾性率)ピーク 147.1℃、tanδ(損失正接)ピーク 151.5℃。必ずこの順に高くなり、両端で9.7℃の差がある。ガラス転移は一点ではなく温度範囲である
図解:1本の測定から3つの Tg ― 必ずこの順に高くなる。両端で 9.7 ℃ 開く。

ここからが DMA 固有の話です。DMA では、同じ1本の測定から3つの Tg が出てきます

同じ TA082 のポリカーボネート(3 °C/min、1 Hz)で、

読み方 Tg
E'(貯蔵弾性率)のオンセット 141.8 °C
E''(損失弾性率)のピーク 147.1 °C
tanδ のピーク 151.5 °C

必ずこの順に高くなります。E' オンセットが最も低く、tanδ ピークが最も高い。今回の例では両端で 9.7 °C 開いています。

これは装置の誤差ではありません。ガラス転移が一点ではなく温度範囲だからであり、3つの読み方はその範囲の別々の場所を指しています。

どれを使うか ― 3つの読み方には別々の意味がある

目的と読み方の対応図。荷重を支えられるかを知りたいなら最も安全側の E' オンセット、物性としての Tg(化学的定義)なら E'' ピーク、制振性や過去データとの照合なら tanδ ピーク。実務事例として ACS Omega 2026 のエポキシ研究は ASTM E1640 に従い tanδ ピークを明記して使用し、DMA の値は DSC より一貫して高いが配合間の順位は一致した
図解:用途で読み方を選ぶ ― 「どれが正しいか」ではなく「どれが目的に合うか」。

「どれが正しいのか」ではなく「どれが自分の目的に合うのか」です。TA082 は、3つそれぞれの意味をはっきり書いています。

それぞれの値は、特定の用途との関係で意味を持つ。E'(貯蔵弾性率)のオンセットは、材料の強度が低下し始める温度、すなわち材料が変形せずに荷重を支えられなくなり始める温度を定義する。損失弾性率(E'')のピークは、高分子の運動性の変化が最大になる温度であり、これは Tg の化学的な定義に対応する損失正接(tanδ)のピークは材料の制振特性を表し、また歴史的な意味も持つ。tanδ は最初に定量化された DMA の特性であり、DMA の Tg の参照データの多くが tanδ ピーク温度にもとづいているからである。

実務への翻訳はこうなります。

目的 読むべきもの 理由
その温度で荷重を支えられるか(構造材、はんだリフロー耐性、使用上限温度) E' オンセット 最も低い=最も安全側。強度が落ち始める点
物性としての Tg を議論したい(分子運動性、硬化度の比較) E'' ピーク 化学的定義に対応する
制振性を見たい/過去データと比較したい tanδ ピーク 参照データの多くがこれ。最も高い値が出る

ここに、カタログ値をめぐる実務上の摩擦の正体があります。材料メーカーが tanδ ピークで「Tg 151 °C」と書き、ユーザーが E' オンセットで測って「142 °C しかない」と言う。どちらも間違っていません。同じ測定の別の場所を読んでいるだけです。

だから IPC は装置名を書けと言い、ASTM E1640 のような規格はどの読み方を採ったかまで記載させます。実際、2026年に ACS Omega に出たエポキシシーラントの研究は、「ASTM E1640 に従って tanδ ピークを用いて動的ガラス転移温度(DTg)を決定する」と明記したうえで、測定条件も剪断モード・1 Hz・2 °C/min・ひずみ 0.1 %・−40〜150 °C と全部書いています。

この研究では、同じ配合系について DSC でも Tg を測っており、DMA(tanδ)の値が DSC の値より一貫して高くなりました。

配合 DSC Tg(°C) DMA Tg(tanδ, °C)
100 wt % 63.8 75.3
90 wt % 64.2 76.1
80 wt % 59.1 71.9
70 wt % 52.9 65.3

著者らは差を「約10 °C」と表現しています。注意すべきは、DSC は養生13週後、DMA は養生8週後の試料だという点です。硬化が進むほど Tg は上がるので、もし同じ養生期間で比べれば、この差はさらに広がる方向になります。それでも配合間の順位は DSC と DMA で一致しており、絶対値は手法に依存するが、比較には使えるという、実務でいちばん使える性質が出ています。

周波数を上げると Tg は上がる

周波数と Tg の関係図。ガラス転移は緩和現象なので、速く揺らすほど分子が追随できず、より高い温度でゴム状へ移行する。昇温速度も影響し、DSC では10倍速で約2℃上昇する。DMA の Tg は何 Hz で測ったかの記録が必須で、IPC 規格は 1 Hz・2℃/min に固定している
図解:周波数を書かない DMA の Tg は比較できない ― IPC が 1 Hz・2 °C/min に固定している理由。

DMA には、DSC にも TMA にもない変数があります。周波数です。

ガラス転移は緩和現象なので、速く揺らすほど、分子は追随できなくなり、より高い温度でないと「ゴム状」に見えません。したがって DMA の Tg は周波数とともに上がります

これが、IPC-TM-650 の DMA 法が「試験片は 2 °C/min、振動周波数 1 Hz で走らせること(shall)」と条件を固定している理由です。周波数を書かない DMA の Tg は、比較可能な数値になりません。

「その Tg は何 Hz で測ったのか」は、DMA のカタログ値を見るときの最初の質問です。

なお昇温速度も効きます。TA082 は DSC についてですが、5 °C/min より下でも Tg は昇温速度とともに動き続け、その変化はおよそ「昇温速度が10倍で 2 °C」であり、これはガラス転移の速度論に由来すると述べています。装置由来の効果(セル質量や熱伝達)は10倍あたり約 0.1 °C と小さく、大部分は試料の熱伝導と転移の速度論だとしています。

熱分析の Tg は、材料の性質と測定条件の合成物です。

TMA が測っているのは自由体積 ― CTE と Tg

TMA の寸法変化曲線。転移の下と上で傾きの違う2本の接線を引き、その交点の温度を Tg とする。傾きそのものが線膨張係数 CTE(ppm/℃)で、Tg の上と下で別々に報告する。1回目のスキャンは履歴消去用でデータには採用せず、IPC は1回目10℃/min、2回目5℃/min を規定している
図解:TMA の Tg は接線の交点 ― 返ってくるのは一点ではなく、傾きの違う2本の直線である。

TMA 側に戻ります。IPC-TM-650 2.4.24C は、TMA の手順を極めて具体的に決めています。

  • 荷重:0.1 g 〜 10.0 g
  • 開始温度:35 °C 以下(23 °C 推奨)
  • 昇温速度:特に指定がなければ 10 °C/min
  • 温度範囲:予想される転移領域より少なくとも 30 °C 高くまで
  • 前処理:105 ± 2 °C で 2 ± 0.25 時間ベークし、デシケーター中で室温まで冷却

Tg の決め方は、DMA ともDSC とも違う接線の交点です。

TMA のプロットから、試料の厚さを4点で記録する。温度「A」は室温よりわずかに高い点(例:25 °C)、温度「B」と「C」は、それぞれ転移領域のすぐ下とすぐ上の直線部分にとる。温度「D」は、はんだ付け工程のような関心のある温度を代表する点として選ぶ。特に指定がなければ温度「D」は 250 °C とする。 点 A と B を通る直線と、点 C と D を通る直線が交わる点を求める。その接線が交わる温度が Tg である。

そして CTE は Tg の上と下で別々に、ppm/°C 単位で報告します。TMA が返すのは「Tg」という一点ではなく、転移の下と上で傾きの違う2本の直線であり、Tg はその交点にすぎません。

残留応力への注意も明記されています。

残留応力が原因でガラス転移点において急激で不可逆な変位が生じる場合には、同じ試料あるいは新しい試料で2回目のスキャンを行うこと。

新しい方の TMA 法(2.4.24.5)はさらに厳しく、2回の加熱サイクルを規定しています。1回目は 10 °C/min、2回目(報告に使うデータ)は 5 °C/min。1回目で異常な収縮(熱的な応力緩和)が出る場合は、2回加熱が必須になります。

1回目のスキャンは、試料の履歴を消すための工程であって、データではない。これは DSC の「ファーストヒートとセカンドヒート」とまったく同じ思想ですが、TMA では成形や積層で入った応力が寸法変化として直接出るぶん、より露骨に効きます。

面内と厚み方向は、同じでない

積層板の異方性の図。厚み方向(Z軸)と面内(X・Y方向)で CTE と挙動が異なるため、方向を落とした単一の CTE 数値は情報として意味を持たない。IPC 規格は異方性材料について X と Y の両方向での試験を要求している
図解:強化材が入ると「この材料の CTE」が成立しなくなる ― 方向を書かなければ数値の意味が決まらない。

TMA と DMA を語るときに落としがちなのが異方性です。IPC-TM-650 2.4.24.5 は、これを試験の分岐として明文化しています。

等方性(強化材なし)の材料では、いずれの方法(A = 厚い試料、B = 薄い試料)を用いてもよい。異方性(強化材あり)の材料では両方の方法を用いなければならない。Z 軸の膨張(方法 A)は x-y 軸の膨張(方法 B)と同じではないからである。

ガラスクロスで補強された積層板では、面内はガラス繊維に拘束されて膨張が小さく、厚み方向は樹脂の膨張がそのまま出ます。同じ板の CTE が、方向によって桁で違う。プリント配線板でスルーホールの断線が問題になるのは、この Z 軸 CTE が効くからで、だからこそ 2.4.24C の表題が「Z 軸熱膨張」になっています。

DMA 側も同様で、2.4.24.4 は「異方性材料(強化された誘電体)では、x 方向と y 方向で弾性率対温度の挙動が異なる。異方性材料は x と y の両方向で試験しなければならない」と規定しています。

「この材料の CTE」「この材料の Tg」という言い方は、強化材が入った瞬間に成立しなくなる。方向を書かなければ数値の意味が決まりません。

試料形状とモードの選び方

DMA の測定モード選択の分岐図。厚く剛性のある材料は方法A(曲げモード)、薄く柔軟な材料は方法B(薄膜引張モード)。鉄則として、変な形の曲線が出たらまず試料の履歴(残留応力)を疑う
図解:モードは好みではなく、試料の剛性が装置の測定レンジに入るかで決まる。

DMA は、試料の硬さと形で測定モードを変えます。IPC-TM-650 2.4.24.4 は厚みで2つに分けています。

方法 モード 試料寸法 適用
方法 A 曲げ(flexural bending) 幅 8〜12 mm、長さ 20〜40 mm、厚さ 1〜2 mm(最低 0.5 mm) 厚い試料。長さ/厚さ ≥ 10/1 を保つ
方法 B 薄膜引張(thin film tension) 長さ 15〜20 mm、幅 2 mm 0.5 mm 未満の薄い試料。HDI・マイクロビアの誘電体層に推奨

厚さ 0.5 mm が分岐点です。薄いものを曲げで測ろうとしても剛性が足りず、厚いものを引張で測ろうとしても装置の力が足りません。モードの選択は好みではなく、試料の剛性が装置の測定レンジに入るかどうかで決まります。

DMA 特有の落とし穴も注記されています。

引張モードでは、(中略)張力が加わることで試料が伸びることがある。Tg 以上の試料は非常に軟らかくなり、引き伸ばされてしまうことがある。試験後はすべての試料を調べ、過大な荷重、変形、裂けなどの欠陥の兆候を確認すること。

DMA の結果は、加工中に試料に凍結された応力の影響を受けることがある。異常な挙動を示す試料は2回目を測るか、そうした応力を除くために前処理すること。ガラス転移より 20 °C 高い温度に5分保持し、そのあとゆっくり冷却すれば、通常は試料中の応力が除かれる。

「変な形の曲線が出たら、まず試料の履歴を疑う」が、TMA と DMA に共通する第一の作法です。

分析者の視点

TMA・DMA の実務の鉄則。やるべきことは手法・読み方・条件の併記、読み方をそろえてから比較すること、方向の明記、1回目のスキャンを破棄すること。やってはいけないのは手法名なしでの規格化、周波数未記載での比較、強化材入り CTE の単一数値化、DSC と DMA の無理な照合
図解:触る順番と禁止事項 ― 「Tg 170 °C 以上」という規格は、手法と読み方を決めなければ運用できない。

現場に落とすと、この順序になります。

  1. Tg を書くときは、必ず「手法・読み方・条件」を添える。IPC が要求しているのは装置名だけですが、DMA なら最低限「E' オンセット / E'' ピーク / tanδ ピークのどれか」と「周波数」まで書かないと、他人が再現できません。Tg = 147 °C(DMA, E'' ピーク, 1 Hz, 2 °C/min, 曲げ)のように書きます。
  2. 他社データや過去データと比べるときは、まず読み方をそろえる。同じ材料でも tanδ ピークと E' オンセットで 10 °C 前後違います。数値が合わないと思ったら、装置の校正より先に読み方を確認してください。
  3. 用途で読み方を選ぶ。耐熱の上限を決めたいなら E' オンセット(最も安全側)、物性議論なら E'' ピーク、制振や過去データ照合なら tanδ ピーク。
  4. 強化材が入っている材料では、方向を書く。Z 軸と面内で CTE が違います。「CTE 50 ppm/°C」だけでは情報になりません。
  5. 1回目のスキャンをデータにしない。TMA では応力緩和が転移と重なって見えます。IPC は 1回目 10 °C/min、2回目 5 °C/min という手順まで指定しています。
  6. 昇温速度と荷重を記録する。TMA の荷重は 0.1〜10 g という幅があり、大きすぎると軟化域でプローブが沈み込みます。前処理(105 °C・2時間・デシケーター冷却)も、吸湿する材料では効きます。
  7. DSC と DMA を「照合」しようとしない。両者は違う物理量です。一致させるのではなく、それぞれの値を用途に紐づけて併記するのが正しい扱いです。

やってはいけないことを3つ。

  • 手法名なしで Tg を規格値にする。「Tg 170 °C 以上」という規格は、手法と読み方を決めなければ運用できません。
  • 周波数を書かずに DMA の Tg を比較する。周波数が違えば別の数値です。
  • 強化材入り材料の CTE を1つの数値で語る。方向を落とした瞬間に意味が消えます。

まとめ

ガラス転移温度は、材料が一つだけ持っている数値ではありません。測る物理量(熱・寸法・力学)が違えば違う値が出て、同じ DMA の中でも読み方が3つあり、それぞれに別々の実務的意味があります。

同一のポリカーボネートで、DSC 144.0 / MDSC 144.0 / TMA 140.2 / DMA 141.8 °C(いずれもオンセット)。DMA だけを取り出しても、E' オンセット 141.8 / E'' ピーク 147.1 / tanδ ピーク 151.5 °C。

この状況に対して、公開試験法が出した答えはきわめて実務的でした。幅がいくつかを決めるのではなく、「装置名を書け」と要求する。IPC-TM-650 の3つの文書は、幅を「最大20 °C」「最大10 °C」「例示 3.8 °C」とばらばらに書きながら、「136 °C; DSC, TMA, or DMA」のように書けという一点だけは完全に一致しています。

数値そのものより、数値の出どころを一緒に運ぶ。このブログで何度も出てきた結論が、熱分析でもそのまま成り立っています。

未確認・限界

  • TA Instruments のアプリケーションノート TA082 は、編集側の環境から tainstruments.com に直接アクセスできませんでした(403)。ポリカーボネートの表と逐語引用は、ディープリサーチが取り込んだ同社ページから取り出したものです。ノートの存在・対象材料(ポリカーボネート)・4手法(DSC / MDSC / TMA / DMA)を扱っていること・MDSC の中点 148.6 °C は、別経路のウェブ検索で一致を確認しましたが、表全体を一次サイトで再確認できていません。
  • 上の表で TMA の測定条件は、原典の表では「30 °C/min、0.5 g 荷重」と記載されている一方、対応する図11 の説明は「膨張プローブ、3 °C/min、0.5 グラム」となっており、昇温速度が食い違っています。本記事の表では昇温速度を落として荷重だけを載せました。本文では図11 の記述(3 °C/min)を採っています。
  • IPC-TM-650 の3つの試験法(2.4.24C / 2.4.24.4 / 2.4.24.5)は、編集側が PDF を直接取得して本文を読んでいます。「最大20 °C」と「最大10 °C」の食い違いは、両方の PDF を突き合わせた実測です。ただし、これらは 1994〜1998 年発行の版であり、より新しい改訂版が存在する場合、記述が変わっている可能性があります(IPC の最新版は有償)。
  • ASTM E1640 / E1545 / E831、ISO 6721、JIS K 7244 / K 7197 の本文は有償で、編集側で原文を確認していません。本記事で ASTM E1640 に触れている箇所は、それを引用している査読論文(ACS Omega 2026)と IPC-TM-650 の参照文献リストによるものです。
  • 周波数を1桁上げたときの Tg のシフト量(何 °C/decade か)については、URL を持たない出所不明の文書に帰属する数値しか得られなかったため、本記事では具体的な数値を載せていません。「周波数を上げると Tg は上がる」という向きだけを、IPC が周波数を 1 Hz に固定している事実とあわせて述べています。
  • エポキシシーラントの DSC/DMA 比較は、養生期間が異なる(DSC 13週、DMA 8週)ため、厳密な同一試料の比較ではありません。本文にその旨を記載しています。

用語集

用語 意味
Tg(ガラス転移温度) 非晶性高分子がガラス状からゴム状へ移る温度域。一点ではなく範囲。
TMA(熱機械分析) 一定の静的荷重下で、温度に対する寸法変化を測る手法。
DMA(動的粘弾性測定) 正弦波の振動荷重を与え、剛性と減衰を温度の関数として測る手法。
貯蔵弾性率 E' 変形エネルギーを弾性的に蓄える成分。試料の「かたさ」。
損失弾性率 E'' 変形エネルギーを熱として散逸する成分。試料の「粘っこさ」。
tanδ(損失正接) E'' ÷ E'。制振性の指標。DMA の Tg の参照データの多くがこのピーク温度。
オンセット 曲線が変化し始める点。接線の交点で求めることが多い。
CTE(線膨張係数) 温度あたりの寸法変化率。ppm/°C で表す。Tg の上下で別の値になる。
PTE(熱膨張率) 指定温度範囲での寸法変化を百分率で表したもの。
Z 軸 CTE 積層板の厚み方向の線膨張係数。スルーホール信頼性に直結する。
異方性 方向によって物性が異なること。ガラスクロス補強材で顕著。
曲げモード / 薄膜引張モード DMA の変形様式。試料の厚さと剛性で使い分ける。
残留応力 成形・積層時に凍結された内部応力。1回目のスキャンで不可逆な変位として現れる。
MDSC(温度変調DSC) DSC の昇温に周期的な変調を重ね、可逆成分と非可逆成分を分離する手法。

出典

  1. IPC-TM-650 Test Methods Manual, Number 2.4.24, Revision C(12/94)"Glass Transition Temperature and Z-Axis Thermal Expansion by TMA". https://www.electronics.org/sites/default/files/test_methods_docs/2.4.24c.pdf
  2. IPC-TM-650 Test Methods Manual, Number 2.4.24.4(11/98)"Glass Transition and Modulus of Materials Used in High Density Interconnection (HDI) and Microvias - DMA Method". https://www.electronics.org/sites/default/files/test_methods_docs/2.4.24.4.pdf
  3. IPC-TM-650 Test Methods Manual, Number 2.4.24.5(11/98)"Glass Transition Temperature and Thermal Expansion of Materials Used in High Density Interconnection (HDI) and Microvias - TMA Method". https://www.electronics.org/sites/default/files/test_methods_docs/2.4.24.5.pdf
  4. TA Instruments, Application Note TA082 "Exploring the Sensitivity of Thermal Analysis Techniques to the Glass Transition". https://www.tainstruments.com/applications-notes/exploring-the-sensitivity-of-thermal-analysis-techniques-to-the-glass-transition-ta082/ (編集側からは 403 で直接取得できず。取得経路は「未確認・限界」参照
  5. "Formulation and Performance Evaluation of Epoxy Sealant Systems for Double-Shell Tank Bottom Refurbishment." ACS Omega 2026. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13177231/
  6. 利昌工業株式会社 技術報告 tr94「①動的粘弾性測定装置(DMA)/②熱機械分析装置(TMA)/③示差走査熱量測定装置(DSC)― 高耐熱プリント配線板材料への取組み」. https://www.risho.co.jp/rishonews/technical_report/tr94/r205_tr94.pdf
  7. 日立ハイテク「DMA(動的粘弾性測定)の原理」(貯蔵弾性率・損失弾性率・損失正接の定義). https://www.hitachi-hightech.com/global/en/knowledge/analytical-systems/thermal-analysis/basics/dma.html

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制作メモ:本記事はディープリサーチ(NotebookLM)で一次情報候補を収集し、主要な主張・数値・出典を編集側で原著にあたって検証したうえで執筆しています。IPC-TM-650 の3つの試験法は編集側が PDF を直接取得して条文を読み、「最大20 °C」と「最大10 °C」の食い違いを突き合わせて確認しました。tainstruments.com は 403 で直接開けないため、その扱いは「未確認・限界」に記載しています。