XRD(粉末X線回折)と結晶多形 ― 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う【2026年版】
元素・表面分析

XRD(粉末X線回折)と結晶多形 ― 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う【2026年版】

日本薬局方に蛍光X線の一般試験法は無いが、粉末X線回折には〈2.58〉が5ページある。同じX線でこの差が出るのは、 XRD が「元素」ではなく「並び方」を測るからだ。JP19〈2.58〉を通読すると、判定値らしい判定値はひとつしかない ―― 「同一結晶形なら 2θ は 0.2° 以内で一致する」。ところがこの幅は、水和物・溶媒和物には適用されない。そして 実際のテオフィリンでは、12.5° と 12.7° という 0.2° 離れた2本が、別々の相だった。決着をつけたのは角度ではなく 「いつ出たか」である。本記事は、局方の 0.2°・装置の 0.03°・NIST 標準物質・リートベルト自動定量の偽陽性 30%・ 検出限界が 10% から 100 ppm まで3桁に散らばる理由を、すべて一次資料の数値で追う。

前回、XRF(蛍光X線)の記事で、日本薬局方には蛍光X線の一般試験法が存在しないと書いた。第十九改正日本薬局方(JP19)の一般試験法を全文検索して「蛍光X線」は 0 件である。

ところが同じX線を使う回折の側には、〈2.58〉粉末X線回折測定法が 5 ページある。

この差はどこから来るのか。XRF は「何の元素が、どれだけ入っているか」を測る。XRD が測るのはそこではない ―― 原子がどう並んでいるかである。そして医薬品では、同じ分子が違う並び方をすると、溶解度も、安定性も、吸収も変わる。結晶多形だ。

〈2.58〉を最初から最後まで読むと、判定値らしい判定値はひとつしか出てこない。

同一結晶形の試料と基準となる物質との間の 2θ 回折角は、0.2°以内で一致すると期待される。

だがこの一文には続きがある。そして、この 0.2° という幅は、実際に別々の結晶形どうしが隣り合いうる距離と同じ大きさでもある。

本記事は、その 0.2° を軸に、粉砕・標準物質・定量限界・自動リートベルト・検出限界の3桁の散らばりまでを、一次資料の数値で追う。

この記事の読み方

  • 入門者:1〜3 節と 5 節、そして 13 節を読めば「XRD が何を見ていて、なぜ試料調製が難しいのか」が掴める。
  • 現場の分析者:4 節(装置スペックの読み方)、6〜8 節(標準物質と定量限界)、10 節(測定条件の設計)が本題。とくに 8 節は、測定時間の設定を変えるかもしれない。
  • 数値はすべて出典の年月とセットで扱っている。裏が取れなかったものは末尾の「未確認・限界」に明記した。

1. 日本薬局方には、粉末X線回折の一般試験法がある

日本薬局方 JP19 の一般試験法〈2.58〉は三薬局方の調和合意に基づく。非破壊的な評価と、粉砕による試料調製が同居している
図解:「非破壊的」と書きながら、直後に「粉砕」と書いてある

JP19 一般試験法〈2.58〉粉末X線回折測定法は、p.149〜153 に収載されている。冒頭にこうある。

本試験法は、三薬局方での調和合意に基づき規定した試験法である。

三薬局方(日本薬局方・欧州薬局方・米国薬局方)の調和(PDG)に基づく章で、非調和部分は「◆◆」、日本が独自に規定した項は「◇◇」で囲んで示される。米国薬局方の対応章は〈941〉Characterization of Crystalline and Partially Crystalline Solids by X-Ray Powder Diffraction (XRPD) ―― 表題に「部分的に結晶性の固体」が入っている点は、後で 7 節に効いてくる。

〈2.58〉によれば、回折パターンから通例3種類の情報が得られる。

情報 何に依存するか
回折線の角度 単位格子の種類と大きさ
回折線の強度 主として原子の種類と配列、並びに試料中の選択配向
回折線の形状 測定装置の解像力、微結晶の大きさ、歪み、試料の厚さ

そして、本記事の主題そのものを含む一文が続く。

粉末X線回折測定法は、他の分析試験方法と比べ、非破壊的な測定法である(試料調製は、試料の無配向を保証するための粉砕に限られる)。

括弧の中に注目してほしい。「非破壊」と言いながら、その直後に「粉砕」と書いてある。この矛盾めいた一文が、XRD の試料調製がなぜ難しいのかを言い当てている(5 節)。

2. JP19 が置いた、たったひとつの判定値 ― そして、それが適用されない試料

〈2.58〉の 5 節「定性分析(相の同定)」に、冒頭で引いた一文がある。周辺も含めて整理するとこうだ。

  • Cu Kα線を用いる多くの有機結晶では、できるだけ 0° 付近から少なくとも 30° までの 2θ 範囲で記録するのが通例適切である。
  • 同一結晶形の試料と基準物質との間の 2θ は 0.2° 以内で一致すると期待される
  • ただし試料と基準物質の間の相対強度は、選択配向効果のためかなり変動することがある
  • 一般には、データベース収載の 10 本以上の強度の大きな反射を測定すれば十分である。
  • その他の無機塩類等では、2θ 測定範囲を 30° 以上に拡大する必要がある。

ここまでが、しばしば引用される部分である。だが、その直後にこう書いてある。

転移しやすい水和物や溶媒和物は、単位格子の大きさが変化することが知られており、その場合回折パターン上、ピーク位置のシフトが生じる。これらの物質では、0.2°を超える 2θ 位置のシフトが予期されることから、0.2°以内というピーク位置の許容幅は適用しない

つまり、局方が置いた唯一の許容幅には、適用除外がある

ここで ICH Q6A の用語定義を並べてみる。

Polymorphism(多形):同一原薬の異なる結晶形の発生。これには溶媒和物・水和物(擬似多形 pseudopolymorphs)および非晶質形が含まれうる。

規制が「多形」と呼んでいるものの一部 ―― 水和物と溶媒和物 ―― に対して、局方の判定幅がそもそも適用されない。これは矛盾ではない。局方は「同一結晶形なら一致する」という同定のための幅を置いているのであって、水和物のように格子が動く物質では、その幅では同定できないと正直に書いているだけである。

だが実務上の意味は重い。水和物を扱うなら、0.2° という数字を持ち出す前に、自分の物質がその適用範囲にいるかを確認しなければならない。

3. その 0.2° は、別の相までの距離でもある

テオフィリン一水和物を相対湿度5%で加熱すると、10℃で Form I* が 9.4°・12.5°・13.7°・15.3° に出現し、30℃で Form III、50℃で Form II が 12.7° に出現する。12.5° と 12.7° の差はちょうど 0.2°
図解:0.2° 離れた 2 本を分けたのは、角度ではなく出現温度だった

では、実際の物質で 0.2° はどれくらいの大きさなのか。

Triclinic Labs(米国インディアナ州)の 2023 年 9 月のアプリケーションノートが、この問いに正面から答えるデータを出している。試料はテオフィリン(気管支拡張薬。喘息と COPD に使われる)。無水物の多形は I 〜 VII が知られ、水を取り込んだ一水和物もある、よく研究された分子である。

装置は Rigaku SmartLab に Anton Paar の温湿度制御チャンバー(CHC+)を組み合わせたもの。一水和物(Fm)を 5℃ から 80℃ まで、相対湿度 5% 一定で加熱しながら、5〜20° の 2θ 範囲を 7 分ごとに測り続けた。

結果はこうなった。

温度 起きたこと
10℃ 9.4° / 12.5° / 13.7° / 15.3° に新しいピーク群 ― 脱水和物 Form I*
30℃ Form III のピークが出現
50℃ 安定無水物 Form II のピークが出現し始める
80℃ に達する前 I* のピークは完全に消失。最終的に II と III の混合物

問題は 12.5° である。Form II のピークは 12.7° にある。差は 0.2°。

著者らは、この 2 本が同じものかどうかを正面から論じている。先行研究(Larsen ら)は Form III と I* を同一のものとしたが、著者らはこう反論する。

Form III は、観測された 12.5° のブラッグピークを説明できない。12.5° のピークは Form II の 12.7° のピークに近く、そのピークに変形したのだと主張することもできる。しかしそれはありそうにない。実験中に短時間、二つの明確なピークを同時に観測したからである(それぞれのピークが観測された温度範囲が重なっていることが証拠となる)。さらに、12.5° のピークが III ではなく II に帰属するのであれば、他の 3 本と一緒に 10℃ で現れ始めたはずがない

ここが決定的である。この 2 本の決着をつけたのは、2θ の位置ではなかった。「同時に見えた」ことと「出現温度が違う」こと ―― つまり時間軸の情報だった。

角度だけを見ていたら、0.2° 離れた 2 本は、同じピークが少し動いたようにも見える。局方が「同一結晶形なら 0.2° 以内で一致する」と書いている、まさにその幅の中で、別の相が隣り合っていた

さらに、同じ実験を湿度を変えて繰り返すと、通る経路そのものが変わった。

相対湿度 転移の開始 経路 最終状態
5% 10℃ Fm → I* → III → II II + III の混合物
50% 50℃(60℃でより速く) I* も III も現れない。13° と 6.9° に Form V II + V
75% 60℃ 50% と同様だが、はるかに速く完了 II + V(V がずっと多い

同じ試料を、同じ温度範囲で加熱しただけである。湿度を変えただけで、途中に現れる相も、終着点の比率も変わった。

なお著者ら自身が、この実験の前提について正直に書いている。

テオフィリンはよく研究された分子であり、利用可能な文献が実験設計(DoE)の指針となり、データの深い解釈を可能にした。一般に、新規に開発された分子を研究する場合には、動的水蒸気吸着(DVS)・示差走査熱量測定(DSC)・熱重量分析(TGA)といった直交する熱的手法が DoE の指針を与える。

XRD 単独では実験の設計ができない、と書いてあるに等しい。熱分析の全体像DSC 徹底解説と併せて読むべき理由が、ここにある。

4. 装置は 0.03°、局方は 0.2°

Aeris は 300〜600 W で分解能 0.04° 未満、D6 PHASER は最大 1.2 kW で分解能 FWHM 0.03° 未満・保証偏差 0.01° 未満、Empyrean は 4 kW で分解能 0.026°・再現性 ±0.0001° 以下・1150 kg
図解:どの装置の分解能も、局方の 0.2° より一桁小さい

局方の 0.2° が大きいのか小さいのか。現行装置の公称スペックと並べてみる。

項目 Malvern Aeris(ベンチトップ) Bruker D6 PHASER(ベンチトップ) Malvern Empyrean(フロア型)
X線出力 300 〜 600 W(30 または 40 kV) 最大 1.2 kW(内部冷却) 4 kW(最大 60 kV / 100 mA)
ゴニオメーター半径 145 mm ―(小半径と明記)
分解能 < 0.04° 2θ(LaB6、0.01 rad ソーラースリット) FWHM < 0.03° 2θ(NIST 640e) 0.026° FWHM(LaB6
角度の確からしさ 2θ 直線性 < 0.04° 全走査範囲で偏差 < 0.01° を保証(付属コランダム標準。Mo 線源はタングステン標準) 2θ 直線性 ±0.01° 以下
再現性 ≤ ±0.0001°
最小駆動刻み 0.001° 0.0001°
最大走査速度 2.17 °/s 15 °/s
2θ 範囲 −4° < 2θ ≤ 142° 付属品に依存(負角側は −111° まで)
質量 ―(外部冷却水・圧縮空気とも不要) 最大 160 kg 1,150 kg

(各社公式製品ページ。分解能の測定に使う標準物質が LaB6 と NIST 640e で異なるため、この列は厳密な横並び比較ではない)

ここから読み取れることが2つある。

ひとつ目。フロア型を買って手に入るものは、分解能ではない。 出力は 300 W から 4 kW へ 13 倍、質量は 160 kg から 1,150 kg へ 7 倍になる。ところが分解能は 0.04° から 0.026° へ、1.5 倍しか良くならない(いずれも筆者計算)。

では 13 倍の出力と 7 倍の質量は何を買っているのか。最小駆動刻みが 10 倍細かくなり(0.001° → 0.0001°)、再現性が ±0.0001° で規定され、2θ 範囲が負角側 −111° まで広がり、走査速度が 7 倍になる。 そして光源が強くなる ―― これは 8 節と 10 節で効いてくる「計数統計」を買っているということである。XRF の記事で「WDXRF が高感度なのは投入エネルギーが大きいからでもある」と書いたのと、同じ構造がここにもある。

ふたつ目。どの装置の数値も、局方の 0.2° より一桁小さい。 0.026°〜0.04° に対して 0.2° は 5 〜 8 倍の余裕がある(筆者計算)。Bruker が保証する角度偏差 < 0.01° に至っては 20 倍だ。

つまり、測定した 2θ が基準物質から 0.2° を超えてずれたとき、それが装置のせいである可能性は、まず低い。 ずれの出どころは試料の側にある ―― 高さ合わせ、選択配向、そして格子そのものの変化(2 節・3 節)である。

5. 粉砕は準備ではなく、改変である

1 節で引いた「非破壊的な測定法である(試料調製は、試料の無配向を保証するための粉砕に限られる)」に戻る。

なぜ粉砕するのか。〈2.58〉の 3.1 節にこうある。

一般的には、多くの結晶粒子の形態は試料ホルダー中で試料に選択配向性を与える傾向がある。粉砕により微細な針状晶又は板状晶が生成する場合には、この傾向は特に顕著となる。(中略)幾つかの手法が微結晶の配向のランダム化のために用いられるが、最良で最も簡便な方法は、粒子径を小さくすることである。(中略)相の同定であれば、通例、50 μm 程度の粒子径によって十分な結果が得られる。

ところが、その直後にこう続く。

しかしながら、過度の粉砕(粒子径が約 0.5 μm 以下となる場合)は、線幅の広がりや下記のような、試料の性質の重大な変化の原因となることがある。

(ⅰ) 乳鉢、乳棒、ボールなどの粉砕装置から発生する粒子による試料の汚染 (ⅱ) 結晶化度の低下 (ⅲ) 他の多形への固相転移 (ⅳ) 化学的分解 (ⅴ) 内部応力の発現 (ⅵ) 固体反応

(ⅲ) を読んでほしい。粉砕そのものが、測ろうとしている対象を別の多形に変えうる。

50 µm と 0.5 µm。この 100 倍の幅の中に、「配向を十分に消す」と「試料を壊さない」の両方を満たす点を探すのが、XRD の試料調製である。

だから局方はこう指示する。

したがって、未粉砕試料の回折パターンと粉砕した粒子径の小さい試料の回折パターンを比較することが望ましい。得られた粉末X線回折パターンが利用目的に十分に適合するならば、粉砕操作は不要である

「粉砕する前と後を比べろ、そして必要ないなら粉砕するな」。さらに、ふるいを使った場合には「組成が初期状態から変化している可能性があることに注意すべき」とまで書いてある。

同じ警告を、装置メーカーも独立に出している。Malvern Panalytical の定量 XRPD アプリケーションノートは、実験の項でこう書く。

定量のための粒子径は、粒子統計と精度の観点から 50 マイクロメートル未満が理想的である。しかしながら、有機試料を粉砕する際には、熱および/または圧力による相変化や結晶化度の低下を防ぐよう注意すべきである。

50 µm という数字まで局方と一致している。さらに同社は、バックローディング(裏込め)専用の試料ホルダーを使って選択配向の影響を最小化したと明記している。

参考までに、実際の研究論文がどう調製しているかも見ておく。8 節で扱う Phase Guard の論文(Malvern Panalytical、2025年)では、スイングミルで粒子径 60 µm 未満に粉砕し、銅鉱石は 27 mm のバックローディングホルダー、セメントとボーキサイトは 51 mm のスチールリング内で 100 kN・30 秒間プレスしている。

XRF の記事で、XRF の「前処理が要らない」の正体は「試料が均質だという前提を、前処理で作る代わりに仮定していること」だと書いた。XRD はその逆側にいる。前処理をする代わりに、「前処理で試料が変わっていないこと」を別途確かめなければならない。

6. 標準物質は「真の値」を持ってくるが、「合否」は持ってこない

認証標準物質は装置の校正に使う「真の値」を持ってくるが、合否判定ラインは持ってこない。判定基準を決めるのは末端ユーザーの責任である
図解:標準物質は真の値を持ってくる。合格ラインは持ってこない

〈2.58〉の 4 節「装置性能の管理」は短いが、内容は明快である。

回折装置全体の性能は、標準物質、例えばシリコンやα-アルミナの粉末を用いて定期的に試験及び検査をしなければならない。この場合、認証された標準物質の使用が望ましいが、分析の種類によっては他の特定の標準物質を使用することもできる。

これに対応する記述が、メーカー側にもある。Bruker の D8 ADVANCE ファミリーの製品ページは、ゴニオメーターの特長としてこう書いている。

最新の NIST コランダム標準 SRM 1976 による装置性能検証を通じた Alignment Guarantee 製薬業界のような規制産業のための IQ/OQ 手順

局方が「シリコンやα-アルミナ」と書き、メーカーが「NIST のコランダム標準」と書く。コランダム=α-アルミナである。独立に同じ場所を指している。

では NIST の標準物質は何を保証しているのか。証明書を実際に開くと、3 つの役割が明確に分かれていた。

SRM 形態 用途 認証されている量
640g(2024-02-27 発行) シリコン粉末 約 7.5 g(アルゴン封入) 線位置と線形の校正 格子定数 a = 0.543 110 9 nm、拡張不確かさ (k=2) 0.000 008 0 nm
676a アルミナ粉末 約 20 g(アルゴン封入) 定量相分析の内部標準、I/Ic 値の決定 結晶質アルミナの相純度 99.02 % ± 1.11 %(質量分率、k=2)+格子定数
1976c 焼結アルミナ円板(約 25.6 mm 径 × 2.2 mm 厚) 装置応答(相対強度の 2θ 依存性) 13 本の反射の相対強度((104) を 100.00 ± 0.34 とする)+格子定数 a = 0.475 909 2 nm、c = 1.299 337 nm

640g の相対不確かさは 0.0000080 / 0.5431109 = 約 1.5 × 10⁻⁵(筆者計算)。格子定数はこの桁で分かっている。

設計思想も証明書に書かれている。676a(定量用の内部標準)は、アルム前駆体経由で 1400℃ 焼成し、ジェットミルで完全に解砕してある。理由はこうだ。

高い焼成温度が高い相純度を保証する一方、粒子が等軸(equi-axial)形状であることが、この粉末における選択配向効果を実質的に排除する

一方 1976c(装置応答用)は固体の円板である。

固体形状の SRM は、試料充填手順が持ち込む強度測定のばらつきを排除する。

5 節で見た問題 ―― 粉砕と充填 ―― を、標準物質の側が設計で消しにいっている。ただし 1976c には但し書きがあり、「定量的な微細組織解析には推奨されない」(焼結時のガラス相の影響で微小歪みが tanθ 依存のガウス広がりとして検出されるため)。

そして、本節の核心はここである。1976c の証明書は、認証値の不確かさについてこう明言している。

表 1 に示す k = 2 拡張不確かさは、報告された相対強度値に対する我々の信頼の度合いを表すものであり、試験装置の適格性に関する判断においては、いかなる役割も果たさない。特定の装置に対する受入基準を決定することは、装置ベンダーと協議したうえでの末端ユーザーの責任である。

認証標準物質は「真の値」を持ってくる。「合格ライン」は持ってこない。 期待される結果は「試験データと認証値の比を 2θ に対してプロットしたとき、全範囲で 1 になること」だが、そこからどれだけ外れたら不合格かは、NIST は決めない。

原子吸光(AAS)の記事で、JP19〈2.23〉には判定値がひとつも無く、だから分析者が自分の基準を持つしかないと書いた。XRD でも構図は同じで、しかも今回は NIST が明示的にそう書いている分だけ、逃げ場がない。

もうひとつ、1976c の証明書には示唆に富む数字がある。統計解析(Type A)による格子定数 a の拡張不確かさは ±0.000 000 79 nm だった。しかし系統誤差に由来する Type B を組み込んだ認証値は ±0.000 008 0 nm ―― 約 10 倍である(証明書は "roughly an order of magnitude larger" と表現しており、筆者の計算では a で 10.1 倍、c では 15 倍)。

繰り返し測ってばらつきを詰めても、最後に残るのは系統誤差である。 これは XRD に限った話ではない。

7. 認証された「純アルミナ」も、99.02 % しか結晶質ではない

SRM 640g はシリコン粉末で線位置と線形の校正用、格子定数 a = 0.543 110 9 nm。SRM 676a はアルミナ粉末で定量相分析の内部標準、結晶質アルミナ 99.02%。SRM 1976c は焼結アルミナ円板で装置応答用、13 本の反射の相対強度を認証
図解:3 つの標準物質は、役割がはっきり分かれている

前節の表で、SRM 676a の認証値を見てほしい。結晶質アルミナ 99.02 % ± 1.11 %

NIST が定量相分析の内部標準として世に出している、1400℃ で焼成した高純度アルミナである。それが 99.02 % なのだ。しかも証明書には、こんな注意書きまで付いている。

相純度の認証値は、不確かさの誤差範囲が 100 % を超える範囲を定義しているとしても、100 % を超えることはできない。

なぜ 100 % にならないのか。証明書はその物理をきちんと説明している。

いかなる結晶性物質の表面領域も、結晶構造の緩和と表面反応生成物の混入のため、バルクと同じようには回折しない。 この無秩序で非晶質な表面層は、結晶学的単位で数個分の厚さしかないかもしれないが、微粉体では容易に全質量の数パーセントを占めうる。

つまり 「結晶化度 100 %」という状態は、XRD にとっては存在しない。 粉末である限り、表面は必ず非晶質的にふるまう。そして粒子を細かくするほど比表面積は増える ―― 5 節で選択配向を消すために粉砕すると、非晶質表面層の割合は増える。

局方も、独立にほぼ同じ結論に到達している。〈2.58〉の 7 節「非晶質と結晶の割合の評価」は、3 つの面積から結晶化度を求める式を与える。

結晶化度(%)= 100A / (A + B - C )

A:試料中の結晶成分からの回折による全ピーク面積 B:領域 A を除く、回折パターン下部の全面積 C:バックグラウンドノイズの面積(空気による散乱、蛍光、装置などによる)

そして、こう釘を刺す。

本法は結晶化度を得る絶対的な方法ではなく、一般的には、比較の目的にのみ利用可能である点に注意すべきである。

NIST の証明書と JP19 が、別々の理路で同じ場所を指している。「結晶化度 100 %」とは測定値ではなく、比較の基準として自分が選んだ試料のことである。 報告書に結晶化度を書くとき、何を 100 % としたのかを併記しなければ、その数字は他人が再現できない。

なお米国薬局方の対応章の表題が Characterization of Crystalline and Partially Crystalline Solids(結晶性および部分的に結晶性の固体の特性評価)であることを、ここで思い出しておきたい。

8. 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う

Phase-SNR が 7 に達するのに必要な時間は、Alite 58.9 wt% で 0.01 分未満、Belite 14.0 wt% で 0.16 分、Portlandite 2.0 wt% で 3.53 分、Arcanite 0.2 wt% で 24.61 分、FreeLime 0.2 wt% で 44.84 分。偽陽性は銅フローテーション試料で 30%、ボーキサイト鉱石で 18%
図解:同じ 0.2 wt% でも、必要な時間は 1.8 倍違う

JP19〈2.58〉の 6 節「定量分析」は、こう書いている。

通常、固体試料中の 10%程度の結晶相を定量することが可能であり、最適の条件が整えば、10%より少量の結晶相を定量することも可能である。

同じ章の定性分析の項でも、相の同定が困難または不可能な場合の 9 条件のひとつに「同定すべき成分が質量分率で少量(通例、10%未満)」が挙がっている。

この「10 %」という数字を、そのまま自分の試料に当てはめてよいのか。2025 年 9 月に Minerals 誌に出た論文が、この問いに真正面から取り組んでいる。

Pernechele と Makvandi(Malvern Panalytical B.V.、オランダ Almelo)による Phase Guard の論文(Minerals 2025, 15, 1041、2025-09-30 公開、CC BY)は、冒頭でこう問題を立てる。

各相の正確な定量限界はめったに考慮されず、むしろグローバルな最小重量パーセント閾値を適用して 0.2 〜 2 wt% と近似される。この近似はしばしば偽陽性または偽陰性の相定量値を招き、分析法全般の信頼性を損なう。

そこで著者らは、ドイツセメント工業会(VDZ)が調製した CEM-I の産業標準物質 VDZ100 のプレスペレットを、Aeris と 1Der 検出器で 1 分から 100 分まで、1 分刻みで 100 回測定した。各相のピーク正味強度とショットノイズから「Phase-SNR」を定義すると、これは走査時間の平方根に比例する(Phase-SNR = c·√time)。

そこから、各相が Phase-SNR = 7 に達するのに必要な時間が計算できる。これが本記事でいちばん重要な表である。

リートベルト定量値 [wt%] Phase-SNR = 7 に必要な時間 [分]
Alite 58.9 < 0.01
Aluminate_Cubic 6.0 0.06
Belite 14.0 0.16
Ferrite 6.8 0.17
Aluminate_Ortho 2.3 0.48
Portlandite 2.0 3.53
Periclase 0.15 11.13
Aphthitalite 0.3 20.94
Arcanite 0.2 24.61
FreeLime 0.2 44.84

(Pernechele & Makvandi, Minerals 2025, 15, 1041, Table 2 より抜粋。並べ替えは筆者)

同じ 1 回の測定の中で、必要な時間が 4,000 倍以上開いている。

そして表の下 2 行を見比べてほしい。FreeLime と Arcanite は、どちらも 0.2 wt% である。それなのに必要時間は 44.84 分と 24.61 分で、1.8 倍違う(筆者計算)。散乱能が違うからだ。

これが意味することは重い。「この方法は 0.2 wt% まで定量できます」という文は、原理的に成立しない。 定量できるかどうかは、重量パーセントだけでは決まらない。相ごとの散乱能、結晶性、他の相とのピークの重なり、そして測定時間で決まる。JP19 の「通常 10 % 程度」も、まさに論文が批判している「グローバルな閾値」の一種である ―― もちろん局方は「最適の条件が整えば」と逃げ道を用意しているが。

同じ論文の Table 1 は、10 分測定でのリートベルト結果と参照値を並べている。

参照値 [wt%](括弧内は信頼区間) リートベルト結果 [wt%]
Alite 59 (0.6) 58.9
Belite 14.1 (0.5) 14.0
Ferrite 6.9 (0.5) 6.8
Aluminate_Cubic 5.9 (0.3) 6.0
Portlandite 2 (0.3) 2.0
Anhydrite 2.6 (0.3) 2.5
Hemihydrate 1.8 (0.3) 1.5
FreeLime 0.3 (0.1) 0.2

(Rwp = 9.7 %、GoF = 2.69)

主要相はすべて参照値の信頼区間の中に収まっている。 一方、Hemihydrate(1.8 → 1.5)と FreeLime(0.3 → 0.2)は区間の外にある。上の表 2 で FreeLime が 44.84 分を要求していたことを思い出せば、10 分の測定でこの相を当てにできないのは当然だ。

そして、この論文がいちばん厳しいことを言っているのは、偽陽性についてである。

事例 試料数 × 相数 フィルタ無しで「不在」と判定 Phase Guard(閾値 7)が追加で「不在」と判定 不在の合計 フィルタ無しの結果に含まれる偽陽性
銅フローテーション 544 × 15 = 8,160 3,417 3,108 63 % 全定量結果の約 30 %
ボーキサイト鉱石 51 × 13 = 663 194 122 48 % 全定量結果の約 18 %

(判定は主題専門家によるリートベルトフィットの目視評価で検証された、と論文に明記されている)

自動リートベルトは、そこに無い相を平気で見つける。しかも、きちんと数値をつけて。 銅フローテーション試料では、フィルタを掛けない場合、出てくる定量値の 3 割が実在しない相だった。

これは ラボ自動化と LIMS/ELN の記事で扱った A-Lab の一件 ―― PXRD のパターンが計算構造と合うことと、その物質ができていることは同じではない ―― と、同じ場所を別の角度から照らしている。あちらは新物質の同定、こちらは日常の品質管理だが、「回折パターンにモデルを当てはめて数値が出た」ことと「その相がそこにある」ことは別、という点で完全に一致する。

9. 検出限界が 3 桁に散らばる理由

検出限界は対数目盛で JP19 の一般論 10%、Malvern の乳糖 0.5%、Rigaku のトルブタミド 0.48 wt%、Malvern の検量線 0.1%、シンクロトロンと SHG で 100 ppm と 3 桁に散らばる
図解:10 % から 100 ppm まで、3 桁の開きがある

前節の話を踏まえたうえで、実際に報告されている検出限界を並べてみる。すべて条件が違うので、優劣の比較ではない。スケール感を掴むための一覧である。

出典 対象 装置・条件 到達点
JP19〈2.58〉 一般論(結晶相) 通常 10 % 程度
Malvern(α-乳糖一水和物) 非晶質マトリックス中の結晶質 Cu Kα 40 kV/40 mA、PIXcel、6 分 検出限界 約 0.5 %
同上 結晶マトリックス中の非晶質 同上、2 分 検出限界 1 % 未満
Rigaku(トルブタミド) 原薬中の多形不純物 Form II ベンチトップ MiniFlex +高速 1D 検出器、測定 5 分 Lot B 中の Form II を 0.48 wt% と定量。「1 wt% 以下を短時間で検出できる」
Malvern(API Form I / II) 原薬中の多形不純物 X'Pert PRO MPD、X'Celerator 検出器、バックローディング 検量線(0 〜 0.575 %、5 点)から 検出限界 0.1 %
Newman et al.(リトナビル) 非晶質 HPMC 中の結晶性 API SHG 顕微鏡誘導シンクロトロン PXRD(APS 23-ID-B、12 keV、5 µm 径ミニビーム) 100 ppm(0.01 wt%)を S/N > 5000 で検出

10 % から 100 ppm まで、3 桁の開きがある。

そして、この表のいちばん下の行には続きがある。Newman らの論文(Anal. Chem. 2015, 87(21), 10950-10955、Purdue 大学)は、こう書いている。

図 5 に示した同じ 100 ppm(w/w)のリトナビル / HPMC 混合物を従来型のベンチトップ PXRD で分析すると、結晶性の存在を示す有意な実験的証拠は得られない(図 5C)。しかし SHG 誘導シンクロトロン XRD では、微量の結晶性が容易に検出される。

同じ試料が、ベンチトップでは「非晶質」、シンクロトロンでは「結晶を含む」になる。

ここから導かれる結論は、たぶん本記事で最も実務的な一文である。

「非晶質である」というのは、試料の性質についての言明ではない。使った装置と測定時間についての言明である。

非晶質固体分散体(ASD)の安定性を「XRD で結晶ピークが出ていないこと」で保証している場合、その保証の有効期限は、装置と測定条件で決まっている。

なお、Newman らが検出限界を 3 桁下げた仕組みも示唆的である。SHG(第二高調波発生)顕微鏡は結晶にだけ応答するので、まず結晶がどこにあるかを光学的に特定し、そこにだけ 5 µm のミニビームを当てる。すると照射体積が小さくなり、周囲の非晶質から来るバックグラウンドが減る。

検出下限を下げたのは、検出器の感度ではなく、「どこを見ればよいか」を知っていたことだった。

10. 微量を測るとは、走査範囲を捨てて計数統計を買うこと

結晶化度 0〜100% 用は 4〜40°(36° 幅)を 3 分、微量結晶質 0〜10% 用は 12〜13°(1° 幅)を 6 分。単位角度あたりの時間は 72 倍
図解:範囲を捨てて、計数統計を買う

前節の Malvern の乳糖の研究は、測定条件を完全に開示している。ここが実務的にいちばん参考になる。

共通条件は Cu Kα(40 kV、40 mA)、Bragg-Brentano 集中光学系、入射側にプログラマブル発散スリット、回折側に PIXcel 検出器+散乱スリット+Ni フィルター、両側に 0.04 rad ソーラースリット。そのうえで、目的ごとに走査条件を変えている

目的 ステップ幅 測定時間 走査範囲 評価に使った量
(a) 結晶化度 0 〜 100 % 0.008° 3 分 4 〜 40°(36° 幅) 12.4° 反射のピーク面積
(b) 非晶質含量 0 〜 9 % 0.016° 2 分 7 〜 45°(38° 幅) 反射とバックグラウンドの比 Inet / Iobs
(c) 結晶質含量 0 〜 10 % 0.008° 6 分 12 〜 13°1° 幅 12.4° 反射のピーク面積

(c) を見てほしい。1° の区間だけを 6 分かけて測っている。

(a) は 36° を 3 分で走る。単位角度あたりの時間は、(a) が 0.083 分/度、(c) が 6 分/度 ―― 72 倍である(筆者計算)。微量の結晶質を拾うために、パターン全体を見ることを捨てて、1 本のピークに時間を集中投下している。

この設計が正しい理由は、前節の Phase Guard の式が説明してくれる。Phase-SNR = c · √time。S/N は時間の平方根でしか良くならない。 4 倍の S/N が欲しければ 16 倍の時間がいる。だから、時間を投じる場所を選ぶしかない。

もっとも、範囲を狭めることには代償もある。その 1° の外で何が起きていても分からない ―― 未知の相が生えていても、選択配向でピークが消えていても、気づけない。だから (a) の全域走査と (c) の狭域走査は、どちらかではなく両方必要になる。

Phase Guard 論文の表 2 が示していたのは、まさにこの設計判断が相ごとに違うということだった。「測定時間 10 分」という設定は、アライトにとっては 1,000 倍の過剰であり、フリーライムにとっては 4 分の 1 にも足りない。

11. XRD・NIR・DSC ― 同じ乳糖で比べたら

XRD と NIR はいずれも相関係数 0.99 超、DSC は直線相関を示さず多項式フィットが必要。測定時間は XRD が 2〜6 分、NIR が 30 秒、DSC が約 15 分
図解:DSC の否定ではない ― この物質で DSC に有利な評価軸が使えなかった

Malvern の乳糖の研究がもうひとつ貴重なのは、同一試料で 3 手法を直接比較している点である。

試料は α-乳糖一水和物(錠剤・カプセルの充填剤、ドライパウダー吸入器のキャリア、凍結乾燥時の凍結保護剤として広く使われる)。非晶質領域を完全に再結晶化させるため 65 % RH・30℃ で 1 週間保存したものを結晶質 100 % とし、非晶質は飽和溶液の凍結乾燥で調製。10 % 刻み(10 〜 90 %)と 1 % 刻み(1 〜 9 %、90 〜 100 %)の二元混合物を作って測った。

結果はこうなった。

XRD NIRS DSC
0 〜 100 % の検量線 相関係数 0.99 超 相関係数 0.99 超 直線相関を示さず、多項式フィットが必要
微量域での挙動 良好 良好 非晶質 70 % 超で標準偏差が大きく、20 % 未満で感度低下
微量結晶質の検出限界 約 0.5 % 約 0.5 % 微量解析の対象から除外
微量非晶質の検出限界 1 % 未満 1 % 未満 同上
どちらが精密か 微量結晶質では XRD が優位 微量非晶質では NIRS が優位
1 点あたりの測定時間 2 〜 6 分 30 秒(32 スキャン平均) 約 15 分

結論の一文はこうである。

結晶化エネルギーの DSC 測定は、微量の非晶質または結晶質乳糖の定量を可能にするには不正確すぎることが判明した。これはおそらく、非晶質領域の結晶化が不完全なためである。

ここは慎重に読む必要がある。これは DSC という手法全体の否定ではない。 同資料は「明瞭な融解ピークとガラス転移が無かったため、結晶化ピークと融解ピークの関係を使う評価やガラス転移を使う評価はできなかった」と明記している。つまりこの物質では、DSC に有利な評価軸が使えなかったDSC 徹底解説で扱ったように、DSC は多形の同定や賦形剤適合性では今も第一線の手法である。

それでも、この比較から実務的な役割分担は読み取れる。

  • 結晶が出てきたかを見るなら XRD。Malvern も「微量の結晶質に対する高い感度のため、XRD が結晶化プロセスのモニタリングに好ましい手法である」と書いている。しかも何が結晶化したのかを直接決められるのは XRD だけだ。
  • 非晶質の側の微妙な変化は NIRS が拾う。しかも 30 秒で測れる(NIR と PAT の記事参照)。
  • 相転移の熱力学、そして 3 節で Triclinic Labs の著者らが言っていた「新規分子での実験設計の指針」は、DSC・TGA・DVS の役割である。

12. 蛍光X線は、ここではノイズである

XRF は「何の元素か」を見る手法で、XRD 測定においてはその蛍光X線がノイズになる。XRD は原子の並び方(構造)を見る手法で、多形の識別ができる
図解:同じ蛍光X線が、手法によって信号にもノイズにもなる

〈2.58〉の 2.2 節「X線放射」に、XRF の記事を読んだ人には引っかかる一文がある。

X線回折に用いられる主な放射線源には、銅、モリブデン、鉄、コバルト、銀、クロムを陽極とする真空管が用いられる。有機物のX線回折測定においては、通例、銅やモリブデンのX線が用いられる。使用するX線の選定は、試料の吸収特性と試料中に存在する原子由来の蛍光発光の可能性も考慮して行う。

XRF では信号だった蛍光X線が、XRD ではノイズである。 試料に鉄が入っていれば、Cu Kα(8.04 keV)は鉄を励起して蛍光を出させ、それがバックグラウンドとして回折パターンに乗る。だから鉄を含む試料では Co や Cr の陽極、あるいは Mo を選ぶ。同じ物理現象が、手法によって信号にもノイズにもなる。

単色化にも段階がある。局方が挙げる順に、コストと効果が上がっていく。

  1. Kβ フィルター ―― Kα と Kβ の波長の間に吸収端を持つ金属。単色X線管と試料の間に置く。
  2. モノクロメーター結晶 ―― 試料の前または後に置き、Kα と Kβ を異なる角度に回折させる。特殊なものは Kα₁ と Kα₂ の分離もできる。
  3. 湾曲X線ミラー ―― 単色化・焦点合わせ・平行化を同時に行える。

ただし局方はこう釘を刺す。「フィルターやモノクロメーターを用いて単色ビームを得る際、その強度及び効率は低下する。」 10 節で見たとおり、XRD では強度は時間である。単色性を買うと時間を払うことになる。

もうひとつの道が、検出器の側でエネルギーを弁別することである。ここは近年いちばん動いた場所で、局方本文にも反映されている。

X線は、通例、シンチレーション計数管や密閉ガス比例計数管のような検出器により求められるが、現在では位置敏感型半導体検出器やハイブリッド型光子計数検出器がより広く利用されている

各社の実装を公式資料から拾うとこうなる。

  • Rigaku D/teX Ultra 250(1D シリコンストリップ):「粉末回折を 250 倍高速化し、試料の種類に応じて約 20 % または約 4 % の調整可能なエネルギー分解能を提供する」。
  • Rigaku XSPA-200 ER:「従来検出器との最も重要な違いはその高いエネルギー分解能である。試料から発生する蛍光X線を弁別するため、測定される回折パターンのバックグラウンド強度が低い。
  • Rigaku HyPix-400 MF(2D ハイブリッドピクセルアレイ):「直接光子計数により高速・低ノイズのデータ収集を可能にし、0D および 1D モードで従来の XRD 解析に、2D モードで粗大粒径および/または選択配向を持つ試料に使用できる」。
  • Bruker LYNXEYE XE-T:エネルギー弁別機能を持つ検出器として D6 PHASER に搭載。
  • Malvern PIXcel3D:0D-1D-2D-3D を 1 台で扱えるハイブリッド検出器。

最後の 2D モードに注目してほしい。5 節で見た「選択配向」という試料調製の問題に、検出器の側から答える道が開いている。 リングの強度分布を見れば配向の有無が分かるので、粉砕する前に「粉砕が必要かどうか」を判断できる。〈2.58〉が「粉砕操作は不要である」と書いていた条件を、装置側で確かめられるということだ。

参考までに、ベンチトップ XRD の系譜を Rigaku の公式記述から追うと、検出器の世代交代がそのまま見える。

世代 特徴
Gen 1 1973 世界初の市販ベンチトップ XRD。当時の装置の約 10 分の 1 のサイズ。水平ゴニオメーター、内蔵ストリップチャートレコーダーで出力
Gen 3 1995 450 W(30 kV × 15 mA)、垂直ゴニオメーター、Windows PC 制御
Gen 4 2006 単色光源と D/teX Ultra 1D シリコンストリップ検出器
Gen 5 2012 600 W
Gen 6 現行 HyPix-400 MF 2D ハイブリッドピクセルアレイ検出器、8 位置オートサンプラー

紙に描かせていた 1973 年から、2 次元で光子を 1 個ずつ数える現在まで、50 年余り。 局方の記述が「シンチレーション計数管や密閉ガス比例計数管」から始まって「現在では」と続く理由が、この表にある。

13. ICH Q6A ― 原薬と製剤で、答えが違う

ICH Q6A では、原薬については多形含量に判定基準を設定するが、製剤については XRD 等による多形含量測定は最後の手段(last resort)とされ、溶出などの代替試験が優先される
図解:「最後の手段」と言われているのは、原薬ではなく製剤である

ここまで「どこまで測れるか」を見てきた。最後に「測ったものを、規格にすべきか」を見る。

ICH Q6A の決定樹 #4 は 3 段構成になっている。原文(全 35 ページ、決定樹は図として収載)を開いて読み取った内容は次のとおりである。

第 1 段(原薬) - 原薬の多形スクリーニングを実施する → 異なる多形ができるか? - できないNo further action(それ以上何もしない) - できる → 形を特性評価する。挙げられている手法は「X-ray Powder Diffraction/DSC・熱分析/顕微鏡/分光」の順 ―― XRD が筆頭に置かれている

第 2 段(原薬) - 形によって性質(溶解度・安定性・融点)が違うか? → 違わない → 原薬に試験も判定基準も不要 - 違う → 製剤の安全性・性能・有効性に影響するか? → 影響しない → 不要 - 影響する原薬の多形含量に判定基準を設定する

第 3 段(製剤) ―― ここに重要な注記が付いている。

N.B.: 製剤中の多形含量を測定することが技術的に可能な場合にのみ、以下のプロセスを実施すること。

  • 製剤の性能試験(例:溶出)が、多形比が変化した場合の十分な管理を与えるか?
  • 与えるその性能試験の側に判定基準を設定する
  • 与えない → 製剤の安定性試験中に多形形態をモニターする → 安全性または有効性に影響しうる変化が起きるか? → 起きない → 製剤の多形変化に判定基準を設定する必要はない → 起きる → 安全性・有効性と整合する判定基準を設定する

そして本文には、決定樹より踏み込んだ一文がある。

製剤中の多形変化を測定することは、一般に技術的に非常に困難である。代替試験(例:溶出)が一般に製品性能のモニタリングに使用でき、多形含量は、試験および判定基準としては最後の手段(last resort)としてのみ使用されるべきである。

ここで混同してはいけない区別がある。"last resort" は製剤(drug product)について言われている。 原薬(drug substance)については、決定樹の第 2 段が「原薬の多形含量に判定基準を設定する」と普通に指示している。

この区別を、9 節の数値と重ねてみる。Rigaku の 0.48 wt% も、Malvern の検出限界 0.1 % も、どちらも原薬の測定である。つまり測定技術が到達している場所と、ICH が「最後の手段」と呼んでいる場所は、そもそも違う。

技術は 10 % から 0.1 % へ、2 桁進んだ。それでも製剤側の設計思想が変わっていないのは、測れるかどうかが問題なのではないからだ。 錠剤の中の API は賦形剤に希釈され、打錠圧を受け、しばしば配向している。そこで多形比を 1 % の精度で測れたとして、その数字が製品の溶出や生物学的利用能を意味するかどうかは、また別の実証がいる。ICH が代替試験(溶出)を勧めるのは、溶出は最初から「性能そのもの」を測っているからである。

そして 2 節に戻る。ICH の多形の定義には水和物・溶媒和物・非晶質形が含まれる。規制が管理せよと言っている対象の一部は、局方の 0.2° という判定幅がそもそも適用されない物質である。 水和物の製剤を扱っているなら、この二つの文書のあいだにある隙間は、自分で埋めるしかない。

分析者の視点

ここまでの内容を、実務の判断に落とすと次のようになる。

  1. 0.2° を超えるずれが出たら、まず試料を疑う。 現行装置の分解能は 0.026 〜 0.04°、Bruker の保証角度偏差は 0.01° である。局方の許容幅より一桁小さい。装置が原因である可能性は低い(4 節)。
  2. 水和物・溶媒和物を扱うなら、0.2° を持ち出す前に適用可否を確認する。 JP19 は「これらの物質では 0.2° 以内という許容幅は適用しない」と明記している(2 節)。
  3. 粉砕したら、粉砕前と比べる。 局方が「比較することが望ましい」「目的に適合するなら粉砕は不要」と書いている。粉砕は準備ではなく改変であり、他の多形への固相転移が副作用として列挙されている(5 節)。
  4. 「何 wt% まで測れるか」を単一の数字で答えない。 同じ 0.2 wt% でも、必要な測定時間が 1.8 倍違った実例がある。定量限界は相ごとに決めるべきものである(8 節)。
  5. 自動リートベルトの出力を、そのまま報告書に載せない。 偽陽性が全定量結果の 18 〜 30 % を占めた実例がある。微量相ほど危ない(8 節)。
  6. 「非晶質である」と書くときは、装置と測定時間も書く。 同じ 100 ppm の試料が、ベンチトップでは非晶質、シンクロトロンでは結晶を含むと判定された(9 節)。
  7. 結晶化度を報告するときは、何を 100 % としたかを併記する。 局方が「絶対的な方法ではなく比較の目的にのみ」と書き、NIST の認証済み純アルミナですら 99.02 % である(7 節)。
  8. 標準物質は真の値を持ってくるが、合否は持ってこない。 受入基準を決めるのは、NIST の言葉を借りれば「装置ベンダーと協議したうえでの末端ユーザーの責任」である(6 節)。

まとめ

XRD は、医薬品の固体形を直接見ることができる、ほとんど唯一の手法である。ICH Q6A の決定樹が、多形の特性評価手法の筆頭に X-ray Powder Diffraction を置いているのは伊達ではない。

だが本記事で見てきたとおり、その「直接見る」の中身は、思っているほど直接的ではない。

  • 粉砕しなければ配向が消えないが、粉砕すると多形が変わりうる。
  • 標準物質は真の値を持ってくるが、合格ラインは持ってこない。
  • 結晶化度 100 % の粉末は、XRD にとって存在しない。
  • 定量限界は相ごとに違い、単一の閾値で線を引くと 2 割 3 割の偽陽性が出る。
  • 「非晶質」は試料の性質ではなく、装置と時間についての言明である。

これらはどれも、XRD の欠陥ではない。回折という現象が、結晶の並び方だけでなく、粒子の形・向き・大きさ・表面・そして測定に費やした時間のすべてを同時に反映しているからである。パターンは正直で、正直すぎるがゆえに、そこから 1 つの数字を取り出すには前提を置かなければならない。

XRD で多形を管理するとは、その前提を自分で書き出し、自分で守ることである。 局方も、NIST も、ICH も、そこは分析者に任せている。

用語集

  • 粉末X線回折(XRD / PXRD / XRPD):粉末試料にX線を照射し、干渉性散乱X線による回折強度を各回折角について測定する方法。結晶相の同定・定量、非晶質と結晶の割合の評価に用いる。
  • ブラッグの法則:2dhkl sinθhkl = nλ。回折した 2 つのX線波の行路差が波長の整数倍のとき干渉が強められる。d は格子面間隔、θ は入射X線と格子面群の角度。
  • ミラー指数 (hkl):格子面の方向と間隔を規定する指数。結晶面が単位格子軸と作る切片の逆数の、最も小さい整数。
  • 結晶多形(polymorphism):同一原薬の異なる結晶形。ICH Q6A の定義では、溶媒和物・水和物(擬似多形)および非晶質形を含みうる
  • 脱水和物(dehydrated hydrate):水和物から水分子だけが抜け、格子の骨格は水和物のまま残った相。テオフィリンの Form I* がこれにあたる。
  • 選択配向(preferred orientation):粉末試料中で結晶粒子が特定の向きに揃うこと。反射強度を、無配向の場合の予測から強くも弱くも変える。針状晶・板状晶で顕著。
  • ブラッグ-ブレンターノ集中法光学系:現在広く使われる回折計の光学配置。入射X線が試料面と θ、回折X線が入射方向と 2θ をなし、受光スリットの一本の線に集束する。
  • リートベルト法:回折パターン全体を結晶構造モデルから計算し、実測と合うように精密化する手法。JP19 の脚注は「全ての成分の結晶構造が既知の場合に高精度の定量分析が可能」とし、既知でない場合はポーリー(Pawley)法または最小二乗法を挙げている。
  • Phase-SNR:Phase Guard で定義される相ごとの信号対雑音比。相のブラッグ強度をバックグラウンドおよび他相の重なりから分離して算出する。走査時間の平方根に比例する。
  • Rwp / GoF:リートベルト精密化の当てはまりの指標。本記事で引用した VDZ100 の 10 分測定では Rwp = 9.7 %、GoF = 2.69。
  • I/Ic:コランダム(α-アルミナ)を基準としたときの相対的な回折強度。定量相分析で使われ、NIST SRM 676a はこの決定にも適する。
  • 認証標準物質(CRM):計量トレーサビリティが確立され、不確かさが付与された標準物質。JP19〈2.58〉は装置性能管理での使用を「望ましい」としている。

出典

  1. 第十九改正日本薬局方 一般試験法〈2.58〉粉末X線回折測定法(厚生労働省、2026年4月10日告示・同日適用、p.149-153)― 三薬局方調和、回折パターンの 3 情報、2θ 0.2° の許容幅とその適用除外、粒子径 50 µm と過度の粉砕(0.5 µm 以下)の 6 副作用、装置性能管理の標準物質、定量分析(通常 10 %)、結晶化度の式と「比較の目的にのみ」、リートベルト法の脚注 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001689414.pdf
  2. ICH Q6A: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances ― Decision Tree #4(1)〜4(3)、多形の定義、「polymorph content should only be used as a test and acceptance criterion of last resort」 https://database.ich.org/sites/default/files/Q6A%20Guideline.pdf
  3. NIST SRM 640g Certificate: Line Position and Line Shape Standard for Powder Diffraction (Silicon Powder)(2024年2月27日発行)― 格子定数 a = 0.543 110 9 nm、拡張不確かさ (k=2) 0.000 008 0 nm https://tsapps.nist.gov/srmext/certificates/640g.pdf
  4. NIST SRM 676a Certificate of Analysis: Alumina Powder (Quantitative Analysis Powder Diffraction Standard)(2015年11月4日発行)― 結晶質アルミナ 99.02 % ± 1.11 %、非晶質表面層の説明、等軸粒子による選択配向の排除 https://tsapps.nist.gov/srmext/certificates/676a.pdf
  5. NIST SRM 1976c Certificate of Analysis: Instrument Response Standard for X-Ray Powder Diffraction ― 13 本の反射の認証相対強度、格子定数、Type A と Type B の不確かさ、「不確かさは試験装置の適格性判断にいかなる役割も果たさない」「受入基準の決定は末端ユーザーの責任」 https://tsapps.nist.gov/srmext/certificates/1976c.pdf
  6. M. Pernechele and S. Makvandi, "Phase Guard: A False Positive Filter for Automatic Rietveld Quantitative Phase Analysis Based on Counting Statistics in HighScore Plus", Minerals 2025, 15(10), 1041(Malvern Panalytical B.V., Almelo, オランダ。2025年9月30日公開、CC BY)― グローバル閾値 0.2〜2 wt% の批判、VDZ100 の 1〜100 分測定、Phase-SNR = c·√time と相ごとの必要時間、リートベルト結果と参照値の比較、偽陽性 30 %/18 % https://doi.org/10.3390/min15101041
  7. S.X.M. Boerrigter and B.A.F. Mibeck, "In situ observation of Theophylline anhydrous forms II, III, V, and I* using Variable-Temperature, Variable-Relative Humidity Powder X-ray Diffraction", Triclinic Labs Application Note(2023年9月)― 5/50/75 % RH での脱水経路、12.5° と 12.7° の議論、Rigaku SmartLab + Anton Paar CHC+ https://tricliniclabs.com/reference-material/downloadable-documents/whitepapers-pubs/AppNote_VTRH_PXRD_Theophylline_TRICLINIC_LABS-2023.pdf
  8. J.A. Newman, P.D. Schmitt, et al., "Parts per Million Powder X-ray Diffraction", Anal. Chem. 2015, 87(21), 10950-10955(Purdue 大学。doi:10.1021/acs.analchem.5b02758)― SHG 顕微鏡誘導シンクロトロン PXRD、100 ppm のリトナビル / HPMC を S/N > 5000 で検出、同一試料がベンチトップ PXRD では検出できないこと https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4747326/
  9. Malvern Panalytical, "Crystallinity determination — Quantification of low amounts of amorphous material in a crystalline matrix and vice versa"(Application Note AN20121026)― α-乳糖一水和物での XRD / NIRS / DSC の比較、測定条件(走査範囲・時間・ステップ幅)、検出限界 https://www.malvernpanalytical.com/en/learn/knowledge-center/application-notes/an20121026crystallinitydeterminationamorphousmaterial
  10. Malvern Panalytical, "Quantitative XRD — Detection of low amounts of crystalline impurities for pharmaceutical process control"(Application Note AN20130321)― Form I に Form II をスパイクした 0〜0.575 % の 5 点検量線、検出限界 0.1 %、DL = 3σ/S、粒子径 50 µm 未満と粉砕時の注意、バックローディングホルダー https://www.malvernpanalytical.com/en/learn/knowledge-center/application-notes/an20130321quantitativexrdcrystallinepharmaceuticalprocess
  11. Rigaku, "Quantitative Analysis of Polymorphic Impurities in a Drug Substance by the Calibration Method"(Application Note B-XRD1081)― トルブタミド Lot A / Lot B、0.2/0.4/0.7/1 wt% の検量線、Lot B 中の Form II を 0.48 wt% と定量、測定時間 5 分 https://www.rigaku.com/products/x-ray-diffraction-and-scattering/xrd/application-notes/b-xrd1081-polymorphic-impurities-drug-substance
  12. Rigaku, MiniFlex 製品ページ ― 世代の系譜(1973 年 Gen 1 〜 現行 Gen 6)、HyPix-400 MF、XSPA-200 ER の蛍光X線弁別、600 W https://www.rigaku.com/products/xrd/miniflex
  13. Rigaku, SmartLab SE 製品ページ ― D/teX Ultra 250 の 250 倍高速化とエネルギー分解能 約 20 % / 約 4 %、HyPix-400 の 0D/1D/2D 切替 https://rigaku.com/products/x-ray-diffraction-and-scattering/xrd/smartlab-se
  14. Bruker, D6 PHASER 製品ページ ― 最大 1.2 kW、保証精度 < 0.01°(付属コランダム標準)、FWHM < 0.03° 2θ(NIST 640e)、最大 160 kg https://www.bruker.com/en/products-and-solutions/diffractometers-and-x-ray-microscopes/x-ray-diffractometers/d6-phaser.html
  15. Bruker, D8 ADVANCE Family 製品ページ ― NIST SRM 1976 コランダム標準による Alignment Guarantee、規制産業向け IQ/OQ 手順 https://www.bruker.com/en/products-and-solutions/diffractometers-and-x-ray-microscopes/x-ray-diffractometers/d8-advance-family.html
  16. Malvern Panalytical, Aeris 製品ページ ― 300〜600 W、半径 145 mm、2θ −4°〜142°、直線性・分解能 < 0.04°、最小刻み 0.001°、最大 2.17 °/s、Cu / Co https://www.malvernpanalytical.com/en/products/product-range/aeris-range
  17. Malvern Panalytical, Empyrean 製品ページ ― 4 kW(最大 60 kV / 100 mA)、再現性 ≤ ±0.0001°、直線性 ±0.01° 以下、最小刻み 0.0001°、分解能 0.026° FWHM(LaB6)、最大 15 °/s、1,150 kg https://www.malvernpanalytical.com/en/products/product-range/empyrean-range/empyrean
  18. USP〈941〉Characterization of Crystalline and Partially Crystalline Solids By X-Ray Powder Diffraction (XRPD)(United States Pharmacopeia, 2021)― 章題および導入部(回折パターンから得られる 3 種類の情報)。本文は購読者限定のため、公開されている導入部のみを参照した。 https://doi.usp.org/USPNF/USPNF_M99730_02_01.html

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未確認・限界

  1. 本記事で並べた検出限界(10 % / 0.5 % / 0.48 wt% / 0.1 % / 100 ppm)は、試料も装置も測定時間も検量線の設計もすべて異なる。同一条件での比較ではなく、到達しうるスケールの幅を示すための一覧である。装置間の優劣の比較として読まないでほしい。
  2. 4 節の装置比較表で、分解能の測定に用いられている標準物質が各社で異なる(Aeris と Empyrean は LaB6、D6 PHASER は NIST 640e)。ソーラースリットの条件も一致していない。厳密な横並び比較ではない。
  3. 「フロア型を買って手に入るものは分解能ではない」は、本記事による観察である。各社は自社製品のスペックを公開しているだけで、この対比を主張しているわけではない。なお Bruker は D6 PHASER について「多くのフロア型システムを凌駕する」と自社で述べている。
  4. Phase Guard 論文の事例はすべて鉱物・セメント系である(銅フローテーション、ボーキサイト、セメント)。医薬品の多形定量で偽陽性が同じ割合で出るという実証データは確認できていない。本記事は「相ごとに定量限界が違う」という原理と、その原理が実測で示された事実を引いており、医薬品への外挿は読者の判断に委ねる。
  5. 8 節の「Phase-SNR = 7」という閾値は、論文が事例で用いた値である。論文自身が「閾値の選択は偽陽性と偽陰性のあいだの妥協である」と明記している。普遍的な合格ラインではない。
  6. Triclinic Labs の資料はアプリケーションノートであり、査読論文ではない。ただし Form I* と Form III の同一性をめぐる議論では査読済み文献(Phadnis & Suryanarayanan 1997、Larsen et al. 2019 ほか)が引用されており、本記事はその議論の構造を紹介した。どちらの解釈が正しいかについて、本記事は判断していない。
  7. 欧州薬局方 2.9.33 の原文は確認できていない。JP19〈2.58〉が三薬局方調和に基づくと明記しているため対応章は存在するが、条文の異同は検証していない。USP〈941〉も、公開されている導入部のみを参照した(本文は購読者限定)。したがって「三薬局方で判定値がどこまで一致しているか」については本記事は何も述べていない。
  8. ディープリサーチが返した検出限界の数値のうち、出典が URL を持たない合成ドキュメントに帰着するものはすべて不採用とした(多形の LOD 0.17 wt% / LOQ 0.50 wt%、Cu Kα と Mo Kα での無機相 LOD、無機非晶質の LOD 0.80 wt% など)。一次資料にたどり着けなかったため、本記事には含まれていない。
  9. リートベルト法とポーリー法・PONKCS 法の使い分け、微小吸収(microabsorption)の補正、単結晶構造解析については本記事では扱っていない。〈2.58〉の 8 節「単結晶構造解析」に触れなかったのも同じ理由で、いずれも別記事の主題である。
  10. 粉砕時間と多形転移率の定量的な関係(何分粉砕すると何 % 転移するか)を示す一次データは確認できなかった。JP19 と Malvern はいずれも定性的な警告にとどまっている。5 節で述べたのは「起こりうる」ことであって、「どれだけ起こるか」ではない。

制作メモ:ディープリサーチで一次情報の候補を収集し、編集側で薬局方原文・ICH ガイドライン原文・NIST 証明書・査読論文・メーカー公式技術資料にあたって検証のうえ執筆した。本文中の比率・相対不確かさ・単位角度あたりの測定時間はいずれも出典に記載された数値から筆者が計算したもので、その旨を明記している。