タグ: #構造解析

6 件の記事

ネイティブMS徹底解説 ― 横軸の m/z の値が、そのまま「分けられない質量差」になる【2026年版】
質量分析

ネイティブMS徹底解説 ― 横軸の m/z の値が、そのまま「分けられない質量差」になる【2026年版】

ネイティブMSは質量を直接測っていない。測っているのは m/z で、質量は電荷の割り当てから逆算した値である。この構造には計算できる限界がある。質量 M・電荷 z のイオンは、M よりちょうど M/z だけ重い z+1 価のイオンと同じ位置に来る。つまり分けられない質量差の大きさは、そのピークが出ている m/z の値そのものである。AAV カプシドではこの閾値 21〜25 kDa が、VP1→VP3 置換の質量差 21.9 kDa と一致してしまう。

NMRの基礎 ― 化学シフトも結合定数も磁場によらないのに、見えるパターンだけが装置で変わる【2026年版】
NMR

NMRの基礎 ― 化学シフトも結合定数も磁場によらないのに、見えるパターンだけが装置で変わる【2026年版】

日本薬局方〈2.21〉は、化学シフトと面積強度比はそのまま照合してよいのに、多重度だけは「測定装置の磁場の大きさを考慮して判断する」と条件を付けている。なぜ多重度だけなのか。二スピン系の厳密解を解いて、同じ試料が 60 MHz で一重線・400 MHz で二重線に見える境目を数値で示す。

結晶構造解析の最前線 ― 47年ひとつだと信じられた医薬品の多形は、R 因子 0.19 の構造で二つに分かれた【2026年版】

結晶構造解析の最前線 ― 47年ひとつだと信じられた医薬品の多形は、R 因子 0.19 の構造で二つに分かれた【2026年版】

日本薬局方〈2.58〉には「8. 単結晶構造解析」という節がある。中身は3文しかなく、そのうち1文は 「有機結晶では…その構造解析を行うことは容易ではない」という警告である。判定値はゼロ。電子線回折・中性子・ 放射光・絶対配置は、一般試験法473ページを全文検索して1件も出てこない。ところがその「容易ではない」側では、 2022年にインドメタシンの多形がひとつではなく二つだったことが判明した ―― 1974年の報告から47年後、 幅 0.5〜2 µm の結晶から、R 因子 0.19 という X線なら受理されない数字で。本記事は、必要な結晶体積が 10⁵ → 10³ → 10⁻² µm³ と7桁下がった経緯、X線・電子線・中性子が「別のもの」を測っているために水素の位置が 食い違う仕組み(筆者集計:MicroED の実測376本は10種類すべてで中性子側に近い)、SPring-8 と NanoTerasu の 公称値の差、そして結晶構造予測が第7回ブラインドテストでどこまで届いたかを、すべて一次資料の数値で追う。

2D-NMRの読み方 ― HMBC の相関が「無い」ことは、結合が無いことの証拠にならない【2026年版】
NMR

2D-NMRの読み方 ― HMBC の相関が「無い」ことは、結合が無いことの証拠にならない【2026年版】

COSY・HSQC・HMBC・NOESY は同じ「相関」という言葉を使うが、返している物理量はまったく違う。HSQC が信頼できるのは 1J(CH) が 120〜250 Hz と桁違いに大きく、しかも狭く固まっているからで、HMBC が信頼できないのは nJ(CH) が 10 Hz 以下に散らばっているからである。HMBC の交差ピーク強度は |sin(π·J·Δ2)| に従うので、遅延 Δ2 を 65 ms から 100 ms に変えるだけで、10 Hz の相関は強度 0.89 から 0.00 へ完全に消え、15 Hz の相関は 0.08 から 1.00 へ現れる。二面角が 90° に近ければ 3 結合でも消え、4 結合や 5 結合の相関はごく普通に現れる。そして 2J と 3J は 0〜8 Hz で範囲が重なるため、出てきた相関が何結合かも HMBC 単独では決まらない。「相関が無いから結合が無い」という推論が、どれだけ構造を間違えてきたかを原典で追う。

非標的分析と未知構造推定 ― 答えが全部わかっている試料でも、当てられたのは46%だった【2026年版】
質量分析

非標的分析と未知構造推定 ― 答えが全部わかっている試料でも、当てられたのは46%だった【2026年版】

高分解能MSで「未知のピーク」を追う非標的分析は、環境・食品・医薬・法科学に急速に広がった。 だが米国EPAが主催した共同試験ENTACTでは、何が入っているかを全部わかっている合成混合物を目隠しで 分析させたところ、異性体を除いた真陽性率は最良でも46%、答えを見てからやり直しても65%にとどまった。 本記事は「なぜ当たらないのか」を二段階に分けて追う。第一に、質量精度をいくら上げても分子式は 一意にならない(Kind & Fiehn が2006年に論文タイトルで宣言している)。第二に、分子式が決まっても 構造は決まらない。そのうえで、この不確かさを隠さずに申告するために作られた Schymanski の5段階、 PFAS向けに枝分かれした信頼度スケール、そして ICH Q3A の「未同定不純物」と ICH Q3E の AET という 規制側のしきい値までを、すべて原典の数値で整理する。

AI・機械学習が変える分析化学 ― 正解率 69.6 % は、15 個の候補のどれかが当たった割合である【2026年版】
データ解析

AI・機械学習が変える分析化学 ― 正解率 69.6 % は、15 個の候補のどれかが当たった割合である【2026年版】

1D NMR から構造を当てる機械学習の報告は「69.6 %」という数字を出している。ただしこれは 1 発で当たる確率ではなく、候補を 15 個出したうちのどれかに正解が入っていた割合で、 裏返せば 15 個並べても約 3 割は正解を含まない。それでも探索空間は最大 11 桁縮む。 AI・機械学習は分析化学の「測る」より下流――スペクトルやクロマトグラムを読み解く 解析工程を急速に変えつつある。NMR からの構造推定、質量分析による未知化合物・ペプチドの同定、 クロマトの保持時間予測、複数手法をまたぐ「基盤モデル」までを手法別に整理し、あわせて 過学習・データリーケージ・再現性といった落とし穴と、分析者が果たすべき役割を解説する。