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9 件の記事

抗体医薬のLC-MSキャラクタリゼーション ― 同じ1本の抗体を76研究室が測ったら、見つけた糖鎖は4個から48個だった【2026年版】
質量分析

抗体医薬のLC-MSキャラクタリゼーション ― 同じ1本の抗体を76研究室が測ったら、見つけた糖鎖は4個から48個だった【2026年版】

ICH Q6B は「不均一性のパターンを定義し、恒常性を示せ」と求める。個々の分子種を評価しなくてよいのは、 パターンが一定だと示せた場合だけである。ではそのパターンは、どれくらい揃うのか。NIST の標準抗体 NISTmAb を 76 の研究室が測った結果、検出された糖鎖組成の数は 4 個から 48 個まで、12 倍ひらいた。派生属性の9項目のうち 6項目で、四分位範囲が中央値そのものより広かった(筆者計算)。そして「コアフコシル化」のコンセンサス中央値は 103.95 % ―― 割合なのに 100 % を超えている。日本薬局方はペプチドマップ法・タンパク質の質量分析・糖鎖 プロファイル法をすべて備えているが、それらは「参考情報」にあり、告示(2549 頁まで)の外にある。さらに厄介なのは、 測るための前処理そのものが脱アミド化・酸化・Asn→Asp を作ることだ ―― 局方自身が3か所でそう書いている。

標準物質・検量線・トレーサビリティ ― 相関係数 0.999 を満たした検量線の 95 % で、定量下限が ±20 % を外れていた【2026年版】
データ解析

標準物質・検量線・トレーサビリティ ― 相関係数 0.999 を満たした検量線の 95 % で、定量下限が ±20 % を外れていた【2026年版】

「トレーサブルな標準物質を使っています」と言うとき、何がトレーサブルなのか。国際計量計測用語集(VIM)の定義では、 計量トレーサビリティは「測定結果の性質」であって、標準物質でも装置でも研究機関でもない。しかも VIM は続けて 「トレーサビリティは、不確かさが目的に対して十分であることも、間違いが無いことも保証しない」と明記している。 では何が答えを決めるのか ―― 検量線の引き方である。1〜1000 の 10 点を、点はまったく同じまま重み付けだけを 変えて 20000 回引き直したところ、定量下限の相対誤差の標準偏差は 361 % と 2.3 %、ICH M10 の ±20 % を外れる確率は 95.4 % と 0.0 % に分かれた(筆者シミュレーション)。しかも相関係数は 0.999 を超えている。ICH Q2(R2) は 重み付けに一言も触れていないが、同じ文書が「残差プロットの非ランダムなパターンを評価せよ」と書いている。

キラルカラムの選び方 ― どのカラムが効くかは予測できないと、メーカー自身が書いている【2026年版】

キラルカラムの選び方 ― どのカラムが効くかは予測できないと、メーカー自身が書いている【2026年版】

逆相のカラム選びには理屈がある。logP と pKa を見れば当たりはつく。キラルだけは違う。 Phenomenex は自社のキラルカラム選択の手引きに「どの固定相がよい分離を与えるかを正確に予測することは できない。したがってスクリーニングが必要である」と書き、Daicel は 1,100 件を超える分離例データベースを 提供したうえで「これらの指針は経験的観察に基づくものであり、あなたの化合物の分離を正しく予測しない かもしれない」と添えている。カラムを売る側が予測不能を明記している分野は、他にほとんどない。 さらに厄介なのは、同じセレクターでも被覆型と固定化型でエナンチオマーの溶出順序が逆になることだ。 ケトプロフェンで選択性と分離度をわざと揃えて比較した報告では、順序が入れ替わるだけで微量エナンチオマーの 定量限界が 0.03 µg/mL と 0.10 µg/mL、3.3 倍違った。メタノールをエタノールに替えるだけで順序が変わる系も、 同じカラム・同じ溶媒で等エナンチオ選択温度が 2000 ℃ 超と −82 ℃ に分かれる化合物対もある。 本記事は「この化合物にはこのカラム」の表を作らない。予測できないものを手順で決めるために、 固定相の系統、被覆型と固定化型の実像、スクリーニング設計、溶出順序を動かす 5 つのレバー、添加剤と平衡化、 FDA と ICH Q6A が実際に要求していること、分取へのスケールアップまでを一次資料の数値で追う。

XRD(粉末X線回折)と結晶多形 ― 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う【2026年版】

XRD(粉末X線回折)と結晶多形 ― 「何 wt% まで測れるか」は、相ごとに違う【2026年版】

日本薬局方に蛍光X線の一般試験法は無いが、粉末X線回折には〈2.58〉が5ページある。同じX線でこの差が出るのは、 XRD が「元素」ではなく「並び方」を測るからだ。JP19〈2.58〉を通読すると、判定値らしい判定値はひとつしかない ―― 「同一結晶形なら 2θ は 0.2° 以内で一致する」。ところがこの幅は、水和物・溶媒和物には適用されない。そして 実際のテオフィリンでは、12.5° と 12.7° という 0.2° 離れた2本が、別々の相だった。決着をつけたのは角度ではなく 「いつ出たか」である。本記事は、局方の 0.2°・装置の 0.03°・NIST 標準物質・リートベルト自動定量の偽陽性 30%・ 検出限界が 10% から 100 ppm まで3桁に散らばる理由を、すべて一次資料の数値で追う。

近赤外分光(NIR)とPAT ― その数値を出しているのは、装置ではなくモデルである【2026年版】
分光

近赤外分光(NIR)とPAT ― その数値を出しているのは、装置ではなくモデルである【2026年版】

NIR は前処理なしで粉体の数mm奥まで潜り、非破壊で水分も含量も出す。だが装置が出しているのは スペクトルであって数値ではない。含量 98.7% という値を出しているのは検量モデルであり、 そのモデルは参照分析法の値を教師として作られている。だから日本薬局方〈2.27〉は 「既存の分析法を基準として比較試験を行い、その同等性を確認しておく必要がある」と書き、 EMA のガイドラインは NIRS を method・model・procedure の三層に分け、 「Ph.Eur. 2.2.40 を引用するだけでは不十分」と明言する。ICH Q2(R2)(2023年)は 多変量分析法を正式にバリデーションの対象に取り込んだ。本記事は JP〈2.27〉原案・EMA ガイドライン・ ICH Q2(R2)・メーカー技術資料・査読論文を原典で確認し、NIR を PAT として運用するときに 効いてくる条件を、装置ではなくモデルと手順の側から整理する。

分析法バリデーションが30年ぶりに変わった ― Q2(R2) が並べた定量限界の 2 つの求め方は、同じノイズから 2.5 倍ちがう値を出す【2026年版】

分析法バリデーションが30年ぶりに変わった ― Q2(R2) が並べた定量限界の 2 つの求め方は、同じノイズから 2.5 倍ちがう値を出す【2026年版】

分析法バリデーションの拠り所だった平成7年・平成9年の2通知(旧Q2A・旧Q2B)が統合され、 令和7年10月9日付けで「分析法バリデーションに関するガイドライン」として置き換わった。 同日、まったく新しい「分析法の開発に関するガイドライン」(ICH Q14)も発出されている。 本記事は、通知本文が列挙する7つの改正点を原文で示したうえで、「範囲」から「報告値範囲」への 用語の変化、真度と精度を組み合わせて評価してよくなったこと、そして頑健性とシステム適合性が Q2からQ14へ移動したという構造変化を整理する。さらにQ14のATP・エスタブリッシュトコンディションが 承認後の変更にどう効くのかまで、条文に即して扱う。Q2(R2) が定量限界の求め方として並べる 「S/N 10:1」と「10σ/S」は、ノイズの取り方が違えば同じ装置で 2.5 倍ずれる。どちらで求めたかを書かなければ、 その定量限界は比較できない。

元素不純物とICP-MS ― 添加回収率 70 % を許すということは、限度の 1.43 倍まで見逃しうるということ【2026年版】
質量分析

元素不純物とICP-MS ― 添加回収率 70 % を許すということは、限度の 1.43 倍まで見逃しうるということ【2026年版】

JP19〈2.66〉の定量試験は、添加回収率の適合基準を「70 〜 150 %」と定めている。バイオアナリシス(ICH M10)の ±15 % と比べて 極端に緩く見えるが、この幅には意味がある。回収率 70 % の分析法で測ると、真の含量が目標限度値の 1.43 倍ある試料がちょうど限度値として報告される。 逆に回収率 150 % なら、限度値の 0.67 倍しかない試料が限度値に見える(筆者計算)。さらに併行精度 RSD 20 % が重なると、 1 回の測定では真値の 0.6 〜 1.4 倍が返りうる。つまり〈2.66〉の緩い基準は「測れない」ことを許しているのではなく、 管理閾値(PDE の 30 %)という別の安全代を前提に置いた設計である。 第十九改正日本薬局方(JP19)で一般試験法〈2.66 元素不純物〉が改正された。改正されたのは 「II. 元素不純物試験法」で、薬局方調和国際会議において新規に調和合意された内容が反映され、 三薬局方で調和された部分と日本薬局方が独自に規定する部分が条文上で区別されるようになった。 JP18と条文を突き合わせると判定基準の数値は変わっていない――変わったのは位置づけである。 本記事では改正の中身を原文で示し、あわせて元素不純物分析の実務を整理する。クラスとPDE、 目標限度値とJ、分析手順1(ICP-OES)と手順2(ICP-MS)の使い分け、密閉容器マイクロ波分解、 アルゴン塩化物によるヒ素の干渉とコリジョン/リアクションセル、そしてバリデーション要件まで。

ICH M10バイオアナリシス実務 ― ISR の「±20 %」は平均で割る式なので、普通の相対差なら +22 % と −18 % になる【2026年版】
質量分析

ICH M10バイオアナリシス実務 ― ISR の「±20 %」は平均で割る式なので、普通の相対差なら +22 % と −18 % になる【2026年版】

ISR(実試料再分析)の判定基準「乖離度 ±20 % 以内」は、差を初回値ではなく初回値と再分析値の平均で割る式で定義されている。 そのため許される比は 1.22 倍で、普通の相対差に直すと高い側 +22.2 %・低い側 −18.2 % になる(筆者計算)。 同じ式で LBA の ±30 % は 1.35 倍、+35.3 %/−26.1 %。初回値を分母にして計算すると、本来合格の試料を不合格と数える。 実施規模の規定も数字を追うと性格が見える。1000 試料までは 10 %、超えた分は 5 % なので、10,000 試料の試験では再分析率が 5.5 % まで下がる。 実試料分析の受入基準「2/3 かつ各濃度 50 %」も、3 濃度 × 2 重測定なら 2 個が外れる 15 通りのうち 3 通り(同じ濃度で 2 個とも外れる場合)だけが不合格になる。 生体試料中の薬物濃度を測るバイオアナリシスは、ICH M10ガイドラインが2024年12月4日に 国内通知され、従来のクロマトグラフィー法・リガンド結合法の2通知は廃止された。旧通知でも よいとされた移行期間は令和7年9月30日開始分までで、すでに終了している。つまり現在はM10一本である。 本記事では通知と原文を根拠に、適用範囲、フル/パーシャル/クロスバリデーションの使い分け、 検量線の6濃度・75%ルール、真度精度の±15%(定量下限±20%)、実試料分析の受入基準、 マトリックス効果とキャリーオーバー、そしてISR(実試料再分析)の実施規模と判定基準までを実務の順に整理する。

残留溶媒分析の実務 ― ICH Q3C(R9)がJP19〈2.46〉に入り、乾燥減量の使い方が変わった【2026年版】

残留溶媒分析の実務 ― ICH Q3C(R9)がJP19〈2.46〉に入り、乾燥減量の使い方が変わった【2026年版】

第十九改正日本薬局方(JP19)で一般試験法〈2.46 残留溶媒〉が改正された。中身は ICH Q3C(R9)の国内実装で、変わったのは「分析方法」のたった数十文字――クラス3の溶媒しか ないときに乾燥減量のような非特異的方法を使う条件が明確化され、バリデーションで 溶媒の揮発性の影響を考慮することが求められるようになった。本記事では条文の差分を原文で示し、 そのうえで残留溶媒分析の全体像――3つのクラスと限度値、オプション1と2、ヘッドスペースGCの 標準条件、操作法A/B/Cの使い分け、そしてヘッドスペース法が効かない7つの溶媒――を実務の順に整理する。 加えて、表の濃度限度値が「1日10 g」という仮定から式ひとつで作られた数字であることを条文で確かめ、 実際の服用量では限度値が何倍動くのかを計算して示す。