カテゴリ: 熱分析

8 件の記事

医薬品の結晶多形と熱分析 ― 多形は観察できる対象であり、同時に測定を不能にする原因である【2026年版】
熱分析

医薬品の結晶多形と熱分析 ― 多形は観察できる対象であり、同時に測定を不能にする原因である【2026年版】

日本薬局方〈2.52〉熱分析法は、DSC で観察できる相転移の表に「同素体-結晶多形」を挙げている。ところが同じ節の数ページ先で、DSC による純度測定が適用できない場合として「実験温度範囲で不安定な多形を示す化合物又は溶媒和物」を挙げている。多形は熱分析の観察対象であり、同時に熱分析を成立させなくする原因でもある。矛盾ではない。加熱は観察ではなく操作だからだ。転移熱則と融解熱則、昇温速度が答えを変えること、水和物の型で脱水が変わること、そして測定前に溶媒と粉砕が形を決めていることを、局方と査読論文の原文にあたって整理する。

熱分析装置の選び方 ― 分解能 0.1 µg と書いた同じ表に、ベースラインは 25 µg 動くと書いてある【2026年版】
熱分析

熱分析装置の選び方 ― 分解能 0.1 µg と書いた同じ表に、ベースラインは 25 µg 動くと書いてある【2026年版】

カタログの先頭に並ぶ数字は、同じ仕様表の別の行に否定されている。TA Instruments の TGA 仕様表は分解能を 0.1 µg と書き、その次の行で室温から 1000 ℃までの重量ベースラインドリフトを 25 µg と書く。250 倍である。脚注には「ベースライン差し引きなし」とある。DSC も同じで、温度精密さ ±0.005 ℃ の機種の温度確度は ±0.025 ℃ になる。装置選定で比べるべきなのは分解能ではなく、自分の試料の信号が装置のベースラインの何倍か、という一点である。

熱分析の校正とトラブルシューティング ― 校正点は 0.0008 ℃ で定義されているのに、返ってくる Tg は条件で 3〜5 ℃ 動く【2026年版】
熱分析

熱分析の校正とトラブルシューティング ― 校正点は 0.0008 ℃ で定義されているのに、返ってくる Tg は条件で 3〜5 ℃ 動く【2026年版】

DSC の温度校正にはインジウムを使う。その凝固点は国際温度目盛 ITS-90 が 156.5985 ℃ と定義し、 最良の実現の標準不確かさは 0.8 mK ―― 0.0008 ℃ である。ところが同じ装置が返すガラス転移温度は、 冷却速度が 1 桁変わるだけで 3〜5 K 動く。比にして約 4 千〜6 千倍(筆者計算)。 さらに「オンセット」と「変曲点」のどちらを報告するかで数℃違い、そもそも Tg には 20 ℃ から 100 ℃ の 幅がある。日本薬局方〈2.52〉熱分析法は、この事情を知ったうえで書かれている ―― 測定結果には 「実験諸条件、最新の校正記録、試料の量と来歴(熱履歴を含む)、容器、雰囲気、温度変化の方向と速度、 装置と記録計の感度」を併記せよ、と 7 項目を列挙している。本記事は、校正点の側の精度と測定値の側の ばらつきの落差を軸に、DSC と TGA の校正・条件依存性・アーティファクトを一次資料の数値で追う。

TMA・DMAの実務 ― Tg は「136 °C(DSC)」のように装置名とセットでしか報告できない【2026年版】
熱分析

TMA・DMAの実務 ― Tg は「136 °C(DSC)」のように装置名とセットでしか報告できない【2026年版】

ガラス転移温度 Tg は、材料が持つ一つの数値ではない。プリント配線板の公開試験法 IPC-TM-650 は「TMA・DSC・DMA で求めた Tg は、測っている物理量が違うので大きく異なりうる」 と明記し、そのうえで「報告する Tg 値のうしろに、使った試験装置を書け(例:136 °C; DSC, TMA, or DMA)」 と要求している。しかも同じ試験法マニュアルの隣り合う2つの方法が、その差を「最大20 °C」と 「最大10 °C」と別の数字で書いている。本記事は、同一のポリカーボネートを DSC・MDSC・TMA・DMA で 測った実測表、DMA の中だけでも3つ出てくる Tg(E' オンセット 141.8 °C / E'' ピーク 147.1 °C / tanδ ピーク 151.5 °C)、そして荷重・昇温速度・前処理・異方性という測定条件までを、 無償で読める一次資料の条文で追う。

STA・EGA徹底解説 ― 回収された CO₂ は初期質量の 138 %、それでも理論値の 44 % しかない【2026年版】
熱分析

STA・EGA徹底解説 ― 回収された CO₂ は初期質量の 138 %、それでも理論値の 44 % しかない【2026年版】

STA(同時熱分析=TGA-DSC/DTA同時測定)とEGA(発生ガス分析=TGA-MS・TGA-FTIR)を装置工学の視点で深掘り。同一試料で質量と熱流を同時に測る仕組み(DTA型と定量DSCセンサーの違い・浮力補正・温度/エンタルピー較正)、NETZSCH STA 449 Jupiter/TA Instruments Discovery SDT 650/METTLER TOLEDO TGA/DSC 3+/PerkinElmer STA 8000/Hitachi NEXTA STAの現行ライン比較、EGAのインターフェース(キャピラリー結合とスキマー結合の違い・転送ライン加熱)、PulseTAによる定量EGA、そしてGFRP分解・ポリマー燃焼のCO2定量・医薬品脱溶媒・食用油の熱酸化・石膏の脱水分解まで、Rigaku Journalの実測値に基づく応用を整理する。TGA単体の先にある「複合測定」の実践知。

TGA徹底解説 ― 50 ℃/min で測ったほうが、10 ℃/min より分離がよかった【2026年版】
熱分析

TGA徹底解説 ― 50 ℃/min で測ったほうが、10 ℃/min より分離がよかった【2026年版】

TGA が返す「分解温度」は物質の定数ではなく、昇温速度の設定に付いてくる数字である。速く上げれば高温側へずれ、近接したステップは重なる——というのが一般則だが、昇温速度を試料の分解速度に決めさせる Hi-Res TGA では、50 ℃/min のほうが標準の 10 ℃/min より分離がよくなる。Modulated TGA を使えば活性化エネルギーを転化率の関数として1回の測定で追える。原理・DTG の読み方・雰囲気とパン・EGA・速度論までを、メーカー公式資料の原文にあたって整理する。

DSC徹底解説 ― 目立つのはピークだが、材料の限界を決めているのは段差のほうである【2026年版】
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DSC徹底解説 ― 目立つのはピークだが、材料の限界を決めているのは段差のほうである【2026年版】

DSC 曲線でまず目に入るのは融解や結晶化のピークだが、材料の使用温度上限を決めているのはガラス転移の段差のほうである。両者は同じ熱流方程式 q = Cp(dT/dt) + f(T,t) の別々の項から来ていて、段差は第1項(熱容量)、ピークの多くは第2項(速度論)に現れる。段差は昇温速度に比例して小さくなり、装置のベースラインが曲がっていれば存在ごと消える。熱流束型と入力補償型の違い、Tzero/T4P と FlexMode、MDSC・Flash DSC までを、メーカー公式仕様の原文にあたって整理する。

熱分析とは?DSC・TGA・TMA・DMA ― 手法を選ぶとは、何が見えなくなるかを選ぶことである【2026年版】
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熱分析とは?DSC・TGA・TMA・DMA ― 手法を選ぶとは、何が見えなくなるかを選ぶことである【2026年版】

熱分析の主要4手法(DSC・TGA・TMA・DMA)が「何を測り・何がわかるか」を一枚のマップで整理する。ただし手法選択で実際に効くのはその裏側で、測る物理量を選んだ時点でそれに現れない現象は見えなくなる。TGA には融解も Tg も映らず、250 °C の吸熱ピークが融解か分解かは「同時に質量が減ったか」で決まる。また DMA は振動を与える装置と説明されるが、試験モードは振動・応力制御・ひずみ制御・速度制御の4系統で、クリープや応力緩和は別系統にある。STA・MDSC・Flash DSC・EGA の応用技術と各社の最新機器ラインまで、入門者と分析者の両方に向けて俯瞰する。