TGA徹底解説 ― 50 ℃/min で測ったほうが、10 ℃/min より分離がよかった【2026年版】
熱分析

TGA徹底解説 ― 50 ℃/min で測ったほうが、10 ℃/min より分離がよかった【2026年版】

TGA が返す「分解温度」は物質の定数ではなく、昇温速度の設定に付いてくる数字である。速く上げれば高温側へずれ、近接したステップは重なる——というのが一般則だが、昇温速度を試料の分解速度に決めさせる Hi-Res TGA では、50 ℃/min のほうが標準の 10 ℃/min より分離がよくなる。Modulated TGA を使えば活性化エネルギーを転化率の関数として1回の測定で追える。原理・DTG の読み方・雰囲気とパン・EGA・速度論までを、メーカー公式資料の原文にあたって整理する。

TGA(熱重量測定、Thermogravimetric Analysis)は、試料を加熱しながら重量の変化を精密天秤で連続記録する手法です。「いつ・どれだけ重さが減ったか(または増えたか)」から、分解温度・熱安定性・揮発成分・フィラー含量・酸化挙動が一度に読み取れます。

ただし、ここで得られる「分解温度 350 ℃」のような値を、融点と同じ感覚で扱うと事故になります。分解は速度論的な現象なので、同じ試料でも速く昇温すれば高温側にずれます。TGA が返しているのは物質の定数ではなく、測定条件に付いてくる数字です。だから日本薬局方〈2.52〉も、TGA については「実験条件は重要であり、以下のパラメーターは測定ごとに記載する」として、圧力・流速・気体組成・試料量・昇温速度・温度範囲・前処理法を列挙しています。

そしてもう一段ややこしいことに、「速く上げると近接したステップが重なる」という一般則にも例外があります。TA Instruments の TGA ブローシャに載っているポリウレタンの実測例では、標準 TGA の 10 ℃/min より、Hi-Res TGA の 50 ℃/min のほうが分離がよい——設定上は 5 倍速いほうが、よく分かれています。

The figure above shows the Hi-Res TGA results for a polyurethane material by standard and Hi-Res TGA. The superior resolution provided by the Hi-Res technique is clearly evident in both the TGA weight loss and the first derivative (DTG) signals.

(図は標準 TGA と Hi-Res TGA によるポリウレタン材料の結果を示す。Hi-Res 法による優れた分解能は、TGA の重量減少曲線と一次微分(DTG)信号の両方で明らかである。訳は筆者。図中の条件表示は "Standard TGA @ 10 ˚C/min" と "Hi-Res TGA @ 50 ˚C/min")

タネは後述しますが、一言でいえば Hi-Res TGA では昇温速度を試料の分解速度のほうが決めているからです。「50 ℃/min」は上限であって、分解が始まった瞬間の実効速度ではありません。

本記事は熱分析の俯瞰記事・DSC徹底解説 ― 目立つのはピークだが、材料の限界を決めているのは段差のほうである【2026年版】に続く深掘り編として、TGAの原理からEGA(発生ガス分析)との連携、速度論解析、現場での測定の勘所まで整理します。

この記事の読み方

  • 現場の分析者・研究者の方:サーモグラムの読み方(DTG曲線の活用)、測定条件の最適化、EGAの手法選択、応用領域ごとの注意点を中心に。
  • 入門者の方:専門用語は初出時に補足しています。まず「TGAの原理」と「サーモグラムの読み方」を押さえると、測定データの全体像がつかめます。

用語補足:サーモグラム とはTGAの測定曲線のこと。横軸に温度(または時間)、縦軸に試料の質量(%またはmg)をとる。

TGAの原理——質量変化を「測る」

TGAの原理図:温度制御炉+高精度天秤で試料の質量変化をリアルタイム記録。TGA曲線(残存質量)とDTG曲線(微分・変化速度)の見方、温度オンセット・残渣・DTGピークの読み取りポイント
図解:TGAの原理 ― 制御雰囲気下で質量変化を連続測定。TGA曲線(残存質量)とDTG曲線(変化速度・ピーク分離)の読み方。

TGAの本質は温度制御された炉の中で、高精度の天秤が試料の質量をリアルタイムに計り続けることです。試料は制御された雰囲気(不活性ガス・酸化雰囲気・真空)の中で加熱されます。

質量が変化する現象は大きく3つに分けられます:

  1. 質量減少:熱分解・揮発・脱水・脱ガス・酸化による質量損失
  2. 質量増加:酸化・吸着などによる試料への物質取り込み
  3. 変化なし:融解・ガラス転移・結晶化など(→これらはDSCが担う)

測定の出力は2本の曲線です:

  • TGA曲線:残存質量(%またはmg)を温度に対してプロット。どの温度で何%減ったかが一目でわかる。
  • DTG曲線(微分熱重量曲線):TGA曲線の一次微分。質量の変化速度を示す。複数の分解段階が重なった多成分系でも、DTGのピークがそれぞれのステップを明確に分離する(ACS Omega, 2025)。

用語補足:DTG曲線 とはTGA曲線を時間または温度で微分したもの。ピーク温度が各分解ステップの「最速点」を示す。DTGが平坦なら質量変化なし、ピークが鋭いほどその温度域に変化が集中している。

解析の3つのキーポイント:

  • 温度オンセット:TGA曲線の変化が始まる温度。熱安定性の定量的指標。接線法で求める。
  • 残渣(残存質量):加熱終了後に残った不揮発性成分や灰分の量。フィラー含量・灰分・炭素残渣の定量に使う。
  • DTGピーク:質量減少速度が最大になる温度。多段分解の各ステップの「温度の指紋」。

測定条件の勘所——昇温速度・雰囲気・試料量・パン

TGA測定条件の4因子:①昇温速度(速い=感度↑分離↓/遅い=分離↑)②雰囲気ガス(N₂=熱分解/空気=酸化/切替=組成定量)③試料量・粒径(少量・小粒子で熱平衡を確保)④パン選択(アルミナ汎用/白金高温/Smart Seal大気感受性)
図解:測定条件の4因子 ― 昇温速度・雰囲気ガス・試料量・パン選択のトレードオフと使い分けを整理。

正確なデータは実験設計から生まれます。4つの因子が結果を左右します。

昇温速度の使い分け

標準的なラボ実験では 5〜20 K/min が多く使われますが、目的に応じた選択が重要です:

  • 速い昇温(20〜50 K/min):感度(質量変化量の絶対値)に有利。スループット重視のルーチン。ただし分解温度が高温側にシフトし、近接する2つのステップが重なりやすくなる。
  • 遅い昇温(1〜5 K/min):分離能に有利。複数ステップを分けたい場合や動態解析に向く。

なお、EGA(後述)との連携ではガス転送時間のズレが生じるため、遅い昇温のほうが相関精度が上がる。

この「速い=分離が悪い」という関係は、昇温速度を一定に保つ限りは成り立ちます。冒頭で触れた逆転は、その前提を外したときに起こります(次節)。

昇温速度を、試料の分解速度に決めさせる(Hi-Res TGA)

冒頭で引いたポリウレタンの例——標準 10 ℃/min より Hi-Res 50 ℃/min のほうが分離がよい——の仕掛けは、原典の一文に尽きます。

In Hi-Res™ TGA (only available from TA Instruments), the heating rate is controlled by the decomposition rate of the sample.

(Hi-Res TGA では、昇温速度が試料の分解速度によって制御される。訳は筆者)

通常の TGA は「10 ℃/min で上げる」と決めたら、試料が激しく分解している最中でもその速度で上げ続けます。結果、分解が終わらないうちに次の成分の分解温度に到達し、ステップが重なる。Hi-Res TGA は逆で、重量が減り始めたら昇温を自動で緩め、減少が収まったら再び加速します。だから「50 ℃/min」は何も起きていない温度域を飛ばすための上限速度であって、分解が進行している区間の実効速度はむしろ遅い。

  • 何も起きていない区間は速い → 測定時間が短くなる(原典は "Rapid survey over wide temperature range with excellent resolution" と書く)
  • 分解している区間は遅い → ステップが分離する

つまり「感度と分解能のトレードオフ」は、昇温速度を一定にするという運用上の制約から来ている部分があるわけです。制御則を変えれば、その一部は回避できます。原典が挙げる利点は次のとおりです。

Separation of broad and overlapping weight losses / Increased productivity with better resolution / Rapid survey over wide temperature range with excellent resolution / Simple method setup

(広く重なり合った重量減少の分離/分解能の向上による生産性の向上/広い温度範囲の迅速な走査と優れた分解能/簡単なメソッド設定。訳は筆者)

⚠️ Hi-Res TGA は TA Instruments 固有の名称・方式です(原典に "only available from TA Instruments"、米国特許 6,113,261 / 6,336,741 と明記)。他社にも分解速度に応じて昇温を制御する類似機能はありますが、名称も制御則も異なります。「Hi-Res」で他社機を探しても出てきません。装置選定でこの機能が要るなら、各社の呼称で確認してください(熱分析装置の選び方の 5 節も参照)。

雰囲気ガスの選択

雰囲気 典型的な用途
窒素(N₂) 熱分解(酸化を除いた純粋な分解)、標準的な安定性評価
空気・酸素 酸化安定性、燃焼挙動、カーボン残渣の定量(N₂→空気切替で燃焼ステップを分離)
アルゴン(Ar) 高精度の不活性雰囲気が必要な場合
水素・CO₂ 還元挙動・触媒の表面反応評価

実用的なテクニックとして、雰囲気を途中で切り替える方法があります。まずN₂で加熱して有機成分の熱分解を確認し、次に空気に切り替えてカーボンを燃焼させ、最後に残った灰分を無機フィラーとして定量する——という手順でポリマー複合材の組成を1回の実験で求められます。

試料量と粒径

  • 試料量は少量(5〜15 mg)が原則。多すぎると熱が試料全体に均一に伝わらず、分解温度が見かけ上ずれる。
  • 粒径はそろえて細かく。熱平衡と発生ガスの拡散を速め、真値に近いデータが得られる(ACS Omega, 2025)。
  • 粉末は緩く詰める。固く詰めるとガスの抜け道が塞がれ、分解温度が上昇する。

パン(容器)の選択

パン材質 用途
アルミナ(Al₂O₃) 最も汎用。室温〜1100°Cまで不活性。触媒反応しない
白金(Pt) 高温域や化学的に腐食性の試料に。ただし一部触媒作用に注意
石英(SiO₂) 特定の中温域向け
Smart Seal Pan(TA Instruments) 大気感受性試料専用。グローブボックス内で密閉→装置内で55°Cに達すると自動開封。装置全体をグローブボックスに入れずに済む。電池材料の測定に有効(TA Instruments)

最新機器——主要5メーカーの現行ライン

TGA主要5メーカーの現行ライン比較:TA Instruments Discovery TGA 55/550(60/8 ng)・METTLER TOLEDO TGA/DSC 3+(〜1600°C同時DSC)・NETZSCH TG 209 F1 Libra(PERSEUS FTIR一体型)・PerkinElmer TGA 8000(20〜1200°C)・Shimadzu DTG-60(同時DTA・24検体オートサンプラー)
図解:主要5メーカーの現行TGAライン ― 温度域・天秤感度・同時測定・EGA対応を横断比較。
メーカー 主力機種 温度域 天秤感度 特徴
TA Instruments Discovery TGA 55 RT〜1000°C 60 ng Tru-Mass™ 天秤、EGA 接続対応
TA Instruments Discovery TGA 550 RT〜1000°C 8 ng デュアルレンジ Tru-Mass、最高感度
METTLER TOLEDO TGA/DSC 3+ RT〜1600°C 0.1 μg 同時 TGA+DSC、位置独立型天秤、自動内部較正
NETZSCH TG 209 F1 Libra RT〜1100°C 0.1 μg PERSEUS 型で TGA-FTIR 一体化が可能
PerkinElmer TGA 8000 20〜1200°C 0.1 μg 容量1300 mg、昇温速度0.1〜500°C/min
Shimadzu DTG-60 / DTG-60H RT〜1100/1500°C — 同時 TGA+DTA、オートサンプラー24試料対応(DTG-60A)

スペックは各社公式資料の公表値。構成・改訂で変わります。

TA Instruments TGA 55 のベースラインドリフトは室温〜1000°C で <25 μg と公表されており、微量揮発分の評価でも信頼性が高い。NETZSCH の PERSEUS TG 209 F1 Libra は FTIR を炉に直結した一体型で、別途 FTIR を接続するシステムより転送ラインが短く、ガスの凝縮損失を抑えられる。

発生ガス分析(EGA)——TGAに「目」をつける

EGA(発生ガス分析)の3手法比較:TGA-FTIR(IR活性ガスの官能基同定・ポリマー分解に強い)・TGA-MS(高感度・金属化合物・医薬品・電池ガスまで広く対応)・TGA-GC/MS(複雑有機マトリクスの揮発成分を高分解能同定)。TGA炉〜MS間の圧力差と加熱転送ラインの概念図
図解:EGA の3手法 ― TGA-FTIR・TGA-MS・TGA-GC/MS の原理・強み・弱みと、ガス転送の概念図。

TGA は「いつ・どれだけ重さが減ったか」はわかりますが、「何が抜けたか」は単体ではわかりません。EGA(Evolved Gas Analysis) は TGA と分析機器を連結し、発生したガスをリアルタイムで同定する手法群の総称です。

連結の仕組み

TGA 炉内(約1 bar)と質量分析計(MS)側(約10⁻⁷ mbar)の圧力差を利用し、発生ガスを移送ラインを通じて引き込みます。転送ラインは凝縮を防ぐために加熱(通常150〜300°C)します。

3つの連結手法

手法 原理 強み 弱み
TGA-FTIR IRスペクトルで官能基を同定 ポリマー分解ガス(HCl, CO₂, H₂O など)の同定が得意。スペクトルライブラリと照合 不活性ガス・二原子ガス(O₂・N₂・H₂)は検出不可
TGA-MS m/z でイオン断片を検出 高感度。微量不純物・医薬品・金属化合物まで広く対応 複雑な混合ガスの分離が難しい場合がある
TGA-GC/MS GCで分離後にMSで同定 複雑な有機マトリクスの揮発・半揮発成分を高分解能で同定 連続モニタリングが難しく、特定温度での採取が基本

使い分けの目安: - ポリマーの分解生成物を官能基レベルで知りたい → TGA-FTIR - 医薬品の残留溶媒・金属不純物・電池の発生ガス(HF, CO₂, O₂)など幅広い同定 → TGA-MS - 複雑な食品・環境試料の揮発有機化合物の詳細同定 → TGA-GC/MS

主要応用領域

TGAの4大応用領域:ポリマー(分解温度・フィラー定量・N₂→空気切替組成分析)・医薬品(残留溶媒・溶媒和物・安定性評価)・電池材料(NMC正極酸素放出・SEI層〜80°C分解・Smart Seal Pan)・触媒(ソフトコーク180〜330°C/ハードコーク330〜700°C)
図解:4大応用領域 ― ポリマー(組成定量)・医薬品(溶媒和物)・電池材料(熱安全性)・触媒(コーク評価)の実践例。

ポリマー——分解挙動・組成・安定性

TGA はポリマー分析の主力手法です:

  • 分解温度と熱安定性:ポリマーが何°Cから分解を始めるか(オンセット)と、分解速度が最大になる DTG ピーク温度を材料の耐熱指標として使う。
  • フィラー・添加剤の定量:N₂ → 空気切替で有機成分を燃焼させ、残った灰分(TiO₂・ガラス繊維など)を定量。例えばガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の繊維含率を直接算出できる。
  • 多段分解の解析:DTG 曲線で各成分の分解ステップを分離。ANN(人工ニューラルネットワーク)を用いたバイオマス熱分解の速度論モデルへの応用も報告されている(ACS Omega, 2025)。

医薬品——水分・溶媒和物・安定性

  • 水分・揮発性溶媒の定量:ICH ガイドラインに基づく残留溶媒の評価。100〜120°C 付近の質量減少から吸着水(表面水)と結晶水(結晶格子内)を区別できる。
  • 溶媒和物の同定:抗ウイルス薬モルヌピラビル(molnupiravir)の解析では、エタノール・イソプロパノール・イソブタノール・THF の4種の溶媒和物が TGA と X 線構造解析の組み合わせで同定されている(Crystal Growth & Design, 2024)。溶媒分子が結晶チャネルを通じて脱離する様子が TGA 曲線に現れる。
  • 加速安定性試験のサポート:原薬・製剤の熱安定性を ISO/ICH 条件で評価し、保管・輸送条件の根拠データとする。

電池材料——熱安全性評価

電池材料の熱分析は安全設計の根幹です:

  • 正極材(NMC など)の分解:100% 充電状態(SOC)の NMC 正極材は酸素を放出しながら分解し、大量の熱を発生させる。この酸素が電解液の燃焼を加速し、熱暴走(thermal runaway)を引き起こす主要因となる。TGA-MS で酸素の放出温度を特定することは電池設計の安全基準策定に直結する(TA Instruments)。
  • SEI(固体電解質界面)層の解析:グラファイト負極の表面に形成された SEI 層は比較的低温(〜80°C 付近)から分解を始め、熱暴走の引き金(イニシエーター)となる。TGA で分解温度を把握し、電解液添加剤の最適化に役立てる(TA Instruments)。
  • 電池材料専用の Smart Seal Pan(TA Instruments):大気に触れると変質する電池材料を、グローブボックス内で密閉封止した状態のまま測定できる。

触媒——コーク評価と再生プロセス

触媒上に堆積するコーク(炭素質堆積物)は触媒失活の主因です。DTG ピーク温度からコークの性質を区別できます:

  • ソフトコーク(DTG ピーク 180〜330°C):比較的低温で燃焼する軽質な堆積物。
  • ハードコーク(DTG ピーク 330〜700°C):難燃性の重質堆積物。グラファイト状に近い。

ピーク温度・面積から再生条件(温度・酸素分圧・保持時間)を最適化できます(ACS Omega, 2025)。

速度論——条件で動かない量は「活性化エネルギー」のほう

冒頭に戻ります。分解温度が昇温速度に付いてくる数字なら、条件をまたいで比較できる量は何か。答えの一つが活性化エネルギー(Ea)です。分解の「起こりやすさ」そのものを表す量で、これが分かれば任意の温度・時間での寿命予測に使えます。

古典的には、昇温速度を変えた複数回の測定を行い、分解が同じ進行度に達する温度のずれから Ea を求めます。つまり「分解温度が昇温速度で動く」という性質を、欠点ではなく情報源として使う発想です。ただし数回の測定が要ります。

これを 1 回の測定で行うのが Modulated TGA(MTGA)です。TA Instruments の資料はこう説明しています。

TA's patented MTGA™ … Developed from the proprietary heater control technology utilized by Hi-Res™ TGA and MDSC®, MTGA produces model-free kinetic data. Activation energy can be continuously calculated during the test and studied as a function of time, temperature, and conversion.

(MTGA は Hi-Res TGA と MDSC で使われている独自のヒーター制御技術から開発された。MTGA はモデルフリーの速度論データを生成する。活性化エネルギーは測定中に連続的に計算でき、時間・温度・転化率の関数として調べられる。訳は筆者)

ここで効いてくるのが「モデルフリー」という語です。分解の反応機構(何次反応か、拡散律速か等)を仮定せずに Ea を出せる、という意味です。機構を仮定して当てはめると、仮定が違えば Ea も変わってしまいます。

そして、Ea を転化率(どこまで分解が進んだか)の関数として追えることが、単一の Ea 値より重要です。原典が挙げる実例はこうです。

The figure to the left shows the MTGA plot from a kinetic study of the effect of temperature on the decomposition of 60 % ethylene vinyl acetate (EVA) in a single analysis. … The data supports a dual-step decomposition mechanism. MTGA can also monitor activation energy as a function of conversion, which can infer the mechanism involved.

(左の図は、60 % エチレン酢酸ビニル(EVA)の分解に対する温度の影響を、単一の測定で調べた速度論研究の MTGA プロットである。…このデータは二段階の分解機構を支持する。MTGA は活性化エネルギーを転化率の関数として追うこともでき、それによって関与する機構を推定できる。訳は筆者)

Ea が転化率の途中で変わるなら、単一の反応ではない。EVA の例では、それが二段階分解の根拠になっています。分解温度という 1 点の数字からは決して出てこない情報です。

なお同資料は、分解速度論が「一定昇温速度/動的昇温速度/一定反応速度の実験から得られる」とも書いています(Decomposition kinetics as obtained from constant or dynamic heating rate, and constant reaction rate experiments)。前節の Hi-Res TGA は、このうち「一定反応速度」に近い制御にあたります。

💡 入門者向け:転化率とは、その反応がどこまで進んだかを 0〜1(または 0〜100 %)で表した量。TGA では「その段の重量減少のうち、何割が終わったか」で測る。横軸に転化率、縦軸に Ea をとったグラフが平らなら単一の素反応、途中で段や傾きが変われば複数の機構が関与している、と読む。

温度較正——キュリー点法

TGA の温度較正には独自の方法があります。キュリー点較正(Curie point calibration)は、炉の外側に磁石を置いた状態で強磁性標準物質を加熱する方法です。強磁性体が Curie 温度(磁気転移点)を超えると常磁性に転移し、磁石への吸引力が消えます。このとき天秤上で「見かけ上の急激な質量変化」が S 字曲線として現れ、この転移温度を温度目盛の基準点とします。一般的な融解法では測定できない高温域の較正に有効です(TA Instruments TN-24)。

TGAの限界——DSC・STAとの組み合わせ

TGAの限界とDSC・STAとの補完関係:TGA単体では質量変化のない現象(融解・Tg・結晶化)は見えない。STA(同時TGA+DSC/DTA)で「分解か融解か」を一発判別。EGAで発生ガスを同定。分析者の視点:用途別推奨アプローチ一覧
図解:TGAの限界と補完戦略 ― STA(同時TGA+DSC)で融解/分解を一発判別、EGAで「何が」抜けたかを同定。

TGA には大きな制約があります:質量変化を伴わない現象が見えないことです。融解・ガラス転移・結晶化・多形転移はいずれも質量変化を伴わないため、TGA だけでは識別できません。

知りたいこと TGA 単体 DSCとの組み合わせ STA(同時)
分解温度・揮発量 ○ — ○
融解・Tg・結晶化 × ○ ○(DSC/DTA センサー付き)
「分解か融解か」の判別 × 各自測定で比較 ○(同一試料で同時取得)
発生ガスの同定 × → EGA で補完 × × → EGA で補完

STA(同時熱分析)は TGA と DSC/DTA を同一試料・同一条件で同時測定するため、「吸熱を伴う質量減少(=分解)」と「吸熱だが質量変化なし(=融解)」を一発で切り分けられます。METTLER TOLEDO TGA/DSC 3+、Shimadzu DTG-60 シリーズ、NETZSCH STA 449 などが対応します。

分析者の視点——どこから始めるか

目的 推奨アプローチ
熱安定性の簡易確認 TGA 単体(N₂、10 K/min、汎用アルミナパン)
多成分ポリマーの組成定量 N₂→空気雰囲気切替 + DTG で成分分離
分解ガスの同定 TGA-FTIR(官能基)または TGA-MS(幅広く)
融解か分解かの判別 STA(TGA+DSC 同時)またはDSCと組み合わせ
電池材料(大気感受性) Smart Seal Pan + TGA-MS(発生ガスとセット)
医薬品の残留溶媒・水分 TGA 単体(低温領域を精密に)→ TGA-MS で溶媒同定

まとめ

  • TGA が返す「分解温度」は物質の定数ではない。速度論的な現象なので昇温速度で動く。だから局方〈2.52〉は昇温速度を含む条件を測定ごとに記載せよと要求している。報告するときは必ず条件とセットにする。
  • 「速い昇温は分離が悪い」という一般則は、昇温速度を一定に保つ限り成り立つ。その前提を外した Hi-Res TGA では昇温速度を試料の分解速度が制御するため、ポリウレタンの実測例では 50 ℃/min のほうが標準の 10 ℃/min より分離がよい。何も起きていない区間だけを速く飛ばしているからである。
  • 条件をまたいで比較できるのは分解温度ではなく活性化エネルギーのほう。MTGA はモデルフリーで、Ea を時間・温度・転化率の関数として 1 回の測定で追える。EVA 60 % の例では、転化率に対する Ea の変化が二段階分解機構の根拠になっている。
  • DTG 曲線を必ず確認し、重なった分解ステップを分離する。昇温速度・雰囲気ガス・試料量・パンの4因子を目的に応じて設計する。
  • 「何が抜けたか」を知りたいときはEGA(TGA-FTIR/TGA-MS)を組み合わせる。質量変化を伴わない現象はDSC・STA で補完する。
  • 天秤のカタログ分解能(0.1 µg)と、実際に効くベースラインドリフト(室温〜1000 ℃で <25 µg)は 250 倍違う。1 % 未満の重量減少を扱うなら、ブランクの再現性が測定の下限を決める(熱分析装置の選び方の 1 節)。
  • 「重さを量るだけの装置」を「材料の熱的素性を診る道具」へ引き上げるのは、測定設計と読みの力です。

未確認・限界

  • Hi-Res TGA は TA Instruments 固有の方式(原典に "only available from TA Instruments"、米国特許 6,113,261 / 6,336,741)。他社の類似機能との定量的な性能比較は確認できていない。本記事が引いたポリウレタンの例も、同社資料に掲載された同社装置での比較である。
  • ポリウレタンの比較図から読み取れるのは「Hi-Res のほうが分離が明確」という定性的な事実までである。分離度を示す数値や、同一試料を他の昇温速度で測った系統的なデータは原典に示されていない。
  • MTGA の活性化エネルギーの確度(真値からのずれ)を検証した第三者データは確認できていない。「モデルフリー」は機構を仮定しないという意味であって、得られた Ea が無条件に正しいことを意味しない。
  • 本記事に登場する各社の機種仕様は初出時(2026-06-27)に公式ページで確認したもので、その後の改訂は追えていない。TA Instruments のブローシャはファイル名に 2016 年を含む。選定時は最新版を取り寄せて確認してほしい。
  • ANN を用いたバイオマス熱分解の速度論モデル(ACS Omega, 2025)は総説の記載に基づく紹介であり、個別モデルの性能は検証していない。

用語集

  • TGA(熱重量測定):温度制御下で試料の質量変化を連続測定する手法。
  • DTG曲線:TGA曲線の一次微分。質量変化速度をプロットし、各分解ステップのピークを分離する。
  • 温度オンセット:TGA曲線が変化を始める温度。熱安定性の定量的指標。
  • 残渣(残存質量):加熱終了後に残った不揮発性成分(灰分・フィラーなど)の量。
  • EGA(発生ガス分析):TGAに分析機器(MS・FTIR・GC/MS)を接続し、発生ガスをリアルタイムで同定する手法群。
  • TGA-FTIR:EGA の一手法。FTIR で官能基を同定。IR 不活性ガスは検出不可。
  • TGA-MS:EGA の一手法。質量分析で m/z から成分を同定。高感度・幅広い対応。
  • STA(同時熱分析):TGA と DSC/DTA を同一試料で同時測定。融解と分解を一発で切り分けられる。
  • キュリー点較正:強磁性体の磁気転移を利用した TGA 独自の温度較正法。
  • Smart Seal Pan:TA Instruments の大気感受性試料用密閉パン。グローブボックス内で封止し、炉内で自動開封。
  • 熱暴走(thermal runaway):電池内部で発熱が連鎖的に加速する危険な現象。正極材の酸素放出が燃料となる。
  • Hi-Res TGA:TA Instruments 固有の方式で、昇温速度を試料の分解速度によって制御する。何も起きていない区間は速く、分解中は遅くなるため、重なったステップが分離する。
  • MTGA(Modulated TGA):温度変調を用い、モデルフリーで活性化エネルギーを連続的に求める TA Instruments の手法。
  • 活性化エネルギー(Ea):反応の起こりやすさを表す量。分解温度と違い、条件をまたいで比較できる。
  • 転化率(conversion):反応がどこまで進んだかを 0〜1 で表した量。TGA ではその段の重量減少の進行割合。Ea を転化率の関数として見ると機構の変化が分かる。
  • モデルフリー:反応機構(反応次数や律速過程)を仮定せずに速度論パラメータを求めること。

出典

  1. TA Instruments「Discovery TGA 55 — Specifications」 https://www.tainstruments.com/tga-55/
  2. TA Instruments「Discovery TGA 550 — Specifications」 https://www.tainstruments.com/tga-550/
  3. TA Instruments「EGA Hyphenation(TGA-MS / TGA-FTIR)」 https://www.tainstruments.com/hyphenation/
  4. TA Instruments「How to Enhance Battery Safety by Evaluating Materials' Thermal Stability(Smart Seal Pan・NMC・SEI)」
  5. TA Instruments「TGA Temperature Calibration Using Curie Temperature Standards(TN-24)」
  6. METTLER TOLEDO「TGA/DSC 3+ — Product Page」 https://www.mt.com/us/en/home/products/Laboratory_Analytics_Browse/TA_Family_Browse/ta-instruments/thermal-analysis-system-TGA-DSC-3-plus.html
  7. NETZSCH「TG 209 F1 Libra(PERSEUS)」 https://analyzing-testing.netzsch.com/en/products/thermogravimetric-analysis-tga-thermogravimetry-tg/tg-209-f1-libra
  8. PerkinElmer「TGA 8000 Specification Sheet」 https://sim-gmbh.de/images/PDF_Dokumente_neu/07112018/TGA_8000_Specification_Sheet_012248_01_SPC.pdf
  9. Shimadzu「DTG-60 Series(同時 TGA/DTA)」 https://www.shimadzu.com/an/products/thermal-analysis/simultaneous-thermal-analysis/dtg-60-series/index.html
  10. EAG Laboratories「TG/EGA: Thermogravimetry/Evolved Gas Analysis」 https://www.eag.com/techniques/phys-chem/tga-ega/
  11. ACS Omega(2025)「Thermogravimetric Analysis Integrated with Mathematical Methods and Artificial Neural Networks for Optimal Kinetic Modeling of Biomass Pyrolysis: A Review」 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsomega.5c02250
  12. Crystal Growth & Design(2024)「Polymorphs and Solvates of Molnupiravir: Crystal Structures and Solid Forms Transformation Analysis」
  13. TA Instruments「HIGH PERFORMANCE TGA SYSTEMS that deliver the ...」(Discovery TGA ブローシャ)― Hi-Res TGA の制御則("the heating rate is controlled by the decomposition rate of the sample"、only available from TA Instruments、米国特許 6,113,261 / 6,336,741)とポリウレタンの比較図(Standard TGA @ 10 ˚C/min vs Hi-Res TGA @ 50 ˚C/min)、MTGA のモデルフリー速度論(活性化エネルギーを時間・温度・転化率の関数として連続計算、EVA 60 % の二段階分解機構)、Instrument Specifications(分解能 0.1 µg、重量ベースラインドリフト <25 µg/<10 µg、脚注 Without baseline subtraction)。2026-09-11 の加筆で追加。 https://www.tainstruments.com/wp-content/uploads/BROCH-DTGA-2016-En.pdf
  14. 第十九改正日本薬局方 一般試験法〈2.52〉熱分析法(厚生労働省、2026年4月10日告示・同日適用)― 熱重量測定法について「実験条件は重要であり,以下のパラメーターは測定ごとに記載する.圧力又は流速,気体の組成,試料量,昇温速度,温度範囲,処理時間を含む試料の前処理法.」2026-09-11 の加筆で追加。 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001689414.pdf

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更新履歴:Shimadzu の型番について、「TGA-60 Plus」は DSC-60 Plus と混同した誤りで、正しくは DTG-60 シリーズであることを公式資料で確認し訂正している。