JASIS 2026 の歩き方 ― 「AI×分析・計測」で何が変わるのかを見に行く の末尾で、「会期後、実際に何が展示されていたかは別記事で報告する予定です」と書いた。その約束を果たす記事である。
ただし先に、いちばん大事なことを書いておく。本記事は会場取材ではない。筆者は幕張メッセに行っていない。したがってブースの様子や実機のデモについて、見てきたように書くことはしない。
代わりにできることがある。JASIS の出展社セミナーは、全演題と抄録が公式サイトに公開されている。これは「出展社が、自分の言葉で、今年何を話すと宣言したか」の完全な記録である。会場に立って数百のブースを目で追うより、この 318 件を全部数えるほうが、「今年の JASIS に何が並んだのか」については正確に答えられる。
そして数えてみると、主催者が掲げたテーマと、出展社が実際に話す内容には、はっきりした落差があった。
この記事の読み方
1〜3 節で、何を根拠にどう数えたかを示す。数え方が分からない数字は使えないので、ここは飛ばさないでほしい。4〜7 節が本記事の中心で、主催者の掲げたテーマが実際のプログラムにどれだけ現れているかを見る。8〜12 節は、そこから見えるもう少し広い話(何がいちばん多いのか、来場者数の数え方、出展と来場の乖離)である。
数値には出所を必ず付けた。「主催者公表」と「筆者集計」を混ぜないようにしている。
1. 何を数えたか ― 出展社セミナー 318 件
JASIS の出展社セミナーは、出展社が会期中に行う技術発表である。かつては「新技術説明会」という名前だった。JASIS 2025 結果報告書に、こう書いてある。
新技術説明会は今年、「出展社セミナー」に名称を変え実施。出展社による、機器分析・理化学機器にかかわる様々な情報提供の場として展示会を支えており、それが JASIS 全体の集客の大きな原動力になっている。
つまり改称は 2025 年からである(2023 年・2024 年の結果報告書は「新技術説明会」の表記のみ、2025 年版から「出展社セミナー」が使われている。筆者が3年分の PDF を全文検索して確認した)。
筆者は 2026 年の公式セミナーページから、日時・会場・出展社名・演題・抄録を機械的に取り出した。結果は次のとおり。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 総セッション数 | 318 件 |
| 9月2日(水) | 106 件 |
| 9月3日(木) | 106 件 |
| 9月4日(金) | 106 件 |
| 演題文字列のユニーク数 | 313 |
| 登壇した出展社(表記のユニーク) | 87 社 |
3 日とも 106 件ちょうどというのは出来すぎに見えたので、日別に演題が重複していないかを確認した。9月2日と9月3日で共通する演題は 0 件、9月2日と9月4日で 3 件(同じ講演を別日にも行う社がある)。日別タブの重複ではなく、実際に別の番組が組まれている。
主催者公表の件数と並べると、こうなる。
| 年 | 件数 | 出所 |
|---|---|---|
| 2024 | 312 件 | JASIS 2025 結果報告書(「昨年312 件」) |
| 2025 | 308 件 | 同上(「2025 年の発表件数は308 件」) |
| 2026 | 318 件(筆者集計) | 公式セミナーページ |
2025 年から +10 件(+3.2 %)。ただし主催者の数え方と筆者の数え方が完全に一致する保証はない(後述の「未確認・限界」を参照)。
2. 主催者が掲げたこと
比較の対象になる「宣言」の側を、逐語で確認しておく。JAIMA・JSIA 合同プレスリリース(2026年8月4日)はこう書いている。
本展のコンセプトは、昨年に引き続き「五感で感じる学び場」。今年はとりわけ、研究開発の現場でAIの活用が加速するなか、「AI×分析・計測」の先進的な取り組みが会場の見どころとなります。測定・解析・制御を自動でつなぐ「ラボオートメーション」、そして自律的に判断・作動する「フィジカルAI」——実験室の自動化から人の技の再現まで、AIと分析・計測技術の融合が拓く研究開発の最前線を、実機のデモンストレーションや開発者との対話を通じて体感いただけます。
リリースのタイトル自体が「ラボオートメーション・フィジカルAI ―研究開発を変える最新ソリューションが幕張に集結―」である。今年の JASIS を一語で表すなら AI だ、という主催者の判断がはっきり出ている。
規模については同じリリースにこうある。
今年は440社を超える企業・団体が出展を予定し、来場者数は昨年の22,926名を超える24,000名を見込んでいます。
この「22,926名」という数字は、あとで 11 節に効いてくる。
3. 数え方 ― どう判定したか
演題と抄録の全文を対象に、語が含まれるセッションの件数を数えた。1 つのセッション内に同じ語が何回出ても 1 件と数える。
重要なのは、ヒット数をそのまま信じないことである。「AI」は英字 2 文字なので、英単語の一部(AIR、MAIN など)を拾う危険がある。そこで AI に該当した 23 件はすべて筆者が 1 件ずつ開いて文脈を確認した。結果、23 件すべてが本当に人工知能を指しており、誤ヒットは 0 件だった。
同様に「MS」「LC」「GC」も英単語の一部を拾うので、前後が英字でないことを条件にした正規表現で数え直している。
4. 「AI」に触れた演題は 318 件中 23 件だった
結果である(すべて筆者集計)。
| 語 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| AI(AI・人工知能・機械学習・深層学習・生成AI) | 23 件 | 7.2 % |
| うち「生成AI」 | 2 件 | 0.6 % |
| 自動化(自動・省人・無人) | 57 件 | 17.9 % |
| ロボット | 4 件 | 1.3 % |
| DX | 6 件 | 1.9 % |
| フィジカルAI | 1 件 | 0.3 % |
| インフォマティクス(MI・ケモメトリクス含む) | 1 件 | 0.3 % |
| クラウド | 1 件 | 0.3 % |
そして、
- AI か自動化のどちらかに触れる演題:72 件(22.6 %)
- どちらにも触れない演題:246 件(77.4 %)
- AI と自動化の両方に触れる演題:8 件
主催者がタイトルに掲げた「ラボオートメーション・フィジカルAI」のうち、「フィジカルAI」という語を使った演題は 318 件中 1 件である。
これは主催者を責める話ではない。展示会のテーマは来場者を呼ぶための旗であって、出展社が話す内容の分布とは別の論理で決まる。むしろ言いたいのは逆で、旗の色と中身は違う、と分かったうえで会場に行くべきだということである。プレビュー記事で「今年の軸は AI×分析・計測」と書いた筆者自身が、その差を確認しておく必要があった。
5. その 23 件で、AI は何をしていたのか
23 件を読むと、AI の使われ方には偏りがある。抄録に含まれる語で機械的に分類した(判定語は表の右列。複数に該当する場合は表の上から順に優先した)。
| AI の役割 | 件数 | 判定語 |
|---|---|---|
| ① 取ったデータの解釈を速くする | 14 件 | 解析・解釈・同定・構造推定・波形・セグメンテーション・画像・定性 |
| ② 測定条件・実験そのものを決める | 4 件 | 条件検討・最適化・初期値・設計・メソッド開発・グラジエント |
| ③ 装置を動かす・試料を扱う | 1 件 | ハンドリング・分注・ロボット・自動測定・搬送 |
| ④ データ基盤・LIMS/ELN・クラウド | 2 件 | LIMS・ELN・データ基盤・クラウド・サンプル管理 |
| ⑤ 製造プロセス側(フィジカルAI) | 1 件 | フィジカルAI・製造プロセス |
| (上のどれにも当たらない) | 1 件 | ― |
23 件のうち 14 件、およそ 6 割が「①すでに取ったデータの解釈を速くする」側に落ちる。GC-MS の未知物質同定、HPLC の波形処理、X 線薄膜解析の初期値推定、粒子画像のセグメンテーション。いずれも、測定そのものは従来どおり行い、そのあとの人間の作業を肩代わりするという形である。
具体例を挙げる(いずれも公式プログラムの演題)。
- 日本電子「AI活用でGC-MS未知物質解析はここまでわかる! - AccuTOF™ GC-Alpha 2.0 の実力 -」
- 島津製作所「AI 技術でデータ解析業務の効率化!」(HPLC の波形処理・最適パラメータ検討)
- リガク「AIを用いたX線薄膜解析のハイスループット化」(AI による初期値推定と局所最適化)
- レニショー「AIデータ処理ツール搭載の『Strada®インテリジェントラマン顕微鏡』」
一方、②の「測定条件そのものを AI に決めさせる」は 4 件と少ない。ただしこの 4 件は内容が濃い。島津製作所の「AI技術でHPLC 分析条件検討を自動化!」は抄録に「生成AIを活用した文献調査、分析条件提案までを自動化」とあり、同じく島津の別演題には「AIによる自動グラジエント最適化機能」とある。メソッド開発という、これまで完全に人の領分だった工程に手が入っている。
6. 「フィジカルAI」を名乗ったのは 1 件
主催者がリリースのタイトルに置いた「フィジカルAI」は、318 件のうち日立ハイテクの 1 件だけだった。
「知って納得!」高機能材料の開発・製造プロセスを加速する日立のフィジカルAI ~製造装置との協創事例~
注目すべきは、この 1 件が分析装置ではなく製造プロセスの話だという点である。主催者の定義は「自律的に判断・作動する」だった。その定義に最も近い展示は、分析ラボの中ではなく、製造装置の側から来ている。
分析化学の側から見ると、これは重要な情報である。「装置が自律的に判断して測る」は、少なくとも今年の JASIS の発表の場では、まだ主流の話題になっていない。現在進行しているのは、その手前の「解析の自動化」と「前処理の自動化」である。
7. 「自動化」57 件の中身
AI より多いのは自動化で、57 件(17.9 %)ある。ただし中身を見ると、これは新しい話ばかりではない。57 件を語で分けると次のようになった(重複あり)。
| 内容 | 件数 |
|---|---|
| 測定・解析の自動化 | 34 件 |
| 試料前処理・分注・オートサンプラー | 21 件 |
| 人手不足・省人 | 11 件 |
| ロボット・搬送 | 4 件 |
「自動」の多くはオートサンプラーや自動滴定、自動分注といった、以前から存在する機械化である。ラボ全体をつなぐ意味での自動化(ロボット・搬送)は 4 件にとどまる。そして 57 件のうち AI にも触れるのは 8 件だけで、自動化と AI はまだ大きくは重なっていない。
一方で「人手不足・省人」が 11 件あるのは示唆的である。エムエス機器の演題は「終夜運転も可能な自動分注装置で人手不足解決」と、動機をそのまま題にしている。自動化が売れる理由は、賢くなりたいからではなく、人がいないからである。
8. いちばん多いのはクロマトグラフィー ― AI の 3.4 倍
テーマ側ではなく、手法側で数えるとこうなる(英字略語の部分一致を除いた正規表現で集計。重複あり)。
| 手法 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| クロマトグラフィー(クロマトグラフ・HPLC・UHPLC・LC・GC・SFC 等) | 79 件 | 24.8 % |
| 分光・X線(分光・ラマン・FT-IR・NMR・XRD・XRF・UV・蛍光 等) | 62 件 | 19.5 % |
| 質量分析(質量分析・MS・ICP-MS・MALDI 等) | 48 件 | 15.1 % |
| 顕微鏡・表面(SEM・TEM・AFM・XPS・顕微 等) | 43 件 | 13.5 % |
| 前処理 | 39 件 | 12.3 % |
| 規制・薬局方・バリデーション | 21 件 | 6.6 % |
| (参考)AI | 23 件 | 7.2 % |
| 熱分析(DSC・TGA・STA 等) | 6 件 | 1.9 % |
クロマトグラフィーの 79 件は、AI の 23 件の 3.4 倍である。分光・X線、質量分析、顕微鏡がそれに続く。展示会の見出しがどう変わっても、出展社が客に説明したいのは依然として分ける・測る・見るの技術である。
熱分析が 6 件(1.9 %)と少ないのも、覚えておく価値がある。JASIS は分離分析と分光が主戦場の展示会であり、熱分析の情報を取りに行く場としては手薄だということになる。
9. 主催者自身の分類でも、最多は「その他」だった
筆者の分類が偏っている可能性があるので、主催者自身の集計と突き合わせておく。JASIS 2025 結果報告書は、前年の発表内容をこう分類している。
出展社発表内容を機種別分類で見ると、「その他」が最も多く110 件35.6%(昨年93 件29.8%)、次いで「分離分析」62 件20.1%(昨年56 件17.9%)、「光分析」46 件14.9%(昨年46 件14.7%)の順であった。
ここには二つの情報がある。
ひとつは、分離分析(クロマトグラフィー)が装置分類のなかで最大だということ。主催者集計で 20.1 %、筆者の 2026 年集計で 24.8 %。数え方が違うのに近い水準に出ており、8 節の結果を裏づけている。
もうひとつのほうが面白い。主催者の分類でいちばん多いのは「その他」で、35.6 %ある。しかも前年の 29.8 % から増えている。質量分析・表面分析・X線応用・光分析・分離分析・熱分析・前処理・システムという既存の箱に入らない発表が、3 分の 1 を超えて増え続けている。
装置の分類が、展示の内容に追いつかなくなっている。ソフトウェア、データ基盤、サービス、受託。AI がプログラムに占める割合は 7.2 % にすぎないが、「装置以外」という広い意味での変化は、主催者自身の分類が壊れる形で現れている。
10. 登壇は 5 社に 3 分の 1 が集中している
87 社が登壇したが、分布は均等ではない。
| 出展社 | 登壇数 |
|---|---|
| 島津製作所 | 42 件 |
| サーモフィッシャーサイエンティフィック | 22 件 |
| 日本電子 | 19 件 |
| ブルカージャパン | 16 件 |
| アジレント・テクノロジー | 14 件 |
| 日立ハイテク | 14 件 |
上位 5 社で 113 件、全体の 35.5 % を占める。島津製作所 1 社だけで 42 件、13.2 % である。一方、登壇が 1 件だけの出展社は 30 社(87 社の 34.5 %)ある。
これは会場の歩き方に直結する。大手のセミナーは同じ社の別の部屋で並行して走っているので、狙って回れる。逆に、1 件しか登壇しない中小メーカーや商社の発表は、その 1 回を逃すと会期中に代わりがない。プログラムを先に見て、後者から予定を埋めるほうが取りこぼしが少ない。
11. 来場者数は 2 通りある ― 19,750 と 22,926
ここからは数字そのものの話である。分析化学の記事としては、こちらのほうが本題かもしれない。
主催者のプレスリリースは「昨年の22,926名を超える24,000名を見込んでいます」と書いていた。ところが JASIS 2025 結果報告書の開催要綱には、こうある。
8.総登録来場者数(詳細はp.4)19,750 名(うち海外来場者数 512 名)
同じ展示会の同じ年の来場者数が、22,926 と 19,750 の 2 通りある。差は 3,176 名で、大きいほうは小さいほうより 16.1 % 多い。
これは誤りではない。報告書自身が数え方を説明している。
「①重複なし来場者数」に加え、「②1 日1 カウントの来場者数(複数日来場した人数を含む)」を把握することが出来る。「②1日1 カウントの来場者数」では、その日の混雑ぶりが数値として把握出来る。
つまり ①は人数、②は延べである。3 日間通った 1 人は、①では 1、②では 3 と数えられる。報告書は①について「来場者入場証のみカウント」「出展社入場証の数は含まれない」とも明記している。
5 年分を並べるとこうなる(いずれも JASIS 2025 結果報告書の表から)。
| 年 | ①重複なし | ②1日1カウント | ②÷① |
|---|---|---|---|
| 2021 | 8,490 | 9,601 | 1.13 |
| 2022 | 12,465 | 14,398 | 1.16 |
| 2023 | 16,115 | 18,722 | 1.16 |
| 2024 | 21,918 | 25,209 | 1.15 |
| 2025 | 19,750 | 22,926 | 1.16 |
比は毎年 1.13〜1.16 で安定しており、どちらの系列を見ても傾向は同じである。だから「どちらが正しいか」という話ではない。問題は、外向きの発表に出てくるのは常に大きいほうの②で、しかも②であることが書かれていないという点である。
「来場者数 24,000 名を見込む」という数字を見たとき、それが延べなのか実人数なのかで、意味はかなり違う。②基準の 24,000 名は、①基準に直せば 20,675 名程度に相当する(筆者計算。2025 年の比 1.161 を用いた)。
これは分析化学者にとって、なじみのある構図である。同じ測定から、数え方の違う二つの数字が出てくる。どちらも正しいが、どちらを使ったかを書かなければ比較できない。ピーク面積の積分や検量線の重み付けで筆者が繰り返し書いてきたことと、同じ問題がここにもある。
12. 出展は増えて、来場は減っていた
もう一つ、報告書を読むと分かることがある。
2025 年の展示規模は、443 社1,286 小間となり、昨年と比較して35 社72 小間増となり、昨年同様、幕張メッセの4 つのホールを使用しての開催となった。
つまり 2024 年は 408 社・1,214 小間だった。2025 年は出展社が +8.6 %、小間数が +5.9 % 増えている。
ところが来場者は、①重複なしで 21,918 → 19,750 と −9.9 %、②1日1カウントでも 25,209 → 22,926 と −9.1 % 減っている。
出展側は増え、来場側は減った。出展 1 社あたりの来場者数(①基準)を割ってみると、53.7 名 → 44.6 名で −17.0 % である(筆者計算)。
聴講者数のほうは逆に増えている。報告書は「発表件数は308 件と昨年と比較し4 件減少した(昨年312 件)にも関わらず、全体の延べ聴講者数は13,240 名にまで復調した(昨年11,652 名)」と書いている。来場者は減ったのに、セミナーを聴く人は増えた。
ここから読めるのは、来場の動機がブースを見ることからセミナーを聴くことへ移りつつあるという可能性である。だとすれば、2026 年の出展社セミナー 318 件(前年比 +10)という増加も、その流れの上にある。断定はできないが、プログラムを軸に展示会を読むという本記事のやり方は、少なくとも的外れではないことになる。
13. 分析化学者として何を持ち帰るか
以上をまとめると、2026 年の JASIS について次のことが言える。
AI は来ている。ただし「解析の後処理」として来ている。318 件中 23 件、その 6 割が既存データの解釈支援である。装置が自律的に判断して測る段階ではまだない。したがって、いま自分のラボで検討すべきは「装置を AI に任せるか」ではなく、「積分・同定・波形処理という、これまで人が判断していた工程を機械に渡すかどうか」である。渡すなら、その判断根拠が記録に残るかを必ず確認する。
メソッド開発への侵入だけは、性質が違う。島津の 2 件(生成AI による文献調査と条件提案、AI による自動グラジエント最適化)は、後処理ではなく条件を決める側にある。数は少ないが、ここは来年の JASIS で件数が増えるかどうかを見る価値がある。
自動化の動機は省人である。「人手不足」を題に掲げた演題が 11 件ある。導入検討では、性能ではなく「何人分の作業時間が消えるか」で評価するほうが、出展社の説明と噛み合う。
行けなくても、プログラムは読める。本記事の数字はすべて公開情報から取れた。会場に行けない年でも、公式プログラムを通して読めば「今年は何が語られたか」は分かる。加えて JASIS WebExpo は 7月1日〜10月30日とオンラインで長く開いており、会期後も出展社の情報にはアクセスできる。
分析者の視点
- 展示会のテーマは旗であって、内容の分布ではない。主催者が AI を掲げても、演題の 77.4 % は AI にも自動化にも触れていない。旗を見て行き先を決めず、プログラムを見て決める。
- 「AI 搭載」と書かれていたら、何をする AI かを聞く。今年のプログラムでは 6 割が解析支援だった。前処理を自動化するのか、条件を提案するのか、波形を積分するのかで、検証すべきことがまったく違う。
- 判断を機械に渡すなら、根拠が記録に残るかを確認する。とくに積分と同定は、結果がそのまま報告値になる。
- 1 件しか登壇しない社を先に押さえる。87 社中 30 社が登壇 1 件だけ。大手は並行開催しているので後から拾える。
- 来場者数のような数字は、必ず数え方を確認する。同じ年の来場者数が 19,750 と 22,926 の 2 通りあり、外向きに使われるのは大きいほうである。
- 主催者の分類の「その他」が増えていることに注目する。35.6 % は、既存の装置分類が現実に追いついていないことの表れである。
- 熱分析を追うなら JASIS だけでは足りない。318 件中 6 件(1.9 %)しかない。
まとめ
- 本記事は会場取材ではなく、公式サイトの公開プログラムと主催者の公表資料の集計に基づく。
- JASIS 2026 の出展社セミナーは318 件・87 社(筆者集計)。3 日とも 106 件で、日別に演題は重複していない(9/2 と 9/3 の共通演題 0 件)。
- 主催者はタイトルに「ラボオートメーション・フィジカルAI」を掲げたが、AI に触れる演題は 23 件(7.2 %)、「フィジカルAI」は 1 件(0.3 %)だった。AI か自動化のどちらかに触れるのは 72 件(22.6 %)で、残る 246 件(77.4 %)はどちらにも触れていない。
- AI 23 件のうち 14 件(約 6 割)は「取ったデータの解釈を速くする」側。装置を自律的に動かす側は 1 件、製造プロセス側(フィジカルAI)も 1 件。
- 最多はクロマトグラフィーの 79 件(24.8 %)で、AI の 3.4 倍。主催者自身の 2025 年集計でも分離分析は 20.1 % で最大の装置分類だった。
- ただし主催者分類の最多は「その他」で 35.6 %(前年 29.8 %)。装置の分類が展示の内容に追いつかなくなっている。
- 登壇は上位 5 社で 35.5 %(島津製作所だけで 42 件・13.2 %)。一方、登壇 1 件だけの社が 30 社ある。
- 来場者数は 2 通りある。①重複なし 19,750 名/②1日1カウント 22,926 名(2025 年)。比は 5 年間 1.13〜1.16 で安定。外向きに使われるのは②のほう。
- 2025 年は出展が増えて(+35 社・+72 小間)来場が減った(①で −9.9 %)。一方でセミナー聴講者は 11,652 → 13,240 名に増えている。
用語集
- 出展社セミナー:JASIS で出展社が行う技術発表。2025 年に「新技術説明会」から改称された。
- フィジカルAI:主催者の定義では「自律的に判断・作動する」AI。ソフトウェア上の解析にとどまらず、物理的な装置の動作を伴うものを指す。
- ラボオートメーション:主催者の定義では「測定・解析・制御を自動でつなぐ」こと。
- ①重複なし来場者数:来場者入場証のバーコードで数えた実人数。出展社入場証は含まない。
- ②1日1カウントの来場者数:複数日来場した人を日ごとに数えた延べ人数。
- 小間:展示ブースの区画単位。JASIS の一般展示は 3 m × 3 m が 1 小間。
- JASIS WebExpo:JASIS のオンライン企画。2026 年は 7月1日〜10月30日。
出典
- JASIS 2026 公式サイト「出展社セミナー」プログラム(全318 件の日時・会場・出展社・演題・抄録)。https://www.jasis.jp/seminar/(2026年9月3日に取得して集計)
- JASIS 2026 公式サイト「開催概要」。https://www.jasis.jp/outline/
- JAIMA・JSIA 合同プレスリリース「アジア最大級の分析・科学総合展『JASIS 2026』 ラボオートメーション・フィジカルAI ―研究開発を変える最新ソリューションが幕張に集結― 見どころのご紹介」2026年8月4日。https://www.jaima.or.jp/jp/news_detail/press_jasis_20260804/
- JASIS 2025 結果報告書(45ページ)。開催要綱・来場者数・展示規模・出展社セミナー実績。https://www.jasis.jp/pdf/JASIS2025_results_report_2.pdf
- JASIS 2024 結果報告書 https://www.jasis.jp/pdf/JASIS2024_report.pdf / JASIS 2023 結果報告書 https://www.jasis.jp/pdf/JASIS2023_report.pdf(名称変更の時期の確認に使用)
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- 標準物質・検量線・トレーサビリティ ― 相関係数 0.999 を満たした検量線の 95 % で、定量下限が ±20 % を外れていた【2026年版】 ― 「数え方で数字が変わる」という同じ問題。
未確認・限界
- 本記事は会場取材ではない。筆者は JASIS 2026 の会場に行っていない。ブースの展示物、実機デモ、来場者の反応については一切扱っていない。プレビュー記事で予告した「実際に何が展示されていたか」のうち、本記事が答えられるのは「何が語られると公式に予告されたか」までである。
- 本記事は会期中(2026年9月3日)に書かれている。JASIS 2026 の来場者数・出展規模の確定値はまだ公表されていない。公式サイトの「開催概要」には見込み値(来場者24,000名、430社・団体/1,300小間)が載っているが、プレスリリースの「440社を超える」とは食い違っており、どちらも確定値ではないため本文では比較に使っていない。確定値は例年どおり結果報告書として後日公開されるはずである。
- 318 件という数は、筆者が公式ページの構造から機械的に取り出したものである。主催者の数え方と一致する保証はない。実際、2025 年について主催者は結果報告書で「308 件」、公式サイトの実績欄で「309 テーマ」と、1 件違う数字を出している。したがって「2025 年 308 件 → 2026 年 318 件」の比較には ±1 件程度の定義上の揺れがある。
- 語による集計は、語を使わずに同じ話をしている演題を取りこぼす。「AI」と書かずに機械学習的な処理を説明している発表があれば、23 件には入っていない。逆に「AI」と題に付けただけで中身が薄い発表も、同じ 1 件として数えている。件数は「その語で語られた量」であって「技術が実際に使われている量」ではない。
- 5 節の分類は筆者の判断である。判定語と優先順位は本文に明記したが、境界例はある(たとえば自動分注装置の演題が、抄録に「解析」の語を含むために①に分類されている)。分類の粒度を変えれば内訳は動く。
- 抄録は出展社が書いた宣伝文である。実際の講演内容と一致する保証はなく、誇張も省略もありうる。
- JASIS 2026 公式サイトの「開催概要」ページには、開会式の記述に「2026年9月2日(水)千葉市幕張メッセにおいて、JASIS 2025が開催されました」という前年の名称が残っている(2026年9月3日時点)。同ページの実績数値も「昨年(2025)開催実績」と明記されているため、本記事では 2026 年の実績としては扱っていない。
- トピックスセミナー・JASIS School・JASIS スクエア・コラボレーションなど、出展社セミナー以外の企画は集計対象外である。主催者企画側の演題を含めれば AI の比率は変わりうる。
- WebExpo の内容は確認していない。オンライン展示(7月1日〜10月30日)に出ている情報は本記事の集計に含まれていない。
制作メモ:本記事は現地取材ではなく、JASIS 公式サイトの公開プログラムを取得して機械的に集計し、主催者の公表資料(プレスリリース・過去3年分の結果報告書 PDF)を編集側で直接開いて突き合わせたうえで執筆した。集計スクリプトの判定条件は本文に明記している。