顕微FTIRと赤外イメージング ― 0.65 µm の画素で撮っても、分解能は 12.3 µm のままである【2026年版】
分光

顕微FTIRと赤外イメージング ― 0.65 µm の画素で撮っても、分解能は 12.3 µm のままである【2026年版】

顕微FTIR のカタログには「空間分解能 1.1 µm」と書かれている。しかしその 1.1 µm は画素の大きさであって、 分解能ではない。SOLEIL の研究グループは、0.65 µm 角の画素で撮れる装置について「この対物の最適な空間分解能は 波長 10 µm で 12.3 µm」と書いた。エアリーディスク1個が 281 画素に写っているという意味である。 しかも分解能は波数で変わり、指紋領域の両端で 4.9 倍ちがう。ではカタログの画素は無意味なのか ―― 逆である。 ナイキストの要請は「画素は分解能より細かくなければならない」であって、最適画素は分解能の 2.44 分の 1 になる。 この二つを混同したまま運用すると、高精細な像が返す組成が狂う。同じ毛髪の同じ位置で、脂質/タンパク比が コンフォーカルの 2〜4 分の 1 に出た実測例を軸に、画素・開口・倍率が「像の細かさ」ではなく 「スペクトルの正しさ」をどう壊すかを、原典の数値と筆者の計算で整理する。

顕微FTIR のカタログを開くと、空間分解能の欄に小さい数字が並んでいます。「5.5 µm」「1.1 µm」。装置のブローシャにはこう書かれています。

There is no need to compromise between data quality, field of view, spatial resolution (as low as 1.1 µm) and measurement time. (データ品質、視野、空間分解能(最小 1.1 µm)、測定時間のあいだで妥協する必要はない) — Agilent「Cary 610/620 FTIR microscopes and imaging systems」ブローシャ

この 1.1 µm は、画素の大きさです。分解能ではありません。

同じブローシャの別の箇所は、同じ 1.1 µm を「1.1 µm pixel resolution」とも書いています。画素の話と分解能の話が、一つの語に押し込まれています。そして赤外の波長は 2.5〜25 µm です。波長 10 µm の光で、1.1 µm の構造が分かれて見えることは原理的にありません。

本記事の芯は、SOLEIL(フランスの放射光施設)の研究グループが 2019 年に書いた一文です。

the system used in this study can give a 0.65 × 0.65 µm² projected pixel size by using a 25× NA 0.81 objective in high-magnification mode. Such an objective would give an optimal spatial resolution of 12.3 µm at 10 µm wavelength. This means that one Airy pattern would be imaged by 38 pixels and the first Airy disk by 281 pixels. (本研究で使用した装置は、25倍 NA 0.81 の対物を高倍率モードで使うと 0.65 × 0.65 µm² の投影画素サイズを与える。しかしこの対物が与える最適な空間分解能は、波長 10 µm において 12.3 µm である。つまり1つのエアリーパターンが 38 画素に、第一エアリーディスクが 281 画素に写ることになる) — Sandt et al., J. Spectral Imaging 8, a8 (2019)

1つのぼやけた点を、281 個の画素で記録している。これが「高精細な赤外イメージング」の実体です。

ただし、ここで「では画素なんて細かくしても無駄だ」と結論すると、もう一方の間違いに落ちます。同じ分野の理論解析は、画素は分解能より細かくなければならないと言っています。無駄なのではなく、必要なのです。本記事はこの二つを分けて扱い、そのうえで「画素と倍率と開口が、像の細かさではなくスペクトルの正しさを壊す」という実測に進みます。

この記事の読み方:1〜3節は分解能という量の性質で、入門の方にも読めるように書いています。4〜6節が本題で、画素をどう決めるべきかを式と計算で詰めます。7〜10節は実測で現れる失敗、11〜12節は応用と新しい手法です。専門用語は初出時に短く補足します。

用語補足:投影画素サイズ(projected pixel size)は、検出器の1画素が試料面上で何 µm 角に相当するかを指す。検出器の物理的な画素寸法を倍率で割った値である。空間分解能は、接近した2点を2点として区別できる最小距離を指す。この2つは別の量で、本記事はその区別が全体の主題になる。

1. 「分解能 1.1 µm」の中身

まず、カタログに書かれている数字が何であるかを確かめます。Agilent のブローシャは、同一の装置で3通りの測定を並べています。

測定 視野 ブローシャの表記 対物
1 50 × 50 mm measured at 19 µm resolution 4xIR
2 700 × 700 µm measured at 5.5 µm resolution 15x(通常倍率)
3 280 × 280 µm measured at 1.1 µm resolution 15x(高倍率モード)

この数字が何であるかは、割り算で確かめられます。700 µm ÷ 128 画素 = 5.47 µm。ブローシャの「5.5 µm」です。検出器は 128 × 128 なので、視野を画素数で割った値がそのまま「resolution」の欄に入っています。つまりこれは1画素が試料面上で担う寸法であって、レンズが分けられる最小距離ではありません。

高倍率モードの 1.1 µm も同じ性質の数字です(1.115 µm × 128 = 143 µm なので、視野 280 × 280 µm はこの約2倍。2 × 2 のタイルを貼り合わせた測定と考えられる ―― ここは筆者の推定です)。要するに、視野を狭めれば小さくなる数字であって、光学系の性能の上限ではありません。

128 × 128 = 16,384 という画素数も、ブローシャ自身が書いています。

Compare this to Agilent's Focal Plane Array detector, that can collect up to 16,384 spectra in a single measurement in seconds.

一度に 16,384 本のスペクトルが取れること自体は事実です。問題は、16,384 本あることが、16,384 個の独立な情報があることを意味しない点にあります。Sandt らはこれを「高精細(high definition)」と「高分解能(highly spatially resolved)」の混同と呼んでいます。

High-definition images may easily be confused with highly spatially resolved images, since they display a large number of pixels in a given area. However, this area is generally larger than the diffraction limit of the system and is not actually resolvable in smaller details. This situation is called oversampling (高精細な像は、与えられた面積に多数の画素を表示するため、高分解能な像と混同されやすい。しかしその面積はたいてい装置の回折限界より大きく、それ以上細かい構造は実際には分解されていない。この状況をオーバーサンプリングと呼ぶ)

2. 「分解能」には定義が4つあり、数値は定義とセットでしか意味を持たない

空間分解能の5つの定義を並べた表。レイリー基準 d=0.61λ/NA とアッベの式 R=1.22λ/(2NA) は同値で NA 0.65・波長 10 µm では 9.4 µm、中心遮蔽のある反射対物の R=1.0λ/(2NA) は 7.7 µm、エアリーディスクの直径 λ/NA は 15.4 µm、ステップエッジ法はレイリー基準と 0.617 倍の差があり、放射光での実測は 0.73λ
図解:同じ対物でも、定義を変えれば 7.7 µm とも 15.4 µm とも書ける

では本当の分解能はいくらなのか。ここで最初の壁が来ます。空間分解能には複数の定義があり、同じ光学系に対して違う数値を返します。

FTIR徹底解説 ― 「分解能 4 cm⁻¹」が意味するものは、一つに決まっていない【2026年版】 で扱ったのは波数の分解能でしたが、空間の分解能でも同じことが起きます。

定義 式 NA 0.65・波長 10 µm での値
レイリー基準 d = 0.61λ/NA 9.4 µm
アッベの式 R = 1.22λ/(2NA) = 同値 9.4 µm
中心遮蔽のある反射対物 R = 1.0λ/(2NA) 7.7 µm
エアリーディスクの直径 λ/NA(上式の2倍) 15.4 µm
ステップエッジ法(FWHM) 実測値。レイリー基準とは 0.617 倍の差 定義しだい

(値は筆者による計算)

Sandt らは、反射対物(シュワルツシルト型・カセグレン型)が光束の中心を遮ることに触れ、それが分解能には有利に働くと書いています。

Infrared microscopes use Schwarzschild or Cassegrain all-reflective objectives, which block the central part of the infrared beam giving a better theoretical spatial resolution (for example, R = 1.0λ / 2NA using a 32× Schwarzschild objective with a linear obscuration ratio of 0.4 as used in this study) at the expanse of the signal throughput. (赤外顕微鏡はシュワルツシルト型またはカセグレン型の全反射対物を用いる。これは赤外光束の中心部を遮るため、理論空間分解能は良くなる(例えば本研究で用いた線遮蔽比 0.4 の 32 倍シュワルツシルト対物では R = 1.0λ/2NA)。ただし信号スループットを犠牲にする)

冒頭に引いた「12.3 µm」は、この式に基づく値です。10 µm ÷ 0.81 = 12.35 µm で、エアリーディスクの直径に相当します。同じ対物をレイリー基準(0.61λ/NA)で評価すれば 7.5 µm になります。どちらで数えても、0.65 µm の画素より1桁大きいという結論は変わりません。

実測はどうか。放射光を使った測定が報告されています。Levenson らは Advanced Light Source のビームライン 1.4.4 で、32 倍・NA 0.65 の対物、開口なし・反射配置という条件で USAF ターゲットのエッジを走査し、こう報告しました。

A simple linear fit to the data yields a resolution for the synchrotron source of (0.73 ± 0.04) λ. (データへの単純な線形フィットは、放射光源に対して (0.73 ± 0.04) λ の分解能を与える)

そして同じ論文は、定義の差そのものを明記しています。

The Rayleigh imaging criterion will give a higher resolution than the FWHM step-edge analysis by a factor 0.617.

波長 10 µm なら 0.73λ = 7.3 µm です。放射光という理想に近い点光源と、NA 0.65 の対物をもってしても 7 µm 台ということになります。

3. そのうえ分解能は波数で 4.9 倍変わる

分解能の式に λ が入っているので、同じ装置・同じ対物でも、見ている波数によって分解能が変わります。

レイリー基準 d = 0.61λ/NA で、代表的な波数について計算します(筆者による計算。λ[µm] = 10⁴/波数[cm⁻¹])。

波数 波長 何のピークか d(NA 0.50) d(NA 0.65)
3400 cm⁻¹ 2.94 µm O–H・N–H 伸縮 3.6 µm 2.8 µm
2900 cm⁻¹ 3.45 µm C–H 伸縮 4.2 µm 3.2 µm
1650 cm⁻¹ 6.06 µm アミド I・C=O 7.4 µm 5.7 µm
1000 cm⁻¹ 10.0 µm 指紋領域 12.2 µm 9.4 µm
700 cm⁻¹ 14.3 µm 芳香環の面外変角 17.4 µm 13.4 µm

3400 cm⁻¹ と 700 cm⁻¹ で 4.9 倍ちがいます。ポリマーの同定で効く指紋領域(1800〜700 cm⁻¹)の中だけでも 2.6 倍です。

ここから実務上の結論が1つ出ます。メソッドや報告書に「空間分解能 5 µm」とだけ書いても、何も規定していない。どの波数での値かを書かなければ、同じ装置で 2.8 µm とも 13.4 µm とも書けてしまいます。O-PTIR の総説も同じことを指摘しています。

the actual spatial resolution is very much wavelength (wavenumber) dependent, hence there is no singular value that can be used to characterize the spatial resolution performance of an infrared microscope, but rather, there is a range of values, which is typically in the order of 3-30 µm. (実際の空間分解能は波長(波数)に強く依存するため、赤外顕微鏡の空間分解能性能を特徴づける単一の値は存在しない。あるのは値の範囲で、典型的には 3〜30 µm の桁である) — Prater, Kansiz, Cheng, APL Photonics 9, 091101 (2024)

4. それでも画素は分解能より細かくなければならない

ここで話が反転します。「画素は分解能ではない」から「画素を分解能に合わせればよい」と進むと、それも間違いです。

Reddy・Bhargava らは、赤外イメージング装置の結像を光学理論から解析し、画素サイズの決め方を導きました。結論の部分を引きます。

It must be emphasized that the value of pixel size calculated above is not the same as resolution. It is in fact smaller than the resolution as defined by the Rayleigh criterion. However, it reflects the least sampling rate required to utilize all the information passed by the system (上で計算した画素サイズの値は、分解能と同じものではないことを強調しなければならない。それは実際、レイリー基準で定義される分解能より小さい。しかしそれは、系が通す情報をすべて利用するために必要な最小のサンプリングレートを反映している)

理由はナイキストの標本化定理です。論文は検出器面に届く強度の空間周波数に上限があることを示し、その2倍で標本化せよと書きます。結果として、

According to the Rayleigh criterion, for example, the attainable resolution is 0.61/(ν̄NA). We propose to sample at 0.25/(ν̄NA) in order to convert the analog signal into a digital readout without information loss. We note that the pixel size proposed is significantly smaller than the resolution. This result is contrary to prevailing wisdom in that it is widely believed that no further improvement is possible once a pixel size equal to the resolution has been attained. Indeed, mixing the concepts of resolution and pixel sizes for correct signal sampling has led to significant confusion in IR microscopy. (レイリー基準によれば、到達可能な分解能は 0.61/(ν̄NA) である。我々は情報を失わずにアナログ信号をデジタル化するために 0.25/(ν̄NA) で標本化することを提案する。提案する画素サイズは分解能よりはるかに小さい。この結果は通説に反する ―― 画素サイズが分解能に等しくなればそれ以上の改善は不可能、と広く信じられているからである。実際、分解能と、正しい標本化のための画素サイズという二つの概念を混同したことが、赤外顕微分光に大きな混乱をもたらしてきた)

0.61 と 0.25 の比は 2.44 です。最適な画素は、分解能の 2.44 分の 1 でなければならない。

直感的な説明も論文に書かれています。

To resolve two objects, we need more than two measurements when the data are digitized. … Therefore, at least five pixels are needed to resolve two point objects. (2つの物体を分解するには、データをデジタル化する際に2回より多くの測定が必要である。…したがって2つの点を分解するには少なくとも5画素が必要である)

2点のあいだに谷が1画素、両端の外側に各1画素 ―― 合わせて5画素。像として「2つある」と言うには、それだけ要るということです。

5. 自分の装置が何 cm⁻¹ までサンプリングできているか

正しく標本化できる最高波数を 2500÷(NA×画素サイズ) で求める式と、5つの構成の計算結果の表。FPA通常倍率(5.5 µm・NA 0.50)は 909 cm⁻¹、同じ画素で高NA対物(5.5 µm・NA 0.65)は 699 cm⁻¹、リニアアレイの下限(6.25 µm・NA 0.50)は 800 cm⁻¹、FPA高倍率(1.115 µm・NA 0.65)は 3,449 cm⁻¹、Sandtらの高倍率構成(0.65 µm・NA 0.81)は 4,748 cm⁻¹
図解:標準的な 5.5 µm 画素の構成は 909 cm⁻¹ 止まり ― 指紋領域のほぼ全部が標本化不足

この式は実務で使えます。論文の提案式 画素 = 0.25/(ν̄·NA) を、波数 cm⁻¹ と画素 µm で書き直します(筆者による変形)。

正しく標本化できる最高波数 [cm⁻¹] = 2500 ÷ (NA × 画素サイズ[µm])

この式が論文の数値を再現するか確かめます。論文は NA 0.65 について「3400 cm⁻¹ での最適画素は 1.13 µm」「3950 cm⁻¹ では 0.974 µm」と書き、実機の画素は 1.115 µm だと書いています。上式を逆に解くと、NA 0.65・1.13 µm → 3403 cm⁻¹、0.974 µm → 3949 cm⁻¹。一致します。

そのうえで、代表的な構成を計算します(筆者による計算)。

構成 画素 NA 正しく標本化できる最高波数
FPA 通常倍率(Agilent の 2 番目の測定) 5.5 µm 0.50 909 cm⁻¹
同じ画素で高 NA 対物 5.5 µm 0.65 699 cm⁻¹
リニアアレイの下限(ブローシャ記載) 6.25 µm 0.50 800 cm⁻¹
FPA 高倍率(論文の実機) 1.115 µm 0.65 3,449 cm⁻¹
Sandt らの高倍率構成 0.65 µm 0.81 4,748 cm⁻¹

標準的な 5.5 µm 画素の構成は、900 cm⁻¹ より上を正しく標本化していません。つまり指紋領域のほぼ全部と、官能基領域の全部が標本化不足です。像は出ます。スペクトルも出ます。しかし「系が通した情報を使い切っていない」状態です。

Bhargava は別の総説で、この補正幅をこう書いています。

The correct pixel size for sampling the image without loss of detail was shown to be ∼40× smaller than previously believed. (細部を失わずに像を標本化するための正しい画素サイズは、従来考えられていたより約 40 倍小さいことが示された)

この「40 倍」は面積で数えた値と解釈すると合います。6.25 µm 角 → 0.974 µm 角で面積比 41 倍、長さの比なら 6.4 倍です(筆者による計算)。原文はどちらの意味かを明記していません。

6. 細かい画素の代償 ― 同じ像に 16 倍のスキャンが要った

天秤の図。左の皿には画素を5分の1に縮小した 1.115 µm・NA 0.65 の細かい画素格子、右の皿には16倍に増えた積算回数 128 回が載っている。通常構成は NA 0.50・5.5 µm で 8 回
図解:空間を細かくすることは、時間を払うことである

画素を細かくすればよい、という話でもありません。1画素に入る光が減るので、S/N が落ちます。

Contrast decreases with reduction in pixel size, because light intensity per pixel reduces. As a result, the increased imaging capability is partially offset by a decreased spectral SNR in the resulting absorbance images. (画素サイズを小さくするとコントラストが下がる。1画素あたりの光強度が減るからである。結果として、向上した結像能力は、得られる吸光度像の分光 S/N の低下で部分的に打ち消される)

同じ論文の測定条件表に、その代償がそのまま出ています。

通常構成 高倍率構成
NA 0.50 0.65
画素(実効) 5.5 µm 1.115 µm
波数分解能 8 cm⁻¹ 8 cm⁻¹
1画素あたりの積算回数 8 回 128 回

画素を約 5 分の 1(面積で 24 分の 1)にした代わりに、積算回数が 16 倍になっています。空間を細かくすることは、時間を払うことです。FTIR徹底解説 で扱った「波数分解能を上げると S/N を失う」というトレードオフと、構造が同じです。

7. 開口方式 ― 絞っても、光は 40 µm 先から来る

開口+単素子方式とFPAイメージングの比較表(1回で取れるスペクトルは1本と最大16,384本、迷光除去はありとなし、スループットは低いと高い、速度は遅いと速い、視野は狭いと広い)と、金属開口を10 µmに絞っても回折で40 µm離れたところから光が混入する模式図
図解:開口は光を切ってくれない ― 40 µm 先の成分が混じりうる

ここまでは FPA(焦点面アレイ)イメージングの話でした。顕微FTIR にはもう一つ、単素子検出器+金属開口(アパーチャ)という古典的な方式があり、いまも分光精度の基準として使われています。

この方式の原理的な弱点は、開口が光を切ってくれないことです。

Radiation transmitted through an aperture results in the formation of a diffraction pattern that allows light from outside the masked region to impinge upon the detector. This stray light may compromise spectral content as far as 40 µm away from the sample point of interest. This problem is circumvented by employing a second aperture in tandem to further reject radiation. Although the radiation point spread function … narrows, a theoretically higher resolution capability is achieved with, unfortunately, a further loss of signal. (開口を透過した放射は回折パターンを形成し、マスクされた領域の外側からの光が検出器に届くことを許す。この迷光は、目的の試料位置から 40 µm も離れたところのスペクトル成分を混入させうる。この問題は第二の開口を直列に置いて放射をさらに除くことで回避される。点広がり関数は狭まり、理論上はより高い分解能が得られるが、残念ながらさらなる信号の損失を伴う) — Levin & Bhargava, Annu. Rev. Phys. Chem. 56, 429-474 (2005)

開口を 10 µm に絞っても、40 µm 先の成分が混じりうる。この迂回策が上下2枚の開口を使うコンフォーカル(共焦点)配置で、Sandt らによれば側方分解能は約 λ/2 まで改善します。代償は信号です。

In addition, the confocal configuration further improves the lateral resolution to approximately λ / 2 as shown in the study of G.L. Carr. … On one hand, the confocal configuration reduces signal throughput, restricts the field of view and imposes the measurement of a single point at a time. Yet, it is crucial to eliminate diffraction and to achieve lateral resolution at the diffraction limit

整理すると、2つの方式は次のように性格が逆です。

開口+単素子(コンフォーカル) FPA イメージング
1回で取れるスペクトル 1本 最大 16,384 本
開口による迷光除去 あり(2枚で回折ロブを落とす) なし
スループット 低い(開口で落ちる) 高い
速度 遅い(1点ずつ走査) 速い(数分で数千本)
視野 狭い 広い

FPA に開口が無いという点について、Sandt らの指摘は具体的です。

FPA microscopes do not have a confocal aperture and thus each pixel in the detector may be affected by the diffraction created by optics and fibrillary and particulate materials (cells, organelles, grains) in the sample. In addition, pixels in the detectors are physical objects with edges that can create some diffraction affecting the neighbouring pixels. (FPA 顕微鏡はコンフォーカル開口を持たないため、検出器の各画素は、光学系と、試料中の繊維状・粒子状物質(細胞、細胞内小器官、粒)が作る回折の影響を受けうる。加えて、検出器の画素はエッジを持つ物理的な物体であり、隣接画素に影響する回折を自ら作りうる)

8. 高精細な像が、正しい組成を返すとは限らない

皮膚の角層の模式図。幅16〜20 µm(波長の5〜6倍)の層をFPAの画素格子で測ると、周囲の空の領域と隣接細胞層から回折で信号が入り込み、脂質/タンパク比が約2分の1に過小評価され、CH/NH比が逆転する
図解:回折限界よりはるかに大きい層でも、組成を取り違える

ここが本記事でもっとも実務に効く部分です。Sandt らは、同じ試料の同じ位置を、放射光+コンフォーカル顕微鏡(基準=gold standard)と FPA イメージング顕微鏡の両方で測り、スペクトルの正しさを比べました。試料はヒト毛髪の断面(3 µm 厚)、皮膚の断面(5 µm 厚)、パリ隕石の破片です。

結果は、像の見た目の話ではありませんでした。組成が変わりました。

  • 毛髪のメデュラ(脂質に富む中心部)の脂質/タンパク比が、15 倍 FPA では試料によって 2〜4 倍の過小評価になった。
  • 4 倍対物の FPA 像では、メデュラそのものが検出できなかった。
  • 皮膚の角層(SC)では、脂質/タンパク比が約2分の1に過小評価された。ここが重要で、角層の幅は 16〜20 µm あり、使った波長の 5〜6 倍の大きさがある。

論文の言葉を引きます。

Even if the SC width was 16-20 µm, 5-6 times larger than the wavelength used to probe it, and several hundred microns in length. Diffraction from the surrounding empty area and neighbouring cell layers (poor in lipids) may have been responsible for the underestimation of the lipid concentration and overestimation of the protein concentration. Thus, even for layered samples that have one dimension much greater than the diffraction limit, the aperture-less system may misrepresent the chemical composition of the layers. (角層の幅は 16〜20 µm、プローブに使った波長の 5〜6 倍あり、長さは数百 µm あった。周囲の空の領域と、脂質の少ない隣接細胞層からの回折が、脂質濃度の過小評価とタンパク濃度の過大評価の原因と考えられる。したがって、回折限界よりはるかに大きい寸法を持つ層状試料であっても、開口のない系は層の化学組成を誤って表しうる)

角層のスペクトルでは、比そのものが逆転していました。

The blue spectrum [confocal] shows higher absorption and 2.7 times higher CH/NH ratio. The CH/NH ratio is inversed in the two spectra. (青いスペクトル〔コンフォーカル〕は吸収が高く、CH/NH 比が 2.7 倍高い。CH/NH 比は2つのスペクトルで逆転している)

隕石の炭酸塩粒子では、サイズを過大評価し(実サイズはラマン顕微で確認)、さらに試料の外側の空の画素に炭酸塩のシグナルが出たと報告されています。

This particle also created diffraction rings that were clearly visible in the empty pixels outside the sample, and thus also contributed to add some carbonate signal to the other pixels inside the grain.

著者らは、これらの測定が N–H(3290 cm⁻¹)と C–H(2800〜3010 cm⁻¹)という中赤外で最も短い波長、つまり回折がもっとも小さい条件で行われたことを明記しています。

These are the shortest useful wavelengths in the mid-IR, for which diffraction is the lowest. We can expect that the inaccuracies will be stronger at longer wavelengths. (これらは中赤外で使える最短の波長であり、回折が最小である。より長い波長では不正確さがさらに強くなると予想される)

ポリマーの同定で使う指紋領域は、ここより波長が 2〜5 倍長い帯域です。

9. ピーク強度が倍率で変わる ― Beer–Lambert で定量する人へ

検出器視野の中で試料が占めるのは一部で、残りは試料のない空間であることを示す図と、アミドI・IIの強度の比較表。コンフォーカル32倍を1.0とすると、FPA 4倍は2〜2.5倍弱く、15倍は1.3〜1.5倍弱く、25倍と62.5倍は1.2〜1.3倍弱い
図解:ピーク強度が倍率で 1.2〜2.5 倍動く ― 定量するなら光学条件を固定する

同じ論文には、定量をする人が読むべき結果がもう一つあります。同じ試料の同じ場所から取ったスペクトルの強度が、使った対物の倍率で変わりました。

測定系 アミド I・II の強度(コンフォーカルを基準)
コンフォーカル 32 倍(基準) 1.0
FPA 4 倍 2〜2.5 倍 弱い
FPA 15 倍 1.3〜1.5 倍 弱い
FPA 25 倍・62.5 倍 1.2〜1.3 倍 弱い

著者らの解釈はこうです。

This suggests that every pixel of the FPA sees a part of the image that is sample-free. In other words, it means that every part of the detector FoV, even sample-free parts, contributes to the signal read by every pixel of the FPA. … Since peak intensity is often used to compute concentrations using the Beer-Lambert-Bouguer law, it could be important to be aware of the effect of magnification when using aperture-less systems. (これは FPA のどの画素も、像の試料のない部分を見ていることを示唆する。言い換えれば、検出器視野のどの部分も、試料のない部分であっても、FPA の全画素が読む信号に寄与しているということである。…ピーク強度はしばしば Beer–Lambert–Bouguer 則で濃度を計算するのに使われるので、開口のない系を使うときは倍率の効果を意識することが重要になりうる)

実務上の帰結は単純です。赤外イメージングで強度から濃度や比を出すなら、対物と倍率を固定し、固定したことを記録する。途中で対物を替えたデータを同じ検量線で処理すれば、系統誤差が入ります。PLS回帰と多変量検量線 ― ICH が定義する「独立な試料」は、検量試料と同じロットでよいと書かれている【2026年版】 で扱った多変量モデルに、この倍率依存のスペクトルを混ぜて学習させた場合、モデルは「倍率」を学んでしまいます。ケモメトリクス入門 ― 乱数だけの表に PCA をかけても、主成分が 49 本「見つかる」【2026年版】 の落とし穴と同じ構図です。

10. USAF ターゲットで出た分解能は、実試料では出ない

完全反射のバーを完全吸収のガラスが囲むUSAF 1951ターゲットと、化学的・分光的によく似た成分からなる実試料の対比。ターゲットでの測定結果 2.19〜2.4 µm は理論限界より良い値になっている
図解:人工物の極端なコントラストで出た値は、実試料には適用できない

分解能の実測には、USAF 1951 解像力テストターゲット(ガラス上のクロムパターン)が標準的に使われます。カタログの数値もこれで出ています。Agilent のブローシャにも明記があります。

The universal standard used to calibrate and align the FPA detector is the USAF 1951 resolution target.

ところが Sandt らは、この測定が実試料より良い値を出すと指摘しています。

Spatial resolutions below the diffraction limits were reported, such as 2.4 µm at 3794 cm⁻¹ (2.5 µm wavelength) in Lasch et al. with a Bruker Hyperion microscope and 2.19 µm at 3794 cm⁻¹ in Nasse et al. These values were well above the best theoretical value achievable by such systems, as noticed by Lasch and coworkers. However, since the USAF model 1951 resolution target is made of fully reflective bars surrounded by fully absorbing glass, it is hardly comparable to most of the relevant samples composed of chemically and spectrally very similar constituents and resolution measurements using this target may yield overestimated values. (回折限界を下回る空間分解能が報告されている。例えば Lasch らは Bruker Hyperion 顕微鏡で 3794 cm⁻¹ において 2.4 µm、Nasse らは同波数で 2.19 µm である。これらの値は、そうした系で到達可能な理論上の最良値を大きく上回っていた(Lasch らも気づいている)。しかし USAF 1951 ターゲットは完全反射のバーを完全吸収のガラスが囲む構造であり、化学的・分光的によく似た成分からなる実際の試料とは比べにくい。このターゲットを用いた分解能測定は過大評価された値を与えうる)

コントラストが極端な人工物で測った値は、組成の差が小さい実試料では出ない。装置の受け入れ検査でこの数値を確認することには意味がありますが、その数値を「自分の試料で分かれる最小寸法」として使うのは誤りです。

11. マイクロプラスチックの「20 µm」と「50 µm」はここから来ている

0から60 µmの数直線。NA 0.5の対物の指紋領域での分解能は6.8〜17.4 µmの帯にあり、赤外法の公定法SWB-MP1の下限50 µmと、励起波長が1桁短いラマン法の公定法SWB-MP2の下限20 µmが示されている
図解:公定法の下限は、波長が決めている

ここまでの話は、ある公定法の数字をそのまま説明します。

マイクロプラスチック分析 ― 50 µm 未満の粒子は、個数の 98 % を占めて質量の 0.014 % しかない【2026年版】 で扱ったとおり、カリフォルニア州は飲料水中のマイクロプラスチックを「1 µm 超〜5,000 µm 未満」と定義しながら、赤外法の公定法(SWB-MP1)の下限を 50 µm 超、ラマン法(SWB-MP2)の下限を 20 µm 超に置きました。定義より1〜2桁大きい下限です。

この段差の少なくとも一部は、本記事の 3 節の表で説明できます。ポリマーの同定に使う指紋領域(1800〜700 cm⁻¹)では、NA 0.5 の対物で分解能が 6.8〜17.4 µm。粒子が1つの分解限界と同じ寸法しかなければ、スペクトルは周囲(フィルター膜・隣接粒子・空の領域)と混ざります。8 節で見たように、分解限界より大きい寸法を持つ層でも組成を取り違えるのですから、分解限界と同寸の粒子では同定が成立しません。

2025 年の Environ. Sci. Technol. 掲載論文は、この下限を端的に書いています。

μFTIR generally cannot be used to detect plastic particles smaller than 20 μm (μFTIR は一般に、20 µm より小さいプラスチック粒子の検出には使えない) — Macairan et al., Environ. Sci. Technol. 59(30), 15612-15622 (2025)

「20 µm 未満は測れない」は装置の出来の問題ではなく、波長の問題です。ラマン法の下限が 20 µm と、赤外より細かく置けている理由も同じところにあります(励起波長が 532〜1064 nm と1桁短い。ラマン分光徹底解説 ― 励起波長は「感度」だけを決めているのではない【2026年版】 の 0.61λ/NA の表を参照)。

12. 波長の縛りを外す ― O-PTIR

O-PTIRの原理図。赤外レーザーが試料を加熱する側は波長に依存するが、読み取りは532 nmの可視プローブレーザーが担うため空間分解能はプローブ側で決まる。空間分解能は赤外波数によらず一定で、750 nmのポリスチレン粒子が同定されている
図解:分解能を決めるのは、読む側の波長である

分解能が赤外の波長で決まっているなら、加熱する光と、読む光を分ければよい。それが O-PTIR(光熱赤外分光)です。赤外レーザー(多くは量子カスケードレーザー)で試料を加熱し、その熱膨張と屈折率変化を可視のプローブレーザーで読みます。分解能を決めるのはプローブ側の波長なので、赤外の波数に依存しません。

Unlike conventional IR microscopes, O-PTIR's spatial resolution is set by the probe wavelength and thus is constant over all IR wavelengths. (従来の赤外顕微鏡と違い、O-PTIR の空間分解能はプローブ波長で決まるため、すべての赤外波長にわたって一定である) — Prater, Kansiz, Cheng, APL Photonics 9, 091101 (2024)

「一定である」という性質は、3 節の表に対する直接の答えです。顕微FTIR では指紋領域の両端で 2.6 倍動く量が、O-PTIR では動きません。

ただしこの総説は、著者3名のうち2名が O-PTIR 装置メーカー(Photothermal Spectroscopy Corp.)所属です。性能の主張は採らず、波長と開口数から決まる物理だけを採りました。装置の位置づけと理論分解能 0.416 µm の計算は 異物分析の手法選択 ― 局方は「何個あるか」までしか決めておらず、「何であるか」は分析者に委ねられている【2026年版】 の 13 節で扱っているので、ここでは重複させません。

本記事で足すのは、第三者による実測です。マギル大学らのグループは、IR 励起(MIRcat 2400、1800〜800 および 3000〜2650 cm⁻¹)と 532 nm のプローブという構成で、組織切片中のナノプラスチックを測り、750 nm のポリスチレン粒子を同定しました(Macairan et al., 2025)。前節の「μFTIR は 20 µm 未満を検出できない」という記述と同じ論文です。26 分の 1 の寸法を、同じ中赤外の情報で同定していることになります。

分析者の視点

1. 「空間分解能」と書かれた数字を見たら、それが画素かレンズかを確かめる。視野を狭めたら比例して小さくなる数字は、画素です(1 節)。

2. 自分の装置について、2500 ÷ (NA × 画素[µm]) を一度計算しておく。それが「標本化が足りている最高波数」です(5 節)。5.5 µm 画素・NA 0.5 なら 909 cm⁻¹ で、指紋領域はすべて標本化不足です。像が粗く見える原因が対物ではなく画素にある場合があります。

3. メソッドと報告書には、対物倍率・NA・投影画素サイズ・開口サイズ・評価した波数の5つを書く。どれか欠けると、分解能の数値が再現できません(2〜3 節)。分光装置の適格性評価と波長校正 ― 波長が合っていることは、その数値が正しいことを意味しない【2026年版】 と同じ発想です。

4. 強度やピーク比で定量するなら、対物と倍率を固定する。倍率で強度が 1.2〜2.5 倍動きます(9 節)。多変量モデルを作るなら、学習データと実測データの光学条件を一致させます。

5. 粒子や層の寸法が分解能の数倍しかないときは、組成比を鵜呑みにしない。波長の 5〜6 倍の幅がある層でも、脂質/タンパク比が 2 分の 1 になった実測があります(8 節)。疑わしいときは、コンフォーカル(開口)方式で同じ位置を測り直すのが、いまのところ最も確実な検証です。

6. 受け入れ検査の USAF ターゲットの値を、自分の試料の分解能として使わない。過大評価された値です(10 節)。

7. 20 µm 未満の粒子を日常的に扱うなら、顕微FTIR の更新では解決しない。波長の問題なので、ラマンか O-PTIR という別の原理に移る判断になります(11〜12 節)。

まとめ

  • カタログの「空間分解能 1.1 µm」は投影画素サイズであって分解能ではない。視野を 2.5 分の 1 にすると 2.5 分の 1 になる数字は、画素である(1 節)
  • 空間分解能には定義が複数あり、同じ対物で 7.5 µm とも 12.3 µm とも 15.4 µm と書ける。放射光での実測は 0.73λ(2 節)
  • 分解能は波数に依存し、3400 cm⁻¹ と 700 cm⁻¹ で 4.9 倍、指紋領域の中だけでも 2.6 倍動く。「分解能 5 µm」とだけ書いたメソッドは何も規定していない(3 節)
  • それでも画素は分解能より細かくなければならない。最適画素は分解能の 2.44 分の 1、2点を分けるには 5 画素要る(4 節)
  • 正しく標本化できる最高波数 = 2500 ÷ (NA × 画素[µm])。標準的な 5.5 µm 画素・NA 0.5 の構成は 909 cm⁻¹ 止まりで、指紋領域は標本化不足(5 節)
  • 画素を細かくすると光が減る。実機では画素を 5 分の 1 にする代わりに積算回数が 16 倍になった(6 節)
  • 開口方式では、開口の回折で 40 µm 先の成分が混入しうる。2枚の開口(コンフォーカル)で λ/2 まで改善するが、信号をさらに失う(7 節)
  • FPA イメージングは像の細かさではなくスペクトルの正しさを壊す。脂質/タンパク比が 2〜4 倍の過小評価、CH/NH 比は逆転、4 倍対物では構造そのものが検出できなかった。しかもこれは回折が最小の短波長側での結果である(8 節)
  • ピーク強度が倍率で 1.2〜2.5 倍変わる。Beer–Lambert で定量するなら光学条件を固定する(9 節)
  • USAF ターゲットで出る値(3794 cm⁻¹ で 2.2〜2.4 µm)は理論限界より良い=過大評価。実試料には適用できない(10 節)
  • マイクロプラスチックの公定法の下限(赤外 50 µm・ラマン 20 µm)は、この波長の制約から説明できる。20 µm 未満は装置の出来ではなく波長の問題(11 節)
  • O-PTIR は分解能をプローブ波長で決めるので全波数で一定。第三者の測定で 750 nm のポリスチレンが同定されている(12 節)

用語集

  • 投影画素サイズ(projected pixel size):検出器の1画素が試料面上で相当する寸法。物理画素寸法 ÷ 倍率。カタログで「空間分解能」と書かれていることがある。
  • 空間分解能:接近した2点を2点として区別できる最小距離。定義が複数ある(レイリー基準、アッベの式、ステップエッジ FWHM など)。
  • レイリー基準:d = 0.61λ/NA。一方の点の回折像の中心が、他方の第一暗環に重なる距離。
  • 開口数(NA):対物が集められる光の角度の広さ。大きいほど分解能が良く、スループットも高い。
  • 中心遮蔽(obscuration):反射対物(シュワルツシルト型・カセグレン型)が光束中心を遮ること。分解能には有利、スループットには不利。
  • FPA(焦点面アレイ):2次元に並んだ検出器。64×64 や 128×128 で、一度に数千〜1万数千本のスペクトルを取る。開口を持たない。
  • コンフォーカル(共焦点)配置:試料の前後、共役な像面に開口を2枚置く配置。回折ロブを落として分解能とスペクトル精度を上げ、信号を失う。
  • オーバーサンプリング:回折限界より細かい画素で標本化すること。情報を失わないために必要だが、画素の細かさを分解能と誤認させる。
  • ナイキスト基準:連続信号を失わずに標本化するには、含まれる最高空間周波数の2倍以上で標本化する必要があるという定理。
  • ステップエッジ法:鋭いエッジ像の強度プロファイルの微分の半値全幅で分解能を評価する方法。レイリー基準とは 0.617 倍の差が出る。
  • O-PTIR(光熱赤外分光):赤外で加熱し、可視プローブ光で熱膨張・屈折率変化を読む方式。分解能がプローブ波長で決まる。
  • トランスフレクション:反射基板上の薄い試料を、往復の透過として測る配置。本記事では扱っていない固有のアーティファクトがある(「未確認・限界」参照)。

未確認・限界

  • Agilent ブローシャの対物の NA が記載されていない。本記事で 5.5 µm 画素に NA 0.50、1.1 µm 画素に NA 0.65 を当てたのは、Reddy・Bhargava らが市販顕微鏡を最小改造して組んだ2構成の実測値(Table I)がその値だったためである。Agilent の 15 倍対物の実 NA は確認できていないので、3 節・5 節の表の数値はこの仮定のもとでの計算である。仮定が外れれば数値は動くが、「画素 ≠ 分解能」「指紋領域で標本化不足」という結論の向きは NA 0.4〜0.81 の範囲では変わらない。
  • Agilent の公式ドメイン上の PDF は取得できなかった(curl で HTTP 403)。本記事が引いたブローシャは、同一文書が大学サーバー上に置かれていたものである。版の違いにより記載が変わる可能性がある。
  • Carr (2001) の原著を開いていない。「コンフォーカルで λ/2」「約 30 % の改善」は Sandt らの記述による二次引用である。
  • Lasch et al.・Nasse et al. の原著を開いていない。10 節の 2.4 µm・2.19 µm という値と「理論限界より良い」という評価は、Sandt らの記述による二次引用である。
  • Levenson らの論文の掲載誌・巻号を確認できていない。入手したのは LBNL の著者原稿(OSTI 937218、(C) 2008 Elsevier)である。
  • O-PTIR の総説は著者3名のうち2名が装置メーカー所属。本記事では波長と開口数から決まる物理(分解能がプローブ波長で決まること、中赤外の分解能が 3〜30 µm の範囲にあること)だけを採り、性能比較の主張は採っていない。実測値は第三者論文(Macairan et al., 2025)から取った。
  • トランスフレクション配置の電場定在波(EFSW)アーティファクトは扱っていない。反射基板上の薄膜で吸光度が厚みに非線形に依存するという報告があるが、その存在自体を否定する論文も出ており、決着を確認できなかったため本記事では扱わない。
  • ATR 対物によるイメージングの分解能向上(高屈折率結晶で λ が媒質中で短くなる効果)は扱っていない。本記事は透過・反射配置に絞った。ATR の潜り込み深さと結晶選択は FTIR徹底解説 の 7〜8 節にある。
  • Sandt らの測定は生体試料と隕石で、ポリマー片では行われていない。8〜9 節の数値をポリマー同定にそのまま当てることはできない。ただし著者らが「より長い波長では不正確さが強くなる」と書いているため、指紋領域で測るポリマーについてはより悪くなる方向に外挿される。

出典

関連記事