分析機器の展示会は、カタログを眺めるだけなら行かなくても済みます。それでも足を運ぶ価値があるのは、動いている実機と、それを作った人の説明が同じ場所にあるからです。とくに今年の JASIS は、主催者自身が見どころに挙げたテーマが「AI×分析・計測」――カタログのスペック表では最も伝わりにくい領域です。
本記事は JASIS 2026 の開幕前プレビューです。主催者(JAIMA・JSIA)と出展社の公式発表だけを根拠に、何が展示され、どのセミナーがあり、分析化学者としてどこを見るべきかを整理します。
この記事の読み方:1〜2節は展示会に初めて行く方でも動けるように基本情報と全体像から入ります。3〜7節は現場の分析者・研究者向けに、個別の企画と出展内容を分析化学の文脈に置き直して読みます。専門用語は初出時に短く補足します。
注意:本記事の内容はすべて開幕前の発表に基づく予定です。プログラム・出展内容は変更されることがあります。来場前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
1. 開催概要 ― まず押さえる基本情報

JASIS(最先端科学・分析システム&ソリューション展)は、一般社団法人日本分析機器工業会(JAIMA)と一般社団法人日本科学機器協会(JSIA)が共催するアジア最大級の分析・科学機器総合展です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会期 | 2026年9月2日(水)〜4日(金) 3日間 10:00〜17:00 |
| 会場 | 幕張メッセ 国際展示場 5〜8ホール(千葉市美浜区中瀬2-1)・国際会議場 |
| 入場料 | 無料(事前登録制) |
| 主催 | JAIMA(会長:足立正之/堀場製作所)、JSIA(会長:入江一光/入江株式会社) |
| 後援(予定) | 経済産業省、文部科学省、公益社団法人日本分析化学会 ほか |
| 展示規模(見込) | 440社・団体超(主催者2026年8月4日発表)/約1,300小間 |
| 来場者数(見込) | 24,000名 |
| オンライン(WebExpo) | 2026年7月1日〜10月30日 |
規模感をつかむために前回(JASIS 2025)の実績を並べます。リアル来場者22,926名、出展443社、1,287小間、出展社セミナーは84社・309テーマで聴講13,240名でした。今年はこれを上回る24,000名を見込んでいます。
つまり3日間で全部は回れません。だからこそ、開幕前に「どこを見るか」を決めておく価値があります。
2. 今年の主役は「AI×分析・計測」 ― ラボオートメーションとフィジカルAI

主催者は2026年8月4日のプレスリリースで、今年の見どころを明確に打ち出しました。プレスリリースの副題そのものが 「ラボオートメーション・フィジカルAI ―研究開発を変える最新ソリューションが幕張に集結」 です。
展示会のコンセプトは昨年に引き続き「五感で感じる学び場」。そのうえで今年は、研究開発の現場でAIの活用が加速するなか、次の2つが軸に据えられています。
- ラボオートメーション:測定・解析・制御を自動でつなぐ技術。
- フィジカルAI:自律的に判断・作動するAI。実験室の自動化から「人の技の再現」まで。
分析化学の文脈に置き直すと、この2つは別の話です。ラボオートメーションは「手を動かす工程」の置き換えであり、前処理・注入・洗浄・データ転送といった、これまで人間の手技のばらつきが入り込んでいた部分に効きます。一方のフィジカルAIは「判断」の置き換えです。終点をどこと見るか、このピークを採用するか、といった熟練者の判断が対象になります。
後者は分析化学にとって重い意味を持ちます。当ブログで扱ってきたLC-MSトラブルシューティングでは、「症状から原因への飛躍」を避ける切り分けの順番こそが熟練の中身だと書きました。判断を機械に渡すというのは、その順番をどう形式知にするかという問題です。展示会場では、そこを実機のデモと開発者との対話で確かめられます。
用語補足:フィジカルAIは、画面の中で完結せず、センサで環境を認識し物理的に作動するAIの総称。ロボットアームによる自動実験や、装置の自律制御がこれにあたる。
3. LabDXゾーン ― 出展11社が示すラボ自動化の現在地

もっとも直接的に今年のテーマを見られるのが、国際展示場7・8ホールの「Innovation Frontier Zone」、その中核に置かれた 「LabDXゾーン」です。
今年は11社が出展し、AI技術を活用したデータ解析、ロボットによる自動実験、国際標準対応などの展示を行います。出展社は次のとおりです。
アジレント・テクノロジー、AUC/東京電機産業、NTサイエンス、デンソーウェーブ、西川計測、パンチ工業、フォーディクス、富士通、フロイント産業、ヤマト科学、横河電機
この顔ぶれ自体が今年の論点を表しています。アジレント・テクノロジーやヤマト科学のような分析・実験機器の企業と、デンソーウェーブ(産業用ロボット)、富士通、横河電機、パンチ工業といった、従来は分析化学の外側にいた企業が同じゾーンに並んでいます。ラボ自動化が分析機器メーカーだけの課題ではなくなったことの、わかりやすい可視化です。
ゾーン内にはステージが設けられ、出展社によるプレゼンテーションが行われます。公表されているプログラムから、分析実務に近いものを挙げます。
- 9月2日(水)12:00〜13:00 展示場7ホール メインステージ 「我が社『イチ推し』フラッシュプレゼンテーション」――約20の出展社が推し製品・技術を短時間で紹介。初日にここへ行けば、その年の論点の見取り図が一度に手に入ります。
- 9月3日(木)12:15〜12:45 展示場7ホール メインステージ 「滴定試験の常識を変える個人差ゼロの"自動判定"へ 滴定終点自動判定装置 HIPPO SCAN のご紹介」 岡田靖 氏(アイ・モーションテクノロジー 代表取締役)
- 9月3日(木)13:45〜14:15 「小型協働ロボットを活用したラボラトリオートメーションと自動化事例」 榎本聡文 氏(デンソーウェーブ FAプロダクト事業部 商品戦略室長)
滴定の終点判定は、まさに「人の判断」が結果を左右してきた古典的な工程です。ここに自動判定が入るという事例は、フィジカルAIという抽象的な言葉を分析化学の実務語に翻訳してくれます。
4. 注目セミナーを分析化学の文脈で読む

主催者が挙げた注目セミナーのうち、分析化学に接続するものを整理します(いずれも一部抜粋)。
■ 9月2日(水)10:30〜12:00 コンベンションホールA 『生成AIの社会実装を支えるデータ・知識・信頼性』 - 「生成AIの現在とその実社会活用への展望」 木村康則 氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー) - 「AI for Materials 実現に向けて:データ基盤から知識基盤へ」 出村雅彦 氏(物質・材料研究機構 技術開発・共用部門 部門長) - 「大規模言語モデルの事実性評価の高度化に向けて」 荒瀬由紀 氏(東京科学大学 情報理工学院 教授)
タイトルに「信頼性」「事実性評価」が入っている点に注目してください。AI・機械学習が変える分析化学でも整理したとおり、分析化学でAIを使う際の本丸は精度そのものより再現性と検証可能性です。「データ基盤から知識基盤へ」という視点は、測定データをどう資産化するかという、ラボ側の実務課題に直結します。
■ 9月3日(木)15:30〜16:30 コンベンションホールB 『AIを用いた美味しさ設計と食品開発』 - 「高度な知を集結・共用する"食のAIシステム"の開発」 小川剛伸 氏(京都大学 農学研究科 助教) - 「呈味・香気に寄与する成分の一斉網羅解析を可能にするGRAMS法の開発」 田中充 氏(九州大学 大学院農学研究院 准教授)
後者は成分の一斉網羅解析の話で、クロマトグラフィー・質量分析の応用そのものです。食品分野は当ブログでも複数記事のタグに登場する領域で、AIとの接続点として具体性が高いテーマです。
■ 9月4日(金)10:30〜12:00 コンベンションホールA 『次世代半導体技術を支える計測・評価・信頼性の最前線』 - Young-Chang Joo 氏(ソウル大学 材料科学・工学科 教授)/須田淳 氏(名古屋大学 工学研究科 教授)/Janusz Bogdanowicz 氏(imec 主任研究員)
半導体計測は当ブログの現行スコープの外側ですが、メトロロジー(計量・計測学)と信頼性という枠組みは分析化学と共通です。海外の第一線の講演が無料で聴ける枠として挙げておきます。
■ 9月3日(木)10:45〜11:45 7ホールメインステージ 「海外製造業の台頭から鑑みる製造業とAI統合の方向性」 ものづくり太郎 氏(ブーステック代表取締役)
5. メーカー出展から読む ― 島津の「AX」と分光・SFCの動向

出展社の公式発表からも、今年のテーマとの呼応が読み取れます。
島津製作所(ブース 8B-701)は、「AX:Analytical Transformation」を掲げ、分析計測機器にロボティクス・AI・IoT技術を融合させた自動化・効率化の取り組みを展開すると発表しています。主催者側の「ラボオートメーション/フィジカルAI」と正面から重なるメッセージで、大手が自社の看板としてこの方向を打ち出していることの確認になります。
日本分光(JASCO)は、展示予定製品を具体的に公表しています。分析手法別に整理すると次のとおりです。
| 手法 | 公表されている展示予定製品 |
|---|---|
| 赤外分光(FT-IR) | FT/IR-4X、IRT シリーズ |
| ラマン分光 | NRS シリーズ、PR-1s/PR-1w |
| 紫外可視分光(UV-Vis) | V-700 シリーズ、FP-8050 シリーズ |
| 円二色性・旋光計 | J-1000 シリーズ、P-4000 シリーズ |
| 液体クロマトグラフ | EXTREMA 4500 シリーズ、GPC/SEC システム |
| 超臨界流体クロマトグラフ(SFC) | EXTREMA UFC シリーズ、Prep UFC |
当ブログの読者にとって目を引くのは SFC でしょう。SFC徹底解説で扱ったとおり、超臨界CO₂を移動相に使うSFCはキラル分取とグリーンケミストリーの文脈で存在感を増しています。分取機(Prep UFC)が展示ラインに並んでいるのは、SFCが分析用途にとどまらず調製スケールで使われている実態を裏づけます。
またJASCOはセミナーも公表しており、9月2日(水)10:15〜10:45(幕張メッセ会議場105会議室)にFT-IRとラマンの解析ノウハウ、9月4日(金)15:30〜16:00にUV-Vis測定の実践などが予定されています。
なお当ブログはFT-IR・ラマンといった分光を現行スコープに含めていません(NMR/クロマトグラフィー/質量分析/熱分析/データ解析)。今回は「出展内容の事実」として挙げるにとどめます。
6. ちょこラボ ― 「発酵」から入る分析機器

技術一辺倒ではない企画も押さえておきます。国際展示場5・6ホールの「JASIS Street・共創コーナー」は、研究機関・学協会・スタートアップ・ライフサイエンス分野が集まる産学官の交流スペースです。
その中の6ホール サブステージで行われるのが 「ちょこっとラボ体験『ちょこラボ』」。2026年のテーマは「発酵」で、「ちょこっと『醸す』Lab」と題し、発酵を支える分析・科学機器を紹介します。
- 9月2日(水)12:00〜13:00「パンをつくる小さな職人たち 〜発酵を支える微生物とパンづくりの歴史〜」 大城麦人 氏(九州大学 農学研究院 助教)
- 9月3日(木)14:30〜16:00「音の可能性と挑戦 〜音楽で育てる日本酒〜」 北川範匡 氏(オンキヨー株式会社 開発部 開発課 課長)
こうした企画は、入門者を連れて行くときの入口として有効です。展示会に不慣れなメンバーをいきなり装置ブースに放り込むより、身近な題材から入るほうが定着します。
7. 分析化学者の歩き方 ― 3日間で何を持ち帰るか

440社超を3日間で回るのは不可能です。目的を絞った回り方を提案します。
- 初日午前は「フラッシュプレゼンテーション」(9/2 12:00〜、7ホール メインステージ)から入る。 約20社の要点を一度に浴びるのが、その年の論点を最短で把握する方法です。ここで気になった企業だけ、午後にブースを訪ねます。
- 自動化は「どの工程を置き換えるのか」を必ず聞く。 ラボ自動化の展示は華やかですが、実務価値は工程単位で決まります。前処理か、注入か、判断か。自分のラボで最も人手を食っている工程と一致しなければ、投資対効果は出ません。
- 判断を伴う自動化は「根拠が残るか」を確認する。 滴定の終点自動判定のように判断を機械に渡す装置では、なぜその判定になったかの記録が残るかが規制対応上の分かれ目になります。PFAS分析のような法定検査の文脈では、ここが導入可否を決めます。
- 消耗品・カラムのブースも回る。 装置本体より、カラムの選び方やUHPLCカラム技術で扱った領域のほうが、明日からの分析に効くことが多いです。
- セミナーは「聴く枠」を先に確保する。 前回は出展社セミナーだけで84社・309テーマ、聴講13,240名。人気枠は埋まります。
持ち帰るものを1つに絞るなら、「自分のラボで次に自動化すべき工程はどこか」の答えです。今年のJASISは、その問いに対する選択肢を一度に見比べられる場になっています。
8. 行けない人のために ― WebExpo と AI Navi Match

会場に行けない場合でも手段があります。
JASIS WebExpo® はオンライン開催で、2026年7月1日から10月30日までとリアル会期よりはるかに長く開いています。前回のWebExpoは190万PV(見込み)の規模でした。会期後に振り返れる点はむしろオンラインの利点です。
もう一つ、今年から新サービスが始まっています。「AI Navi Match」は、生成AIが来場者一人ひとりの課題に合わせて最適な出展社・セミナーをレコメンドするもので、2026年8月3日(月)より提供開始されました。実際の展示会コンシェルジュの経験を反映した対話フロー型の生成AIマッチングシステムと説明されています。
「AIをテーマにした展示会が、来場者導線そのものにAIを使う」という構図で、今年のJASISを象徴するサービスと言えます。440社超から自力で探すコストを考えれば、事前に試しておく価値はあります。
まとめ

JASIS 2026 は 2026年9月2日(水)〜4日(金)、幕張メッセ国際展示場。入場無料・事前登録制です。要点は3つです。
- 今年の軸は「AI×分析・計測」。 主催者が見どころに掲げたのはラボオートメーション(測定・解析・制御を自動でつなぐ)とフィジカルAI(自律的に判断・作動する)。前者は手技の置き換え、後者は判断の置き換えで、分析化学にとっての意味が違います。
- LabDXゾーンに11社。 アジレントやヤマト科学といった分析・実験機器の企業と、デンソーウェーブ・富士通・横河電機のような外側からの参入が同居しています。島津も「AX:Analytical Transformation」を掲げており、方向は業界全体で一致しています。
- 回り方を先に決める。 440社超を3日で回るのは不可能。初日のフラッシュプレゼンで論点を掴み、自動化の展示では「どの工程を置き換えるのか」「判断の根拠が記録に残るか」を聞く。行けなければ WebExpo(〜10/30)と AI Navi Match があります。
分析化学の側から見ると、今年のJASISは「装置の性能を比べる展示会」から「ラボの仕事の分け方を考える展示会」へ半歩動いた回に見えます。会期後、実際に何が展示されていたかは別記事で報告する予定です。
用語集
- JASIS:Japan Analytical & Scientific Instruments Show。JAIMA と JSIA が共催する分析・科学機器の総合展示会。
- JAIMA:一般社団法人日本分析機器工業会。分析機器メーカーの業界団体。
- JSIA:一般社団法人日本科学機器協会。科学機器の製造・販売事業者の業界団体。
- ラボオートメーション:試料前処理から測定・データ処理までを自動化し、工程間を自動でつなぐ技術の総称。
- フィジカルAI:センサで環境を認識し、物理的な動作として出力するAI。ロボットによる自動実験や装置の自律制御を含む。
- LabDX:Laboratory Digital Transformation。実験室の業務をデジタル技術で再設計する取り組み。
- メトロロジー:計量・計測学。測定値の信頼性と国際的な整合性を扱う学問領域。
- SFC:超臨界流体クロマトグラフィー。超臨界状態のCO₂を主移動相に用いる分離手法。
出典
- JASIS 2026 公式サイト「開催概要」 — https://www.jasis.jp/outline/
- JASIS 2026 公式サイト「注目企画」 — https://www.jasis.jp/feature/
- 一般社団法人日本分析機器工業会・一般社団法人日本科学機器協会 合同プレスリリース「アジア最大級の分析・科学総合展『JASIS 2026』ラボオートメーション・フィジカルAI ―研究開発を変える最新ソリューションが幕張に集結 見どころのご紹介」2026年8月4日 — https://www.jaima.or.jp/resource/jp/press/2026/08/press_jasis_20260804.pdf
- 幕張メッセ イベント情報「JASIS 2026」 — https://www.m-messe.co.jp/event/detail/8828
- 株式会社島津製作所「JASIS 2026(最先端科学・分析システム&ソリューション展)」 — https://www.an.shimadzu.co.jp/topics/jasis/jasis.htm
- 日本分光株式会社「JASIS 2026 出展案内」 — https://www.jasco.co.jp/jpn/event/event/jasis2026.html
制作メモ:本記事は開幕前のプレビューです。主催者(JAIMA・JSIA)の公式発表と出展社の公式サイトのみを一次情報として編集側が直接収集・検証し、執筆しました。会期・企画・出展内容は変更される場合があるため、来場前に公式サイトで最新情報をご確認ください。会期後に現地レポートを別途公開する予定です。