マトリックス効果とイオン化抑制の対処 ― 犯人はリン脂質だけではないし、動くし、重水素標識の内標準にも穴がある
マトリックス効果の教科書的な説明は「液滴表面や気相で電荷を奪い合う」だが、Merck の機構研究は 「気相反応が主因である可能性は低く、不揮発性溶質が液滴の溶液物性を変えることが主因」と結論している。 対処も同じくらい誤解されている。希釈の効果は希釈倍率の対数にしか比例しない(初期抑制 80% を 20% 未満にするには 25〜40 倍)。リン脂質除去プレートは回収率と再現性を大きく改善するが、マトリックスファクターは液液抽出と同等だった。 そして最後の砦とされる安定同位体標識内標準にも穴がある ― 重水素標識は同位体効果で保持時間がわずかにずれ、 分析種と内標準が違う抑制を受けて比が崩れた実例が報告されている。本記事は原著論文とメーカー技術資料を 原典で確認し、犯人の特定・4つの対処の定量的な効き目・規制が実際に要求していることを整理する。